俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第57章 言えない遅刻の理由、そして私が二つの世界を隔てたこと
大学生活が五週目に入ってから、私はようやく一つのことを本当の意味で理解した。
いわゆる「バランス」とは、すべてのことをはっきりさせることではない。
一部のことは、言ってはいけない。
言いたくないからではない。
彼女たちを危険に巻き込みたくないからだ。
日和、陽菜、澪は、私が具体的に何をしているのかを知らない。
彼女たちはただ、私が時々「大学の用事」「研究会の用事」「臨時の協力」「家に用事がある」などの理由で遅刻することを知っているだけだった。
彼女たちは特調室のことを知らない。
旧映画館のことを知らない。
神奈川の写真展ギャラリーのことを知らない。
誰かが神社の絵馬掛けで黒弦を模倣したことを知らない。
ましてや、私の体の中の黒海に、封印された暗色の存在がいることを知るはずもない。
その名前を知っているのは、私だけだ。
外の人は知らない。
特調室も知らない。
京都も知らない。
天城も知らない。
御影も知らない。
玄海と四国も知らない。
彼らはただ、「下北沢黒弦」にある危険で精密な切断能力があることを知っているだけだった。
一部の人はそれを里人格だと推測した。
一部の人は封印系の能力だと推測した。
一部の人はそれを黒弦源と呼んだ。
一部の資料には「未解析高危力量」と書かれていた。
しかし本当の名前を知っている者はいない。
また、知るべきでもない。
私はこのことをメモに書いた。
その名前を言わない。
楽隊に退魔のことを話さない。
退魔界に楽隊を近づけない。
秘密を親密さの証明にしない。
最後の文は、私が最近ようやく理解したことだった。
以前、私は彼女たちに真相を話さないのは、彼女たちに対して申し訳ないのではないかと思っていた。
しかし、もし話すことが私の罪悪感を軽くするためだけで、彼女たちを危険に晒すことになるなら、それは信頼ではない。
それは重さを彼女たちに移すことだ。
私はそんなことをしてはいけない。
ソレンセンが意識の奥で低く笑った。
「君はようやく、沈黙もまた保護であることを理解した」
私は顔を伏せた。
「そんな口調で言わないで」
「事実だ」
「でも私はそれでも苦しい」
「当然だ」
彼の声には少し愉悦が混じっていた。
「他人を守ることは、いつも自分を痛ませる」
私は反論しなかった。
なぜなら彼の言う通りだったからだ。
その日は水曜日だった。
午前中は基礎演習。
午後は地域音楽研究会。
夜は本来AfterToneの練習に行く予定だった。
計画はとても明確だった。
大学。
研究会。
楽隊。
特調室はなく、
灰色の予定もなかった。
私は大学から直接AfterToneに行くために、夕飯前に食べるおにぎりを先に買っていた。
しかし研究会の活動が終わった後、携帯が震えた。
特調室。
私は活動室の入り口に立ち、指が止まった。
瀬川会長が録音機材を片付けていた。
相原真紀さんが聞いた。
「白川さん、どうしたの?」
私は即座に携帯を掌に隠した。
「い、いや、何でもない」
これは良い答えではなかった。
しかし彼女は追及しなかった。
私は廊下の端まで行って電話に出た。
眼鏡の女性の声はいつもより低かった。
「白川さん、すみません。臨時のリモート判断です。五分から十分で済みます」
私は小さく息を吐いた。
リモート判断。
現場ではない。
「どんな事件ですか?」
「東京西部の地下練習室。壁面に黒い線状の痕跡が現れ、学生楽隊のメンバーが、自分ではないギターの音を聞いたと言っています」
学生楽隊。
地下練習室。
黒い線状の痕跡。
これらの言葉が重なった瞬間、私の心がすぐに沈んだ。
「怪我をした人はいますか?」
「いない。しかし今夜も予約者がいるので、すでに一時的に封鎖しています」
「資料を送ってください」
写真が送られてきた。
壁面に三本の黒い線。
細く、不規則で、まるで誰かが木炭で引いたようだった。
しかし一番真ん中の線に、引き裂かれた楽隊のポスターが貼ってあった。
ポスターのギタリストの顔が消されていた。
私は眉を寄せた。
普通の落書きではない。
私の力でもない。
あの名前そのものでもない。
ただ誰かが「黒弦」というシンボルを模倣しているだけだった。
しかも学生楽隊の練習室を選んで。
これはとても不快だった。
ソレンセンが冷たく言った。
「また泥で描いた偽の線だ」
私は心の中で言った。
「黙って」
眼鏡の女性が聞いた。
「現場に行く必要はありますか?」
私は時間を確認した。
今から現場に行ったら、間違いなくAfterToneに間に合わない。
もしリモート判断だけなら、もしかするとまだ間に合うかもしれない。
私は写真を拡大して、壁面の接続を確認した。
深層汚染はない。
拡散もしていない。
しかし軽い誘導はあった。
それは人を傷つけるためではなく、
練習室にいる人に「自分が置き換えられる」という感覚を与えるためだった。
まるで悪意は小さいが、方向が非常に悪い試探のようだった。
私は言った。
「現場は必要ありません」
電話の向こうが一瞬、静かになった。
「本当ですか?」
「本当です。まず予約記録を調べてください。この人は汚染を発生させるためではなく、『黒弦』というシンボルを学生楽隊に貼り付けるためかもしれません」
眼鏡の女性の声が少し冷たくなった。
「わかりました」
「除去するときは壁全体を封じ込めないでください。ポスター、傷跡、練習者の自己認知の間の接続だけを切断してください。映像系二組で処理してください」
「了解しました」
私は少し間を置いてから、もう一言加えた。
「この事件を拡大しないでください」
「なぜですか?」
「なぜなら彼らは、私が来ることを期待しているかもしれないから」
眼鏡の女性が沈黙した。
それから言った。
「試探的な模倣事件として処理し、外部勢力には通知しません」
「うん」
通話は終わった。
八分。
私は廊下に立ち、手のひらが少し冷たくなっているのを感じた。
わずか八分だった。
しかしこの八分の間、私は大学の研究会メンバーから、黒弦の模倣事件を判断する人間に戻っていた。
そして、私はまた普通の表情で戻らなければならなかった。
相原真紀さんが活動室から出てきて、私が廊下の端に立っているのを見た。
「白川さん、大丈夫?」
私は頷いた。
「うん。ちょっと用事があっただけ」
「急用?」
「もう大丈夫」
彼女は追及しなかった。
ただ言った。
「じゃあ、一緒に駅まで?」
私は時間を確認した。
「今日は別のところに行くんです」
「楽隊?」
私は体が一瞬、硬くなった。
「うん」
これは本当だった。
少なくともこれから先は本当だった。
相原さんが微笑んだ。
「じゃあ、練習頑張って」
「ありがとう」
彼女は私に手を振って去った。
私はその場に立ち、深呼吸をした。
彼女はさっき何が起きたのかを知らなかった。
これはとても良かった。
本当に良かった。
AfterToneに向かう途中、私は日和にメッセージを送った。
少し遅れるかも。大学で臨時の用事があった。
この一文は完全に嘘ではなかった。
私は確かに大学で臨時の用事を受け取った。
ただ内容は研究会資料でも、授業の問題でもなかった。
日和はすぐに返信してきた。
大丈夫。道中気をつけて。
陽菜がグループで送ってきた。
小音、ゆっくり来て!
澪が送ってきた。
おにぎり残しておく。
私はこれらのメッセージを見つめていて、心が少し酸っぱくなった。
彼女たちは私がさっき何を見たのかを知らなかった。
学生楽隊の練習室に「黒弦」というシンボルが貼り付けられたことを知らなかった。
私が現場に行って確認したくなったことを知らなかった。
彼女たちはただ、私におにぎりを残してくれた。
これこそ、私が守りたいものだった。
すべてを知る親密さではない。
危険に巻き込まれない普通さだった。
ソレンセンが意識の奥で言った。
「君はまた痛んでいる」
「うん」
「なぜなら君は彼女たちに話したかったから」
「うん」
「話せばもっと楽になる」
「私にとっては」
「彼女たちにとっては?」
私は答えなかった。
彼は低く笑った。
「君は答えを知っている」
私はもちろん知っていた。
だから私は話さない。
AfterToneに着いたとき、すでに二十五分遅れていた。
陽菜が発声を練習していた。
澪がソファに座っておにぎりを食べていた。
日和が練習表を見ていた。
私が入ってくるのを見て、日和が顔を上げた。
「来た」
私は顔を伏せた。
「ごめん、遅れて」
「大丈夫。今日は二曲目から始めよう」
彼女はなぜ遅れたのかを聞かなかった。
これが逆に私をより苦しくさせた。
もし彼女が追及したら、私は準備していた理由を使えた。
しかし彼女は聞かなかった。
彼女は空間を私に残してくれた。
私はギターを手に取った。
指先が弦に触れたとき、心がようやくゆっくりとここに戻ってきた。
一曲目は私がいない曲だった。
二曲目から、私は入った。
最初は少し遅かった。
日和がすぐに気づいて、ドラムを少し軽くした。
陽菜が振り返って私を見て、微笑んだ。
澪のベースが安定してリズムを支えた。
彼女たちは私がさっき何をしたのかを知らなかった。
しかし彼女たちは、私の今の状態が安定していないことを知っていた。
だから彼女たちは音楽で私を迎え入れてくれた。
この迎え入れは、秘密を知る必要がなかった。
これで私は演奏中にほとんど我を失いそうになった。
ソレンセンが低く言った。
「彼女たちは君を巣に引き戻すのが上手い」
私は顔を伏せて、弾き続けた。
「うん」
練習が終わった後、澪がおにぎりを私に渡してくれた。
「残しておいた」
私は受け取った。
「ありがとう」
陽菜が近づいてきた。
「小音、今日は研究会が忙しかったの?」
私は少し間を置いた。
「うん。録音機材を学んだり、少し臨時の処理をしたりした」
この一文は依然としてとても曖昧だった。
しかし完全に嘘ではなかった。
陽菜は深く考えなかった。
「録音機材! すごい専門的!」
澪が聞いた。
「ご飯の音も録れるの?」
日和が笑った。
「ご飯に音はないでしょ」
澪が真剣に答えた。
「噛むときはある」
私は顔を伏せて、少し笑った。
笑った後、胸の奥がようやく少し軽くなった。
日和が私の隣に座った。
「大学と楽隊の両方を掛け持ちするのは、疲れるよね」
私は頷いた。
「少し」
彼女が私を見ていた。
「もし本当に疲れてどうにもならなくなったら、言ってね」
「うん」
「遅刻したときだけ説明する必要があるわけじゃない」
私の指が一瞬、強く握りしめた。
彼女は本当の理由を知らない。
しかし彼女は感じ取っていた。
私は時々、ただの普通の疲労ではないことを。
私は低く言った。
「私はできるだけ言うようにする」
「できるだけ、じゃない」
日和が静かに言った。
「言うんだよ」
私は頷いた。
「うん」
しかし私は知っていた。
私が言えるのは、一部だけだ。
たとえば今日は疲れた。
たとえば大学で用事があった。
たとえば少し練習を少なくしてほしい。
これらは言える。
しかし言えないことは、依然として言えない。
この線は、私が守らなければならない。
同じ頃、東京特調室は地下練習室の事件の処理を始めていた。
映像系二組が到着した後、私の判断通りに壁面の傷跡、楽隊ポスター、練習者の自己認知の間の汚染線を切断した。
汚染はとても浅かった。
現場に拡散はなかった。
最終的に、これは中小規模の模倣団体が残した試探であることが確認された。
彼らは本当に黒弦の力を掌握していたわけではなかった。
ただネット掲示板の噂を見て、「学生楽隊」と「下北沢黒弦」の間に何らかのつながりがあるかもしれないと思い、私を現場に引き出そうとしただけだった。
眼鏡の女性が報告に書いた。
目標本人がリモート判断で正確に対応し、現場には出なかった。事件は拡散しなかった。
久我山統括官がそれを見て、言った。
「良い」
若い分析官が聞いた。
「良いというのは、事件の処理のことですか?」
「彼女が引き出されなかったことも含めてだ」
久我山統括官が報告を見つめていた。
「今後、楽隊、LiveHouse、学生音楽空間に関わる事件は、まず彼女を現場に引き出すための誘導かどうかを判断するように」
眼鏡の女性が頷いた。
「すでに新しいフローに追加した」
若い分析官が小声で言った。
「相手は彼女がこういう場所を重視していることを知っているんですか?」
眼鏡の女性が冷たく言った。
「多くの人が知っている」
「しかしなぜ重視しているのかは知らない」
久我山統括官が続けた。
「知る必要もない」
会議室が静かになった。
はい。
知る必要はない。
彼らはAfterToneが彼女にとって何を意味するのかを知る必要はない。
彼女の中に本当に何が封印されているのかを知る必要もない。
あの名前を知る必要もない。
保護とは、すべてを明らかにすることではない。
京都側も模倣事件の通報を受け取っていた。
七条がそれを見て、表情がとても冷たかった。
「黒弦のシンボルを学生楽隊の練習室に貼り付ける」
老委員が眉を寄せた。
「とても悪質だ」
「高危汚染ではないが、意図がとても悪い」
七条が言った。
「彼らは彼女が音楽空間を重視していることを知っている」
老委員が聞いた。
「京都は何をすべきか?」
「関連家系に通知し、この事件の詳細を広めないようにする」
七条が少し間を置いた。
「特に彼女の大学研究方向と結びつけないように」
老委員が頷いた。
「こういうことが広まれば、もっと馬鹿が模倣する」
七条が通告に書いた。
黒弦のシンボルを学生音楽空間と扇動的に結びつけてはならない。
白川一音の私的動機を推測してはならない。
彼女の楽隊関係に接触してはならない。
最後の条を、彼女は特に重く書いた。
なぜなら彼女は知っていた。
そこが底线だからだ。
天城グループも自社の文化プロジェクトを緊急に確認した。
天城美咲が地下練習室事件を見たとき、顔色がすぐに悪くなった。
「彼らは音楽空間を利用して彼女を誘い出そうとしている?」
天城怜司が頷いた。
「そのようだ」
彼女が少しの間、沈黙してから言った。
「天城傘下の学生音楽空間に関わるすべてのデータプロジェクトを、外部共有を停止する」
一人の委員が聞いた。
「私たちと関係ないものも停止するのか?」
「する」
「なぜ?」
「なぜなら、どんな場所のデータが流出しても、彼女が重視している場所を探すために使われる可能性があるから」
天城怜司は反対しなかった。
天城美咲がもう一言加えた。
「それから、内部で彼女がなぜそういう場所を重視しているのかを議論してはならない」
その委員が一瞬、固まった。
「しかしリスク分析には動機の判断が必要だ」
美咲が彼を見た。
「彼女の動機は天城のデータではない」
この一文は今、彼女の原則になっていた。
天城怜司が静かに頷いた。
「その通りにしろ」
御影家はより直接的に処理した。
御影冬子が言った。
「模倣団体の背後の伝播チェーンを調べろ」
御影秋人が聞いた。
「御影が動くのか?」
「調べるだけ。白川一音には接触しない」
御影秋人が頷いた。
「今回は私も同意する」
御影冬子が彼を一瞬見た。
「あなたは珍しく余計なことを言わない」
「なぜなら今回は本当に線を踏み越えたからだ」
彼が静かに言った。
「彼女が重視している普通の空間を利用して彼女を誘い出す。これは下品だ」
御影冬子が少しの間、沈黙した。
「だからこそ、彼女に後続の処理を知らせてはいけない」
「なぜ?」
「彼女は自責する」
御影秋人がため息をついた。
「そうだ」
「彼女はきっと、楽隊を重視しているからこそ、誰かが学生練習室を狙うようになったのだと思うだろう」
御影冬子が冷たく言った。
「それは彼女のせいではない」
「しかし彼女はそう思う」
会議室が静かになった。
最後に、御影冬子が言った。
「だから後続の処理は彼女を通さない」
私はこれらのことを知らなかった。
私はただ、翌日、眼鏡の女性からメッセージを受け取った。
地下練習室事件は処理済み。高危ではない。あなたが現場に出る必要はない。
私は「現場に出る必要はない」という一行を、長い時間見つめていた。
それから返信した。
学生たちは大丈夫ですか?
彼女はすぐに返信してきた。
影響を受けた者の状態は安定している。練習室は一時的に閉鎖して清掃中。後で使用可能になる。
私は小さく息を吐いた。
使用可能になる。
これはとても重要だった。
しかし心にはまだ少し沈んだものがあった。
なぜなら私は知っていた。
誰かが音楽空間を、私を誘い出す餌にし始めていたからだ。
これは初めてではなかった。
そして最後でもないだろう。
私は大学食堂の片隅に座り、携帯を手に持ったまま、ご飯を半分食べたところだった。
相原真紀さんがトレイを持って向かいに座った。
「白川さん?」
私は即座に携帯を伏せた。
「うん?」
「顔色があまり良くないよ」
「少し疲れて」
これは本当だった。
相原さんは追及しなかった。
「今日の午後は心理学の授業だよね?」
「うん」
「前回の先生は、防衛機制について話すって言ってた」
防衛機制。
この言葉で、私は心が少し動いた。
もしかすると私が今一番得意としているのは、防衛機制かもしれない。
沈黙。
話題を逸らす。
情報の制御。
危険な接続の切断。
相原さんがご飯を一口食べて、言った。
「心理学の授業、だんだん面白くなってきたね」
私は頷いた。
「うん」
彼女は前回の授業の内容を話し始めた。
私は聞きながら、心がゆっくりと地下練習室事件から少しずつ抜け出していくのを感じた。
これが大学生活の力の一つだった。
それは私を普通の話題に引き戻してくれる。
強引に慰めるわけではない。
ただ、私が戻れる「今」を与えてくれる。
午後の心理学の授業で、先生が「秘密と心理的負担」について話した。
これはあまりにも偶然だった。
私は教室に座り、ペン先が止まった。
先生が言った。
「すべての秘密が悪意から来るわけではない。一部の秘密は自分や他人を守るためのものだ」
私は顔を低く垂れた。
「しかし長期にわたって一人で秘密を背負うことは、負担になる。だから人は適切な表現方法を見つける必要がある。表現とは必ずしもすべてを話すことではなく、書くこと、芸術、音楽、運動、または安全な範囲で自分の気持ちを共有することでもいい」
私はゆっくりと書き留めた。
表現とは、必ずしもすべてを話すことではない。
この一文は、まるで私に少し許可を与えてくれたようだった。
私は日和たちにすべてを話すことはできない。
しかし私は彼女たちにこう言うことができる。
今日は少し疲れた。
私はギターを通じて表現できる。
練習を通じて彼女たちの元に戻ることができる。
報告を書ける。
メモを書ける。
真相を暴露しない範囲で、自分の状態を話すことができる。
これは全部を欺くことではない。
境界を守ることだった。
ソレンセンが低く言った。
「人間の授業は今日、役に立つことを言った」
「うん」
「表現とは、必ずしも秘密を漏らすことではない」
「そうだ」
「君は少し痛みが和らぐかもしれない」
私は答えなかった。
しかし私はこの一文に線を引いた。
夜、私は小さなアパートに戻った。
AfterToneには行かなかった。
今日は練習がなかった。
私は麺を茹でた。
今回は茹ですぎなかった。
食べ終わった後、私は新しいパソコンを開き、大学報告を書いた。
半分くらい書いたところで、またメモを開いた。
新しく一行を追加した。
楽隊に真相を話すことはできないが、彼女たちに私の状態を伝えることはできる。
私は誰にもあの名前を話すことはできない。
外界は黒弦のことは知っているが、本当の出所は知らない。
秘密は親密さの証明ではない。
守りたい人に秘密を移してはならない。
書き終えた後、私はこれらの言葉を長い時間見つめていた。
ソレンセンが口を開いた。
「君は吾を『あの名前』と書いた」
「書けない」
「臆病だ」
「慎重だ」
「君は、書いたら線になるのが怖いのか?」
「うん」
彼が低く笑った。
「名前は確かに線だ」
私の指が一瞬、固まった。
「だからこそ、書けない」
「好きにしろ」
私はメモを閉じた。
部屋はとても静かだった。
冷蔵庫に「ご飯を忘れずに」と「飯」の付箋が貼ってあった。
机の上は新しいパソコン。
壁際はギター。
時間割の横には灰色の特調室予備があった。
灰色は少なかった。
しかしそれは存在していた。
私は灰色に他の色を飲み込ませてはいけない。
また、他の人に灰色の中に何があるのかを知らせてはいけない。
これが今の生活だった。
完璧ではない。
しかしまだ続けられる。
翌日、AfterToneの練習。
私は予定より早く着いた。
これは昨日の遅刻に対する、少しの埋め合わせだった。
陽菜が私を見てとても喜んでくれた。
「小音、今日はずいぶん早い!」
澪が言った。
「早いおにぎり」
意味はわからなかった。
日和が私を見て、静かに聞いた。
「昨日は休めた?」
私は頷いた。
「まあまあ」
「本当に?」
私は少し間を置いた。
以前なら、私は「本当に」と言うかもしれない。
しかし心理学の授業のあの言葉がまだ頭の中にあった。
表現とは、必ずしもすべてを話すことではない。
そこで私は言った。
「実は少し疲れていた。でも昨日よりはマシ」
日和が私を見て、頷いた。
「なら、今日は無理しないで」
「うん」
彼女は疲れた理由を追及しなかった。
私も話さなかった。
しかし今回は、私は完全に彼女を騙しているとは感じなかった。
私は言える部分を話した。
これは以前より、少しだけ良かった。
練習が始まると、私のギターの音は前日より安定していた。
日和のドラムが追従した。
陽菜の歌声が明るく響いた。
澪のベースが低く全体を支えた。
私は自分の位置に立った。
秘密を口に出さなかった。
しかし秘密に完全に押しつぶされることもなかった。
これが今日、できる限りのバランスだった。
同じ頃、地下練習室事件の後続は、非常に小さな範囲に抑えられた。
模倣団体の数人が特調室に連行されて調査された。
彼らはソレンセンを知らなかった。
黒弦が本当に何であるかも知らなかった。
彼らはネット掲示板の噂を見て、「学生楽隊」と「下北沢黒弦」の間に何らかのつながりがあるかもしれないと思い、シンボルを使って私を引き出そうとしただけだった。
彼らは失敗した。
なぜなら私は行かなかったから。
特調室が拡散を止めたから。
また、ますます多くの勢力がようやく、私の普通の関係を外に持ち出して議論してはならないことを理解し始めていたから。
今回は、全国を震撼させることはなかった。
大勢力の会議が公にエスカレートすることもなかった。
フォーラムのホット投稿もなかった。
AfterToneが言及されることもなかった。
余響楽隊が巻き込まれることもなかった。
これが最善の結果だった。
すべての事件が伝説になる必要はない。
一部の事件は、静かに消えるのが一番良かった。
夜に小さなアパートに戻った後、私は時間割を開いた。
明日は地域文化論があった。
午後は研究会で初めての録音練習の記録を整理しなければならなかった。
週末はAfterToneの練習。
来週は研究会の初めての活動。
特調室の灰色予備は、しばらく空いていた。
私はその空白を見つめていて、少し息を吐いた。
今日、新しい任務はなかった。
新しい餌もなかった。
新しい模倣線もなかった。
私はパソコンを開き、報告を書き続けた。
題目は、
音の記録における同意と境界。
私は最初の文を書いた。
他人の音を記録するとき、大事なのは完全な情報を捕捉することではなく、相手が提示したい範囲を尊重することである。
書き終えた後、私は手を止めた。
この一文は、まるで私自身を書いているようだった。
他人は私の全部を捕捉すべきではない。
私も、守りたい人に全部を渡すべきではない。
人はそれぞれ、提示したい範囲を持っている。
境界とは隔絶することではない。
関係が続けられるための線である。
ソレンセンが意識の奥で言った。
「君は今日、新しい言い方を学んだ」
「うん」
「境界とは隔絶することではない」
「線だ」
「線は切れる」
「つなげることもできる」
黒海が少しの間、静かになった。
それから彼が笑った。
「君はどんどん、吾と線の定義を争うようになっている」
「かもしれない」
私は報告を書き続けた。
窓の外は東京の夜。
小さなアパートはとても静かだった。
AfterToneの音はまだ指に残っていた。
秘密はまだそこにあった。
あの名前はまだ黒海の奥にあった。
しかし少なくとも今、二つの世界はぶつかっていなかった。
私は遅刻の理由を守った。
そして、言えない名前も守った。