俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第14章 京都ホテルの夜間点呼、そして廊下の奥の映写室

 

第十四章 京都ホテルの夜間点呼、そして廊下の奥の映写室

 

修学旅行初日の夜、私はほとんど眠れなかった。

 

ベッドに横たわり、天井を見つめていた。部屋は暗く、森原葵の寝息が静かに聞こえていた。西園寺真央と小野田美咲もすでに眠っているようだった。

 

私はただ、天井の模様を数えながら、耳クリップがいつ震えるかを待っていた。

 

七条は、夜の十時半に点呼が終わったら連絡すると言っていた。

 

しかし時計の針はすでに十一時を回っていた。

 

私はそっと体を起こし、部屋の隅に置いてあったバッグに手を伸ばした。旅行用ギターは持ってこなかった。目立ちすぎるからだ。代わりに、拨片と耳クリップ、そして赤いフィルムの黒い繭だけを入れた。

 

私は深呼吸をして、ゆっくりとベッドから降りた。

 

森原葵がわずかに動き、呟くように言った。

 

「……白川さん?」

 

私は全身を硬くした。

 

しかし彼女はすぐにまた静かになった。寝言だったようだった。

 

私は音を立てないように靴を履き、部屋のドアを開けた。

 

廊下は静かだった。

 

ホテルの夜間照明が柔らかい黄色い光を落としていた。私は廊下を歩きながら、心臓の音が大きすぎるのではないかと思った。

 

もし先生に会ったら、どう言い訳すればいいのか。

 

トイレ?

 

自動販売機?

 

夜景を見に行った?

 

どれも説得力がない。

 

幸い、廊下には誰もいなかった。

 

エレベーターの前まで来たとき、扉が自分から開いた。

 

中に七条が立っていた。

 

私はその場で固まった。

 

「こ、こんばんは……」

 

なぜ挨拶してしまったのか。

 

今は深夜で、私はこっそり外出しようとしている。

 

七条は黒いコートを着て、手に符袋を持っていた。表情は普段よりさらに冷たかった。

 

「単独行動は禁止と言ったはずだ」

 

私は顔を伏せた。

 

「ごめんなさい」

 

「もし私がフロアに監視を仕掛けていなければ、お前は一人で八坂地下結界室へ行くつもりだったのか?」

 

私は沈黙した。

 

それが答えだった。

 

七条が私を見て、しばらくしてから、エレベーターの入り口を横にずらした。

 

「入れ」

 

私は固まった。

 

「え?」

 

「京都方の外層偵察隊が連絡を絶った」

 

彼女が言った。

 

「東京特調室の信号も抑圧されている」

 

「百目影倉が起動した」

 

私の指先が冷たくなった。

 

「それなら……」

 

「本来なら、私がお前を探しに行くつもりだった」

 

七条がエレベーターのボタンを押した。

 

「せっかくお前が自分で出てきたのだから、時間を節約しよう」

 

私はエレベーターの中に足を踏み入れた。

 

扉がゆっくりと閉まっていった。

 

七条は私を見ず、ただ言った。

 

「これはお前に単独行動を許可したわけではない」

 

私は小さく頷いた。

 

「はい」

 

「これは緊急事態における、臨時の共同処理だ」

 

「はい」

 

「中に入ったら、私の指示に従え」

 

「もし間に合わなかったら?」

 

七条がようやく振り返って私を見た。

 

私は顔を伏せたまま、それでも言葉を続けた。

 

「もし普通の人間がすぐに巻き込まれそうになったり、白鏡監督が逃げようとしたり、真壁玄周が百目影倉を起動させたりしたら……」

 

七条はしばらく沈黙した。

 

それから、低く言った。

 

「そのときは、お前の判断で動け」

 

私は顔を上げた。

 

彼女の表情は依然として冷たかった。

 

「ただ、行動した後は説明をすること」

 

私は強く頷いた。

 

「わかりました」

 

ソレンセンが意識の奥で低く笑った。

 

「彼女はようやく譲歩し始めたな」

 

私は答えなかった。

 

これは譲歩ではない。

 

状況がすでに、彼女にも他の選択肢がなくなったということだ。

 

旧映像資料館は、奈良の半ば廃れた旧街の奥にあった。

 

表向きには、昭和時代に建てられた資料館で、すでに一般公開は終了していた。

 

木造の外壁は黒ずみ、窓の内側には古いカーテンがかかっていた。入口の看板には雨水と埃が積もっていた。

 

普通の人間が通りかかれば、ただ取り壊しを待つ古い建物だと思うだろう。

 

しかし私が路地の入り口に立ったとき、建物全体が「見ている」ような感覚を覚えた。

 

比喩ではない。

 

すべての窓。

 

すべてのガラス。

 

すべての扉の隙間。

 

壁に残った古いポスターの破片までが、まるで閉じた目のように感じられた。

 

七条が私の横で符紙を広げた。

 

「外層結界が反転して覆われている」

 

「入れますか?」

 

「入れる」

 

彼女が言った。

 

「しかし入った後、出られるかどうかはわからない」

 

私は体を硬くした。

 

「そんなに直接的に言わないでください」

 

「リスクは知っておく必要がある」

 

ありがとうございます。

 

しかしリスクを知ったところで、私は勇敢にはなれない。

 

むしろ、ますますホテルに帰りたくなるだけだった。

 

ソレンセンが低く言った。

 

「この場所は、昨日の玩具たちよりはましだ」

 

私は資料館を見た。

 

「核心の場所がわかりますか?」

 

「地下三階」

 

「敵はどれくらいいるんですか?」

 

「虫がたくさんだ」

 

「もっと具体的に」

 

「吾にとっては、違いなどない」

 

私は諦めた。

 

ソレンセンに数を聞くことに意味はなかった。

 

彼の目には、一匹のアリと百匹のアリは、おそらく「踏み潰す」という点で同じだった。

 

七条が小型の符盤を取り出した。

 

符盤が赤く光った。

 

「京都偵察隊の最後の信号は地下二階だった。百目影倉の核心はもっと深いところにある」

 

「真壁玄周は?」

 

「現場にいる可能性もあるし、遠隔投影の可能性もある」

 

七条が私を見た。

 

「彼の言葉に引っ張られてはいけない。彼は取引と価値評価で相手を動揺させるのが上手い」

 

私は頷いた。

 

「わかっています」

 

彼女は少し間を置いてから、言った。

 

「本当にわかっているのか?」

 

私は顔を伏せた。

 

「大口の金額を聞くと、やはり動揺します」

 

七条は私がそう率直に認めると思っていなかったようだった。

 

私は続けた。

 

「でも、私は彼と取引はしません」

 

「なぜだ?」

 

私は少し考えてから、言った。

 

「彼が話すとき、商品を見ている目をするからです」

 

七条が少しの間、静かになった。

 

「その判断は的確だ」

 

彼女が資料館の古い扉を押した。

 

中は真っ暗だった。

 

古いフィルムと埃と湿った木の匂いが混ざったものが、押し寄せてきた。

 

そして、ほのかに血の匂いもした。

 

私は中に入りたくなかった。

 

本当に、入りたくなかった。

 

それでも、私は七条について中に入った。

 

資料館の内部は、外から見るよりずっと広かった。

 

廊下の両側に古い展示ケースが並び、中には古いカメラ、フィルムケース、映写機、手回しカメラ、古い写真、映画のポスターが置かれていた。

 

どれも赤い細い糸で繋がれていた。

 

赤い糸は展示ケースの奥から床の隙間に伸び、まるで血管のように地下へと続いていた。

 

七条が低く言った。

 

「展示ケースの中の写真を見てはいけない」

 

私はすぐに顔を伏せた。

 

「はい」

 

顔を伏せて歩くと物にぶつかりやすい。

 

しかし写真の中の何かに見つめられるよりはマシだった。

 

私たちは地下への入口に着いた。

 

扉には京都方の封印符が貼られていた。

 

符紙はすでに白くなっていた。

 

白すぎて、墨が抜き取られたように見えた。

 

七条の顔色がさらに悪くなった。

 

「京都の封印の霊墨まで吸い取られたのか」

 

「彼らは強いんですか?」

 

「鏡楽座自体は、最も強い戦闘勢力ではない」

 

七条が言った。

 

「しかし彼らには金がある」

 

私は資料にあった数百億日元のことを思い出した。

 

「金で何でもできるんですか?」

 

「退魔界では、金で媒介を買える。術師を買える。陣地を買える。情報買える。身代わりを買える」

 

七条の声は冷たかった。

 

「時間も買える」

 

彼女が地下の扉を押した。

 

「そして今夜、彼らは多くの時間を買った」

 

地下の階段はとても長かった。

 

一段降りるごとに、壁に貼られた写真が増えていった。

 

一階は風景写真だった。

 

二階は人物写真だった。

 

三階……

 

三階の壁には、目だけが一面に貼られていた。

 

生きている目ではない。

 

写真の中の目だった。

 

何千何万という目が、額縁の中から私たちを見ていた。

 

老人。

 

子供。

 

学生。

 

観光客。

 

役者。

 

カメラマン。

 

笑っている目もあれば、泣いている目、恐怖に歪んだ目、空虚な目もあった。

 

私は胃が一瞬、ひっくり返るのを感じた。

 

「これらは……」

 

七条が低く言った。

 

「不法な映像媒介によって抽出された視線の残片だ」

 

視線の残片。

 

つまり、これらの目は、かつて普通の人間に属していたのかもしれない。

 

彼らはただ撮影され、汚染され、収集され、そして百目影倉の一部になった。

 

ソレンセンの声がとても冷たかった。

 

「本当に醜いな」

 

私は一瞬、固まった。

 

「あなたも醜いと思うんですか?」

 

「弱々しい悪意が積み重なれば、ただの腐肉になるだけだ」

 

その声には強い嫌悪が混じっていた。

 

「こんなものが、作品と呼べるのか?」

 

この言葉には善意などなかった。

 

しかし私は初めて、ソレンセンの嫌悪と私の嫌悪が、同じものを指しているように感じた。

 

地下二階で、私たちは京都偵察隊を見つけた。

 

三人が一つの映写室に閉じ込められていた。

 

彼らは怪我をしていなかった。

 

しかし全員が椅子に座り、目に白いフィルムが覆い被さっていた。

 

銀幕には、彼ら自身の失敗の映像が繰り返し流れていた。

 

資料館に入る。

 

罠にかかる。

 

陣を破ろうとする。

 

失敗する。

 

閉じ込められる。

 

そしてまた最初から始まる。

 

まるでループした編集片の中に閉じ込められているようだった。

 

七条の顔色が変わり、すぐに近づいていった。

 

「直接触るな」

 

私は慌てて止めた。

 

彼女の動作が止まった。

 

彼女が私を見た。

 

今回は反論しなかった。

 

「切断できるか?」

 

私は頷いた。

 

「やってみます」

 

「条件か?」

 

彼女が突然聞いた。

 

私は一瞬、固まった。

 

七条が私を見ていた。

 

「お前は力を借りるたびに制限を設ける。今も設けているのだろう」

 

私は顔を伏せた。

 

彼女が気づいていたのか。

 

ソレンセンが闇の中で笑った。

 

「彼女はお前を観察し始めている」

 

私は返事しなかった。

 

ただ拨片を指の間に挟んだ。

 

「第一、体を乗っ取ることは禁止です」

 

「できる」

 

「第二、偵察隊を傷つけないでください」

 

「できる」

 

「第三、ループ映像と彼らの意識の間の繋がりだけを切断してください」

 

「できる」

 

「第四、彼らの恐怖を吞まないでください」

 

ソレンセンが冷たく鼻で笑った。

 

「その程度のものなど、吾は欲しくない」

 

「約束してください」

 

「できる」

 

黒い弦が拨片の縁から滑り出し、三人の目の前の白いフィルムを優しく切り裂いた。

 

フィルムが断ち切れた。

 

銀幕が消えた。

 

三人の偵察隊員が、水の中から浮かび上がるように大きく息を吸った。

 

七条がそのうちの一人を支えた。

 

「歩けるか?」

 

相手は顔色を悪くしながら、頷いた。

 

「なんとか……百目影倉はもっと下だ……A級術師が少なくとも三人……真壁玄周もいる……」

 

彼はここで声を震わせた。

 

「彼らは奈良公園と京都方面の観光客の映像を全部取り込もうとしている」

 

七条の顔色が完全に沈んだ。

 

「規模は?」

 

「少なくとも三万人の認知汚染予備」

 

三万人。

 

私の指が冷たくなった。

 

これはもう局所的な事件ではなかった。

 

もし起動すれば、普通の世界に大きな穴が開いてしまう。

 

真壁玄周は単に私を捕まえたいわけではなかった。

 

彼は大規模な映像汚染を起こすことで、私を百目影倉に引きずり込みたい。

 

同時に私の力の処理を撮影したい。

 

これが彼の「作品」なのだろう。

 

ソレンセンが低く言った。

 

「ようやくそれらしくなってきた」

 

私は歯を食いしばった。

 

「黙って」

 

「お前は怒っている」

 

「はい」

 

「いいことだ」

 

いいことなど、ひとつもなかった。

 

私はこんなことで怒りたくなかった。

 

しかし本当に怒っていた。

 

三万人。

 

普通の観光客。

 

学生。

 

子供。

 

老人。

 

彼らはただ旅行に来ただけだ。

 

ただ写真を撮りたかっただけだ。

 

ただ普通の思い出を残したかっただけだ。

 

なぜ彼らがこんな人たちの素材にされなければならないのか?

 

地下三階の扉は、巨大な銀色のフィルム壁だった。

 

壁には無数のレンズが埋め込まれていて、それぞれが回転していた。

 

七条がその壁を見たとき、即座に符陣を展開した。

 

「百目影倉の外門だ」

 

彼女が私を見た。

 

「強引に破れば、反撮影が発動する。すべての攻撃が記録され、複製されて、反対の形で返される」

 

「つまり、攻撃すると跳ね返されるんですか?」

 

「もっと厄介だ」

 

七条が言った。

 

「攻撃者の術式を撮影して、敵の形に編集してくる」

 

複雑すぎた。

 

つまり、専門の術師ほど危険だということだ。

 

なぜなら術式が複製されるから。

 

私は自分の拨片を見下ろした。

 

「もし術式じゃなかったら?」

 

七条が私を見た。

 

「何?」

 

私はゆっくりと手を上げた。

 

「もしただ、それが今撮影している動作を切断するだけだったら?」

 

七条が一瞬、固まった。

 

私は続けた。

 

「彼らは『撮影』という行為を中心に回っている」

 

「レンズと対象の間の繋がりを切断すれば、それで十分なんじゃないですか?」

 

七条は少しの間、私を見ていた。

 

それから、低く言った。

 

「やってみろ」

 

私は拨片を指の間に挟んだ。

 

「条件追加。外門のレンズの記録動作だけを切断してください。地下構造を破壊せず、反撮影を発動させず、閉じ込められた視線の残片に影響を与えないでください」

 

ソレンセンが低く笑った。

 

「細かくて苛立たしいな」

 

「でもできますよね」

 

「もちろん」

 

黒い弦が音もなく滑り出した。

 

壁を切り裂くのではなく、それぞれのレンズの縁に優しく貼りついていった。

 

まるでまぶたに糸を縫うように。

 

最初のレンズが回転を止めた。

 

二番目。

 

三番目。

 

十番目。

 

百番目。

 

壁全体の数百のレンズが、一つずつ焦点を失っていった。

 

それらは砕けなかった。

 

ただ、見えなくなっただけだった。

 

百目影倉の外門が、耳障りなフィルムの摩擦音を発した。

 

それから、銀色の壁が真ん中から割れた。

 

七条がこの光景を見て、声が低かった。

 

「こんな開け方……京都には記録がない」

 

私は低く言った。

 

「私も初めてです」

 

本当だった。

 

私も初めてだった。

 

ただ、最近映像系の異常を処理しすぎて、頭の中で妙な直感が形成され始めていた。

 

これはとても恐ろしいことだった。

 

私はこの手の危険に「適した」人間になりつつあった。

 

そして一度人間が、ある種の危険に「適した」存在になると、より多くの危険が彼を狙うようになる。

 

扉の向こうは、巨大な地下倉庫だった。

 

私はその光景をうまく形容できなかった。

 

無数の棚が暗闇の奥まで続いていた。

 

棚にはフィルムケース、カメラ、ビデオテープ、古い携帯電話、カメラ、投影機、監視用ハードディスク、鏡、写真額が並べられていた。

 

どれも赤い糸で繋がれていて、赤い糸は倉庫の中央に集まっていた。

 

そこには劇場のような円形の空間があった。

 

中央に真壁玄周が座っていた。

 

彼は高級な和服を着て、黒い玉の指輪をはめ、目の前に茶を置いていた。

 

彼の後ろに、三人の術師が異なる位置に立っていた。

 

一人は映画の編集師のような手袋をはめていた。

 

一人は目に黒い布を巻いていた。

 

一人は巨大な古いカメラを抱えていた。

 

七条が低く言った。

 

「三人のA級だ」

 

彼女の声は緊迫していた。

 

真壁玄周が私たちを見て、笑みを浮かべた。

 

「ようこそ」

 

彼が言った。

 

「下北沢黒弦、七条監察員、そして失敗した京都の救援隊」

 

七条が冷たく言った。

 

「真壁玄周、あなたは越権している」

 

「越権?」

 

真壁が静かに笑った。

 

「境界線は、跨げない人間のためにあるものだ」

 

彼の視線が私に落ちた。

 

「見てみろ。白川さんも東京と京都の境界を跨いだではないか」

 

私は顔を伏せ、何も言わなかった。

 

彼は続けた。

 

「私は百目影倉の核心をお前に用意した」

 

「ここには三十七年にわたって集められた映像媒介がある」

 

「八千六百二十七件の不法な視線の残片」

 

「百四十七台の汚染カメラ」

 

「十一セットの大規模認知拡散陣」

 

「そして三人のA級映像術師」

 

彼はまるで豪華な舞台を紹介するように言った。

 

「総投入額は、現在の市場価格で換算すると、おそらく二百億日元を超える」

 

私は頭皮が粟立つのを感じた。

 

二百億。

 

七条の資料にあった数字より、さらに誇張されていた。

 

真壁玄周が笑いながら聞いた。

 

「どうだ、白川さん。こんな舞台は、お前にふさわしいと思うか?」

 

私は拨片を握りしめた。

 

「これは舞台ではありません」

 

「では何だ?」

 

私はそれらの棚に並ぶ、無数に集められた視線の残片を見た。

 

「ゴミ捨て場です」

 

真壁玄周の笑みがわずかに薄れた。

 

ソレンセンが意識の奥で愉快そうに笑い出した。

 

「よく言った」

 

私は言い終えてから、後悔した。

 

この言葉はあまりに私らしくなかった。

 

しかし私は本当にそう思っていた。

 

それらの普通の人間の視線、恐怖、思い出、映像は、芸術でも作品でも素材でもなかった。

 

ただ奪われたものだった。

 

真壁玄周が静かにため息をついた。

 

「若者はいつでも道徳でコレクションを評価したがるな」

 

彼が手を上げた。

 

「三人、始めろ」

 

三人のA級術師が同時に動いた。

 

編集師の手袋をはめた男が指を動かし、赤い糸が鋏のように私と七条の間の距離を切り裂こうとした。

 

目に黒い布を巻いた術師が低く呪文を唱え、倉庫の中の写真がすべて私たちの方を向いた。

 

カメラを抱えた術師がシャッターを押した。

 

空間が一瞬で無数のフレームに切り分けられた。

 

七条が即座に結界を展開した。

 

しかし結界が形作られた瞬間、編集師によって一角が切り取られた。

 

目に黒い布を巻いた術師が写真の中の目を七条に向けさせ、彼女の動きが一瞬、止まった。

 

カメラを抱えた術師は直接私を狙った。

 

私は体が巨大な写真の中に固定されているような感覚を覚えた。

 

強い。

 

本当に強かった。

 

これまでの傀儡や媒介、捕獲隊とは完全に違っていた。

 

この三人のうち、誰か一人でも外に出れば、深刻な霊災を引き起こせるだろう。

 

もっと恐ろしいのは、彼らの背後に百目影倉があったことだった。

 

倉庫全体が彼らにエネルギーを供給していた。

 

七条が歯を食いしばった。

 

「正面から受け止めるな! 彼らには倉庫の支援がある!」

 

私はもちろん、正面から受け止めたくなかった。

 

しかし体がカメラによって固定されていた。

 

ソレンセンが口を開いた。

 

「吾に任せるか?」

 

「条件を」

 

「今回はまだ?」

 

「はい」

 

「目の前に三人のA級術師、背後に二百億の虫の巣を抱えて、まだゆっくり条件を並べるつもりか?」

 

「はい」

 

ソレンセンが低く笑った。

 

「言え」

 

私は自分の声が意識の奥で震えているのを感じた。

 

それでも、一つずつ言った。

 

「第一、体を乗っ取ることは禁止です」

 

「できる」

 

「第二、ここにいる人間を殺さないでください。真壁玄周と三人の術師も含めて」

 

「つまらない」

 

「約束してください」

 

「できる」

 

「第三、七条と捕らえられた偵察隊を傷つけないでください」

 

「できる」

 

「第四、百目影倉から三人の術師へのエネルギー供給を優先的に切断してください」

 

「できる」

 

「第五、普通の人間の視線の残片を吞まないでください」

 

ソレンセンが一瞬、沈黙した。

 

今回は沈黙が長かった。

 

「それらのものはすでに腐っている」

 

「それでもあなたの餌ではありません」

 

「吾が吞めば、一番早い」

 

「だめです」

 

「お前は戦いを十倍複雑にする」

 

「それでも十倍複雑にします」

 

金色の鎖が震えた。

 

「第六、影倉の術式構造を破壊しますが、京都方が回収できる普通の人間の残片はできるだけ残してください」

 

「お前は吾を掃除道具だと思っているのか?」

 

「私はあなたを災厄だと思っています」

 

「だからこそ、制限が必要なのです」

 

黒海が荒れた。

 

ソレンセンの笑い声が低く、危険なものに変わった。

 

「いいだろう」

 

「白川一音」

 

「では、あの虫たちに、制限された後の災厄でも、彼らを十分に踏み潰せることを見せてやろう」

 

契約成立。

 

私は再び目を開けた。

 

体はまだカメラによって固定されていた。

 

しかし私の影が動いた。

 

黒い線が手から出るのではなく、私の足元から、百目影倉の赤い糸のネットワークを逆方向に這い始めた。

 

最初の目標は三人のA級術師ではなく、倉庫だった。

 

ソレンセンはそれの血管を見抜いていた。

 

あるいは、この規模の術式であっても、彼の目にはただ絡み合った線にしか見えなかったのかもしれない。

 

黒い線が最初の赤い糸に貼りついた。

 

優しく一拨。

 

カチリ。

 

一列の汚染カメラが消えた。

 

二番目の糸。

 

カチリ。

 

編集師の手袋をはめた男の顔色が変わった。

 

「供給が切れた?」

 

三番目の糸。

 

カチリ。

 

目に黒い布を巻いた術師の後ろの写真の壁が、すべて頭を垂れた。

 

四番目の糸。

 

カチリ。

 

カメラを抱えた術師の巨大なカメラが焦点を失った。

 

私の体の固定感が消えた。

 

私は拨片を掲げた。

 

三人のA級術師が同時に後ずさった。

 

彼らはようやく一つのことに気づいた。

 

私は彼らと術式で戦っているわけではなかった。

 

私は百目影倉を解体している。

 

そして彼らのすべての強さは、この倉庫のエネルギー供給の上に成り立っていた。

 

真壁玄周が初めて席から立ち上がった。

 

「止めろ」

 

三人の術師が同時に動いた。

 

編集師が黒い線を切ろうとした。

 

しかし彼の鋏が黒い線に触れた瞬間、黒い線が術式の切り口を逆方向に這い上がり、彼の手袋に絡みついた。

 

彼の手を傷つけるわけではなかった。

 

彼の編集権限を切り取った。

 

手袋の呪紋が一枚ずつ消えていった。

 

目に黒い布を巻いた術師が視線の残片を召喚し、無数の目で私の精神を汚染しようとした。

 

しかし黒い線は目を避け、彼と残片の間の制御線だけを切断した。

 

それらの目は吞まれなかった。

 

ただ、目を閉じただけだった。

 

カメラを抱えた術師がシャッターを押し、私の動きを静止フレームに撮ろうとした。

 

ソレンセンが冷たく笑った。

 

「遅い」

 

黒い線がカメラのレンズに突き刺さった。

 

レンズを砕くわけではなかった。

 

「記録」という動作を切断した。

 

カメラは高価な鉄くずになった。

 

三人のA級術師がすべて術式の核心を失った。

 

所要時間は二十秒もかからなかった。

 

彼らはまだ生きていた。

 

重傷ではなかった。

 

ただ跪いて、まるで何かの支えを抜き取られたかのようだった。

 

七条が横に立って、完全に言葉を発することができなかった。

 

彼女は白川一音が傀儡を切断できることを知っていた。

 

膠片空間を抑えられることを知っていた。

 

映像汚染を処理できることを知っていた。

 

しかし彼女は、百目影倉の核心の中で、三人のA級術師の支援を受けた状態で、この力がまるで紙を切るように簡単に働くと は思っていなかった。

 

真壁玄周が二百億日元を投じて作り上げた倉庫が、あの黒い弦の前で、一切の「対等」な防御力を示せなかった。

 

激戦でもなく、苦戦でもなかった。

 

解体だった。

 

正確で、静かで、ほとんど残酷な解体。

 

真壁玄周の顔から笑みが完全に消えた。

 

「これは理不尽だ」

 

彼が言った。

 

「どんな力にも構造がある」

 

「どんな術式にも代償がある」

 

「お前が百目影倉をこのように切断できるはずがない」

 

私は答えなかった。

 

なぜなら、私自身もどう説明すればいいのかわからなかったからだった。

 

「君の体の中に、星域を揺るがすことのできる暗黒王が閉じ込められていて、今彼が私の規則に従って、君の二百億の邪術倉庫を一本一本の線で解体している」とは言えなかった。

 

ソレンセンが意識の奥で静かに言った。

 

「教えてやれ」

 

「だめです」

 

「彼に教えてやれ。彼の言う構造は、吾の目にはただの埃に過ぎないと」

 

「だめです」

 

「あなたは本当に面白くない」

 

私は黒い弦を続け、倉庫の中央の核心を目指した。

 

そこには巨大な球体があった。

 

球体は無数のレンズ、フィルム、目の写真、ビデオテープが絡み合ってできていた。

 

それぞれの層が普通の人間の視線の残片と繋がっていた。

 

もし直接壊せば、残片が完全に消散してしまうかもしれない。

 

だから壊せない。

 

解くしかない。

 

これは破壊するよりずっと難しかった。

 

ソレンセンが不満そうに言った。

 

「引き裂け」

 

「だめです」

 

「疲れ果てるぞ」

 

「それでも引き裂きません」

 

「彼らはすでにあまりに長く汚染されている」

 

「それでも引き裂きません」

 

ソレンセンが冷たく鼻を鳴らした。

 

しかし黒い線は私の要求通りに、汚染構造を一層ずつ切断し始めた。

 

第一層のレンズが閉じた。

 

第二層のフィルムが緩んだ。

 

第三層のビデオテープの呪紋が断ち切れた。

 

第四層の写真の中の目がゆっくりと閉じていった。

 

この過程はとても遅かった。

 

少なくとも、単に破壊するよりは遅かった。

 

真壁玄周が忽然と笑った。

 

笑みは自信に満ちたものではなく、少し歪んだものだった。

 

「なるほど」

 

「お前は壊すことができない」

 

「お前はあの残片を救いたいのだ」

 

彼が黒い玉の指輪を掲げた。

 

「なら、私がお前に難易度を少し上げてやろう」

 

七条の顔色が変わった。

 

「止めろ!」

 

指輪が割れた。

 

百目影倉の核心の奥深くで、突然数千の赤い点が光り始めた。

 

それは彼が核心の中に隠していた自爆陣だった。

 

もし起動すれば、すべての視線の残片が強制的に燃やされ、大規模な認知汚染の爆発に変換される。

 

真壁玄周は負けることを恐れていなかった。

 

ただ、負けることさえも作品にしようとしていた。

 

「もしコレクションできないなら、上映してしまえばいい」

 

彼が言った。

 

私は全身が冷たくなった。

 

七条がすでに駆け出していた。

 

しかし遅かった。

 

赤い点が線で繋がり始めた。

 

ソレンセンが口を開いた。

 

「今、引き裂かなければならない」

 

私は歯を食いしばった。

 

「だめです」

 

「時間がない」

 

「あります」

 

「お前にはない」

 

「あなたにはある」

 

闇の中で、ソレンセンが一瞬、静かになった。

 

私は初めて「力を貸して」と言わずに、こう言った。

 

「自爆点をすべて計算して」

 

ソレンセンが低く笑った。

 

「お前は本当に吾を使う気だな」

 

「はい」

 

「刀としてではなく?」

 

「違います」

 

「目として?」

 

「はい」

 

ソレンセンの声に、危険な愉悦が混じった。

 

「いいだろう」

 

その瞬間、私の目の前の世界が変わった。

 

視覚ではない。

 

すべての赤い線、黒い線、汚染線、自爆線が、意識の中で展開された。

 

千七百二十六の自爆点。

 

それぞれが異なる層にあり、それぞれが異なる残片と繋がっていた。

 

もし切り損ねれば、局所的に爆発する。

 

もし遅れれば、全体が爆発する。

 

普通の人間にはできない。

 

私にもできない。

 

しかしソレンセンには見える。

 

私には弦を弾ける。

 

「始めて」

 

黒い線が分裂した。

 

数十本でもなく、数百本でもなく、千七百二十六本の極めて細い黒い弦になった。

 

それぞれが一つの自爆点に対応していた。

 

七条の瞳孔が収縮した。

 

三人のA級術師が呆然と見つめていた。

 

真壁玄周の表情が完全に固まった。

 

次の瞬間。

 

すべての黒い弦が同時に拨断された。

 

爆発も、轟音もなかった。

 

ただ、ほとんど聞こえないほどの音がした。

 

まるで誰かが闇の中で髪の束を切ったかのような音だった。

 

百目影倉の自爆陣が停止した。

 

核心の表面の赤い光がすべて消えた。

 

それから、倉庫全体の術式構造が静かに崩れ始めた。

 

二百億日元。

 

三十七年のコレクション。

 

三人のA級術師。

 

何万件の不法な媒介。

 

千七百二十六の自爆点。

 

すべてがその一瞬で、切断された。

 

真壁玄周がその場に立ち、初めて茫然としたような表情を浮かべた。

 

「あなたは……」

 

彼の声が枯れていた。

 

「一体何者だ?」

 

私は顔を伏せ、指が痛くて拨片を握りしめ続けるのも辛かった。

 

「白川一音です」

 

この言葉はとても小さかった。

 

しかし私は言った。

 

「私はあなたの芸術ではありません」

 

「商品でもありません」

 

「役者でもありません」

 

「あなたの作品の主人公でもありません」

 

私は顔を上げ、彼を見た。

 

「私は余響楽団のギタリストです」

 

この言葉を言い終えた後、私は自分自身が羞恥で気絶しそうになった。

 

あまりに中二病だった。

 

あまりに私らしくなかった。

 

もし澪がここにいたら、「歌詞みたい」と言うだろう。

 

もし陽菜がここにいたら、拍手するかもしれない。

 

もし日和がここにいたら、笑いながら「いいこと言ったね」と言うだろう。

 

しかしここには彼女たちはいなかった。

 

ただ真壁玄周と七条、そして術式の核心を失った三人のA級邪術師、そして今まさに崩れつつある百目影倉だけだった。

 

ソレンセンが意識の奥で長い間、沈黙していた。

 

それから笑った。

 

「愚かだ」

 

「しかし悪くない」

 

私は答えなかった。

 

真壁玄周が忽然と振り返り、逃げようとした。

 

彼の後ろの暗い扉が開いた。

 

中は転送用の鏡面通路だった。

 

七条が叫んだ。

 

「止めろ!」

 

私は拨片を掲げた。

 

「逃走通路だけを切断してください。本人を傷つけないでください」

 

ソレンセンが冷たく鼻を鳴らした。

 

黒い線が滑った。

 

鏡面通路が砕け散った。

 

真壁玄周が反動で倒れた。

 

重傷ではなかった。

 

しかし彼の黒い玉の指輪が粉々に砕けていた。

 

七条がすぐに近づき、符紙で彼の手首と影を封じた。

 

「真壁玄周、不法な映像媒介の収集、百目影倉の運用、大規模認知汚染の謀議などの容疑で、京都旧結界管理委員会が拘束する」

 

真壁玄周は彼女を見なかった。

 

彼はただ、私を見ていた。

 

その視線には、もうコレクターが作品を見る目はなかった。

 

恐怖があった。

 

本当の恐怖があった。

 

ソレンセンが低く言った。

 

「見てみろ」

 

「これこそが境界だ」

 

私は顔を伏せ、答えなかった。

 

なぜなら、認めたくなかったからだった。

 

しかし私は確かに知っていた。

 

今夜から、鏡楽座に残った人間は「下北沢黒弦」を恐れるだろう。

 

京都の退魔界も恐れるだろう。

 

東京特調室も再評価するだろう。

 

御影家も知るだろう。

 

私はまた、自分をより目立つ位置に押し上げてしまった。

 

普通を守るために、私は恐怖で壁を築いた。

 

そしてその壁こそが、ソレンセンが最も好むものだった。

 

百目影倉は爆発しなかった。

 

七条と京都方の後続部隊が現場を掌握した。

 

集められた視線の残片は、京都管理委員会と関連神社が時間をかけて浄化し、返還し、または安置するだろう。

 

これはとても長い作業になる。

 

しかし少なくとも、それらは燃やされて汚染になることはなかった。

 

三人のA級術師は拘束された。

 

真壁玄周は連行された。

 

鏡楽座の関西における核心資産の一つが破壊された。

 

私は旧映像資料館の入口の階段に座り、指が痛くて拨片を握りしめ続けるのも辛かった。

 

七条が近づいてきて、温かいお茶の入った缶を私に手渡した。

 

私はそれを受け取った。

 

「ありがとう……」

 

彼女は横に立って、すぐに何かを言うことはしなかった。

 

長い時間が経ってから、彼女が言った。

 

「今夜、お前は鏡楽座の最も重要な資産の一つを破壊した」

 

私はお茶の缶を見つめていた。

 

「報復されるんですか?」

 

「普通ならされるだろう」

 

私の手が一瞬、震えた。

 

七条は続けた。

 

「しかし彼らは短期的に動けない」

 

「なぜです?」

 

「なぜなら、お前が使った時間が数分だったからだ」

 

彼女が資料館の地下入口を見た。

 

「彼らにとって、それは失敗ではない」

 

「理解できないほどの差だ」

 

私は沈黙した。

 

理解できないほどの差。

 

この言葉はとても強いように聞こえた。

 

しかし私は全く強者の実感を持っていなかった。

 

私はただ疲れていた。

 

怖かった。

 

寝たかった。

 

そして東京に帰りたかった。

 

七条が言った。

 

「京都管理委員会は今夜の消息を封鎖するが、完全に封じ込めることはできない。関西の退魔界はすぐに知るだろう。下北沢黒弦が単独で百目影倉を抑えたことを」

 

私は低く言った。

 

「その名前は広めないでください」

 

七条が私を見た。

 

この要求が非現実的だと思っているようだった。

 

「できない」

 

私はますます縮こまりたくなった。

 

彼女は続けた。

 

「しかし、白川一音という名前は引き続き秘匿される」

 

私は少しだけ安堵した。

 

「ありがとうございます」

 

七条が去る前に、忽然と足を止めた。

 

「白川一音」

 

私は顔を上げた。

 

彼女は私の名前を直接呼ぶことが少なかった。

 

「お前が今夜やったことは、敵を踏み潰しただけではない」

 

「お前は集められた視線の残片を守った」

 

彼女が私を見た。

 

「これは百目影倉を破壊するより、ずっと難しいことだった」

 

そう言って、彼女は振り返り、去っていった。

 

私は階段に座り、温かいお茶の缶を握りしめたまま、長い時間動かなかった。

 

ソレンセンが口を開いた。

 

「彼女はお前を褒めていた」

 

「うん」

 

「嬉しいか?」

 

「わからない」

 

「偽善者。お前は嬉しい」

 

私は顔を伏せた。

 

「少しだけ、かもしれません」

 

ソレンセンが静かに笑った。

 

「なら、覚えておけ」

 

「完全に破壊しなくても、勝てる場合もある」

 

私は一瞬、固まった。

 

これは彼が言いそうな言葉ではなかった。

 

「あなたは私の規則を認めているんですか?」

 

「違う」

 

その声がすぐに冷たくなった。

 

「吾はただ、お前の規則がゲームをより面白くすることを確認しただけだ」

 

やっぱりそうか。

 

しかし、構わなかった。

 

少なくとも今夜、私は彼を外に出さなかった。

 

彼らを殺さなかった。

 

普通の観光客を巻き込まなかった。

 

百目影倉を自爆させなかった。

 

私は勝った。

 

ソレンセンが望むような勝ち方ではなかった。

 

私の勝ち方だった。

 

ただ、代償として、私は関西の退魔界の目には、さらに恐ろしい存在として映るようになった。

 

しかし少なくとも今は、窓の向こうはまだ夜明け前だった。

 

普通の人間はまだ眠っていた。

 

ソレンセンはまだ黒海の王座に鎖で繋がれていた。

 

そして私の掌の中には、まだ黒い弦で磨り減って亀裂の入った拨片が握られていた。

 

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