俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第23章 合同演出前夜、そして天穹システムの初めての挨拶

 

第23章 合同演出前夜、そして天穹システムの初めての挨拶

 

合同演出の前日、AfterToneの楽屋はいつもより少し散らかっていた。

 

霊的な意味での散らかりではない。

 

普通のバンド活動の前によくある散らかりだった。

 

ケーブル、エフェクター、予備弦、ステージ衣装、飲み物、ステッカー、曲順表、日和の計画ノート、陽菜ののど飴、澪がどこからか持ってきたおにぎり——それらが小さな楽屋にぎゅうぎゅうに詰まっていた。

 

この散らかりが、私を安心させた。

 

なぜなら、それは普通だったからだ。

 

赤いフィルムが広がる散らかりでもなく、

 

百目影倉の中にある何万もの目が私を見ているような散らかりでもなく、

 

天城グループのシステムが暗がりで私の動作を記録しているような冷たい散らかりでもなかった。

 

朝倉日和がテーブルの前に立ち、明日の流れを戦場の指揮官のように確認していた。

 

「午後二時に集合、三時に試奏、五時半開演。余響楽団は三番目だ。バックステージの入場証はここに置いておくから、絶対に無くさないで」

 

桜庭陽菜が手を挙げた。

 

「ステージ衣装は?」

 

「陽菜の分は袋の中に入れてあるわ」

 

黒瀬澪も手を挙げた。

 

「飯は?」

 

日和が一瞬動きを止めた。

 

「会場側が簡易食を出すって言ってた」

 

澪が頷いた。

 

「出場可能」

 

つまり、飯が出なければ出場しないということか?

 

私は隅に座り、ギターバッグを抱えたまま、古いピックを手に持って眺めていた。

 

その縁には、また少しだけ摩耗の跡が増えていた。

 

それでも、私はまだこれを使おうと思っていた。

 

藤堂清成が送ってきた新しいピックはバッグの一番奥にしまってある。

 

天城グループが提供した設備も、会場の中にある。

 

青藍財団の補助契約も、すでにかなり安全な内容に修正されていた。

 

すべてが、以前より整然として、完全で、守られているように見えた。

 

それでも、私はこの古いピックを使いたかった。

 

なぜなら、それはどの財団のものでもなければ、

 

退魔界のものでもなく、

 

特調室のものでもなく、

 

そして恐怖のあまり丁寧になった大人たちのものでもなかったからだ。

 

それはただ、私がずっと使ってきたピックだった。

 

安くて、

 

傷があって、

 

それでも握ったときに、自分に近いと感じられるものだった。

 

日和が急に私のところに来た。

 

「小音、明日はあんまり緊張しなくていいからね」

 

私はすぐに体を強張らせた。

 

「わ、わたしはできるだけ……」

 

陽菜が隣で笑いながら言った。

 

「小音が緊張しても大丈夫だよ! 緊張してる時の感じも、結構カッコいいよ!」

 

いや。

 

私の生理的な恐怖を、演出スタイルにしないでほしい。

 

澪が冷静に言った。

 

「一音が緊張すると、手の動きが速くなる」

 

これは褒め言葉なのか、それとも医学的観察なのか?

 

日和が少し笑った。

 

「とにかく、明日は練習通りにやればいいよ。深く考えすぎないで」

 

深く考えすぎないで。

 

これは、世界で最も実行が難しいアドバイスの一つだった。

 

特に、自分が合同演出的会場に、特調室の暗面安全要員、警視庁異事対策班の私服、青藍財団の外殻チーム、天城グループの会場システム、そしてどこかのカメラの後ろに潜んでいるかもしれない白鏡監督の残党がいることを知っているときには。

 

考えすぎない?

 

到底無理だった。

 

私はただ頷いた。

 

「うん」

 

日和が私を見て、何か言いたそうにした。

 

しかし結局、ただ静かに私の肩を軽く叩いただけだった。

 

「じゃあ今日は早めに帰って休みなさい」

 

私は頷いた。

 

「はい」

 

しかし私は知っていた。

 

今夜は、そう簡単には終わらないだろう。

 

なぜなら、天城グループが再び私に接触してきたからではなく、

 

特調室が私に連絡してきたからだった。

 

彼らは、天城グループ内部で「天穹認知防災システム」に関する非公開会議が開かれていると教えてくれた。

 

そしてその議題の一つが、私についてだった。

 

正確に言えば、

 

下北沢黒弦を、天穹システムの核心的な異常判断モデルに組み込むべきかどうか——というものだった。

 

私はそんな話を、完全に知りたくなかった。

 

それでも、それはすでに私のところまで来ていた。

 

夜の九時、AfterToneが閉まった後、私はすぐに家に帰らなかった。

 

眼鏡の女性が近くの黒い車の中で私を待っていた。

 

車は路地の外に停まっていて、普通の商用車のように見えた。

 

しかし車内には認知遮断の符片が貼られ、窓にも特殊加工が施されていた。

 

私は車に乗り込んだとき、自分がまた普通の世界から暗面に滑り落ちていくような感覚を覚えた。

 

この切り替えが、どんどん上手くなっていた。

 

それが私を不安にさせた。

 

眼鏡の女性がタブレットを私に渡した。

 

「白川さん、天城グループ内部の会議が現在進行中です。我々は合法的に共有されている信号の一部を傍受しています」

 

私は画面を見下ろした。

 

そこには一つの会議室が映っていた。

 

とても大きく、

 

とても綺麗だった。

 

白い壁、黒い長テーブル。

 

符紙もなければ、神社の灯火もなく、古いフィルムもなかった。

 

ただスクリーンとプロジェクター、データグラフ、そしてスーツを着た人間だけがいた。

 

完全に現代的な企業の会議のように見えた。

 

八坂の地下結界室よりも冷たく、

 

そして私にとっては、もっと居心地が悪かった。

 

会議テーブルの中央に、中年の男性が座っていた。

 

彼は銀縁の眼鏡をかけ、髪をきれいに整え、穏やかな表情をしていた。

 

眼鏡の女性が言った。

 

「彼の名前は天城怜司。天城グループの副社長で、天穹システムの急進的推進派の代表です」

 

私は頷いた。

 

「彼は私を研究しようとしているんですか?」

 

「そうです」

 

返事はあまりにも直接的だった。

 

私は胃が痛み始めた。

 

スクリーンの中で、天城怜司が話をしていた。

 

「百目影倉事件は、伝統的な退魔組織が大規模影像汚染に対して反応が遅すぎることを証明した。京都委員会の外層偵察隊は連絡が途絶え、東京特調室も即時介入できなかった。最終的に危機を解決したのは、組織体系ではなく、単一の異常個体だった」

 

彼はリモコンを押した。

 

スクリーンに、ぼかして処理された映像が映し出された。

 

私は百目影倉の中央に立っていた。

 

黒い弦が一瞬で千七百二十六の自壊点を切断する瞬間だった。

 

私の心臓が激しく収縮した。

 

見たくなかった。

 

本当に見たくなかった。

 

他人の視点から、自分がソレンセンの力を使っているところを見るのは、非常に不快な感覚だった。

 

まるで自分が研究サンプルにされているようだった。

 

天城怜司が続けた。

 

「これは単なる戦力ではない」

 

「これは判断能力だ」

 

「彼女は極めて短時間で、汚染線、残片線、自壊線、普通の認知線を区別し、最小限の破壊で済む経路を選んだ」

 

「天穹システムがこの判断ロジックを学習できれば、日本の認知汚染防災能力は新たな段階に入るだろう」

 

会議テーブルの横に座っていた誰かが聞いた。

 

「問題は、本人が同意するかどうかです」

 

天城怜司が微笑んだ。

 

「我々は彼女本人を複製する必要はない」

 

私は体が冷えていくのを感じた。

 

彼は続けた。

 

「我々が必要なのは、十分な行動データ、戦闘記録、異常処理の選択、ルール設定のパターンだけだ。彼女個人の意思はもちろん尊重されるべきだが、公共の安全を個人の感情に完全に委ねることはできない」

 

個人の意思。

 

個人の感情。

 

彼はとても冷静に言った。

 

冷静すぎて、怖かった。

 

もう一人の女性幹部が眉を寄せた。

 

「同意なしにデータを収集すれば、彼女を刺激することになります」

 

天城怜司が言った。

 

「私は彼女を刺激することを主張しているわけではない」

 

「下北沢黒弦は高危だが交渉可能な個体だ。直接的な圧迫は得策ではない」

 

「しかし彼女には明確な弱点がある。普通の生活、楽団、演出、同伴者、そして守りたいという欲求だ」

 

私の指が少しずつ握りしめられた。

 

眼鏡の女性が低く言った。

 

「落ち着いて」

 

わかっていた。

 

しかし、落ち着くのは難しかった。

 

天城怜司の声がスクリーンから続いた。

 

「我々はこれらの弱点を脅す必要はない」

 

「むしろ、逆に保護することができる」

 

「会場安全、演出プラットフォーム、影像防護、データフィルタリング、スポンサー体系を通じて、彼女が天城が提供する安全な環境に徐々に慣れていくようにする」

 

「ある人が、自分が大切にしている普通の生活をあるシステムに守ってもらっていることに慣れてしまえば、彼女は自然にそのシステムの中に入っていく」

 

会議室の中が静かになった。

 

私は車の中に座り、手足が冷えていくのを感じた。

 

これは真壁玄周よりも恐ろしかった。

 

真壁玄周は私を作品にしようとした。

 

不快だったが、直接的だった。

 

天城怜司は違った。

 

彼は私を捕まえようとはしなかった。

 

私を脅そうともしなかった。

 

周囲の人々を傷つけようともしなかった。

 

彼は彼女たちを守ろうとしていた。

 

保護という名目で、私を包み込もうとしていた。

 

そうすれば、私は徐々に天城の会場、プラットフォーム、システム、安全保障、資源から離れられなくなる。

 

そして、私のすべての選択、すべての戦い、すべてのルール設定が、彼らのシステムの一部になっていく。

 

ソレンセンが低く言った。

 

「檻だ」

 

私は胸の奥が一瞬、締めつけられるのを感じた。

 

「うん」

 

「これまでのものより、檻らしい」

 

そうだ。

 

この檻には鎖もなければ、フィルムも、邪術の傀儡もなかった。

 

代わりに使われているのは、安全、資源、利便性、責任、そして公共の利益だった。

 

それどころか、自分自身が善意であると主張することさえできる。

 

これが一番恐ろしかった。

 

天城怜司が手を上げた。

 

「明日の合同演出は、彼女が高密度の普通の人間環境の中で、どのような行動選択をするかを観察する機会となる」

 

私は猛烈に顔を上げた。

 

会議のスクリーンが切り替わった。

 

そこには明日の合同演出的会場の平面図が映し出されていた。

 

バックステージ。

 

ステージ。

 

観客エリア。

 

設備室。

 

安全監視ポイント。

 

人員の動線。

 

そして余響楽団の出演時間まで、すべてがマークされていた。

 

私は胃が一瞬、ひっくり返るのを感じた。

 

日和たちは明日の演出を今も楽しみにしている。

 

陽菜はまだオープニングの表情を練習している。

 

澪はまだ弁当のことを気にしている。

 

一方で、天城グループの内部では、私たちの演出がすでに観測の機会として扱われていた。

 

天城怜司が言った。

 

「演出に干渉してはならない」

 

「危険を作り出してはならない」

 

「彼女が自然なプレッシャーの中でどのような反応を示すかだけを記録する」

 

「特に、システムが影像汚染の可能性を提示したとき、彼女がシステムを信じるか、それとも自分の判断に頼るか——を」

 

一人の幹部が聞いた。

 

「本当に汚染が発生するのですか?」

 

天城怜司が微笑んだ。

 

「ただのシミュレーション提示です」

 

私は体が固まるのを感じた。

 

シミュレーション提示。

 

つまり、彼らは明日の演出中に、私に偽の異常警報を送るつもりだということだった。

 

私の反応を観察するために。

 

満員の普通の観客の前で。

 

余響楽団の舞台の上で。

 

私が最もミスをしたくない瞬間に。

 

車の中が恐ろしいほど静かになった。

 

眼鏡の女性の顔色も沈んでいた。

 

「これは無許可の人体ストレス試験です」

 

私は低く言った。

 

「彼は普通の人々を傷つけるつもりはない」

 

「しかし、あなたを利用しようとしている」

 

私はスクリーンの中の天城怜司を見ていた。

 

彼は温和で、冷静で、理性的だった。

 

もしかすると、本気で公共の安全のために努力しているのかもしれないとさえ思えた。

 

しかし彼は、私の舞台、私の同伴者、私の恐怖を、すべて実験計画の中に放り込んでいた。

 

これはダメだった。

 

絶対にダメだった。

 

ソレンセンが口を開いた。

 

「切れ」

 

私は低く聞いた。

 

「何を切るの?」

 

「このシステムがお前に伸ばしている線を」

 

私は顔を上げて眼鏡の女性を見た。

 

「明日は天城システムが会場に入るのを禁止できますか?」

 

彼女が眉を寄せた。

 

「会場が使っているのは彼らの基礎安全モジュールです。臨時に置き換えると演出に影響が出ます」

 

「置き換えなければ、彼らは記録を続けます」

 

「我々は一部のデータを遮断することはできます」

 

「彼らは迂回してくるでしょうか?」

 

彼女はすぐに答えなかった。

 

これが答えだった。

 

私は顔を伏せ、自分の手を見つめた。

 

「私は演出をキャンセルしたくない」

 

「わかっています」

 

「日和たちは長い間楽しみにしていた」

 

「知っています」

 

「それに、演出を彼らの実験にされたくない」

 

眼鏡の女性が私を見た。

 

「どうするつもりですか?」

 

私は少しの間、沈黙した。

 

それから言った。

 

「彼らに見せましょう」

 

彼女が一瞬、固まった。

 

「何を?」

 

「彼らは私の反応を記録したがっているんでしょう?」

 

私の声は小さかった。

 

しかし、私が思っていたよりもしっかりしていた。

 

「なら、記録する結果を一つ与えましょう」

 

「私は彼らが監視していることを知っている」

 

「警報が偽物であることも知っている」

 

「私は演出を止めない」

 

「そして、彼らに私のデータをこれ以上取らせない」

 

眼鏡の女性が眉を寄せた。

 

「演出中に彼らのデータラインを切断するつもりですか?」

 

「もし彼らが出てきたら」

 

「現場には普通の人がたくさんいます」

 

「わかっています」

 

「天城システムは複雑で、接続範囲も広いです」

 

「私は自分に向かって伸びてきた部分だけを切る」

 

ソレンセンが闇の中で笑った。

 

「また一本ずつ線を切るのか?」

 

「うん」

 

「今回は網がもっと大きいぞ」

 

「だからこそ、正確に切らなきゃいけない」

 

眼鏡の女性は長い間、沈黙していた。

 

「我々は協力できます」

 

私は顔を上げた。

 

彼女が言った。

 

「特調室は明日、会場内に独立した監視を配置します。天城システムが虚偽の異常警告を出したら、我々が確認して、そのデータ経路をあなたにマークします」

 

「しかし最終的に切断する動作は、あなた自身でやる必要があります」

 

私は頷いた。

 

「わかりました」

 

「白川さん」

 

眼鏡の女性が私を見た。

 

「本当に演出をキャンセルしないのですか?」

 

私は車窓の向こうを見た。

 

AfterToneの明かりはもう消えていた。

 

しかし私は知っていた。

 

明日の舞台は、明るく灯る。

 

日和が最初の拍を叩く。

 

陽菜が最初のフレーズを歌う。

 

澪がベースの位置に立つ。

 

私は顔を伏せて、観客を見ないように努力する。

 

それは余響楽団の演出だった。

 

天城グループの実験場でも、

 

天穹システムの訓練場でも、

 

下北沢黒弦の戦闘記録でもなかった。

 

私は低く言った。

 

「キャンセルしません」

 

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