俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第65章 九州の夏の海と黒い線、そして私が退魔を夏休みの日程に入れたこと
仮免試験に合格した後、私は本来、夏休みがようやく少し静かになると思っていた。
少なくとも数日間は。
私はインターンのまとめを整理し終え、
AfterToneの練習に行き、
路上教習前の学科問題を続け、
小さなアパートで失敗しないように麺を茹でてみたかった。
しかし仮免合格の翌日、特調室から連絡があった。
眼鏡の女性の第一声は相変わらずだった。
「普通の要請ではない。」
私は携帯を握りしめ、心がゆっくり沈んでいくのを感じた。
「どこ?」
「九州。」
九州。
この言葉を聞いたとき、私の最初の反応は旅行でも海でもなかった。
玄海湾。
潮鏡社。
海底通信ノード。
そして宗像怜央と白髪の宮司だった。
「玄海鎮守?」
「そうだ。玄海鎮守聯合から正式な協力要請が出ている。」
「本当に私が行く必要があるの?」
電話の向こうが少し沈黙した。
「彼らはすでに三回処理した。しかし核心の接続がずっと回復している。」
私は机の上の仮免資料を見下ろした。
「どんな事件?」
「九州北部のある旧海蝕洞。現地では『潮返洞』と呼ばれている。元々は祭礼関連の場所で、今は封鎖されている。最近、近くの観光客が陸地の方から海の音が聞こえると言い始め、方向感覚の混乱が起きている。」
「方向感覚の混乱?」
「海辺に向かう人が、自分は内陸に向かっていると思い込む。海岸から離れる人が、自分は海に向かっていると思い込む。」
私の指が一瞬強くなった。
「怪我をした人はいる?」
「現在、三人が軽傷。一人の現地調査員が行方不明になって六時間後に自分で戻ってきたが、彼は『ずっと岸にいた』と言っている。」
「実際は?」
「彼は当時、潮間帯の岩礁の上にいて、満潮の十分前に発見された。」
私は沈黙した。
これは普通の小さな事件ではなかった。
海の音で方向感覚が歪められ、満潮時や夜間に起きれば、簡単に人が死ぬ。
眼鏡の女性が続けた。
「玄海鎮守は、旧祭礼の音声と潮鏡社の残留汚染が重なったものだと考えている。九州側は洞を封じ込めることはできるが、封じ込めると汚染が近くの漁港に拡散する可能性がある。」
「だから切断が必要なんだ。」
「そうだ。海の音、方向感覚、祭礼の残響、潮鏡社の残留の間の誤った接続を切断してほしい。」
私は目を閉じた。
京都の旧音声保存庫の後、また音だった。
ただ今回は、保存庫の中の音ではなく、
海だった。
ソレンセンが意識の奥で低く笑った。
「海の虫の巣がまたお前を呼んでいる。」
私は心の中で言った。
「黙って。」
しかし彼の言うことは完全に間違ってはいなかった。
九州の海は、なぜかいつも私を呼び戻すようだった。
私は夏休みの日程を一瞬見た。
インターンはすでに終わっていた。
AfterToneの次の練習は三日後。
運転学校の路上教習の予約は四日後。
今日出発して、明日処理し、明後日東京に戻れば、理論上は間に合う。
理論上は。
私は聞いた。
「何日必要?」
眼鏡の女性が答えた。
「一泊二日を予定している。現場が複雑なら、二泊三日になる可能性もある。」
私はすぐに言った。
「三日を超えてはいけない。」
「わかった。」
「四日後に運転教習がある。」
電話の向こうがまた少し静かになった。
それから眼鏡の女性が言った。
「スケジュール制限に書き込んでおく。」
彼女は笑わなかった。
また、変だとも思わなかった。
ただ真剣に記録した。
白川一音は四日後に運転教習がある。
これで私の心が少し落ち着いた。
なぜなら彼女は、このことも重要であることを認めてくれたからだ。
私はAfterToneのグループにメッセージを送った。
この二日間、外地で用事がある。練習前には戻れるはず。
陽菜がすぐに返信してきた。
夏休みも忙しいね! 小音、道中気をつけて!
澪が送ってきた。
九州飯?
私は一瞬驚いた。
私は九州とは言っていない。
それから澪がまた送ってきた。
外地に行くなら、現地の飯を食べなきゃ。
つまりそういう意味だった。
私は小さく息を吐いた。
日和が送ってきた。
無理をしないで。インターン後の疲労を長引かせないように。戻ったら練習を調整しよう。
返信した。
うん。
彼女たちは私が退魔に行くことを知らない。
また、今回はまた海の音と旧祭礼であることも知らない。
これはよかった。
必ずこうあるべきだった。
九州に向かう新幹線の中で、私は運転教材を持っていた。
それにインターンのまとめも。
これはもう私の習慣になっていた。
特調室に連れていかれるたびに、私は普通の生活のものをバッグに入れる。
実際にどれだけ真剣に勉強できるからではない。
ただ、自分にこう言い聞かせる必要があったからだ。
私は任務だけに属しているわけではない。
私はついインターンを終え、運転免許を勉強中で、夏休みには練習もある大学生なのだ。
ソレンセンが言った。
「毎回、紙の束を持って逃難する弱小動物のようだ。」
「これは生活の連続性だ。」
「あなたはこの言葉が本当に好きだな。」
「なぜなら役に立つから。」
「紙はあなたを救えない。」
「しかしそれは、私が戻ることを思い出させてくれる。」
黒海が少しの間、静かになった。
それから彼が低く言った。
「あなたはますます、戻れないことを恐れている。」
私は答えなかった。
なぜならこの一文はあまりにも正確だったからだ。
毎回任務に出るたびに、私はおそらく戻れるとわかっていた。
しかし「たぶん」は絶対ではない。
もし一度でも戻れなかったら、大学の時間割、運転教材、AfterToneの練習、インターンフォルダーは、すべてそこで止まってしまう。
だから私はもっと慎重にならなければならなかった。
死ぬのが怖いからではない。
今、私は戻るべき場所がたくさんあるからだ。
九州に着くと、宗像怜央が駅で迎えてくれた。
彼は前より少し大人びていた。
少なくとも大勢の人間を連れてきていなかった。
また、過度に礼を尽くすこともなかった。
ただ私を見たとき、真剣に頭を下げた。
「白川さん、遠くまでお疲れ様です。」
私は頷いた。
「こんにちは。」
白髪の宮司も車の中にいた。
彼が笑いながら言った。
「夏休みにお呼び立てして、本当に申し訳ありません。」
「危険があるなら、処理しなければならない。」
この一文は本心だった。
なぜなら九州は今回は最初に私を探してこなかったからだ。
彼らは三回処理し、自分たちでは完全に解決できないことを確認してから、特調室を通じて正式に要請してきた。
これは以前とは違っていた。
彼らは私をデフォルトの答えとして扱うことを学んでいた。
宗像怜央が運転する間、私は後部座席に座っていた。
私は窓の外の夏の九州を見ていた。
日差しは強かった。
道端には濃い緑の木々があった。
遠くには時々海の色が見えた。
もし任務でなければ、これは旅行のようだったかもしれない。
残念ながらそうではなかった。
車内が少しの間静かになった後、宗像怜央が言った。
「今回は場所が旧潮返洞です。昔は海辺の小さな祭礼の一部でしたが、落石と安全上の問題で封鎖されました。」
白髪の宮司が続けた。
「潮鏡社の残党が近くで活動していましたが、私たちは彼らが大型術式を再配置した痕跡は見つかっていません。」
「つまり、旧祭礼の用途が汚染によって反転した可能性がある?」
「そうだ。」
私は資料を見下ろした。
旧祭礼の役割は、出航した者を岸に導くことだったようだった。
海の音、灯火、呼名、帰港の儀式。
本来は海から岸を見つけるためのものだった。
しかし今、方向が逆転していた。
離れたい人を海に引き寄せ、
海に近づきたい人を内陸にいると思い込ませる。
これは誤った接続だった。
単なる悪意でもなく、
単なる残留汚染でもなかった。
「帰岸」という儀式が、汚染によって「誤った帰岸」に変わってしまった。
私は資料を閉じた。
「観光客の方はどう処理した?」
宗像怜央が言った。
「近くはすでに落石の危険という名目で封鎖した。」
「漁港は?」
白髪の宮司が答えた。
「今のところ影響は出ていないが、核心の汚染が拡散すれば、最初に影響を受けるのは夜間の帰港船だ。」
私は窓の外の海を見た。
夜間の帰港船。
もし彼らが誤った海の音を聞き、方向判断が歪められたら……
これは今日中に解決しなければならない。
潮返洞の近くの海風は強かった。
車を降りたとき、私はすぐに塩の匂いを感じた。
玄海湾のような開けた海面ではなかった。
ここは岩壁、岩礁、狭い湾、そして一本の封鎖された小道だった。
夏の日差しは明るかったが、洞口の近くは陰気で冷たかった。
まるで一塊の影が散らないようだった。
洞口はすでに玄海鎮守によって仮の結界が張られていた。
数人の現地の術師が外で守っており、顔色はみな疲れていた。
彼らは私を見ても、深く見つめることはなかった。
明らかに事前に言いつけられていた。
これは私を少し楽にさせた。
見物する者もおらず、
試探する者もおらず、
「黒弦様」のような奇妙な呼び方もなかった。
彼らはようやく、邪魔が少ないほどよいことを理解していた。
洞口から海の音が聞こえてきた。
しかし今、私たちの位置は水際からまだ少し距離があった。
本当の波の音は下から聞こえてくるはずだった。
しかしこの音は、まるで洞の奥から湧き出ているようだった。
一回。
一回。
まるで海が石の内部で呼吸しているようだった。
私は洞口に立ち、足元の方向感覚が軽く揺れるのを感じた。
明らかに洞口に向かっているのに、一瞬、自分は後ろが海だと思った。
ソレンセンが口を開いた。
「それはお前の岸を入れ替えている。」
「うん。」
「弱い誘導だ。」
「普通の人にとっては弱くない。」
「あなたにとっては?」
「とても煩わしい。」
私はすぐに中に入らなかった。
まずしゃがみ込んで地面に触れた。
三層の線があった。
第一層は旧祭礼の線。
とても古いが、悪意はなかった。
役割は、海にいる人の感知を岸に引き戻すようなものだった。
第二層は潮鏡社の残留汚染。
とても薄いが、祭礼の線に絡みついていた。
第三層は最近形成された誤った反響。
それは「帰る」を「海に向かう」に変えていた。
だから人が誤った方向に導かれる。
宗像怜央が聞いた。
「切れるか?」
「切れる。」
私は少し間を置いてから続けた。
「しかし祭礼の線を直接切断してはならない。」
白髪の宮司が頷いた。
「それは現地の旧儀式の一部だ。直接切断すれば、漁港の守護に影響が出る可能性がある。」
「汚染だけを切断するのもだめだ。」
「なぜ?」
「汚染はすでに『方向』という概念を染めている。汚染だけを切断すれば、旧祭礼の線に反転の慣性が残る可能性がある。」
宗像怜央の表情が厳しくなった。
「ではどうする?」
私は洞口を見た。
「まず、それが本来、人を岸に戻すためのものだったことを思い出させなければならない。」
この言い方は少し奇妙だった。
しかし白髪の宮司は理解した。
「儀式が必要か?」
「あなたたちが本来の用途を言う必要がある。」
私は京都の旧音声保存庫を思い出した。
誤りは、私が切断するだけで解決するものではなかった。
管理者、守護者、継承者が本来のルールを認めなければならない。
今回は同意タグではなかった。
方向だった。
帰岸とは、人を海に引きずることではない。
守護とは、相手の足を奪うことではない。
白髪の宮司が頷いた。
「私がやる。」
私たちは潮返洞の中に入った。
洞内はとても狭かった。
地面は滑りやすかった。
海の音はよりはっきりしていた。
しかし奇妙なことに、奥に進むほど、自分は外に向かっているように感じた。
方向感覚がずれ始めていた。
宗像怜央が先頭を歩き、何度か止まってロープの標識を確認した。
彼はとても準備をしていた。
数メートルおきに実物のロープと蛍光マークがあった。
感覚に依存しない。
これはよかった。
なぜなら感覚は騙されるからだ。
私は後ろについて行き、手の指で普通のピックを握りしめていた。
黒弦はまだ現れなかった。
まだその時ではなかった。
洞の奥に一つの旧祭石があった。
そこには波の模様と鳥居のような形がぼんやりと刻まれていた。
石の横には潮鏡社の残留した金属の釘があった。
すでに玄海鎮守が一部を抜いていた。
しかしいくつかの釘の影が石の隙間に残っていた。
それらの釘の影こそが本当の厄介なところだった。
実物は抜かれた。
しかし接続は残っていた。
海の音が祭石の後ろから湧き出してきた。
それから、私は誰かが私を呼ぶのを聞いた。
名前ではなかった。
白川でもなく、
黒弦でもなく、
ただ、
「帰って来い。」
私は止まった。
声はとても優しかった。
まるで迷子の人を家に呼び戻すようだった。
しかしその方向は、洞のさらに奥だった。
それは家に帰ることではなかった。
海底だった。
ソレンセンが冷ややかに笑った。
「下手くそだ。」
私は心の中で言った。
「普通の人にとっては危険だ。」
「なぜなら普通の人は家に帰りたがるからだ。」
今回は彼の言うことは正しかった。
最も危険な誘導は、脅すことではない。
あなたが欲しいものであなたを呼ぶことだ。
帰って来い。
帰岸。
家に帰る。
もし迷子になった人がこのような声を聞いたら、歩いて行かないのは難しい。
私は目を閉じた。
心の中で条件を設定した。
「第一、吾の体を制御するな。」
「できる。」
「第二、玄海鎮守の人員と無関係の観光客を傷つけるな。」
「できる。」
「第三、旧祭礼自体を破壊するな。」
「できる。」
「第四、潮鏡の残留、誤った方向感覚、旧祭礼の帰岸線の間の汚染接続だけを切断せよ。」
「できる。」
「第五、海の音をただの海の音として存在させ、帰岸を再び岸に向かわせ、普通の人が優しい声に海に引きずり込まれないように、最小限の必要切断を行え。」
金色の鎖が軽く鳴った。
契約成立。
黒弦が私の足元から滑り出た。
洞内の海の音が激しく大きくなった。
まるで何かが私が動こうとしていることを知ったようだった。
宗像怜央がすぐに護符を展開した。
白髪の宮司が祭石の前に立ち、両手を合わせた。
彼の声は大きくなかったが、洞内ではとてもはっきりしていた。
「潮返の祭は、本来、帰る者を岸に導くためのもの。」
「人を奪うためではない。」
「道を乱すためではない。」
「人の足を奪うためではない。」
海の音が震えた。
私はピックを掲げた。
第一本の黒弦が、金属の釘の影と祭石の間の汚染接続に向かった。
パチリ。
洞壁から滲み出ていた水が一瞬止まった。
第二本の黒弦が、「帰って来い」という言葉と洞の奥の間の誤った方向に向かった。
パチリ。
その「帰って来い」という声がぼやけた。
第三本の黒弦は海の音を切断しなかった。
ただ海の音を「命令」から剥がし出した。
それを再び自然の音に戻した。
波はただの波。
召喚ではない。
命令ではない。
罠ではない。
海の音が後退し始めた。
宗像怜央が低く言った。
「方向感覚が少し回復した。」
白髪の宮司が続けて唱えた。
「帰岸する者は、自ら岸を見る。」
「守る者は、その足を奪わない。」
「海の音は音であって、命ではない。」
私の指が痺れ始めた。
今回の切断は想像より細かかった。
なぜなら旧祭礼自体が抵抗していたからだ。
悪意による抵抗ではない。
ただ、それがあまりにも長い間正しく使われていなかったからだ。
潮鏡に汚染された後、それは誤った方向に慣れてしまっていた。
それを回復させるには、少しずつ元の位置に戻さなければならなかった。
まるで音のずれた弦を調整するように。
急げば切れる。
遅すぎれば海の音に引きずられる。
ソレンセンが低く言った。
「あなたは最近、いつも他人の壊れた巣を修復している。」
「黙って。」
「これは虫を殺すより面倒だ。」
「しかしより役に立つ。」
「あなたはますますあのドラマーに似てきた。」
私は彼を構っていられなかった。
私は切り続けた。
一本。
また一本。
潮鏡の残留が祭礼の線から剥がされた。
誤った反響が「帰岸」という概念から分解された。
金属の釘の影が少しずつ薄れていった。
最後には、ただ一本のとても古く、弱いが、方向が正しい線だけが残った。
それは洞口から外の岸に向かっていた。
海に向かうのではなく、
岸に向かっていた。
私は優しく一撥した。
まるでギターの一番低い弦を弾くように。
ん。
洞内の海の音が忽然と、本当の海の音になった。
外から聞こえてくる。
遠く。
広く。
はっきり。
もはや石の奥から人を呼ぶものではなかった。
宗像怜央がゆっくり息を吐いた。
「回復した。」
私は黒弦を回収した。指は冷たかった。
「あと三日封じ込めなければならない。」
白髪の宮司が頷いた。
「私たちがやる。」
「観光客のルートをすぐに開放してはいけない。」
「もちろん。」
私は祭石を見た。
「また、旧祭礼を将来文化資料として保存するなら、音だけを記録してはいけない。本来の用途と制限も記録しなければならない。」
白髪の宮司が真剣に頷いた。
「私は再整備案に書き込む。」
私はインターンのときに高橋さんが言った言葉を思い出した。
場所と活動にはルールを説明する必要がある。
そうでなければ善意も危険になる。
ここも同じだった。
本来人を岸に帰すための祭礼が、ルールを失えば、人を海に引きずり込むものになる。
洞から出たとき、日差しは強かった。
私は一瞬、目を開けられなかった。
外の海風はとても現実的だった。
波の音も現実的だった。
もはや後ろから私を呼ぶものではなかった。
私は岩壁の横に立ち、手すりに寄りかかった。
宗像怜央が近づいてきた。
「白川さん、お疲れ様でした。」
「まあまあ。」
実際はとても疲れていた。
しかし京都の旧音声保存庫よりは軽かった。
なぜなら今回は、誤りの核心が比較的明確だったからだ。
宗像怜央が海を見ながら言った。
「今回は、私たちで最後まで処理できるはずだ。」
私は頷いた。
「うん。」
彼はとても真剣に言った。
「今後、似たような事件があったら、私たちはまず旧祭礼の用途が汚染されたものかどうかを確認する。最初から封じ込めようとは思わない。」
私は彼を一瞬見た。
「それはいいことだ。」
彼は少し安堵したようだった。
白髪の宮司が近づいてきて、笑いながら言った。
「今日は夜に東京に戻るのか?」
「明日の朝だ。」
「なら、せめて九州の飯を食べていけ。」
私は澪のメッセージを思い出した。
外地に行くなら、現地の飯を食べなきゃ。
それで私は頷いた。
「うん。」
夜、玄海鎮守が手配してくれたのは豪華な宴席ではなかった。
近くの普通の定食屋だった。
これは私をとても感謝させた。
焼き魚、味噌汁、ご飯、おかず。
私は写真を撮ってAfterToneのグループに送った。
澪がすぐに返信してきた。
合格。
陽菜が送ってきた。
美味しそう! 小音、外地の用事……外地の事情、お疲れ!
彼女は任務と書きそうになったのか?
いや、彼女は知らない。
おそらくただの口の間違いだった。
日和が送ってきた。
食べてから早く休んで。戻ったら練習は急がなくていい。
私は携帯を見つめ、心がゆっくり緩んでいくのを感じた。
宗像怜央が向かいに座り、私の表情に気づいた。
彼は何も聞かなかった。
ただこう言った。
「あなたには戻る場所があるんだな。」
私は顔を上げた。
彼はすぐに自分が少し越界したことに気づいたようだった。
「すみません。」
私は首を振った。
「大丈夫。」
彼が真剣に言った。
「九州側は、あなたを長く引き留めない。」
この一文は少し不器用だった。
しかしとても誠実だった。
私は低く魚を一口食べた。
「ありがとう。」
同じ夜、九州側は初步報告を東京に送った。
潮返洞の方向反転異常は解除された。旧祭礼線は保持。潮鏡社の残留汚染は剥離。人員の負傷なし。
眼鏡の女性が受け取った後、私にメッセージを送ってきた。
明朝東京に戻れ。後続は九州が処理する。今週は他の協力は配置しない。
返信した。
わかった。
それからもう一行追加した。
四日後に路上教習がある。
彼女が返信してきた。
すでに記録した。衝突しない。
私はこの一文を見つめ、微笑んだ。
これはとても奇妙だった。
九州の退魔現場から帰ってきたばかりの大学生が、最も気にしているのは四日後の路上教習だった。
しかしこれが私の生活だった。
私はそれらをすべて同じカレンダーに入れる必要があった。
九州退魔。
運転学校。
AfterToneの練習。
インターンのまとめ。
夏休みの宿題。
これらはすべて本物だった。
どれか一つが全部を飲み込んではならない。
大勢力たちの今回の九州事件に対する反応は、キャンパス突襲のときよりずっと静かだった。
なぜなら九州がとてもうまくやったからだ。
公開で伝播せず、
私を展示せず、
地方勢力に見せびらかせず、
事件を全国を震撼させるものにしなかったからだ。
東京特調室の会議で、久我山統括官が言った。
「九州は今回は手順が正しかった。」
眼鏡の女性が頷いた。
「彼らは先に自分で処理し、自分たちでは完全に解決できないことを確認してから正式に要請した。現場人員は最小限。任務後はすぐに地方処理に戻した。」
若い分析官が言った。
「白川さんの現場滞在時間は半日未満だった。」
「良い。」
久我山が言った。
「これが理想的な協力方式だ。」
京都の七条が報告を見て言った。
「九州は一部の京都の家系より境界を理解している。」
老委員が笑った。
「その言葉は外に漏らさないで。」
天城美咲が「旧祭礼の用途が汚染された」という言葉を見て、低く言った。
「またシステムが本来良いものを歪めてしまった。」
天城怜司が頷いた。
「だからこそ、ルールと用途をはっきりさせなければならない。」
御影秋人が言った。
「彼女は今、ただ敵を倒すのではなく、世界の誤った接続を修正するようになっている。」
御影冬子が冷たく言った。
「だからこそ、世界がすべての誤りを彼女に押しつけることを許してはならない。」
玄海鎮守聯合内部で、宗像怜央がまとめを書いた。
旧儀式の善意も、汚染によって反転する可能性がある。伝統を守ることは、盲目的に保持することではなく、その本来の用途を理解することでもある。
白髪の宮司が見てから言った。
「いいね。」
「もう一つ。」
宗像怜央が補足した。
白川さんに協力を依頼する際は、彼女が予定通りに普通の生活に戻れることを保証せよ。
白髪の宮司が笑った。
「この一文の方がいい。」
私はこれらのことを知らなかった。
私はただ、九州の点心を小さなアパートに持ち帰ったことを知っていた。
これはAfterToneへの手土産だった。
普通の価格。
普通の学生基準。
澪はきっと満足するだろう。
私は新しいパソコンを開き、任務後の記録を書いた。
タイトル:
九州潮返洞記録
内容には具体的な術式の詳細は書かなかった。
ただ私が書ける部分だけを書いた。
今回の事件で、私は再び確認した。本来人を守るためのルールも、用途と境界を失えば危険になる可能性がある。
帰岸の音は、人に代わって方向を決めるべきではない。
守護とは、引きずることではない。
導くことも、相手が自分で歩くことを許さなければならない。
書き終えた後、私は手を止めた。
この一文は、多くのことにも当てはまるようだった。
特調室が私を守ることは、私を引きずって歩かせることではない。
大勢力が私を尊重することは、私に代わって決定を下すことではない。
私が若者を助けたいと思うことも、彼らを無理に舞台に上げることはできない。
ただ方向を与え、
位置を与え、
安全な距離を与える。
最後に彼ら自身が歩く。
私はこの一文をインターンのまとめの付録に書いた。
支援とは、相手の代わりに前進することではない。
ソレンセンが口を開いた。
「あなたは退魔に行って、またインターンのまとめを修正した。」
「なぜならつながっているから。」
「面倒な人間の世界だ。」
「うん。」
「しかしあなたは好きだ。」
私は少し考えてから答えた。
「私はそれを理解したい。」
彼はもう何も言わなかった。
夜、私はAfterToneに行った。
練習ではなく、ただ九州の点心を届けに行った。
陽菜は点心を見てとても喜んでくれた。
「外地の土産!」
澪はすぐに包装を開けて研究し始めた。
「合格。」
日和が私を見た。
「戻ってきて大丈夫?」
私は頷いた。
「うん。九州……外地の用事は終わった。」
彼女はなぜそこに行ったのかを聞かなかった。
ただこう言った。
「お疲れ様。」
私はソファに座り、体がようやく本当に東京に戻ってきたと感じた。
陽菜が聞いた。
「小音、夏休みの後半も忙しい?」
私は少し考えてから答えた。
「運転学校。インターンのまとめ。もしかすると研究会で資料を整理するかも。」
澪が聞いた。
「飯もある?」
「あるよ。」
彼女が頷いた。
「いいね。」
日和が笑いながら言った。
「なら練習はあなたの体力に合わせてゆっくり調整しよう。」
私は顔を伏せた。
「ありがとう。」
私は彼女たちに九州の海の音を話さなかった。
潮返洞のことを話さなかった。
「帰って来い」という声が人を海に引きずり込もうとしたことを話さなかった。
しかし私は点心を持ち帰った。
そして自分自身も持ち帰った。
これが私が彼女たちに与えられる全部の真実だった。
少なくとも今は。
その夜、小さなアパートに戻った後、私は夏休みの日程を開いた。
インターン完了。
九州任務完了。
仮免合格。
路上教習が近づいている。
AfterToneの練習調整。
研究会夏休み整理。
未来はまた表に戻ってきた。
私は九州任務のそのマスを灰色から薄い灰色に変えた。
なぜならそれはすでに過ぎ去ったからだ。
それを今も占拠させ続けてはならない。
そして横に書いた。
帰岸。
海の音に引きずられて戻るのではなく、
私が自分で岸に戻る。
東京に戻る。
小さなアパートに戻る。
運転教材に戻る。
AfterToneに戻る。
自分の生活に戻る。
ソレンセンが口を開いた。
「今回は戻ってきたな。」
「うん。」
「次も海があり、洞があり、虫がいる。」
「わかっている。」
「行かなければならないなら?」
「行かなければならないなら、行く。」
「行かなくてもいいなら?」
「なら行かない。」
彼が低く笑った。
「いいね。」
「あなたはますます方向を判断するのが上手くなっている。」
私は机の上の運転教材を見つめていた。
「なぜなら私は学んでいるから。」
窓の外は東京の夏の夜。
エアコンが低く音を立てていた。
冷蔵庫の上にはあの二枚の付箋が貼ってあった。
忘れずに飯を食べろ。
飯。
私は九州の点心を少し自分用に残していた。
一口かじると、少し海の塩の味がした。
今回は、海はただの味だった。
呼ぶ声ではなかった。