俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第二十章 AfterToneへの帰還、そして下北沢黒弦がもたらした反響
東京に戻った翌日、私はAfterToneへ行った。
自分では、ようやく少しだけ普通の生活に戻れると思っていた。
ただ「見かけ上は普通」の生活に、ではあるが。
少なくとも、AfterToneのソファは本物だった。
日和の計画表は本物だった。
陽菜の声は本物だった。
澪が「腹減った」と言っているのも本物だった。
これらはどれも、膠片空間でもなければ、赤いフィルムでも、百目影倉でも、京都の地下結界室でもなかった。
AfterToneの扉を押した瞬間、桜庭陽菜が一番に飛び出してきた。
「小音! おかえり!」
私は驚いて後ずさり、ドア枠にぶつかりそうになった。
「わ、ただいま……」
朝倉日和が楽屋から出てきて、笑いながら言った。
「修学旅行お疲れ様。京都と奈良はどうだった?」
私は顔を伏せた。
「鹿……たくさんいた」
これは本当のことだった。
陽菜の目が輝いた。
「鹿に餌あげた?」
「な、ない」
「えー! もったいない!」
黒瀬澪がソファに座ったまま、淡々と聞いた。
「何か食べ物買ってきた?」
私はバッグから小さな奈良土産の袋を取り出した。
これは駅で買ったものだ。
とても普通のお土産だった。
汚染もなければ、フィルムもなく、白鏡監督が付着しているわけでもなかった。
私は三度確認した。
澪がそれを受け取り、頷いた。
「価値のある修学旅行だったな」
日和が呆れたように笑った。
「澪、あなたの価値基準、単純すぎるよ」
私は彼女たちがお土産を分け合う様子を見て、ようやく胸の奥が少し緩むのを感じた。
これが、私が戻りたかった場所だった。
七条が冷たい顔で「勝手に動くな」と言うこともなく、
真壁玄周が億単位で私の価値を評価することもなく、
退魔界の人間たちが「高危」「拘束不能」「核心戦力」などと呼ぶこともない。
ここではただ、
「京都はどうだった?」
「鹿は可愛かった?」
「何か食べ物買ってきた?」
そんな質問しかされない。
それが私を安心させた。
そして、少しだけ泣きたくもさせた。
しかし、その安心は長くは続かなかった。
日和が一冊のファイルをテーブルに置いたからだ。
「小音、ちょうどいいところに帰ってきたわ。青藍文化芸術財団が、契約をまた改訂してきたの」
私の体が一瞬、硬直した。
「また……?」
「うん」
日和がファイルを開いた。
「奇妙なことに、今回はほぼ完全にこちらの要求を受け入れてきたわ」
陽菜が頷いた。
「それに、補助金の額も普通になった!」
澪がお土産を食べながら言った。
「飯も書いてある」
日和が補足した。
「現場飲食補助ね」
私は契約書を見下ろした。
確かに、以前私を不安にさせていた曖昧な条項が、かなり削除されていた。
撮影現場のスタッフ名簿は三日前までに提出すること。
臨時スタッフの入場禁止。
撮影機材は第三者による安全検査必須。
メンバー肖像権の使用範囲を厳格に制限。
機材異常が発生した場合、楽団は無条件で中止できる権利を持つ。
青藍文化芸術財団は、いかなる形でも楽団メンバーの私生活に干渉しないこと。
これはもう、普通の補助契約とは思えなかった。
まるで特調室の法務チーム、リスク管理チーム、霊災対策チームが共同で一度「脅した」後の契約書のようだった。
日和が眉を寄せた。
「条件が急に良くなりすぎて、逆に不安になるわね」
私は思わず強く頷きそうになった。
日和は本当に勘が鋭い。
彼女は背後で何が起きたのか知らない。
それでも、不自然さは感じ取っていた。
私は小さく言った。
「たぶん……前回の撮影で機材トラブルがあったから、私たちが拒否するのを恐れたんじゃないですか?」
この理由は、まだ筋が通っていた。
陽菜が言った。
「もしかしたら、本当に私たちのことを買ってくれたのかもしれないよ!」
澪が頷いた。
「買ってくれるなら飯を増やしてほしい」
日和がため息をついた。
「澪、それは商業判断の基準じゃないから」
私は契約書を見ながら、心がますます沈んでいくのを感じた。
これは影響だ。
百目影倉事件の後、東京特調室の態度が変わった。
青藍財団は特調室の外殻機関として、すぐに慎重になった。
彼らはもう、私の普通の生活を「安定させる」ために資源を使おうとはしなくなった。
少なくとも、表立っては。
なぜなら、今は誰もが知っているからだ。
もし私の普通の生活を縄のように扱えば、私は縄の反対側にいる人間をも脅威と見なすかもしれない、と。
私はそうしたくなかった。
しかし、彼らはそう考えるだろう。
ソレンセンが意識の奥で低く笑った。
「恐れている」
私は顔を伏せ、答えなかった。
「見たか?」
「恐怖は、信頼よりずっと速い」
私は契約書の端を強く握った。
「違います」
「どこが違う?」
「日和たちは、私を恐れているから契約を修正したわけじゃない」
「しかし、財団はそうした」
私は反論できなかった。
なぜなら、それが正しかったからだった。
この契約が安全になったのは、財団が突然善人になったからではない。
下北沢黒弦が、もう簡単に試すことのできない存在になったことを、彼らが知ったからだ。
この保護は、恐怖から来ている。
理解からではない。
それが、私を少しも心地よくさせなかった。
午前のリハーサルが始まる前に、AfterToneにもう一人の客が来た。
今回は、濃い灰色のスーツを着た若い女性だった。
彼女は「合同演出企画側安全調整担当」と名乗った。
下月の合同演出が当初の予定より規模が大きくなるため、主催者側が警備と設備検査を強化する準備をしている、という話だった。
日和は驚いた。
「ただの小規模な合同演出なのに、そこまで必要なんですか?」
女性は笑いながら答えた。
「最近は演出現場の安全問題が重視されています。特に撮影機材、観客動線、バックステージの出入管理については、事前にしっかり整えたいと考えています」
聞こえは良かった。
しかし、私は彼女の袖口の内側にあるマークを見た。
警視庁異事対策班。
これは普通の安全調整担当ではなかった。
彼女は暗面の人間だった。
そして、私を見る彼女の視線は……
非常に慎重だった。
真壁玄周のように価値を測る視線でもなく、
七条が初めて会ったときのような審査の視線でもなく、
まるで「触れてはいけない高危物品」に向けるような目だった。
彼女は私と二人きりで話すことを、わざと避けていた。
日和と会場の話をしているとき、彼女は言った。
「演出当日、バックステージは楽団メンバー、会場スタッフ、登録済みの企画スタッフのみ入場可とします。観客撮影には統一ルールを設け、メンバーへの近距離での長時間撮影は禁止します」
陽菜が少し不思議そうに聞いた。
「それだと厳しすぎませんか?」
女性は笑った。
「これは皆さんの肖像権と現場体験を守るためのものです」
またしても、普通の説明だった。
またしても、普通の説明だった。
私は隅に座り、自分がこの変化のすべてを引き起こした目に見えない原因であるかのように感じていた。
白鏡監督のせいでもあり、
百目影倉のせいでもあり、
鏡楽座のせいでもあり、
私がソレンセンの力を使ってそれらを切断したせいでもあった。
今や、余響楽団の普通の演出は、もう完全に普通ではなくなっていた。
契約はより厳しくなり、
警備はより厳重になり、
撮影制限はより多くなり、
バックステージ封鎖はより強くなった。
これらは彼女たちを守るためのものだった。
しかし同時に、彼女たちの活動を暗面が静かに包囲していることにもなっていた。
彼女たちは知らない。
日和は、自分が議論している「観客動線」が、実は認知汚染隔離区域を含んでいることを知らない。
陽菜は、「撮影ルール」が白鏡監督がスマホのレンズを利用するのを防ぐためのものだとは知らない。
澪は、現場飲食補助の横に、目に見えない「異常事態緊急避難ルート」が追加されているとは知らない。
彼女たちは知らない。
しかし私は知っている。
これが、一番重いところだった。
ソレンセンが口を開いた。
「普通の生活は、もうお前によって汚染されている」
私の指が一瞬、震えた。
「違います」
「いや、お前だ」
その声は小さかったが、残酷だった。
「彼らがお前の楽団の周りにルールを敷き始めた瞬間から、ここはもう完全に普通ではなくなった」
私は顔を伏せた。
この言葉は、針のように、私が一番触れたくなかった部分に突き刺さった。
私はずっと、暗面をAfterToneの外に押し留めようとしてきた。
しかし今、暗面はすでに「安全調整」「契約修正」「設備検査」「撮影制限」という形で、ここに入り込んでいた。
それは怪物の顔を晒してはいなかった。
それでも、日常の形を変えていた。
これは保護なのだろうか?
それとも、別の形の侵入なのだろうか?
私はわからなかった。
リハーサル中、私の状態は悪かった。
最初の副歌で、私は半拍遅れた。
二番目の主歌で、私は和音を一つ間違えた。
三番目で、拨片が床に落ちそうになった。
日和が止めた。
「小音」
私は慌てて顔を上げた。
「ご、ごめんなさい!」
「責めてるわけじゃないよ」
彼女は私を見て、真剣な表情で言った。
「修学旅行から帰ってきてから、ずっと集中できてないみたい」
陽菜も心配そうに近づいてきた。
「もしかして疲れてる? 今日は一旦休んだ方がいいかも」
澪がベースアンプの横に座ったまま、淡々と言った。
「一音は鹿に呪われたみたいだ」
もし本当に鹿の呪いだったら、どれだけ良かっただろう。
私は顔を伏せた。
「大丈夫です」
日和はすぐに何も言わなかった。
彼女は私の前に来て、声を少し落とした。
「小音、あなたはいつも『大丈夫』って言うよね」
私の胸が一瞬、締めつけられた。
「でも、私にはあなたがすごく大変そうに見える」
私は言葉を発することができなかった。
陽菜も静かになった。
澪も、いつものような変なことは言わなかった。
楽屋がとても静かになった。
静かすぎて、自分の心音が聞こえそうだった。
私は本当に言いたかった。
本当だった。
一瞬だけ、私は彼女たちに全部話したくなった。
身体の中にソレンセンという暗黒王がいること。
東京と京都に退魔界があること。
白鏡監督が私たちの舞台を作品に撮りたがっていること。
百目影倉、真壁玄周、七条、特調室、青藍財団、そしてあの契約と警備の裏側に何があるのかを。
しかし、私は言えなかった。
普通の人間が知れば、異常の注意を引く。
彼女たちが知れば知るほど、危険になる。
それに、一度話してしまえば、彼女たちはもうAfterToneや舞台、私を見る目が変わってしまう。
私はここを失いたくなかった。
だから、私は嘘を続けなければならなかった。
「本当に……ただ修学旅行で疲れただけです」
声はとても小さく、
説得力もほとんどなかった。
しかし日和は追及しなかった。
ただ、静かに息を吐いた。
「じゃあ今日は新曲は練習しないで、ゆっくりいこう」
陽菜が強く頷いた。
「うん! まずはリラックスしよう!」
澪が奈良土産の袋を掲げた。
「奈良のお菓子を食べよう」
私は顔を伏せ、目が少し熱くなるのを感じた。
彼女たちは真相を知らなかった。
そして、真相を追及もしなかった。
それでも、彼女たちは自分たちのやり方で、私を引き留めてくれていた。
それが私を安心させると同時に、苦しめた。
ソレンセンが冷たく言った。
「優しさもまた、縄だ」
私は心の中で答えた。
「わかっています」
「それでも掴むのか?」
「うん」
「なら、お前はいつか首を絞められるぞ」
「たぶん」
私は澪から渡されたお菓子を受け取り、小声で言った。
「ありがとう」
午後、最初の正式な依頼が届いた。
特調室から直接送られてきたものではなかった。
青藍財団を通じて転送されてきた「協力要請」だった。
タイトルは、非常に婉曲に書かれていた。
地方文化施設映像異常顧問相談
私は開いて、依頼元を見た。
北海道、札幌。
ある旧映画館で映像循環異常が発生し、現地の退魔組織はすでに三度処理したものの、毎回再発している。
彼らは東京特調室を通じて要請を出しており、「下北沢黒弦」による遠隔判断を希望している。
報酬は非常に高かった。
高すぎて、私は一目見ただけでスマホをテーブルに伏せてしまった。
日和が不思議そうに見た。
「どうしたの?」
私は慌てて首を振った。
「な、なんでもないです! 迷惑メールです」
もちろん、迷惑メールではなかった。
これはただの第一通に過ぎなかった。
すぐに二通目が来た。
九州のとある臨海神社から、海上投影型霊災の判断協力を要請するもの。
三通目。
大阪の地下商業施設から、認知汚染予防方案の相談。
四通目。
東北のとある修験道場から、高危映像媒介緊急協力ルートの構築を希望するもの。
五通目。
名前を隠されたある財閥系退魔スポンサーから、「最高ランクの顧問料」で閉門説明会への参加を希望するもの。
五通のメッセージ。
十分も経たないうちに。
私はAfterToneの楽屋に座り、スマホがまるでトラブルを吐き出し続ける呪いの道具になったかのように感じていた。
百目影倉事件の影響が、ようやく本当の意味で私に返ってきていた。
全日本が知り始めていた。
下北沢黒弦は、彼らが処理できないような映像系・精神系・認知系異常を処理できる、と。
しかも、ただ処理するだけではない。
圧倒的に処理する。
百目影倉のようなレベルのものさえ、拨き切ることができる、と。
だから彼らは私を探し始めた。
私を知っているからではない。
私を理解しているからではない。
ただ、私の力を必要としているからだった。
私の中の、彼らが「裏人格」だと誤解しているものの力を。
ソレンセンが闇の中で愉快そうに笑った。
「見ろ」
「舞台が広がった」
私はスマホを凝視し、手の指が冷たくなっていくのを感じた。
私はこのような拡大を、まったく望んでいなかった。
私はただ、リハーサルをしたかった。
新曲を正しく弾きたかった。
合同演出を無事に終えたかった。
MVの補撮影を普通にやりたかった。
しかし、全国各地からの異常依頼が、順番に私の生活に入り込んできていた。
これは名誉ではなかった。
重みだった。
そして、その重みはますます増していった。
私はスマホをポケットにしまった。
もう見たくなかった。
少なくとも、今は。
しかし、耳クリップが忽然と震えた。
今度は東京特調室の眼鏡の女性だった。
「白川さん、あなたはすでにいくつかの協力要請を受け取ったはずです」
私はAfterToneの外の路地に出て、声を低くした。
「受け取りました」
「全部に応じる必要はありません」
「でも、応じなければ、誰かが被害に遭う可能性があるんですか?」
電話の向こうが少し黙った。
「一部はそうなるでしょう。一部はただの試みです。一部はあなたと事前に関係を築こうとしているだけです」
私は壁に寄りかかった。
「私は区別がつきません」
「だからこそ、フィルタリングの仕組みが必要です」
彼女が言った。
「久我山統括官が、専用ルートを構築することを決定しました。あなた宛の全地域からの依頼は、すべて東京特調室・関係地方組織・第三者リスク評価を経由することになります。本当に必要な任務だけを受け取る形にします」
私は少し安堵した。
「ありがとうございます」
「また、原則として遠距離行動は行いません。現地で対応できないほど深刻な場合を除いて」
原則として。
私は今、この言葉を聞くと、もう免疫ができていた。
「本当に深刻な場合は?」
彼女はすぐに答えなかった。
「要請します」
命令ではなく、要請だった。
私はその違いを聞き取った。
そして、その違いを聞き取ったからこそ、心がより沈んだ。
もし彼らが命令してくるなら、私は彼らを嫌うことができる。
もし彼らが私を利用しようとするなら、私は警戒することができる。
しかし、もし彼らが本気で要請し、そこに普通の人間が助けを必要としていると言うなら、私はどうやって拒否できるのか?
ソレンセンが静かに言った。
「拒否できない」
私は目を閉じた。
はい。
おそらく、拒否できないだろう。
眼鏡の女性が続けた。
「もう一つ。あなたの周囲の保護は強化されますが、できる限り表面上の生活には影響を与えないようにします」
私はAfterToneの扉を見た。
「影響を与えない?」
「できる限り、です」
この答えは、「与えない」よりもずっと誠実だった。
そして、ずっと辛かった。
「青藍財団の契約変更は、あなたたちが手配したものですか?」
「はい」
「安全調整担当も?」
「はい」
「合同演出の撮影制限も?」
「はい」
私は沈黙した。
眼鏡の女性が声を低くした。
「申し訳ありません。私たちはこれがあなたの日常を不自然にすることを理解しています」
「しかし、鏡楽座の事件以降、あなたの普通の身元はより多くの勢力に注目されています。私たちは接触点を減らす必要があります」
接触点。
この四文字が、私をまるで危険施設のように感じさせた。
そして、日和たちはその施設の周囲に封鎖する必要のある区域だった。
「彼女たちは知らないですよね?」
「知りません」
「彼女たちの記憶を処理しないでください」
電話の向こうが少し静かになった。
「彼女たちが異常と接触していない限り、私たちは処理しません」
「もし接触したら?」
「状況によります」
私はスマホを強く握った。
これは私が望む答えではなかった。
しかし、これが現実だった。
眼鏡の女性が静かに言った。
「白川さん、私たちは彼女たちを積極的に傷つけるつもりはありません」
「わかっています」
「しかし、異常事態において、記憶処理は時に保護となります」
「それもわかっています」
わかっているからこそ、苦しかった。
電話を切った後、私は路地に長い時間立っていた。
中から陽菜の笑い声と、澪が「もうお菓子がない」と言う声が聞こえてきた。
日和が、澪にお菓子を全部食べないよう注意しているようだった。
私はドアの隙間から漏れる明かりを見て、急に中に入るのが怖くなった。
なぜなら、私は持ち帰ったものが、修学旅行の鹿のキーホルダーとお土産だけではないことを知っていたからだった。
全国退魔界の視線も、
地域横断の依頼も、
より高度な保護と監視も、
そして「下北沢黒弦」に対するすべての新しい認識も。
これらのものは、今、見えない水のように、ドアの隙間からAfterToneに染み込んできていた。
私はすべてを防ぐことはできなかった。
ソレンセンが口を開いた。
「ようやくわかったか?」
私は答えなかった。
「あなたは彼女たちに話さなければ、普通は変わらないと思っていた」
「しかし、外界はすでに変わった」
「あなたも変わった」
「彼女たちの周囲のルールも、あなたのせいで変わった」
私の爪が掌に食い込んだ。
「黙って」
「吾の言うことが正しいのは、あなたもわかっている」
私は反論する力がなかった。
なぜなら、一部は本当に正しかったからだった。
しかしそのとき、ドアが開いた。
陽菜が顔を覗かせた。
「小音? どうしてまだ外にいるの? もう始めるよ!」
明かりが彼女の後ろから漏れてきた。
暖かくて、
普通で、
少し古びた明かりだった。
彼女が笑いながら言った。
「日和が、今日は難しいところは練習しないで、まずは修学旅行で買ったお菓子を食べようって」
澪の声が中から聞こえてきた。
「もう食べちゃった」
日和が困ったように叫んだ。
「澪!」
私は一瞬、固まった。
それから、ゆっくりと笑った。
とても小さく。
しかし、本当に笑った。
「今、行きます」
私はAfterToneの中に入った。
ソレンセンは闇の中で静かに見つめていた。
おそらくそれは、私がいつかこれらの反響に押し潰されるだろうと思っていた。
全国からの依頼に、
保護と監視に、
嘘に。
おそらく、それは正しいのかもしれない。
しかし少なくとも今、私はまだ中に入ることができた。
ギターを手に取り、
彼女たちと、もう一度一緒に弾くことができた。
たとえ普通がすでに暗面の影響を受けていたとしても、
たとえAfterToneの外に、見えない保護線が増えていたとしても、
たとえ下北沢黒弦という名前が、全日本の退魔界に広がり始めていたとしても。
ここには、まだ音があった。
私はまだ、この弦を離してはいなかった。
そして、まだソレンセンを外に出してはいなかった。