俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第十九章 合同ライブの準備、そして御影家の再接触
東京に戻ってから三日目、私はようやく少しだけ、日常を取り戻したように感じていた。
AfterToneの練習は相変わらずだった。
日和がドラムを叩き、陽菜が歌い、澪がベースを弾く。
私はステージの左側に立ち、顔を伏せてギターを弾く。
音はいつも通りだった。
しかし、私の指はまだ少し重かった。
拨片のひび割れは新しいものに変えていたが、指先の痛みは残っていた。
それは肉体的な痛みではなく、もっと深いところから来るものだった。
「下北沢黒弦」という名前が、すでに東京の退魔界に広がり始めているという事実が、私の体を少しずつ重くしていた。
特調室の調査員は、公開活動をさらに制限するよう勧告してきた。
しかし、日和たちは合同ライブの準備に本気で取りかかっていた。
「小音、この曲のサビはもっとギターを前に出そう」
日和が楽譜を広げながら言った。
陽菜が頷いた。
「うん! 小音のギターが目立つと、全体が締まるよ」
澪がベースを弾きながら、淡々と提案した。
「飯を食いながら彩排しよう」
日和が呆れたように彼女を見た。
「澪、それは却下」
私は彼女たちの会話を聞きながら、胸の奥が少し痛んだ。
彼女たちは本当に、何も知らなかった。
私が奈良で何をしたのか。
百目影倉を壊したこと。
真壁玄周と数百体の映像傀儡を相手にしたこと。
十七億日元の装備を数分で無力化したこと。
京都管理委員会に尋問されたこと。
そして、「下北沢黒弦」という名前が、すでに東京の暗面にも広がり始めていること。
彼女たちはただ、合同ライブを成功させたいと思っていた。
普通の音楽活動として。
私は顔を伏せ、弦を弾き続けた。
その夜、練習が終わった後、私は一人でAfterToneに残った。
日和たちは先に帰った。
私はステージに座り、拨片で軽く弦を弾いていた。
音はとても小さかった。
私にしか聞こえなかった。
ソレンセンが意識の奥で静かに言った。
「もう、隠しきれない」
私は低く答えた。
「わかっています」
「お前はすでに、関西で名前を刻んだ」
「はい」
「東京も、すぐに同じになる」
私は顔を伏せた。
「わかっています」
「では、どうする?」
私は拨片を握りしめた。
「守る」
「何を?」
「彼女たちの普通を」
「そして、自分の普通を」
ソレンセンが低く笑った。
「それが、お前の規則か?」
「はい」
「なら、守れ」
「しかし、守るためには、もっと強くなければならない」
私は答えなかった。
なぜなら、それが残酷な真実だったからだった。
私は彼女たちを守るために、強くなければならなかった。
しかし、強くなればなるほど、彼女たちから遠ざかっていた。
スマホが震えた。
特調室からの暗号化メッセージだった。
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御影家から接触があった。
御影秋人が、直接会いたいと言っている。
場所は、青藍文化芸術財団が所有する非公開の茶室。
時間は明日の夜。
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私は画面を見つめ、心がゆっくりと沈んでいくのを感じた。
御影家。
彼らはすでに、私の情報を集め始めていた。
そして今、百目影倉の一件で、私の価値がさらに上がった。
ソレンセンが低く笑った。
「また、商品として見られている」
私は歯を食いしばった。
「私は商品ではありません」
「しかし、彼らの目には、すでに商品だ」
私は顔を伏せた。
「わかっています」
翌日、私は学校を終えると、すぐにAfterToneへは行かず、指定された場所へ向かった。
場所は、銀座の裏通りにある古いビルの最上階だった。
青藍文化芸術財団の非公開施設の一つだった。
エレベーターを降りると、御影秋人がすでに待っていた。
彼は相変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。
「白川さん、来てくれたか」
私は顔を伏せた。
「来ないわけにはいきませんでした」
御影秋人が私を茶室に案内した。
部屋の中には、すでに茶が用意されていた。
彼が静かに言った。
「奈良での一件、お疲れ様でした」
私は答えなかった。
御影秋人が続けた。
「真壁玄周の百目影倉を単独で壊したと聞きました」
「京都管理委員会も、かなり驚いているようです」
私は顔を伏せたまま、言った。
「私はただ、普通の人間を巻き込まないようにしただけです」
御影秋人が笑った。
「それが、すでに驚くべきことなのです」
彼が茶を一口飲んでから、静かに続けた。
「白川さん、君の価値は、ますます上がっています」
私はこの言い方がとても嫌だった。
「私は商品ではありません」
「もちろん」
御影秋人が穏やかに言った。
「しかし、君はすでに、暗面の世界に深く足を踏み入れている」
「鏡楽座が君を狙うのは、当然のことです」
「そして、逆柱会も、御影家も、君の情報を集め始めています」
私は指を強く握りしめた。
御影秋人が私を見た。
「白川さん、君は今、選択を迫られている」
私は顔を上げた。
「選択?」
「そうだ」
彼が静かに言った。
「君は、誰かと組むか」
「それとも、誰からも狙われ続けるか」
私は低く言った。
「私は誰にも属したくありません」
御影秋人が少し間を置いてから、言った。
「それは、危険な選択です」
「なぜなら、君はすでに、誰からも狙われる価値を持っているからだ」
私は答えなかった。
なぜなら、それが事実だったからだった。
御影秋人が最後に、静かに言った。
「白川さん、君がもし、御影家と協力する気があるなら、私たちは君の普通の身元を、できる限り守る」
「そして、君の楽隊活動も、可能な限り支援する」
私は顔を伏せた。
「代償は何ですか?」
御影秋人が笑った。
「君の力の一部を、御影家のために使うこと」
「そして、君の情報を、完全に開示すること」
私はすぐに首を振った。
「できません」
御影秋人が少し意外そうに私を見た。
「なぜだ?」
「なぜなら、私はまだ、普通の人間でありたいと思っているからです」
「そして、彼女たちを守りたいからです」
御影秋人が静かにため息をついた。
「君は本当に、頑固だな」
私は顔を伏せた。
「はい」
御影秋人が最後に、静かに言った。
「では、少なくとも、君が危険に晒されたとき、私たちに連絡をすること」
「それだけは、約束してほしい」
私は少し考えてから、頷いた。
「わかりました」
茶室を出た後、私は銀座の夜の街を歩いていた。
人々は普通に歩き、笑い、買い物をしていた。
誰も、私が今、暗面の世界でどれだけ危険な立場にいるのかを知らなかった。
私はスマホを取り出し、日和にメッセージを送った。
今日も遅くなるかも。ごめん。
すぐに返信が来た。
わかった。無理はしないで。
私は画面を見つめ、胸の奥が少し痛んだ。
彼女たちは本当に、何も知らなかった。
そして、私は彼女たちに何も言えなかった。
私はまだ、彼女たちの前で、白川一音でいようとしていた。
しかし、それがますます難しくなっていることを、私は知っていた。
ソレンセンが意識の奥で低く言った。
「もう、隠しきれない」
私は低く答えた。
「わかっています」
「では、どうする?」
私は顔を伏せた。
「守る」
「何を?」
「彼女たちの普通を」
「そして、自分の普通を」
「たとえ、それが難しくなっても」
ソレンセンが静かに笑った。
「それが、お前の規則か?」
「はい」
「なら、守れ」
「しかし、守るためには、もっと強くなければならない」
私は答えなかった。
なぜなら、それが残酷な真実だったからだった。
私は彼女たちを守るために、強くなければならなかった。
しかし、強くなればなるほど、彼女たちから遠ざかっていた。
私は拨片をポケットの中で握りしめた。
指がまだ少し痛かった。
しかし、私はまだ、弾き続けなければならなかった。
なぜなら、私はまだ、白川一音でいたかったからだった。
そして、白川一音でいるためには、彼女たちの前で、普通のギタリストでいなければならなかった。
私はAfterToneへ向かった。
日和たちが待っている。
私はまだ、彼女たちの前で、笑顔でいようと思った。
たとえ、それが仮面であっても。