俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第116章 水の次は食糧、そして都市は隙間で何かを育て始めた
猫目は、すぐに東京と京都の水電を完全に切断したわけではなかった。
それは、もっと賢かった。
水電をずっと緊張させた。
二つの都市に、ずっと検査させ、線を守らせ、節電させ、貯水させ、説明させ続けた。
そして、誰もが次の刃は水管か電線へ落ちると思っていたとき、猫目は食糧に手を伸ばし始めた。
食糧は、水ほどすぐに人を恐慌させない。
水道から水が出なければ、人はその日のうちに慌てる。
電灯が消えれば、都市はすぐに気づく。
けれど、食糧は違う。
一日目、ただコンビニのおにぎりが少なくなる。
二日目、野菜が高くなる。
三日目、学校食堂のメニューが変わる。
四日目、パン屋に購入制限の紙が貼られる。
五日目、冷鏈車が遅れる。
六日目、居民が尋ね始める。
「米はまだ足りるの?」
食糧の恐怖は、ゆっくりやってくる。
だが一度本当に人の心へ入り込むと、停電よりも押さえ込みにくい。
なぜなら停電のとき、人は灯りが戻るのを待つ。
食糧が足りなくなると、人は他人の手にある袋を見始める。
最初に問題が出たのは、冷鏈だった。
東京外縁のいくつかの非猫目冷鏈輸送線が、連続して検査を受けた。
理由は政治ではない。
食品安全だった。
書類は本物。
流程も本物。
検査人員も、必ずしも自分が猫目を手伝っているとは知らない。
だが、検査のたびに時間が削られる。
冷蔵肉、魚、乳製品、一部の医療用栄養品は、遅延に弱い。
猫目は、そのことをよく知っていた。
すべての車を奪う必要はない。
冷鏈を不安定にするだけで、都市の食卓はすぐに変化を感じる。
二番目に問題が出たのは、米だった。
猫目支配区内のいくつかの食糧中継倉庫が、東京・京都方面への通常出荷を停止した。
理由は、
「現在、区域食糧安全情勢が複雑であり、支配区居民の保障を優先する必要がある」
というものだった。
この言葉は、非常に反論しにくかった。
普通の行政管理のように聞こえるからだ。
だが全員が知っていた。
これは封鎖だった。
三番目に問題が出たのは、野菜だった。
東京と京都の防線内にある耕作地は、もともと少ない。
平時は、周辺、地方、広域物流の供給に頼っていた。
今、猫目が地方を支配したあと、野菜の輸送は最も絞めやすい線になった。
完全になくなるわけではない。
ただ、高い。
遅い。
不安定になる。
学校食堂が最初に調整した。
東京の梨央は、昼食からサラダが消えたことに気づいた。
代わりに、漬物と豆製品が増えた。
京都の千夏は、家の夕飯の青菜が明らかに減り、祖母が大根の葉まで細かく刻んで煮るようになったことに気づいた。
これは飢饉ではない。
まだ、まったくそこまでは行っていない。
だが全員が知っていた。
猫目は、都市に飢饉の影を見せ始めたのだ。
東京と京都は、再び合同会議を開いた。
今回は、スクリーンに映されたのは水線や電線ではなかった。
食糧図だった。
米。
小麦粉。
豆類。
冷凍食品。
野菜。
魚肉。
卵と乳製品。
児童用栄養品。
病院用特殊食。
学校給食。
避難点備蓄。
ペットフードまで、附録に入っていた。
最初、ある人はそれを荒唐無稽だと思った。
「今、ペットまで見るのですか?」
民生担当官員は冷たく答えた。
「見なければ、居民は自分の口糧をペットに分け、最後には人間も動物も問題を起こします」
会議室は静かになった。
都市の生存システムとは、そういうものだ。
それは、巨大な米倉や車隊だけでできているのではない。
一人の老人が飼っている猫。
一軒の家の冷蔵庫にある卵。
一人の高校生の昼食。
普通の食事ができない病院の患者。
それらも含まれる。
猫目が食糧を攻撃するということは、胃だけを攻撃することではない。
日常を攻撃するということだった。
東京の農業専門家、都市計画人員、屋上緑化会社、学校後勤、寺社管理者、倉庫責任者、さらにはもともと園芸をしていた普通人までが、召集された。
会議のタイトルは、
都市内利用可能空間における食糧生産緊急評価。
そのタイトルを見た誰かの第一反応は、
「東京で食糧を作るのか?」
だった。
それは冗談のように聞こえた。
東京は農村ではない。
京都内層も農村ではない。
二つの都市の制御区内で、本当に耕作できる土地は非常に少ない。
公園を勝手に掘ることはできない。
学校の校庭は避難点として使う必要がある。
屋上の耐荷重には限界がある。
地下空間には日光がない。
都市の土壌は汚染されている可能性がある。
水はすでに緊張している。
電気も緊張している。
肥料、種、道具、栽培槽、栄養液、照明。
すべて足りない。
それでも会議は最後に結論を出した。
やらなければならない。
都市全体を自給させるためではない。
それは無理だ。
目的は三つだった。
第一に、一部の新鮮野菜を補充し、猫目支配区からの輸送依存を減らすこと。
第二に、居民へ「都市は食糧車を待つことしかできないわけではない」と見せること。
第三に、長期包囲へ備え、最低限の生産能力を準備すること。
これは地下水と同じ論理だった。
都市農業で東京と京都全体を養うわけではない。
猫目に一本の食糧線で二つの都市を絞め殺させないためだ。
東京は利用可能空間を六種類に分けた。
第一類、屋上。
学校、公共建築、一部商業ビル、倉庫の屋上。
軽量野菜を育てられる。
ただし、耐荷重と防水の確認が必要。
第二類、空き地。
再開発後の未使用地、廃棄駐車場、臨時空地。
箱式栽培が可能。
ただし、土壌は直接使えず、栽培箱が必要。
第三類、地下および室内空間。
大規模食糧生産には向かない。
だが、キノコ、もやし、一部低光量作物、または小型水耕栽培には使える。
第四類、学校と社区。
重点は生産量ではなく、教育と補充。
第五類、寺社、文化空間、旧庭園。
慎重に扱う必要がある。
文化遺産を壊してはいけないが、辺縁空間で小規模な可食植物を育てることはできる。
第六類、港区と倉庫区。
水耕、コンテナ農業、臨時温室に向いている。
ただし電気と水を消費するため、海水淡化や電力調度と連動させる必要がある。
佐野美紀は分類表を見終えると、ため息をついた。
「今度は屋上までシフト表に入るんですね」
小野寺は言った。
「前は車を回してた。今度は野菜を回す」
誰も笑えなかった。
本当のことだったからだ。
京都の分類は違っていた。
京都には東京のような大規模港区倉庫や海岸空間がない。
だが京都には、寺社庭園、学校空地、旧町家の裏庭、山脚辺縁地、伝統的な菜園経験がある。
問題は、これらの空間が非常に敏感だということだった。
すべての庭園を菜地へ変えられるわけではない。
すべての旧空間へ栽培箱を置けるわけでもない。
京都の文化保護人員と食糧緊急人員は、丸一日争った。
「この庭園は動かせません」
「居民が食べるものを必要としています」
「景観を壊せば、あとで戻せません」
「人がいなければ、景観は誰のために残るのですか」
最後に七条が会議を止めた。
彼女は言った。
「核心庭園には触れない」
「しかし辺縁空間は評価する」
「文化を守ることと、人を餓えさせないことを対立させてはならない」
その言葉で、京都の方案が決まった。
核心を守る。
辺縁を使う。
可動式栽培箱を優先する。
直接土を掘らない。
作物は短期葉菜、葱類、豆類、根菜の一部を中心にする。
水使用は井戸管理と連動させる。
こうして、二つの都市は同時に、都市の隙間で何かを育て始めた。
最初に動いたのは学校だった。
東京の梨央の学校では、校舎屋上の一部に軽量栽培箱が設置された。
農業専門家は真剣な顔で説明した。
「これは食糧危機を解決するものではありません」
「では、何のためですか?」
一人の生徒が尋ねた。
専門家は言った。
「あなたたちに、野菜が棚で突然生えてくるものではないと知ってもらうためです」
クラスは少しざわついた。
梨央は栽培箱の中の小さな苗を見た。
本当に小さい。
風が吹いただけで倒れそうなほど小さい。
だが学校は、それに番号を貼っていた。
水やり量。
日付。
担当者。
重要な設備を守るように。
彼女はふいに、少しおかしくなった。
そして少し悲しくなった。
東京は海水淡化点を持つほど大きいのに、一箱の小さな野菜苗まで真剣に守らなければならない。
京都の千夏は、祖母と一緒に社区菜箱点へ行った。
そこは小さな寺の外縁の空地だった。
核心庭園には近づかない。
景観も壊さない。
だが日当たりはある。
木箱が一列に並んでいる。
そばには水桶と、検査済みの井戸水が置かれていた。
祖母は腰をかがめて土を見て、第一声で言った。
「この土は軽すぎるね」
職員は言った。
「移動しやすいようにしています」
祖母は眉をひそめた。
「軽すぎると、根が掴まれない」
千夏は隣に立ち、祖母が別人のようだと思った。
普段の祖母は話すのが遅い。
けれど菜箱を見ている今の目は、とても真剣だった。
彼女は職員に言った。
「葱はそんなに密にしちゃいけない」
「大根の葉は食べられるから、捨てないで」
「水をやりすぎて、お風呂に入れてるみたいにしないこと」
「子どもに手伝わせてもいいけど、勝手に抜かせちゃ駄目」
千夏は小声で言った。
「おばあちゃん、すごいね」
祖母は彼女を見なかった。
「昔は、どこの家でも少しくらい育てたものだよ」
「私はできないよ」
「だから今から覚えるんだよ」
千夏はうなずいた。
しゃがみ込み、小さな苗を一本まっすぐにした。
指先に土がつく。
その瞬間、京都は旧井戸を守っているだけではないのだと、彼女は思った。
京都も、とても小さな箱の中に新しいものを伸ばそうとしている。
食糧戦は、すぐに学校食堂へ影響した。
東京の梨央は、食堂に新しいメニュー説明が貼られているのを見た。
米飯の量をやや減らす。
豆類を増やす。
野菜は緊急菜箱の試験生産分で補充するが、数量は限定。
一部の日は「節約型昼食」を提供。
同級生たちはかなり不満そうだった。
「足りないんだけど」
「豆が多すぎる」
「猫目支配区って普通に食べられるのかな」
「やめて。言えば言うほど腹が立つ」
梨央も足りないと思った。
午後の体育のあと、明らかにお腹が空いていた。
以前なら、コンビニへ行っておにぎりを買った。
今はコンビニのおにぎりが数量制限されていて、値段も上がっている。
彼女は棚の前に立ち、最後の二つのおにぎりを見た。
後ろには中学生が一人いた。
少し迷ったあと、一つだけ取った。
そういう小さなことが、彼女の気持ちを悪くした。
毎回おにぎりを買うたびに、道徳的な選択をしているような気分になりたくなかったからだ。
けれど今、多くの小さなことが選択になっていた。
京都の千夏の学校では、「菜葉を無駄にしない」活動が始まった。
以前なら捨てられていた大根の葉や外側の葉が、整理されて味噌汁に入れられる。
味が変だと言う人もいた。
千夏も、少し苦いと思った。
祖母にその話をすると、祖母は言った。
「苦くても食べられる」
千夏は言った。
「おばあちゃん、前は味にうるさかったのに」
祖母は彼女を一度見た。
「こだわりは、無駄にしないことの後にあるものだよ」
その言葉を、千夏は覚えた。
作文用紙に書いた。
今の京都の味は少し苦くなりました。でも、苦味も味の一つです。
先生はまた赤丸をつけた。
千夏は、先生は赤丸をつけることしかできないのかもしれないと疑い始めた。
都市食糧生産は、新たな戦闘を生んだ。
猫目が初めて東京の屋上栽培点を攻撃したのは、夜だった。
焼いたわけではない。
爆破したわけでもない。
術式汚染粉塵を投放したのだ。
それは植物の葉に異常な斑点を出させる。
本当に有毒とは限らない。
だが、病害のように見える。
翌朝、学生ボランティアが菜苗の葉の変色を見つけ、すぐに恐慌した。
「食べられるの?」
「汚染されたの?」
「全部捨てなきゃいけないの?」
農業専門家と特調室が駆けつけた。
私も行った。
黒弦で、粉塵残留の術式活性を切断した。
水質と土壌検査組がサンプルを取る。
結果は、大部分の菜苗は救えるが、一部は廃棄しなければならないというものだった。
学生たちはそばに立ち、何箱かの菜苗が隔離袋へ入れられるのを見ていた。
梨央もそこにいた。
彼女は私を見たとき、一瞬固まった。
私は彼女に気づかなかった。
専門家から汚染範囲の説明を聞いていたからだ。
梨央は後に写真部の記録帳へこう書いた。
野菜を守るにも、黒弦が必要なのだと知った。
その一文が互助会へ伝わると、小野寺はため息をついた。
「今や黒弦まで野菜を守るのか」
佐野は言った。
「野菜もサプライチェーンです」
その言葉で、皆は沈黙した。
そうだ。
野菜もサプライチェーンなのだ。
京都への猫目攻撃は、もっと噂に近かった。
いくつかの社区菜箱点の近くに、小さな紙が貼られた。
猫目支配区では野菜供給が安定しています。京都は老人と子どもに実験野菜を食べさせています。
その言葉は、直接破壊するより陰湿だった。
菜箱を羞辱へ変える。
居民に、自分たちが食べているのは敗者の野菜なのだと思わせる。
橘千夏は寺の外縁でその紙を見つけると、怒りで顔が赤くなった。
祖母はとても平静に、その紙を剥がした。
「実験野菜?」
彼女は言った。
「私たちが昔、自分たちで育てた野菜を食べていたころ、猫目なんてどこにいたんだい」
千夏は尋ねた。
「先生に渡す?」
祖母は言った。
「先に水点説明所へ持っていきなさい」
「どうして水点?」
「今はあそこが噂も管轄しているから」
千夏は一瞬固まった。
京都の防線は、もうかなり奇妙なものになっていた。
井戸水点は水を管理する。
同時に、噂も管理する。
菜箱点は野菜を管理する。
同時に、尊厳も管理する。
のちに、京都はこの種の紙をこう分類した。
食糧羞辱型誘導。
遠坂綾乃は分類名を見て言った。
「京都の命名は相変わらず長いですね」
佐野美紀は言った。
「でも正確です」
東京と京都は、より効率のよい都市食糧生産方式を研究し始めた。
水耕。
豆芽。
キノコ。
小型温室。
学校菜箱。
屋上軽量菜地。
廃棄地下空間でのキノコ栽培。
港区コンテナ農業。
京都旧町家裏庭の共同菜園。
寺社辺縁の可動式栽培箱。
どの方案にも制限があった。
水耕には電気と栄養液が必要。
キノコには温湿度制御が必要。
温室には材料が必要。
屋上には耐荷重問題がある。
菜箱の産量は低い。
裏庭は分散しすぎて管理が難しい。
地下空間は湿気とカビ汚染が起こりやすい。
だが、もう誰も「それだけで誰が食べられるのか」とは問わなかった。
皆が少しずつ理解し始めていたからだ。
これは一つの方案で都市食糧を解決する話ではない。
たくさんの小さな方案を積み重ね、猫目に一刀で切断される可能性を減らすためのものだ。
井戸と同じ。
水車偽線と同じ。
非猫目サプライチェーンと同じ。
都市は、すべての隙間で何かを育て始めた。
浪漫のためではない。
食糧線を絞められているからだ。
食糧は、互助会メンバーに新しい役割も与えた。
地方から逃げてきた人々の多くは、育て方を知っていた。
保存方法を知っていた。
倉庫の湿度を見る方法を知っていた。
米袋の鼠害を防ぐ方法を知っていた。
野菜の保存を延ばす方法を知っていた。
どの葉が食べられるか、どの葉がただ以前の都市人に嫌われていただけなのかを知っていた。
藤沢直人は、ある食糧倉庫の登記を担当し始めた。
彼はかつて倉庫を管理していた。
今、また倉庫を管理している。
ただし今回は、倉庫は東京にある。
中身は漁港設備ではなく、米、豆類、乾燥野菜、水桶だった。
松尾老人は、若い人たちに旧式帳簿の見方を教えることになった。
「食糧帳は、数量だけを書けばいいわけじゃない」
彼は言った。
「損耗も書くんだ」
「鼠、湿気、期限切れ、破袋、盗み、誤配。全部、損耗だ」
若いボランティアたちは、ぽかんとして聞いていた。
彼らは以前、食糧は倉庫に入れば安全なのだと思っていた。
松尾老人は言った。
「倉庫は魔法じゃない」
「入れたものも、悪くなる」
この言葉は、食糧管理手冊に書き込まれた。
倉庫は魔法ではない。
小野寺はこの言葉を非常に気に入った。
彼の冷たいおにぎり哲学とよく合っていたからだ。
私も、食糧線保護へ巻き込まれた。
あるとき、猫目術師が港区のコンテナ水耕点を襲撃しようとした。
そこは産量が多いわけではない。
だが二つの病院へ、一部の新鮮な葉菜を提供できる。
猫目がそこを攻撃するのは、東京から野菜をなくすためではない。
あなたたちが自分で育てているものも安全ではないと証明するためだ。
私が到着したとき、水耕箱の灯りが一列ずつ点いていた。
白い光の下で、緑の葉はとても脆く見えた。
猫目術師は電流干渉を投放し、栄養液循環システムを焼き切ろうとしていた。
私は黒弦で干渉術式を切断した。
天城技術人員が電源を緊急修理する。
普通のボランティアは、手作業で一部の栽培板を予備箱へ移した。
皆、忙しかった。
誰も英雄には見えなかった。
だがその夜、病院翌日の葉菜供給の一部は守られた。
責任者が私に言った。
「三十キロだけです」
私は言った。
「それでも重要です」
彼は言った。
「三十キロの野菜に、黒弦が来る価値がありますか?」
私は、濡れた葉を見た。
「病院に行くなら、あります」
彼はうつむき、長いあいだ何も言わなかった。
その後、その水耕点の入口には小さな紙が貼られた。
三十キロでも守る。
猫目の復盤で、代理人はその一文も報告に入れた。
ニャーサはそれを見て笑った。
「三十キロでも守る」
「とても人間らしいね」
代理人が尋ねた。
「小型食糧生産点への攻撃を継続しますか?」
「続けろ」
「目的は?」
「守らせることだ」
ニャーサは言った。
「一つ一つの小菜箱、一つ一つの水耕点に、人、灯り、水、検査、守衛が必要になる」
「産出する食糧は限られている」
「だが消耗する注意力は多い」
代理人は頭を下げた。
「彼らを自分たちの防線で遅くさせる」
「そうだ」
ニャーサは東京と京都の食糧図を見た。
「ただし、全部破壊するな」
「なぜですか?」
「全部破壊すれば、彼らは絶望する」
「一部を残せば、彼らは投入を続ける」
「希望もまた、コストだ」
その言葉に、代理人は背筋が冷えた。
ニャーサは、希望でさえコスト表に入れているのだ。
東京と京都も、当然、猫目の目的を知っていた。
だが知っているからといって、やめられるわけではない。
作らなければ、食糧はより猫目支配区に依存する。
作れば、猫目は守らせる。
水と同じ罠だった。
それでも、東京と京都の選択は変わらなかった。
作る。
守る。
学ぶ。
単一点依存を減らす。
居民参加を増やす。
産量は高くなくても象徴的意味の強い点を、教育と信頼の節点に変える。
高校生に、野菜がどう育つのかを知ってもらう。
老人に、自分がまだ誰かへ教えられることを知ってもらう。
逃亡者に、自分の地方経験が猫目に奪われていないことを知ってもらう。
都市に、自分たちは食糧車を待つことしかできないわけではないと知ってもらう。
これは、完全に理性的な産出計算ではない。
単なる感情でもない。
その中間だった。
都市には熱量が必要だ。
信頼も必要だ。
食糧はその両方だった。
東京の梨央は、のちに新しい写真シリーズを撮った。
タイトルは、
都市の隙間にある野菜。
屋上菜箱。
学校の小さな苗。
港区の水耕灯。
青い橋の裏口にある葱。
倉庫の米袋。
ボランティアの手についた土。
そして一枚は、「汚染隔離」と貼られた菜箱だった。
先生は、なぜその一枚を撮ったのか尋ねた。
梨央は言った。
「全部の野菜を救えるわけじゃないからです」
先生は少し沈黙した。
「この写真は最後に置きましょう」
京都の千夏は、新しい作文を書いた。
祖母と菜箱。
彼女は、祖母が土が軽すぎると言ったことを書いた。
大根の葉を捨ててはいけないと言ったことを書いた。
猫目の紙が、自分たちは実験野菜を食べていると言ったことを書いた。
祖母がその紙を剥がしたことを書いた。
最後に、こう書いた。
もしこれが実験野菜なら、私たちは自分たちの茶碗を猫目へ渡さない方法を実験しているのだと思います。
先生は、今回は赤丸だけではなく、評語を書いた。
この一文はとても良いです。
千夏は作文を祖母に見せた。
祖母は読み終えると、言った。
「茶碗のほうが、水桶より重いね」
千夏は尋ねた。
「どういう意味?」
祖母は言った。
「そのうちわかるよ」
彼女は、もう少しだけわかっていた。
水桶は生きること。
茶碗も生きること。
けれど茶碗の中には、尊厳も入っている。
私は備忘録に書いた。
猫目は食糧輸送の阻断を始めた。
方法:冷鏈検査、米穀中継停止、野菜輸送遅延、食品安全審査、サプライチェーン値上げ、食糧羞辱型誘導。
東京・京都の対応:制御区内の希少耕地と空間食糧生産を研究。
東京:屋上、港区、水耕、学校菜箱、廃棄空地など、多様な方式。
京都:寺社辺縁、旧町家裏庭、学校菜箱、山脚小地块、伝統菜園経験。
共通の現実:自給は不可能。ただし単一点依存を減らせる。
猫目が取る可能性のある策略:小型食糧生産点を、新たな防線コストへ変える。
こちらの策略:作る、守る、分散する、記録する、教育する、信頼を残す。
書き終えてから、私は手を止めた。
そして、さらに書いた。
水は防線。
電気は防線。
茶碗も防線。
ソレンセンが封印空間の黒海で言った。
「お前たちは本当に野菜を育て始めたな」
「うん」
「弱すぎて笑える」
「でも猫目も、その野菜を壊すために力を使わなきゃいけない」
それは少し沈黙した。
私は続けた。
「猫目に力を使わせられるなら、完全に無駄ではない」
ソレンセンは低く笑った。
「その言葉は、少しはまともだ」
窓の外、東京は以前より暗かった。
けれど、いくつかの屋上では、臨時温室の小さな灯りがまだ点いている。
京都のほうでは、寺の外縁にある菜箱に防寒布がかけられている。
猫目は外側で食糧線を見ている。
都市は隙間で野菜を育てている。
少ない。
遅い。
疲れる。
それでも、第一批の小さな苗は確かに伸びていた。