俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第18章 東京への帰還、そして下北沢黒弦の噂

 

第十八章 東京への帰還、そして下北沢黒弦の噂

 

バスが東京駅に到着したとき、私はようやく少しだけ息がつけた。

 

しかし、その安堵は長くは続かなかった。

 

AfterToneの扉を開けた瞬間、日和がすでに待っていた。

 

彼女の顔には、いつもの笑顔があった。

 

しかしその笑顔の奥に、わずかな心配の色が見えた。

 

「小音、帰ってきたんだね」

 

私は頷いた。

 

「はい」

 

陽菜が駆け寄ってきた。

 

「修学旅行、どうだった? 京都と奈良、楽しかった?」

 

澪がソファから体を起こした。

 

「飯は?」

 

私は彼女たちの顔を見て、胸の奥が少し温かくなるのを感じた。

 

彼女たちは何も知らなかった。

 

私が奈良で何をしたのか。

 

百目影倉で真壁玄周と戦ったこと。

 

十七億日元の装備を壊したこと。

 

二百億日元規模の施設を無力化したこと。

 

京都管理委員会に尋問されたこと。

 

彼女たちはただ、私が無事に帰ってきたことを喜んでくれていた。

 

私は無理に笑った。

 

「楽しかったです」

 

これは、半分本当で、半分嘘だった。

 

日和が私を見て、静かに聞いた。

 

「本当に大丈夫? 顔色が、少し悪いよ」

 

私は顔を伏せた。

 

「ただ、少し疲れただけです」

 

陽菜が心配そうに言った。

 

「無理はしないでね」

 

澪が頷いた。

 

「飯を食え」

 

私は彼女たちの優しさに、胸が少し痛くなった。

 

彼女たちは本当に、何も知らなかった。

 

そして、私は彼女に何も言えなかった。

 

その夜、私はAfterToneで練習に参加した。

 

新曲の彩排だった。

 

日和がドラムを叩き、陽菜が歌い、澪がベースを弾いた。

 

私はステージの左側に立ち、顔を伏せてギターを弾いた。

 

音はいつも通りだった。

 

しかし、私の指は少し重かった。

 

拨片がひび割れていて、指先に痛みが走った。

 

私は昨夜の戦いのことを考えていた。

 

真壁玄周の笑み。

 

数百体の映像傀儡。

 

千を超える自爆点。

 

そして、黒い弦がすべてを切断した瞬間。

 

私はもう、普通のギタリストではなかった。

 

私は「下北沢黒弦」として、関西の退魔界に名前を刻んでしまった。

 

練習が終わった後、日和が私に聞いた。

 

「小音、最近、ちょっと元気がないみたいだけど……何かあった?」

 

私は顔を伏せた。

 

「な、何でもないです」

 

これは嘘だった。

 

しかし、私は言えなかった。

 

日和が少し寂しそうに笑った。

 

「もし何かあったら、話してね」

 

私は頷いた。

 

「はい」

 

しかし、私は話せなかった。

 

彼女に話せば、彼女を危険に晒すことになる。

 

私は彼女たちを守るために、嘘をつき続けなければならなかった。

 

その夜、私は部屋に戻った。

 

スマホが震えた。

 

特調室からの暗号化メッセージだった。

 

---

 

関西での一件について報告を受け取った。

 

鏡楽座の百目影倉が破壊されたこと、下北沢黒弦の名が関西の退魔界に広がったことを確認した。

 

今後、東京においても同様の注目が集まる可能性がある。

 

当面は、公開活動をさらに制限することを推奨する。

 

---

 

私は画面を見つめ、心がゆっくりと沈んでいくのを感じた。

 

関西での一件。

 

下北沢黒弦の名が広がった。

 

私はもう、東京でも「普通」ではいられなくなっていた。

 

ソレンセンが意識の奥で低く笑った。

 

「ようやく、東京でも面白くなってきたな」

 

私は低く言った。

 

「私は少しも面白くなかった」

 

「しかし、お前は強くなった」

 

「強くなったから、普通から遠ざかっている」

 

「それは必然だ」

 

私は目を閉じた。

 

必然。

 

この言葉は、ソレンセンにとっては当然のことだった。

 

しかし私にとっては、ただの残酷な事実だった。

 

翌日、私は学校へ行った。

 

教室に入ったとき、クラスメイトの視線が少し変わっているのを感じた。

 

森原葵が私を見て、わずかに微笑んだ。

 

しかしその笑みには、昨日のような自然さはなかった。

 

小野田美咲と西園寺真央も、私を少し遠くから見ていた。

 

私はわかっていた。

 

彼女たちは、奈良で何かあったことを感じ取っていた。

 

しかし、何が起きたのかは知らなかった。

 

だからこそ、彼女たちは私を少し遠ざけていた。

 

私は自分の机に座り、教科書を開いた。

 

しかし、一文字も頭に入らなかった。

 

私はただ、昨夜の戦いのことを考えていた。

 

真壁玄周の最後の笑み。

 

そして、七条が言った言葉。

 

「お前はすでに、普通の人間の領域から一歩踏み出してしまった」

 

私は胸の奥が締めつけられるのを感じた。

 

私はまだ、普通の人間でありたいと思っていた。

 

しかし、力が強くなればなるほど、普通から遠ざかっていた。

 

放課後、私はAfterToneへ向かった。

 

しかし、途中で特調室の調査員から連絡があった。

 

「白川さん、緊急の報告があります」

 

私は路地の隅で立ち止まった。

 

「何ですか?」

 

「下北沢黒弦の名が、東京の退魔界にも広がり始めています」

 

私は心臓が一瞬、止まるのを感じた。

 

「どうして?」

 

「関西での一件が、すでに東京に伝わっています」

 

調査員の声が低くなった。

 

「特に、御影家と逆柱会が、お前の情報を集め始めています」

 

私は指を強く握りしめた。

 

御影家。

 

逆柱会。

 

彼らはすでに、私を狙っていた。

 

今、百目影倉の一件で、私の価値がさらに上がった。

 

調査員が続けた。

 

「当面は、AfterToneへの往来も、できるだけ控えることを推奨します」

 

私は顔を伏せた。

 

「でも……」

 

「でも?」

 

「でも、私はまだ、普通の生活を送りたいんです」

 

調査員は少し間を置いてから、言った。

 

「白川さん」

 

「君はもう、普通の人間ではない」

 

この言葉は、昨日七条が言った言葉と重なった。

 

私は答えなかった。

 

なぜなら、反論できなかったからだった。

 

私はもう、普通の高校生ではなかった。

 

普通のギタリストでもなかった。

 

私は「下北沢黒弦」として、東京の退魔界に名前を刻んでしまった。

 

調査員が最後に、静かに言った。

 

「気をつけてください」

 

「はい」

 

私はAfterToneへ向かった。

 

しかし、足取りは重かった。

 

AfterToneの扉を開けたとき、日和がすでに待っていた。

 

彼女の顔には、いつもの笑顔があった。

 

しかしその笑顔の奥に、わずかな心配の色が見えた。

 

「小音、今日も練習する?」

 

私は頷いた。

 

「はい」

 

陽菜が駆け寄ってきた。

 

「新曲の彩排、頑張ろう!」

 

澪がソファから顔を上げた。

 

「飯を食え」

 

私は彼女たちの顔を見て、胸の奥が少し痛くなった。

 

彼女たちは何も知らなかった。

 

私が「下北沢黒弦」として、東京の退魔界に名前を刻んでしまったこと。

 

御影家と逆柱会が、私の情報を集め始めていること。

 

私はただ、彼女たちの前で、白川一音でいようとした。

 

しかし、それがますます難しくなっていることを、私は知っていた。

 

練習が終わった後、私は一人でステージに立っていた。

 

私はギターを手に取り、拨片で軽く弦を弾いた。

 

音はとても小さかった。

 

私にしか聞こえなかった。

 

ソレンセンが意識の奥で静かに言った。

 

「もう、隠しきれない」

 

私は低く答えた。

 

「わかっています」

 

「では、どうする?」

 

私は顔を伏せた。

 

「守る」

 

「何を?」

 

「彼女たちの普通を」

 

「そして、自分の普通を」

 

ソレンセンが低く笑った。

 

「それが、お前の規則か?」

 

「はい」

 

「なら、守れ」

 

「しかし、守るためには、もっと強くなければならない」

 

私は答えなかった。

 

なぜなら、それが残酷な真実だったからだった。

 

私は彼女たちを守るために、強くなければならなかった。

 

しかし、強くなればなるほど、彼女たちから遠ざかっていた。

 

私は拨片を握りしめた。

 

指が痛かった。

 

しかし、私はまだ、弾き続けなければならなかった。

 

なぜなら、私はまだ、白川一音でいたかったからだった。

 

そして、白川一音でいるためには、彼女たちの前で、普通のギタリストでいなければならなかった。

 

私は弦を弾いた。

 

音がAfterToneを貫いた。

 

日和がドラムを叩き始めた。

 

陽菜が歌い始めた。

 

澪のベースが響いた。

 

私は顔を伏せ、弾き続けた。

 

しかし、心の中では、すでにわかっていた。

 

私はもう、完全に普通には戻れない。

 

そして、これから先、私はますます「下北沢黒弦」として、暗面の世界に引きずり込まれていく。

 

しかし、それでも私は、彼女たちの普通を守り続けようと思った。

 

たとえ、それが私の普通を奪うことになっても。

 

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