俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第131章 夜明け前の助言、そして晩餐会の終わり

第131章 夜明け前の助言、そして晩餐会の終わり

 

大阪中央塔の最上階には、もうすぐ夜明けが訪れようとしていた。

 

東の空が、少しずつ白み始めている。

 

それでも、大阪の街には今も明かりがついていた。

 

港湾地区の照明。

 

商業地域の大型広告画面。

 

遠くを走る高架列車。

 

まるで、この都市は「電力制限」という言葉を知らないようだった。

 

一方、画面に映る東京は、

 

今も暗い。

 

屋上の菜園箱。

 

給水所。

 

A大学の学生寮に残る、まばらな明かり。

 

夜間低出力で稼働する実験棟。

 

互助会の貨物車。

 

二つの都市が、画面へ並べられている。

 

まるで二つの文明だった。

 

広間には、私とニャーサだけでなく、数人の責任者も残っていた。

 

今夜の晩餐会が、

 

すでに普通の会議の範囲を大きく超えていると、全員が理解していたからだ。

 

ニャーサは、画面に映る東京を長いあいだ静かに見ていた。

 

そして突然、軽い声で尋ねた。

 

「君は今も、A大学の学生寮に住んでいるんだろう?」

 

私は眉をひそめた。

 

「それが何?」

 

ニャーサの尻尾が軽く揺れた。

 

「あそこは、もう君が暮らすのに適した場所ではなくなり始めている」

 

「電力供給が不安定」

 

「温水の使用制限」

 

「夜間のエネルギー供給縮小」

 

「増え続ける学生」

 

「頻繁に出入りする互助会のメンバー」

 

「東京が重点的に監視している地域にも近い」

 

ニャーサはテーブルを軽く叩いた。

 

「あそこは、ますます半軍事化された学生区域へ近づいている」

 

私は何も言わなかった。

 

事実だったからだ。

 

A大学の学生寮は、とっくに普通の大学寮ではなくなっている。

 

互助会のメンバーが来る。

 

特調室の人間も来る。

 

夜には術師が巡回する。

 

屋上には菜園箱がある。

 

地下には貯水設備がある。

 

実験棟では、頻繁に電力制限が行われる。

 

学生たちは、ますます慣れ始めている。

 

いつ水や電気が止まってもおかしくない。

 

そんな生活に。

 

ニャーサは続けた。

 

「今の君が抱えている問題は」

 

「住む場所があるかどうかじゃない」

 

ニャーサが私を見る。

 

「東京が、君を『戦略的核心』として扱い始めていることだ」

 

「学生寮へ住み続けるのは」

 

「実際には、とても危険だよ」

 

「君にとっても」

 

「普通の学生たちにとっても」

 

代理人が初めて、低い声で補足した。

 

「最近、我々の浸透部隊によるA大学周辺への襲撃確率は、実際に上昇しています」

 

広間は静かになった。

 

全員が理解していたからだ。

 

A大学は今、東京の精神的象徴の一つになり始めている。

 

黒弦。

 

互助会。

 

学生。

 

菜園箱。

 

低出力で稼働する実験棟。

 

供給線。

 

それらが組み合わさり、

 

A大学は、

 

「東京はまだ耐え続けられる」

 

ということの縮図へ近づいている。

 

ニャーサは椅子の背へ軽く身体を預けた。

 

「少なくとも、学生寮からは出たほうがいい」

 

私は眉をひそめた。

 

「どこへ?」

 

「東京の中にある」

 

「生活資源を安定して供給できる地域へ」

 

口調は穏やかだった。

 

「最低でも」

 

「安定した水源」

 

「独立した蓄電設備」

 

「独立した物流経路」

 

「長期備蓄物資」

 

「夜間の安全」

 

「これらを確保できる場所にするべきだ」

 

私は初めて、本当に驚いた。

 

ニャーサが今、

 

本気で私へ「生活上の助言」をしている。

 

さらに恐ろしいのは、

 

東京の人間の多くよりも正確に、

 

どの地域なら今も「普通の生活」を維持できるのかを把握していることだった。

 

「港区北側」

 

「旧財団住宅地域」

 

「特調室が用意した複数の予備生活拠点」

 

「東京湾外縁部にある、独立エネルギーシステムを今も維持している一部の住宅地域」

 

ニャーサはグラスを軽く揺らした。

 

「学生寮よりも、ずっと安全だよ」

 

東京が秘匿している長期居住拠点まで知っている。

 

私は言った。

 

「東京のことを知りすぎてる」

 

ニャーサは笑った。

 

「東京がどう生きているのかを、ずっと観察しているからね」

 

「今の君たちが抱えている問題は」

 

「もう戦闘じゃない」

 

テーブルを軽く叩く。

 

「どうやって長く生き続けるのか」

 

私は初めて本当の意味で気づいた。

 

東京はすでに、

 

「長期包囲時代」

 

へ入っている。

 

以前の東京なら、まだ考えていた。

 

いつ反撃するのか。

 

いつ猫目を解決するのか。

 

けれど今、東京が本気で研究しているのは、

 

地下水。

 

長期食糧備蓄。

 

住宅用エネルギー。

 

教育の維持。

 

学生の心理状態。

 

出生率。

 

海外撤離。

 

さらには、

 

次の世代をどう育てるのか。

 

ニャーサも、明らかにその事実へ気づいていた。

 

「大学寮へ住み続けることは」

 

画面に映る東京を見る。

 

「東京に残された最後の『普通の学生生活』まで、少しずつ消耗させることになる」

 

「学生たちは、ますます慣れてしまう」

 

「戦略的核心と一緒に生活することへ」

 

「大学が半軍事地域のようになることへ」

 

「自分たちも、いつ戦争へ巻き込まれるかわからない生活へ」

 

広間は静まり返った。

 

まさに今、東京で起きていることだったからだ。

 

A大学は、ますます普通の大学から遠ざかっている。

 

夜間には電力制限が行われる。

 

実験棟は閉鎖される。

 

屋上で野菜を育てる。

 

地下へ水を備蓄する。

 

学生たちが話すのは、供給線と撤離経路。

 

応急処置や避難方法を学び始めた者までいる。

 

ニャーサは低い声で言った。

 

「今の東京にとって、本当に危険なことの一つは」

 

「資源じゃない」

 

私を見る。

 

「若者たちが、『普通の大学生活』とは何なのかを知らなくなり始めていることだ」

 

私は突然、何も言えなくなった。

 

自分自身も、もう長いあいだA大学を「普通の大学」として見ていなかったからだ。

 

ニャーサは続けた。

 

「だから」

 

「少なくとも学生寮からは出たほうがいい」

 

「東京に残された最後の学生生活まで、包囲戦の一部にしないために」

 

その口調は、本当に、

 

東京の若者たちが「普通に成長できる環境」を失うことを心配しているようだった。

 

私は言った。

 

「私があなたの言うことを聞くと思う?」

 

ニャーサは笑った。

 

「聞くかどうかは、君の自由だ」

 

東京の映像を見る。

 

「でも君も、気づき始めている」

 

「今の東京に本当に足りないものは」

 

「単純な資源ではない」

 

A大学の学生寮を見た。

 

「人が普通の人間として育てる場所だ」

 

ニャーサは少し笑った。

 

「実に興味深い」

 

「何が?」

 

「地方は、ますます従順になっている」

 

「東京は、ますます精神的中心へ近づいている」

 

ニャーサは私を見た。

 

「二つの方向が、同時に存在している」

 

「地方の人々は考え始める」

 

『命令へ従うことのほうが重要なのではないか』

 

「東京の人々は考え始める」

 

『快適さよりも大切なものがあるのではないか』

 

広間は、ますます静かになっていった。

 

教育責任者が低い声で言った。

 

「これからの子どもたちは……」

 

彼女は一度、言葉を止めた。

 

「東京を、一つの伝説として見るようになるのでしょうか?」

 

空気が重くなった。

 

「旧時代に残された、最後の選択権を持つ場所として」

 

誰も答えなかった。

 

あり得ない話ではないと、全員が気づいたからだ。

 

東京がこのまま耐え続ければ。

 

東京が「システムの外にある空間」として存在し続ければ。

 

最後には本当に、

 

猫目勢力でも直接打ち砕けない象徴

 

へ変わるかもしれない。

 

ニャーサは言った。

 

「だから」

 

「僕はますます、東京を壊すことを急がなくなった」

 

「今の東京には」

 

「観察する価値が生まれ始めているからだ」

 

私は眉をひそめた。

 

「観察する価値?」

 

「そう」

 

ニャーサの尻尾が軽く揺れた。

 

「人間が、『選択する権利』のために、どれほど耐えられるのか」

 

「それを見てみたい」

 

空気が一瞬で重くなった。

 

その瞬間、

 

私は本当の意味で理解した。

 

ニャーサが東京を見る視点は、

 

もう普通の統治者のものではない。

 

文明に対する実験を見ている。

 

東京。

 

地方。

 

二つの道。

 

二つの未来。

 

私は言った。

 

「つまり、あなたにも確信はない」

 

ニャーサが私を見る。

 

「何のこと?」

 

「最後に人間が、必ずあなたの道を選ぶとは限らない」

 

広間がわずかに静まった。

 

ニャーサも実際には「賭けている」。

 

それを直接指摘した者は、私が初めてだった。

 

ニャーサは二秒間黙った。

 

そして、

 

笑った。

 

「そうだね」

 

素直に認めた。

 

「僕にも、確信はない」

 

広間の空気が重くなった。

 

「人間というものは」

 

「ときどき、効率がひどく悪いもののために」

 

「とても厄介な選択をするからだ」

 

ニャーサは東京の映像を見た。

 

「たとえば、自由」

 

「尊厳」

 

「選択する権利」

 

「そして」

 

軽く笑った。

 

「システムの一部になりたくない、という感情」

 

その瞬間、

 

私とニャーサは、

 

もう単純な敵同士には見えなかった。

 

二つの未来の道を代表する者。

 

そのような関係へ変わり始めている。

 

大阪では、少しずつ夜明けが近づいていた。

 

東京も、

 

もうすぐ夜間最低出力状態を終える時間だろう。

 

二つの都市。

 

二つの文明。

 

そのとき、

 

代理人が突然、低い声で告げた。

 

「主」

 

「東京側はすでに、黒弦様の帰還連絡を待ち始めていると思われます」

 

広間は再び静かになった。

 

ニャーサは、軽くうなずいただけだった。

 

そして、

 

再び私を見た。

 

「白川一音」

 

「……」

 

「次の段階の行程では」

 

尻尾が軽く揺れる。

 

「君は、さらに多くのものを見ることになる」

 

「地方政府」

 

「住民管理」

 

「警察システム」

 

「財政構造」

 

「教育体系」

 

「猫目勢力が本当の意味で支配している国家を」

 

「そして、最後には」

 

「ますますはっきり理解することになる」

 

「東京と地方」

 

「どちらの道が」

 

「人類の本当の未来に、より近いのかを」

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