俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第124章 晩餐会、港の夜風、そして「陥落地域」における生活環境の回復
北海道で迎えた四日目。
視察団が北海道へ入ってから、二度目の夜でもあった。
日中、視察団は各地へ分かれていた。
かつての住居へ戻った人。
学校へ行った人。
港へ向かった人。
墓地を確認した人。
ただ、見覚えのある街角に立ち尽くしていた人。
そして夜になると、
猫目は二度目の集まりを用意した。
最初の夜よりも、さらに危険な集まりだった。
一日目には、まだ全員が警戒していた。
けれど四日目になると、
多くの人がすでに「慣れ」始めていた。
会場は、函館旧港のそばにある修復済みの会館だった。
以前は、漁業協会が使用していた建物らしい。
今では壁が塗り直され、
入口には暖かな黄色の明かりが下がっていた。
外では冷たい風が吹いている。
けれど中は、冬の家の居間のように暖かかった。
東京から来た多くの人は、中へ入った瞬間、本能的に緊張を解いてしまった。
そして、すぐに気づいた。
気を緩めてはいけない。
今回の集まりには、前回よりも多くの人が参加していた。
地方住民だけではない。
地方の学校教師。
港湾の運行管理員。
営業を再開した小さな店の店主。
地方の技術者。
一部の地方術師までいた。
完全武装した術師ではない。
普通の服を着て、公務員のように振る舞う地方管理職員だった。
東京の護衛隊は、広間へ入った瞬間から強く警戒していた。
彼らも、ついに本当の意味で気づいたからだ。
猫目は、もう単なる「術師組織」ではない。
地方社会全体を、新たに覆い尽くすシステムのようになっている。
東京側にとって、最もつらかったのは、
地方の人々が本当に「普通の生活」を取り戻し始めていることだった。
会館の隅では、子どもが宿題をしていた。
地方の野球中継を見ている人がいた。
コンビニの店主は、最近の入荷状況について話していた。
二人の港湾作業員は、漁船の修理について相談していた。
老人が、
「今年も雪が多すぎる」
と文句を言っていた。
息苦しくなるほど、普通の話題だった。
今の東京では、もう長いあいだ聞いていない。
「戦争とは関係のない世間話」
だった。
梨央は、ずっと写真を撮っていた。
撮れば撮るほど、不安になっていった。
最も多く写っているのが猫目術師ではなく、
普通の人々
だと気づいたからだ。
ラーメンを食べている高校生。
港のそばで煙草を吸う作業員。
営業を再開した文房具店。
会館で湯気を立てている海鮮鍋。
東京の学生たちを囲み、
「東京では今も毎日、電力制限があるの?」
と尋ねる北海道の子どもたち。
北海道の女子高校生の一人は、ひどく真剣な顔で梨央に尋ねた。
「東京って、夜になると本当にいろんな場所が暗くなるの?」
梨央はうなずいた。
相手は長いあいだ固まっていた。
「……映画みたい」
その言葉に、梨央はどう答えればいいのかわからなくなった。
初めて気づいたからだ。
東京は少しずつ、ほかの人々から見た「特殊地域」へ変わり始めている。
本当に危険だったのは、東京の視察団が地方の人々と話し始めたことだった。
取材ではない。
質疑応答でもない。
本当の会話だった。
北海道出身の老人は、ついに以前働いていた港の冷蔵倉庫へ戻った。
今では猫目の地方管理システムに属している。
けれど、働いている人々の多くは昔と同じだった。
管理者が変わっただけだ。
年老いた作業員の一人が、彼へ温かい酒を差し出した。
「お前、昔は温かい酒が一番嫌いだっただろ」
老人は長いあいだ固まっていた。
やがて、低い声で言った。
「今の東京は寒いんだ」
相手は少し黙った。
「……戻ってこいよ」
空気が一瞬で静まり返った。
老人は答えなかった。
ただ、うつむいて酒を飲んだ。
それこそが、猫目の本当の攻撃だった。
洗脳する必要はない。
故郷自身に、
「戻ってこい」
と言わせればいい。
一方、
仙台出身の女性は、ついに息子が以前通っていた小学校を訪れた。
学校は再開されていた。
規模は縮小している。
運動場のそばには、猫目の監視柱も増えている。
それでも、
子どもたちは本当に授業を受けていた。
彼女は夜、会館の隅へ座り、ずっと何も話さなかった。
誰かが尋ねた。
「学校は、まだ残っていましたか?」
彼女はうなずいた。
「残っていました」
その直後、涙がこぼれ落ちた。
そこにはもう、廃墟しか残っていないと思っていたからだ。
東京の護衛要員たちは、ますます苦しみ始めていた。
視察団の心が揺らぐことを、止める手段がなかったからだ。
東京の特調室にある監視室で、久我山が低い声で言った。
「だが、ここで強引に制限すれば」
「東京のほうが、正常な社会から遠い側に見えてしまう」
誰も答えなかった。
それこそが、ニャーサの設計した局面だった。
東京が閉鎖的になればなるほど、
猫目は「開放的」に見える。
東京が緊張すればするほど、
猫目は「安定している」ように見える。
東京が危険性を強調すればするほど、
地方の人々は「普通」に見える。
最後に遠坂が言ったのは、一言だけだった。
「記録を続けて」
「結論を急がないで」
けれど、全員がわかっていた。
東京は少しずつ、「唯一の正義」という立場を失い始めている。
私が本当に居心地の悪さを覚え始めたのは、集まりの後半だった。
地方の小学校教師が、突然私へ尋ねた。
「東京の子どもたちは、今でも普通にお祭りを楽しめますか?」
私は少し固まった。
「どうして、そんなことを?」
彼女は笑った。
「こちらでは最近、雪祭りが再開されたんです」
広間にいた東京の人々の何人かが、明らかに身体をこわばらせた。
雪祭り。
東京では、もう長いあいだ誰も口にしていないような言葉だった。
今の東京では、多くの祭りが縮小され、取りやめられ、あるいは節電仕様へ変えられている。
その一方で、北海道支配地域では、雪祭りが再開されようとしている。
教師は続けた。
「子どもは、子どもらしくいなければなりません」
「いつまでも避難民のように暮らさせるわけにはいきませんから」
口調は、ごく普通だった。
けれど、その言葉を聞いた東京の人々の表情は変わった。
突然、気づいたからだ。
今の東京にいる子どもたちは、確かに普通の子どもから遠ざかりつつある。
部屋へ戻った梨央は、初めてすぐには写真を整理しなかった。
ベッドの端に座り、
ある言葉を何度も思い返していた。
「子どもは、子どもらしくいなければならない」
東京の学校に貼られた節電通知を思い出した。
誰もが給水について、ますます慣れた様子で話すようになったことを思い出した。
自分がすでに、
水桶。
菜園箱。
停電。
給水車。
そうしたものを撮ることに慣れていたことを思い出した。
けれど、北海道の高校生たちは、再び雪祭りについて話し始めている。
梨央は急に泣きたくなった。
初めて本当の意味で気づいたからだ。
東京は少しずつ、「普通の生活」を失いつつある。
そのとき、
港の方角で、突然広い範囲に明かりがついた。
会館にいた多くの人が、無意識にそちらを見た。
外では、
函館の夜の港全体に明かりがともっていた。
クレーン。
冷蔵倉庫。
輸送線。
海沿いの道路。
すべてが明るい。
東京から来た技術者の一人が窓辺に立ち、長いあいだ見つめていた。
やがて、低い声で言った。
「東京では、もう長いこと、こんなに明るくする勇気がない」
誰も反論しなかった。
そして、本当に背筋を寒くさせたのは、
これが「誇示」ではないことだった。
地方の人々は、すでに慣れている。
わざわざ港を見る者さえいない。
そのまま話を続ける。
そのまま食事を続ける。
そのまま生活を続ける。
まるで、
明かりがついていることなど、当然であるかのように。
午後十一時。
視察団は宿泊施設へ戻る準備を始めた。
港では強い風が吹いていた。
海は冷たい。
遠くの明かりは、ずっと消えずに輝いている。
会館の外へ出たとき、
私は、ついにあることを本当の意味で理解した。
ニャーサが最も危険なのは、強いからではない。
「普通の生活」を、自分の武器へ変えようとしているからだ。
スマホが震えた。
新しいメッセージ。
今回も番号は表示されていない。
東京の人々は、「普通の日々」が恋しくなってきたかい?
私は、その言葉を見つめた。
返事はしなかった。
今回は、
すぐに否定することができなかったからだ。
五日目。
視察団は北海道農業復旧地帯へ入った。
東京が初めて、本当の意味で接触することになる。
猫目の食糧システムに。
車が函館を離れると、
景色はゆっくりと変化し始めた。
港。
倉庫。
海風。
それらは次第に、広大な雪原と温室地帯へ置き換わっていった。
北海道の空は低かった。
灰白色。
風は冷たい。
けれど温室地帯には、明かりがついていた。
一列。
また一列。
雪原に並ぶ人工の太陽のようだった。
東京から来た農業研究者たちは、一目で異常な規模に気づいた。
「大きすぎる……」
彼らは、地方復旧地域とは「かろうじて維持されている場所」だと思っていた。
けれど、実際に目にしたのは、
広大な温室。
自動灌漑設備。
養液循環システム。
熱供給管。
予備貯水設備。
地域用の小型蓄電システムまであった。
最も恐ろしいのは、
その効率だった。
猫目は、従来の農業を復元したわけではない。
新たに設計し直していた。
集約化。
閉鎖化。
高効率。
低損失。
戦時下の生存用農業に近かった。
案内責任者は、穏やかな口調で説明した。
「現在、北海道復旧地域は、地方における野菜供給の約三十一パーセントを担っています」
東京から来た視察員たちの表情が、一斉に変わった。
東京では今も、学校の菜園箱さえ実験段階にある。
それなのに猫目は、すでに地域農業システムを構築している。
梨央が初めて本当の圧迫感を覚えたのは、温室へ入ったときだった。
中は暖かい。
湿気が多い。
野菜は異様なほど整然と育っている。
照明は安定している。
作業員の動きにも無駄がない。
臨時の施設には見えなかった。
まるで、何年も前から稼働しているようだった。
東京から来た学生が、低い声で言った。
「東京では、まだ菜園箱について話し合ってるのに」
隣にいた人は、何も答えなかった。
その差が、もう「小さな問題」ではないことを全員が理解していたからだ。
昼。
視察団は地域の穀物倉庫へ案内された。
そこで得られた情報は、東京上層部の背筋を本当の意味で冷たくした。
巨大な穀物倉庫が、雪原の縁へ並んでいる。
温度管理。
防湿設備。
自動記録。
輸送用軌道。
すべてが稼働していた。
東京から来た食糧管理担当者たちは、中へ入るとほとんどすぐに黙り込んだ。
これらが何を意味するのか、よく理解していたからだ。
猫目はすでに、日本の「食べる能力」を再編し始めている。
そして、最も恐ろしいのは、
地方住民がすでに、
食糧は猫目から届くものだ
と認識し始めていることだった。
北海道の女性の一人が、ごく自然に言った。
「以前は、冬になると食糧が途切れないか、いつも心配でした」
「今は、配送もずっと安定しています」
東京から来た者は、誰も答えなかった。
突然、気づいたからだ。
東京が必死に「抵抗」を維持している一方で、
猫目はすでに、
生き延びるための秩序
を提供し始めている。
その夜、
東京から来た視察員の多くが、初めて本当の意味で眠れなくなった。
ついに理解したからだ。
猫目は恐怖だけで地方を支配しているわけではない。
少なくとも、恐怖だけではない。
人々が生き続けられるようにすること。
それによっても支配している。
六日目。
視察団は仙台復旧地域へ入った。
初めて本当の意味で、
「復旧した都市の夜間商業地域」
へ足を踏み入れることになる。
東京から来た人々は、最初、その危険性を理解していなかった。
夜になるまでは。
仙台旧商店街に明かりがついた。
東京のような、
節電後の弱い照明ではない。
港湾地区にある、
工業用の照明でもない。
本物の都市商業照明だった。
ネオン。
看板。
飲食店。
映画館。
コンビニ。
ゲームセンターまである。
東京から来た学生たちは街角に立ち、全員が黙り込んだ。
あまりにも長いあいだ、
「普通の都市の夜」
を見ていなかったからだ。
猫目の最も悪辣なところは、道路を封鎖しなかったことだった。
人払いもしていない。
視察団と住民を隔離することもしない。
そのため、東京の人々の耳には絶えず届く。
笑い声。
会話。
店員の呼びかけ。
放課後の学生たち。
恋人同士。
野菜を買う老人。
どんな宣伝映像よりも、危険なものだった。
仙台出身の女性は、ついに以前よく息子を連れて訪れていた映画館へ行った。
映画館は営業を再開していた。
開放されているのは二つの階だけ。
夜間の営業時間にも制限がある。
それでも、
本当に営業していた。
彼女がチケット売り場に立つと、全身が震えた。
そこにいた販売員まで、以前と同じ人物だったからだ。
「……戻ってきたんですか?」
販売員も長いあいだ固まっていた。
「東京から来た視察団です」
女性の声は、かすれていた。
販売員は少し黙った。
「今は、夜もけっこう賑やかですよ」
女性は突然うつむいた。
もう、憎み続けることができないと気づいたからだ。
梨央は、ひたすら「明かり」を撮影していた。
店の明かり。
広告の明かり。
自動販売機。
ゲームセンター。
後から写真を整理したとき、彼女は気づいた。
自分が無意識に、
「東京にはないもの」
ばかりを撮るようになっていた。
東京の護衛隊は、ますます不安を強めていた。
視察団が本当に、その街へ「溶け込み」始めていたからだ。
夜。
視察団には三時間の自由行動が認められた。
東京側は、ほとんど取り乱しかけた。
けれど猫目は、穏やかに告げただけだった。
「視察である以上、普通の生活を体験できなければ意味がありません」
最後には、東京側も同意するしかなかった。
護衛たちは、密かに後を追った。
この三時間は、後に東京内部で、
「仙台・揺らぎの夜」
と呼ばれることになる。
多くの視察団メンバーが初めて、本当の意味で、
「地方は本当に復興しているのかもしれない」
と感じた夜だったからだ。
東京から来た大学生の一人が、ラーメン店に座り、突然低い声で言った。
「普通の放課後がどんなものだったか、もう忘れそうだ」
隣にいた北海道の高校生が、少し固まった。
「東京って、今はそんなに大変なの?」
東京の学生は黙った。
突然、自分たちの住む東京が、
「異常な地域」
になり始めていることに気づいたからだ。
夜。
私は仙台商店街の中央に立っていた。
周囲の明かりは眩しいほどだった。
人通りも多い。
一方、東京は最近、ますます暗くなっている。
その瞬間、
私はニャーサがなぜこの場所を旅程へ入れたのか、本当の意味で理解した。
明かりのともる都市は、人に普通の生活を恋しく思わせる。
七日目。
視察団は福島外縁エネルギー復旧地域へ入った。
東京は当初、強く反対していた。
最終的に認められたのは、外縁部からの視察だけだった。
東京もわかっていたからだ。
ここでは、最も危険な疑問への答えが明かされる。
なぜ猫目は、東京に水と電力を利用した攻撃を仕掛けられるのか。
エネルギー地域の外縁部は、想像よりも静かだった。
高圧送電線。
蓄電設備。
熱交換システム。
地域配分塔。
予備発電設備。
すべてが稼働している。
視察開始から一時間もすると、東京の技術者たちの表情は完全に変わっていた。
猫目が、地域エネルギー配分網をすでに構築していることに気づいたからだ。
完璧ではない。
それでも、
地方都市を維持するには十分だった。
東京が抱える問題は、その正反対だ。
東京は大きすぎる。
集中しすぎている。
大規模システムへ依存しすぎている。
そのため、エネルギー供給を妨害されれば、状況は悪化し続ける。
東京のエネルギー専門家が、低い声で言った。
「地方に分散型エネルギー拠点を構築している……」
隣にいた人が尋ねた。
「どういう意味ですか?」
「つまり」
男は苦笑した。
「東京が旧時代の大都市に近づくほど」
「猫目は、戦後復興システムに近づいている」
この言葉は、後に東京の内部報告へ記録された。
そして、
「極めて危険な認識変化」
と分類された。
その夜、
視察団のための集まりは、初めて予定されなかった。
東京側が、
「感情への刺激を減らすこと」
を要求したからだ。
それでも、多くの人は眠れなかった。
ついに気づいてしまったからだ。
猫目は、ただ「日本を占領」しているのではない。
日本そのものを設計し直している。
八日目。
名古屋工業復旧地域。
ここには、北海道の郷愁はない。
仙台の明かりもない。
あるのは、
機械だけだった。
そして、それこそ東京が最も恐れていたものだった。
大型加工工場が再稼働している。
部品製造ラインも復旧している。
物流用軌道も再接続されている。
一部の自動生産システムまで再稼働していた。
東京の技術者たちは、見れば見るほど口数を失っていった。
工業の復旧は、
猫目が本当の意味で長期統治能力を獲得しつつあることを意味するからだ。
東京から来た機械技術者の一人が、生産ラインのそばへしゃがみ込み、長いあいだ設備を見つめていた。
やがて低い声で言った。
「東京は、消費しかできない都市へ近づいている」
誰も答えなかった。
事実だったからだ。
東京を本当に絶望させたのは、
工場の作業員全員が、強制されて働いているわけではないことだった。
多くの人は、ただ、
生活を続けている。
「食べていかないといけないから」
作業員の一人が、ごく自然に言った。
「工場が開いたから、みんな仕事へ戻ってきたんです」
東京の人々は、突然気づいた。
地方住民の多くは、そもそも猫目を「支持」しているわけではない。
ただ、
生き続けることを選んでいる。
それが、最も対処しにくい。
九日目。
視察団は京都外縁部へ到着した。
ここで初めて、本当の意味で、
「境界」
を感じた。
検問線。
水源防衛地域。
仮設障壁。
夜間照明塔。
遠くには、京都方面の防線照明さえ見える。
東京の視察団は初めて、本当の意味で理解した。
京都は今も、必死に持ちこたえている。
一方、猫目支配地域の住民たちも、本格的に話し始めていた。
「なぜ京都はまだ降伏しないのか」
地方の商人が、ごく自然に言った。
「早く統一されたほうが、いいんじゃないですか?」
東京から来た視察員たちは、その言葉を聞いて黙り込んだ。
地方では、その考えがますます一般的になりつつあったからだ。
さらに背筋を寒くさせたのは、
境界付近で暮らす子どもたちが、すでに、
「東京と京都は、まだ復旧していない場所」
という認識へ慣れ始めていることだった。
少女の一人が尋ねた。
「東京って、夜は危ないの?」
東京から来た学生は、長いあいだ固まっていた。
最後には、うなずくことしかできなかった。
十日目。
視察団は大阪支配核心地域へ入った。
十四日間の旅程における、本当の頂点。
東京の人々は大阪へ入った瞬間、初めて本当の意味で、
「完全な大都市」
を感じた。
地下鉄が動いている。
商業地域には明かりがついている。
大型広告も復旧している。
港湾地区は慌ただしく動いている。
夜間交通も存在する。
大型百貨店まで営業を再開していた。
その瞬間、東京から来た多くの人は、ここが敵の占領地域であることさえ忘れかけた。
大阪が、あまりにも「普通の日本」に見えたからだ。
その日の夜、
私は正式な招待状を受け取った。
一斉送信ではない。
視察団全体への通知でもない。
私一人に宛てられた、黒い招待状だった。
今夜20時。
大阪中央塔、最上階。
公式晩餐会。
猫目の主より。
東京側は、瞬時に最高警戒態勢へ入った。
全員が理解していたからだ。
本当の会談が、ついに始まる。
午後八時。
私は大阪中央塔の最上階へ入った。
広間は巨大だった。
照明は安定している。
床から天井まで届く窓の向こうには、街全体に明かりがともった大阪の夜景が広がっていた。
そして、広間にいる人々を見た瞬間、
私は初めて本当の意味で理解した。
猫目が、すでにどのような存在へ成長しているのかを。
長いテーブルの両側には、多くの人々が座っていた。
北海道地域責任者。
東北地域責任者。
関東物流総責任者。
エネルギー配分責任者。
港湾総責任者。
食糧管理責任者。
地方復興責任者。
情報責任者。
工業復興責任者。
猫目金融システム責任者。
教育や住民管理を担当する者を含めた、猫目勢力のさまざまな高級幹部までいる。
彼らは、狂った術師の集団には見えなかった。
むしろ、
本物の国家システムを動かす上層部
のようだった。
そして上座では、
ニャーサが椅子の上に寝そべっていた。
柔らかそうな尻尾が、ゆっくりと揺れている。
ニャーサは私を見た。
私が必ず来ることを、最初から知っていたかのように。
代理人が低い声で告げた。
「白川一音様がお見えになりました」
広間全体が静まり返った。
全員の視線が、私へ向けられた。
そして、
ニャーサは広間の空気を一瞬で凍りつかせる言葉を口にした。
「みんな」
「紹介しておこう」
「彼女は将来」
「猫目の後継者になるかもしれない」