俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第24章 校長室の機密ファイル、そして普通の退魔者たちの間で広まった名前

 

第24章 校長室の機密ファイル、そして普通の退魔者たちの間で広まった名前

 

合同演出の翌日、私は普通に学校へ行った。

 

この一文は、とても普通に聞こえる。

 

しかし私にとっては、「普通に学校へ行ける」こと自体が、すでに奇跡のように感じられていた。

 

昨夜、私は満員の観客の前で余響楽団の曲を最後まで弾き終えた。

 

同時に、二曲目の副歌で天城グループが会場システムに隠していた収集経路を切断した。

 

照明を消すことも、音響を歪めることもなく、

 

日和、陽菜、澪に気づかれることもなく、

 

観客に「自分たちが歌を聴いている最中に、舞台の下で目に見えないデータラインが一本切断された」ことを知られることもなく。

 

これは成功だったはずだ。

 

少なくとも、特調室の眼鏡の女性はそう言っていた。

 

昨夜送られてきたメッセージには、こう書かれていた。

 

演出は無事に終了した。天城システムの収集経路は切断され、普通の安全機能は維持されている。現場に認知漏洩はなかった。

 

この数行は、冷静に見えた。

 

まるで業務報告のようだった。

 

しかし「演出は無事に終了した」という文字を見たとき、私は胸の奥が少しだけ緩むのを感じた。

 

余響楽団は、私のせいで止まらなかった。

 

観客の拍手も本物だった。

 

陽菜はとても嬉しそうに笑っていた。

 

日和は「今日、すごく良かった」と言ってくれた。

 

澪は「簡易食はまあまあだったけど、量が少なかった」と評価していた。

 

これらは、すべて普通の世界での勝利だった。

 

ただ、普通の世界での勝利の裏で、暗面世界の反響はすでに、私より先に学校まで届いていた。

 

校長室に、一つのファイルがあった。

 

そのファイルは普通の書類棚には置かれていなかった。

 

校長のデスク右側の三番目の引き出しの、隠し層の中にしまわれていた。

 

ファイルの表紙には、生徒の名前は書かれていなかった。

 

ただ一つの番号だけがあった。

 

特異災害関連生徒保護協定:第七補足件

 

校長の名前は三浦慎一郎。

 

五十代で、細いフレームの眼鏡をかけていて、普段は温和で、規則を重んじ、進路説明会では「生徒の安全第一」を繰り返す、ただの普通の校長に見えた。

 

しかし彼は、完全に普通の人間ではなかった。

 

正確に言えば、彼は「少しだけ知っている」人間だった。

 

彼はソレンセンを知らなかった。

 

聖霊譜尼を知らなかった。

 

百目影倉で何が起きたのかを知らなかった。

 

私が奈良の旧映像資料館の地下で千七百二十六の自壊点を切断したことも知らなかった。

 

しかし彼は、日本には普通の教育システムでは説明できない災害が実際に存在することを知っていた。

 

内閣府に、公開文書には書かれない特別な部署があることを知っていた。

 

ある生徒が「異常災害協力保護」の対象になる可能性があり、学校が協力する必要があることを知っていた。

 

過去十年で、彼は似たようなファイルを見たことが二度あった。

 

一度は、低級の霊体が見える小学生のもの。

 

もう一度は、神社系の継承者のもの。

 

そして今回、ファイルの対象は——

 

白川一音だった。

 

三浦校長はファイルの一番上の内容を読みながら、眉を一度も緩めなかった。

 

ファイルには、慎重に書かれていた。

 

白川一音、女、高校三年生。

 

表向きの身分は普通の生徒として維持しなければならない。

 

普通の教師、生徒、保護者が異常関連の情報に触れることを禁止する。

 

欠席、早退、一時的な外出、外部からの接触などがあった場合、指定の連絡担当者が調整して対応する。

 

彼女に対して公開表彰、特別な宣伝、不必要な注目を行ってはならない。

 

校外機関からのスポンサー、演出招待、取材要請などで、強制的に参加させてはならない。

 

外部の財団、文化機関、メディアプラットフォームが学校名義で彼女に接触してきた場合、即座に報告すること。

 

三浦校長はここまで読んで、事態が普通ではないことを理解した。

 

しかし本当に彼の指を止めたのは、最後のページの備考だった。

 

保護等級:最高。

 

接触原則:必要でない限り接触しない。

 

リスク提示:当該生徒は重大な異常災害処理能力を有するが、その安定性は普通の生活環境に大きく依存している。学校は彼女の日常性を維持するよう協力し、異常化・英雄化・孤立化させてはならない。

 

三浦校長は長い間、沈黙した。

 

彼は「重大な異常災害処理能力」が具体的に何を意味するのか、完全には理解していなかった。

 

しかし最後の文章は理解できた。

 

彼女を怪物扱いするな。

 

彼女を英雄扱いするな。

 

彼女を生徒として続けさせてやれ。

 

そのとき、副校長がノックをして入ってきた。

 

「校長、修学旅行後の白川生徒の件ですが、担任によると、少し疲れている様子ですが、明らかな問題はないそうです」

 

三浦校長はファイルを閉じた。

 

「特別に聞き出したりしないでください」

 

副校長が少し不思議そうに聞いた。

 

「特調室からの通知があったからですか?」

 

「うん」

 

三浦校長は眼鏡を外し、眉間を揉んだ。

 

「担任には普通に観察させていればいい。急に過度に気を使わせたり、クラスで修学旅行の発表をさせたりしないでください」

 

副校長が頷いた。

 

「わかりました」

 

ドアのところまで来たとき、副校長がまた足を止めた。

 

「校長、この生徒は一体……」

 

三浦校長が彼を見た。

 

副校長はそれ以上質問しなかった。

 

聞けない質問があることを、わかっていたからだ。

 

三浦校長が低く言った。

 

「彼女はうちの生徒だ」

 

「まずは、それだけを覚えておいてください」

 

私はもちろん、校長室で何が起きていたのか知らなかった。

 

私はただ、いつものように教室の隅に座り、自分の存在感をできるだけ下げようとしていた。

 

しかし今日は、担任が私を指名して答えさせなかった。

 

体育のグループ分けのときも、先生は自然に私を運動量の少ないグループに入れてくれた。

 

昼休み、森原葵が話しかけに来た。

 

「白川さん、昨日の演出はどうだった?」

 

私は一瞬、固まった。

 

「そ、それを……知ってるんですか?」

 

彼女が笑った。

 

「自分はバンドやってるって言ってたじゃない? ただの想像だけど、昨日は何かあったのかなって。今日はなんか疲れてるみたいだったから」

 

そうか。

 

私は安堵した。

 

「ま、まあまあ……でした」

 

「うまくいったの?」

 

私は頷いた。

 

「うん」

 

森原さんは笑った。

 

「ならよかった」

 

彼女はそれ以上追及しなかった。

 

動画を見たいとも言わなかった。

 

私はとても感謝した。

 

なぜなら、昨日の演出の公式映像は存在するが、私は当分見たくなかったからだった。

 

演出が悪かったからではない。

 

映像の中で、自分が天城のデータラインを切断した瞬間を見てしまうのが怖かったからだった。

 

普通の人には見えない。

 

しかし私には見える。

 

ソレンセンにも見える。

 

それは意識の奥で低く笑った。

 

「学校も、お前を遠巻きにするようになってきたな」

 

私は教科書を見下ろした。

 

「そんなことない」

 

「先生が君を指名しなかった」

 

「ただの偶然だ」

 

「校側が通知を受け取った」

 

私の指が止まった。

 

「どうしてわかるの?」

 

「人間の視線が変わるからだ」

 

ソレンセンが静かに言った。

 

「彼らが君を見る目が、割れやすい器を見る目になった」

 

私は無意識に教壇の方を見た。

 

担任は黒板に字を書いていた。

 

私の方は見ていない。

 

それでも、なぜか教室の空気が少し違うように感じた。

 

目に見える特別扱いではない。

 

むしろ、逆だった。

 

「邪魔をしない」という、行き過ぎた自然さだった。

 

先生は私を困らせなかった。

 

クラスメイトも私に特別な注意を向けなかった。

 

学校も突然私を呼び出して話をしなかった。

 

表面的には、すべて良いことだった。

 

しかし私は知っていた。

 

もしソレンセンが正しければ、この「邪魔をしない」という態度すら、完全に自然なものではない可能性がある。

 

それは、私の普通の生活を守るための、用意されたものかもしれない。

 

私は感謝すべきだった。

 

それでも、心のどこかが少し痛んだ。

 

学校という場所でさえ、「下北沢黒弦」という反響に影響され始めていることを、感じていたからだった。

 

同じ日の午後、東京特調室の地下オフィス。

 

文書と連絡を担当する若い職員が、地域横断の協力要請を整理していた。

 

彼女の名前は佐伯遥。

 

術師ではない。

 

霊力もない。

 

退魔もできない。

 

低級の霊体すら見えない。

 

彼女はただ、公務員試験に合格して内閣府に入り、守秘義務の等級と心理テストに合格したため、特調室の後方支援連絡担当に異動してきただけだった。

 

退魔界の中では、彼女は最も普通の部類に入る人間だった。

 

異常の存在は知っている。

 

しかし異常を処理する力はない。

 

霊災現場の報告が来るたび、彼女はファイリングし、転送し、黒塗りし、要約を書く。

 

彼女は多くの恐ろしい写真を見てきた。

 

写真よりも恐ろしい文字の記述も、たくさん見てきた。

 

しかしここ数日、彼女の業務量が突然、異常なほど増えていた。

 

原因はただ一つの名前だった。

 

下北沢黒弦。

 

佐伯遥が受信トレイを開いた。

 

一通目、北海道の旧映画館で発生した映像循環異常事件。下北沢黒弦による遠隔判断を要請。

 

二通目、九州の臨海神社から、海上投影型霊災の判断協力を希望。緊急協力ルートの構築を要請。

 

三通目、大阪の地下商業施設から、認知汚染予防方案の相談。下北沢黒弦にリスク評価を一度してほしい。

 

四通目、東北の山岳修験系内部の覚え書き。下北沢黒弦が山中の荒魂影像化事件に協力可能かどうかの確認を要請。

 

五通目、ある大型財団の暗面安全部から、特調室を通じて正式に「最高ランクの顧問委託」を提出したいという要請。

 

六通目、ある地方退魔家系の匿名問い合わせ。「下北沢黒弦が当管轄に入った場合、どのように対応すべきか?」

 

佐伯遥はその一行を見て、思わず小さく呟いた。

 

「対応?」

 

隣を先輩がコーヒーを持って通りかかった。

 

「また黒弦関連?」

 

「はい」

 

佐伯遥が画面を回した。

 

先輩が一目見て、ため息をついた。

 

「ここ数日、全部これだな」

 

佐伯遥が少し迷った後、小声で聞いた。

 

「彼女、本当にそんなにすごいんですか?」

 

先輩は少しの間、沈黙した。

 

それから言った。

 

「百目影倉の完全な報告書を読んだことはあるか?」

 

「ありません。権限が足りなくて」

 

「なら、申請するな」

 

「なぜですか?」

 

先輩がコーヒーを一口飲んだ。

 

「読むと眠れなくなるから」

 

佐伯遥はますます緊張した。

 

「でも報告書の要約には、彼女が死者を出さなかったって書いてありました」

 

「そうだ」

 

「それは良いことなんじゃありませんか?」

 

「だからこそ怖いんだ」

 

先輩が声を低くした。

 

「ただ敵を倒せるほど強い人間なら、みんな彼女を兵器として見る」

 

「しかし彼女は、敵を倒せるだけでなく、普通の人を避け、残片を残し、自壊陣を切断し、誰一人殺さなかった」

 

「そういう人間は、もう兵器じゃない」

 

佐伯遥が聞いた。

 

「じゃあ何なんですか?」

 

先輩が、どんどん増えていく要請の画面を見ていた。

 

「ルールそのものだ」

 

佐伯遥は完全に理解できなかった。

 

しかしこの言葉は、彼女の頭に残った。

 

特調室の地下オフィスにいる、多くの普通の後方支援職員にとって、下北沢黒弦はもうただの強力な協力者ではなかった。

 

彼女は、まるで移動可能な最終保険のように見え始めていた。

 

神社も、術師も、設備も、財力も、結界もすべて失敗したとき、人々は無意識にこう思うようになっていた。

 

彼女に頼めないだろうか?

 

あの黒い弦で、問題を切断してもらえないだろうか?

 

佐伯遥は、この期待がとても危険なものだと知っていた。

 

なぜなら、彼女は資料の写真の中で、白川一音の普通の学生写真を見たことがあったからだった。

 

それは、顔を伏せ、視線を逸らし、コンビニの店員と目を合わせることすら怖がっているように見える女の子の写真だった。

 

そんな人間を最終保険として扱うのは、あまりにも残酷だった。

 

それでも、要請は一通、また一通と届き続けていた。

 

彼女は新しい規定に従って、すべての要請にタグを付けていくしかなかった。

 

要フィルタリング。

 

直接接触禁止。

 

普通の身元に関わること禁止。

 

楽団、学校、親友を条件にしないこと。

 

高危でない限り、本人に転送しないこと。

 

佐伯遥が最後のタグを打ち込んだとき、思わずこう願った。

 

今日も、彼女が普通に学校に行けますように。

 

この願いは、とても普通のものだった。

 

しかし特調室の地下オフィスの中では、小さな祈りのように聞こえた。

 

放課後、私はAfterToneへ行った。

 

道中、誰かに見られているような気がした。

 

敵意ではない。

 

白鏡監督のようなレンズの感覚でもなかった。

 

どちらかと言えば、普通の人の群れの中に隠れている暗面関連の人間が、私を見つけるとすぐに視線を逸らす、という感じだった。

 

これは気のせいではなかった。

 

なぜなら、下北沢駅の近くに、普段着の男性が自動販売機の横に立っていたからだった。

 

私が通りかかると、彼はすぐに道を開けてくれた。

 

動作があまりにも速かった。

 

あまりにも恭しかった。

 

まるで、私の邪魔をしてはいけないと思っているかのようだった。

 

私はとても居心地が悪かった。

 

ソレンセンが口を開いた。

 

「彼らはお前を認識している」

 

「黙って」

 

「普通の退魔者、連絡員、外勤観察者」

 

「彼らはお前を恐れている」

 

「黙って」

 

「普通の生活を守れば守るほど、お前はもっと見られるようになる」

 

私はバッグの肩紐を強く握りしめ、足を速めた。

 

AfterToneの前に着いたとき、ようやく少しだけ安堵した。

 

ドアを押すと、中からいつもの声が聞こえてきた。

 

陽菜が試唱をしている。

 

日和がドラムを調整している。

 

澪がソファに座ってお菓子を食べている。

 

ここは、まだここだった。

 

少なくとも、見た目は。

 

陽菜が私を見て、すぐに手を振った。

 

「小音! 昨日の映像の粗編集が出たよ!」

 

私はその場で固まった。

 

「映像?」

 

日和がノートパソコンの前で顔を上げた。

 

「公式記録版だけだよ。非公開。主催者側が確認用に送ってくれた」

 

私は体を硬くしながら近づいていった。

 

スクリーンには、余響楽団が演出をしている様子が映っていた。

 

陽菜の歌声は明るかった。

 

日和のドラムは安定していた。

 

澪のベースはかっこよかった。

 

そしてカメラが私に切り替わった。

 

私は顔を伏せ、ピンクの髪が顔の一部を隠し、指が弦の上を動かしていた。

 

見た目は、ただ緊張しているギタリストだった。

 

私が天城のデータラインを切断していることは、一切わからなかった。

 

私は大きく安堵した。

 

本当に、わからなかった。

 

陽菜が興奮して言った。

 

「小音のここ、めっちゃカッコいい!」

 

「そ、そんなこと……」

 

澪が真剣に頷いた。

 

「世界から逃げてるみたい」

 

なぜか、褒め言葉には聞こえなかった。

 

日和が笑った。

 

「でもこのギターの部分、確かにいいね」

 

私は顔を伏せた。

 

「ありがとう……」

 

映像は続いた。

 

二曲目の副歌。

 

私は知っていた。ここだ。

 

私はあの、黒い弦を隠したハーモニクスを弾いた。

 

映像の中では、ほんのわずかな音色の変化としてしか聞こえない。

 

日和が一時停止した。

 

「ここだ」

 

私は心臓が一瞬、止まるのを感じた。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

日和がスクリーンを見ていた。

 

「ここの音色、リハーサル時と違う」

 

私の手足が冷たくなった。

 

陽菜が聞いた。

 

「ミスだったのかな?」

 

日和が首を振った。

 

「違う。むしろ、すごく良い感じ」

 

澪が言った。

 

「線が切れたみたい」

 

私はほとんど呼吸を止めてしまいそうになった。

 

澪!

 

こんなタイミングで的確すぎる!

 

日和が頷いた。

 

「確かに、何かが切られたような感覚がある」

 

私は顔を伏せ、声がほとんど聞こえないほど小さく言った。

 

「たぶん……そのとき、すごく緊張してたからだと思います」

 

日和が微笑んだ。

 

「緊張も、音楽の一部になることがあるよ。このまま残そう」

 

私は固まった。

 

「残す?」

 

「うん」

 

彼女は言った。

 

「この部分、いいと思う」

 

私はどう返事すればいいのかわからなかった。

 

それは普通の演奏のニュアンスではなかった。

 

私が天城システムの収集経路を切断した痕跡だった。

 

それなのに日和は、それを「音楽の一部」として感じてくれていた。

 

私は複雑な気持ちになった。

 

もしかすると、暗面はすでに私の音の中に入り込んでしまっているのかもしれない。

 

しかし、それがこの曲を壊さず、日和に「音楽」として聞こえる限り、私はまだ完全に失敗してはいないのかもしれない。

 

ソレンセンが口を開いた。

 

「闇がお前の演奏に入った」

 

私はスクリーンの中の自分を見ていた。

 

顔を伏せ、緊張し、舞台に押し潰されそうになりながらも、最後まで曲を弾き終えた自分。

 

「うん」

 

「恐くないのか?」

 

「恐い」

 

「なら、なぜ消さない?」

 

私は映像の中の自分を見た。

 

顔を伏せ、緊張し、ほとんど舞台に押し潰されそうになりながらも、最後まで弾き続けた自分。

 

「日和が残してもいいって言ってくれたから」

 

ソレンセンは少しの間、沈黙した。

 

それから冷たく笑った。

 

「本当に、あいつに影響されやすいな」

 

私は否定しなかった。

 

同じ時間、校長室。

 

三浦校長が新しい機密通知を受け取った。

 

特調室の教育調整グループからだった。

 

内容は短かった。

 

白川一音は、近日中に特殊協力事項により精神的な疲労が生じる可能性がある。学校は通常の環境を維持し、追加の面談を行わず、特別な注目をしないこと。明らかな体調不良が見られた場合は、普通の生徒の健康対応フローで処理してよい。外部機関への活動情報の提供は禁止する。

 

三浦校長は通知を読み終えると、それを機密書類の中にしまった。

 

窓の外では、生徒たちが下校し始めていた。

 

彼は朝、廊下で遠くから見た白川一音の姿を思い出した。

 

顔を伏せ、

 

バッグを背負い、

 

できるだけ端を歩くようにして。

 

もしこのファイルがなければ、彼はただの非常に内気な生徒だと思うだけだっただろう。

 

もしかすると、先生が穏やかに気にかける必要がある生徒。

 

もしかすると、クラスが少しずつ受け入れていく必要がある生徒。

 

しかし今、彼はわかっていた。

 

物事は、そう単純に処理できない。

 

過度な気遣いも、傷になる可能性がある。

 

三浦校長はため息をついた。

 

彼はペンを取り、校内管理の備考欄に、自分と副校長しか見ることのできない一行を書いた。

 

白川一音:普通の生徒として扱う。助けが必要なときは、まず普通の助けを提供する。

 

書き終えた後、彼は少し考えて、もう一行を付け加えた。

 

彼女に、学校まで彼女を監視している場所だと感じさせてはならない。

 

この文章は、特調室から来たものではなかった。

 

彼自身が書いたものだった。

 

なぜなら、彼は結局、校長であって、

 

退魔界の人間ではなかったからだ。

 

夜、リハーサルが終わった後、私は一人でAfterToneの楽屋に残って片付けをしていた。

 

映像の確認はすでに終わっていた。

 

日和は、「線が切れたような」ギターの部分を残すと言った。

 

陽菜は、それを小音の新しいスタイルだと言った。

 

澪は、もし将来アルバムを出すなら『線は切れても飯は切れない』というタイトルがいいと提案し、日和に却下された。

 

私はギターをケースにしまうとき、スマホが震えるのを感じた。

 

暗号化された未知のチャンネルからのメッセージだった。

 

発信者名は表示されていなかった。

 

ただ一行の文字だけがあった。

 

天穹システムは、今後あなたの演出データを同意なしに収集することはありません。

 

二行目。

 

天城怜司は、あなたと正式に会談したいと希望しています。議題:天穹システムに、あなたが裁く資格があるかどうか。

 

私は「裁く」という二文字を、長い時間見つめていた。

 

これは普通の招待状のようには見えなかった。

 

挑発のようにも見えた。

 

そして、ある種の承認のようにも見えた。

 

彼らはもう、私をデータソースとしてこっそり収集することはできないと理解した。

 

だから、より直接的な方法に切り替えてきた。

 

システムを私の前に差し出して、

 

私に判断させようとしている。

 

私を参加させようとしている。

 

私に、より大きな責任を背負わせようとしている。

 

ソレンセンが闇の中で低く笑った。

 

「見ろ、彼らは学んだぞ」

 

私は低く言った。

 

「何を学んだの?」

 

「こっそりお前の線を盗むことはできない、と」

 

「代わりに、網全体をお前に差し出そうとしている」

 

私はスマホを強く握りしめた。

 

退魔界の人々は、私を最終保険として扱い始めていた。

 

学校は、私の普通の生活を慎重に維持し始めていた。

 

財団は、畏怖と資源で私を懐柔し始めていた。

 

天城グループは、私をシステムを裁くことのできる人間として扱い始めていた。

 

そして私はただ、AfterToneの楽屋に立ち、ギターバッグを持って、早く家に帰って寝たいと思っているだけだった。

 

これが、影響というものだった。

 

私がこれまでやってきたすべてのことが、弦の音のように外に広がっていった。

 

今、それらがさまざまな方向から私のもとに返ってきている。

 

要請になり、

 

保護になり、

 

敬意になり、

 

監視になり、

 

忖度になり、

 

招待になり、

 

そしてより大きな檻になる。

 

私はスマホを消した。

 

少なくとも今夜は、返事を出さない。

 

私はAfterToneを出て、振り返って舞台を見た。

 

明かりはもう消えていた。

 

しかし私は、まだ昨日の演出の音を思い出すことができた。

 

日和のドラム。

 

陽菜の歌声。

 

澪のベース。

 

そして、私がデータラインを切断したときの、あの一音のハーモニクス。

 

それは残された。

 

戦闘記録としてではなく、

 

余響楽団の音楽として。

 

それが、私に少しだけ勇気を与えてくれた。

 

ソレンセンが闇の中で静かに言った。

 

「次は、もっと大きな網が来る」

 

私は夜の闇の中を歩きながら、小さく答えた。

 

「なら、次にまた考えればいい」

 

「逃げているな」

 

「うん」

 

私は認めた。

 

「今夜はただ、家に帰りたいだけだ」

 

ソレンセンが笑った。

 

嘲笑でもなく、

 

反論でもなく、

 

ただ、暗がりの中で次の弦が弾かれるのを待っているかのように。

 

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