俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第17章 京都旧結界管理委員会の尋問、そして白川一音の帰還

 

第十七章 京都旧結界管理委員会の尋問、そして白川一音の帰還

 

旧映像資料館から出たとき、夜明けがまだ遠かった。

 

私は階段に座り、温かいお茶の缶を握りしめたまま、長い時間動けなかった。

 

指が痛かった。

 

拨片がすでにひび割れ、縁が鋭くなっていた。

 

体は重く、頭の中は真っ白だった。

 

しかし、時間がなかった。

 

修学旅行の最終日だった。

 

私は立ち上がり、七条の指示に従って、京都管理委員会の臨時拠点へ向かった。

 

そこは、奈良の旧市街にある古い民家を改装したものだった。

 

外から見れば、ただの普通の民家だった。

 

中に入ると、符紙と結界の気配が濃厚だった。

 

七条が待っていた。

 

彼女の横に、三人の年配の人物が座っていた。

 

京都旧結界管理委員会の監察員、霊脈管理官、そして一人の老いた術師だった。

 

老いた術師が私を見て、静かに言った。

 

「白川一音さん、座れ」

 

私は固まった。

 

彼らは私の本名を知っていた。

 

七条が低く言った。

 

「東京特調室の情報は、すでに共有されている」

 

私は顔を伏せ、椅子に座った。

 

老いた術師が資料を見ながら、聞いた。

 

「昨夜、お前は単独で百目影倉の核心に入った」

 

「はい」

 

「真壁玄周と数百体の映像傀儡を相手にした」

 

「はい」

 

「そして、十七億日元の装備と二百億日元規模の核心施設を、数分で無力化した」

 

私は答えなかった。

 

老いた術師が顔を上げ、私をまっすぐに見た。

 

「その力の出所を説明せよ」

 

私は心臓が一瞬、止まるのを感じた。

 

出所。

 

ソレンセン。

 

私は絶対に言えなかった。

 

「私は……特別な力を借りられる立場にあります」

 

「誰から?」

 

「言えません」

 

老いた術師の視線が鋭くなった。

 

「東京特調室か?」

 

「いいえ」

 

「白妙神社か?」

 

「いいえ」

 

「御影家か?」

 

「いいえ」

 

私は顔を伏せたまま、続けた。

 

「私は誰にも属していません」

 

「ただ、条件を決めて、力を借りているだけです」

 

三人の監察員が同時に顔を見合わせた。

 

七条が静かに言った。

 

「条件とは?」

 

私は低く答えた。

 

「体を乗っ取らないこと」

 

「普通の人間を傷つけないこと」

 

「殺さないこと」

 

「視線の残片を吞まないこと」

 

「京都方が回収できる形に留めること」

 

老いた術師が眉を寄せた。

 

「そんな制限を設けて、よく戦えるな」

 

「戦えています」

 

「なぜそんなに細かく制限する?」

 

私は少し考えてから、言った。

 

「私は……普通の人間でありたいと思っています」

 

「だから、力を借りるときは、できるだけ普通の世界を傷つけないようにしています」

 

三人の監察員がまた顔を見合わせた。

 

今回は、沈黙が長かった。

 

老いた術師が低く言った。

 

「白川一音さん、お前は危険だ」

 

私は顔を伏せた。

 

「はい」

 

「危険な力を、危険なほど細かく制御している」

 

「はい」

 

「そして、その制御の代償として、お前自身が危険になっている」

 

私は答えなかった。

 

老いた術師が続けた。

 

「鏡楽座は、お前を恐れるだろう」

 

「京都の退魔界も、お前を警戒するだろう」

 

「東京特調室も、お前の価値を再評価するだろう」

 

「そして、御影家のような旧家も、お前を狙うだろう」

 

私は指を強く握りしめた。

 

「私はただ、普通の生活を守りたいだけです」

 

「守れなくなる」

 

老いた術師の声は冷たかった。

 

「なぜなら、お前が強くなればなるほど、普通の世界から遠ざかるからだ」

 

私は胸の奥が締めつけられるのを感じた。

 

彼の言うことは、正しかった。

 

私はもう、普通の高校生ではなかった。

 

普通のギタリストでもなかった。

 

私は「下北沢黒弦」として、関西の退魔界に名前を刻んでしまった。

 

老いた術師が最後に、静かに言った。

 

「白川一音さん、京都管理委員会は、お前を敵とは見なさない」

 

「しかし、味方とも見なさない」

 

「君は今後、京都に入るたびに、事前に報告しなければならない」

 

「そして、すべての行動は、京都方の監督下に置かれる」

 

私は顔を伏せた。

 

「わかりました」

 

七条が私を見た。

 

彼女の視線には、昨夜より少しだけ、別の色があった。

 

敬意に近いものだった。

 

しかし同時に、警戒もあった。

 

尋問が終わった後、七条が私を外まで送ってきた。

 

「白川一音」

 

私は足を止めた。

 

「はい」

 

「今夜、お前は本当に強かった」

 

私は答えなかった。

 

七条が続けた。

 

「しかし、強さには代償がある」

 

「君はすでに、普通の人間の領域から一歩踏み出してしまった」

 

私は顔を伏せた。

 

「わかっています」

 

「それでも、戻るつもりか?」

 

私は少し考えてから、言った。

 

「はい」

 

「なぜだ?」

 

「なぜなら、私にはまだ、守りたいものがあるからです」

 

七条が私を見た。

 

「余響楽団か?」

 

私は頷いた。

 

「はい」

 

彼女はそれ以上何も言わなかった。

 

ただ、静かに言った。

 

「気をつけろ」

 

「はい」

 

私は京都を離れ、東京行きのバスに乗った。

 

クラスメイトたちはすでに集合していて、森原葵が心配そうに私を見ていた。

 

「白川さん、大丈夫? 昨夜、顔色が悪かったから」

 

私は無理に笑った。

 

「大丈夫です。ただ、少し疲れただけです」

 

小野田美咲が言った。

 

「奈良、楽しかったね」

 

西園寺真央も頷いた。

 

「鹿も可愛かったし、鹿せんべいも美味しかった」

 

私は彼女たちの会話を聞きながら、胸の奥が少し温かくなるのを感じた。

 

彼女たちは何も知らなかった。

 

昨夜、私が百目影倉で何をしたのか。

 

真壁玄周と数百体の映像傀儡を相手にしたこと。

 

十七億日元の装備を壊したこと。

 

二百億日元規模の核心施設を無力化したこと。

 

彼女たちはただ、普通の修学旅行の思い出を話していた。

 

私はその普通を守るために、戦った。

 

そして、彼女たちの普通を守るために、私はますます普通から遠ざかっていた。

 

バスが京都を離れ、高速道路に入った。

 

私は窓の外を見ていた。

 

京都の街並みが遠ざかっていく。

 

私はもう、二度とここに来ないで済むといいと思った。

 

しかし、わかっていた。

 

次も来るだろう。

 

鏡楽座が報復してくるかもしれない。

 

京都管理委員会が私を監視するだろう。

 

御影家がまた接触してくるかもしれない。

 

白鏡監督が新しい撮影を始めるかもしれない。

 

私はただ、目を閉じた。

 

ソレンセンが意識の奥で静かに言った。

 

「京都は面白かったな」

 

「私は少しも面白くなかった」

 

「より大きな巣、より多くの虫」

 

「勝手に言わないでください」

 

「しかし、お前は強くなった」

 

私は答えなかった。

 

強くなった。

 

この言葉は、ソレンセンにとっては褒め言葉だった。

 

しかし私にとっては、ただの事実だった。

 

そして、その事実は、私をますます怖がらせた。

 

バスが東京に近づくにつれ、私は少しだけ安堵した。

 

東京は安全ではない。

 

しかし少なくとも、そこにはAfterToneがあった。

 

日和たちがいた。

 

私の部屋があった。

 

私が知っている逃げ道があった。

 

森原葵が突然、私に聞いた。

 

「白川さん、修学旅行、楽しかった?」

 

私は一瞬、固まった。

 

楽しかったか?

 

私は奈良で鹿を見た。

 

京都で百目影倉を壊した。

 

真壁玄周と戦った。

 

十七億日元の装備を壊した。

 

二百億日元規模の施設を無力化した。

 

そして、京都管理委員会に尋問された。

 

私は低く言った。

 

「少し……疲れました」

 

森原さんが笑った。

 

「修学旅行は疲れるよね」

 

私は彼女の笑顔を見て、胸の奥が少し痛くなった。

 

彼女は本当に、何も知らなかった。

 

そして、私は彼女に何も言えなかった。

 

バスが東京駅に到着した。

 

先生が解散を告げた。

 

クラスメイトたちはそれぞれの家へ帰っていった。

 

私はAfterToneへ向かった。

 

AfterToneの扉を開けたとき、日和がすでに待っていた。

 

「小音! 修学旅行、どうだった?」

 

陽菜が駆け寄ってきた。

 

「京都と奈良、楽しかった?」

 

澪がソファから顔を上げた。

 

「飯は美味しかった?」

 

私は彼女たちを見て、ようやく少しだけ、普通に戻った気がした。

 

「うん……」

 

私は小さく笑った。

 

「楽しかったです」

 

これは、半分本当で、半分嘘だった。

 

しかし少なくとも、今は彼女たちの前で、私はまだ白川一音でいられた。

 

下北沢黒弦ではなかった。

 

ソレンセンが意識の奥で低く笑った。

 

「また、仮面を被ったな」

 

私は答えなかった。

 

なぜなら、彼女たちの前では、私は白川一音でなければならなかったからだった。

 

そして、彼女たちの前で白川一音でいられる時間が、ますます少なくなっていることを、私は知っていた。

 

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