俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第7章 臨海地下共同溝、そして普通の人間に見られてはならない夜

 

第7章 臨海地下共同溝、そして普通の人間に見られてはならない夜

 

2047年11月12日。

 

翌日、俺はいつものように学校へ行った。

 

そして、いつものように誰ともまともに会話できなかった。

 

それが、少しだけ安心材料になった。

 

東京地下で何が起きていようと、昨日霞が関の地下会議室でどんな恐ろしい話を聞かされようと、学校は学校だった。

 

授業のチャイムは鳴るし、先生は出席を取るし、クラスメイトは休み時間に笑い合う。

 

俺は顔を伏せ、教室の隅で「社交を必要としない空気」の塊を演じ続けた。

 

普通の世界は、普通に回っていた。

 

それは本来、良いことのはずだった。

 

それでも、どこか現実味が薄く感じられた。

 

なぜなら、俺は今夜、江東区の臨海地下共同溝へ行くことになっていたからだ。

 

普通の人間が一切知らない作戦に参加するために。

 

特調室、警視庁異事対策班、東京神社合同祓魔会。

 

これらの名前は、昨日までただの書類や会議の中だけに存在していた。

 

今夜、それらが同じ地下空間に集まる。

 

そして俺。

 

白川一音。

 

授業中に名前を呼ばれただけで魂が抜けそうになる高校生が、

 

「予備抑圧戦力」としてそこへ行く。

 

その理由は、ただ一つ。

 

後備抑圧戦力。

 

この言葉を思うたびに、俺は机の下に穴を掘って逃げ出したくなった。

 

ソレンセンが意識の奥で言った。

 

「お前は恐怖しているな」

 

俺は教科書を見つめ、授業を聞いているふりをした。

 

「わたしは毎日、恐怖してます」

 

「今回は違う」

 

その声は低く、どこか愉悦に満ちていた。

 

「今回は、お前はもっと多くの人間の前に立つことになる」

 

「黙ってください」

 

「政府の猟犬、神社の巫女、旧家の術者たちだ」

 

まるで食卓の料理を数えるような口調だった。

 

「彼らはお前を見る」

 

「評価する」

 

「恐れる」

 

俺は鉛筆を強く握りしめた。

 

先が折れた。

 

前の席の生徒が振り返ってきた。

 

俺は慌てて顔を伏せ、何事もなかったふりをした。

 

ソレンセンが笑った。

 

「見てみろ。一匹の普通の虫の視線すら耐えられないくせに、今夜は怪物の巣へと入っていく」

 

俺は答えなかった。

 

ソレンセンは続けた。

 

「本当に笑える」

 

心の中で、小さく言った。

 

「……わたしも、そう思います」

 

ソレンセンが少し間を置いた。

 

俺の返事が予想外だったのかもしれない。

 

やがて、冷たく笑った。

 

「可笑しいとわかっているなら、なぜ行く?」

 

俺は折れた鉛筆の先を見つめた。

 

なぜだろう。

 

行かなければ、誰かが傷つくかもしれないから。

 

東京地下の霊脈に問題が起これば、普通の人間が巻き込まれるかもしれないから。

 

下北沢も、この街の中にあるから。

 

余響楽団のステージも、この街の中にあるから。

 

日和も、澪も、陽菜も、このことを知らないから。

 

彼女たちは知らない。

 

だから、俺が行かなければならない。

 

こう考えると、少しは格好がつく。

 

でも、俺はわかっていた。

 

そんなに純粋な理由だけではない。

 

俺には、自分の私情もあった。

 

今ようやく少し形になりかけた日常を、失いたくなかった。

 

見えない何かに引き裂かれるのが、怖かった。

 

彼女たちを守りたかった。

 

そして、ようやく少し彼女たちの隣に立てるようになった自分も、守りたかった。

 

ソレンセンが静かに言った。

 

「結局は、自分のためだな」

 

俺は視線を落とした。

 

「……そうかも」

 

「いいことだ」

 

その声には、悪意に満ちた満足感があった。

 

「自分の欲望を認めることは、堕落の第一歩だ」

 

俺はまた鉛筆を折りかけた。

 

この怪物は、本当に一つの普通の言葉を、呪いのように言うのが上手い。

 

放課後、俺はAfterToneへ向かった。

 

今日は正式なレコーディングに向けての大事な練習日で、日和が練習計画をかなり詰めていた。

 

俺は完全に集中できないと思っていた。

 

しかし不思議なことに、ギターを手に取った瞬間、身体が少しだけ落ち着いた。

 

弦が指先の下にある。

 

アンプが後ろにある。

 

日和のドラムが安定したリズムを押し、澪のベースが低く底を支え、陽菜の歌声が冬の陽射しのように明るく響く。

 

これらの音が、俺をここへ引き戻してくれた。

 

霞が関の地下でもなく、白妙神社でもなく、AfterTone。

 

余響楽団。

 

俺がまだ理解できる世界。

 

一曲終わった後、陽菜が振り返って興奮したように言った。

 

「小音、さっきのところ、すごく良かった! 前より力が入ってる感じがする!」

 

俺の心臓が一瞬強く鳴った。

 

「そ、そうですか?」

 

澪が頷いた。

 

「もっと黒くなった」

 

またその評価か。

 

日和も俺を見て言った。

 

「でも、今日の一音、なんか急いでるみたい」

 

俺は顔を伏せた。

 

やっぱり。

 

彼女にはわかっていた。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「責めてるわけじゃないよ」

 

日和は微笑んだ。

 

「ただ、どこかへ急いでるみたいに感じたから」

 

俺は完全に固まった。

 

日和は本当に怖い。

 

彼女は異常のことを知らない。

 

特調室のことも、今日の臨海作戦のことも知らない。

 

それでも、俺の様子がおかしいことは、ちゃんとわかっていた。

 

「い、いいえ……ただ、夜に説明会があるだけです」

 

また嘘をついた。

 

普通の人間は知らない。

 

バンドのメンバーにも知られてはならない。

 

だから、俺はこれからも嘘をつき続けなければならない。

 

日和はそれ以上追及してこなかった。

 

ただ、「今日はここまでにしよう。無理はしないで」とだけ言ってくれた。

 

陽菜も頷いた。

 

「小音、最近本当に忙しそうだね」

 

澪が手を上げた。

 

「忙しくても、飯のことは忘れるなよ」

 

「澪、それ重点じゃないから」

 

俺は彼女たちを見て、笑いたいのと泣きたいのとが混じった気持ちになった。

 

練習が終わった後、俺はギターをケースにしまった。

 

指がピックケースに触れたとき、少し動きを止めた。

 

中には普通の灰色のピックが一枚入っていた。

 

渋谷での退魔のとき、似たようなものを使った。

 

あのとき、ソレンセンの力がピックに缠みつき、それを黒い刃に変えた。

 

もう二度と使いたくなかった。

 

それでも、俺はそのピックケースを上着のポケットに入れた。

 

ソレンセンが低く笑った。

 

「準備はできたようだな」

 

「念のためです」

 

「便利な言葉だな」

 

俺は答えなかった。

 

奴の言う通りだったから。

 

夜の十時半。

 

江東区臨海エリアの風は冷たかった。

 

遠くに東京湾の明かりが見え、高架道路を車が時折通り過ぎていた。

 

普通の人間の目には、ここはただの夜間工事現場に見えるだろう。

 

青い囲いが立てられ、「地下施設維持作業中」と書かれた看板が掛かっている。

 

反射ベストを着た作業員が入口付近に立ち、無線機を持っていた。

 

とても普通に見えた。

 

普通すぎて、近くを通る人が疑うはずもない。

 

しかし、近づいた瞬間、普通ではないことがわかった。

 

囲いの内側に結界札が貼られ、地面にほとんど見えないほどの細い金色の線が描かれていた。

 

入口の両側には特調室と警視庁異事対策班の人間が立っていた。

 

作業服を着てはいるが、袖口から覗くのは普通の工具ではなく、符文が刻まれた黒い短棒や封印釘、そして拳銃のような異常抑圧器だった。

 

神代鈴音が入口の横に立っていた。

 

今日は巫女装束の上に濃い色のコートを羽織り、手に布包を持っていた。

 

俺を見つけると、軽く頷いた。

 

「白川さん」

 

「こ、こんばんは」

 

声は海風に飛ばされそうなくらい小さかった。

 

眼鏡の女性もいた。

 

彼女は俺にイヤホンと仮の通行証を渡した。

 

「白川さん、今夜のあなたの位置は二号予備地点です。原則として、核心区域に積極的に入る必要はありません」

 

俺はすぐに頷いた。

 

「わ、わかりました」

 

原則として。

 

今、俺はこの言葉が一番怖かった。

 

「原則として必要ない」ことが、結局「実際には必要になる」パターンが多すぎたから。

 

入口の横で、警察作業服を着た中年男性が俺を一瞥した。

 

視線が鋭かった。

 

「こいつが下北沢黒弦か?」

 

俺はすぐに顔を伏せた。

 

その呼び名を、面と向かって呼ばないでください。

 

死にます。

 

精神的に死にます。

 

眼鏡の女性が答えた。

 

「はい」

 

中年男性が眉を寄せた。

 

「若すぎるな」

 

ありがとうございます。

 

私もそう思います。

 

神代鈴音が淡々と口を開いた。

 

「年齢と異常適性は関係ありません」

 

「わかっている」

 

男性は俺を見た。

 

「警視庁異事対策班、三宅だ。今夜は勝手に動くな。お前は予備だ。突撃手ではない」

 

俺は強く頷いた。

 

「は、はい!」

 

よかった。

 

ちゃんと「動くな」と言ってくれる人がいた。

 

俺はこの配置が非常に気に入った。

 

ソレンセンが冷たく鼻で笑った。

 

「弱者は、鎖のことを規則と呼ぶのが好きだな」

 

心の中で言った。

 

「規則はいいものです」

 

「弱者にとっては、な」

 

「わたしは弱者です」

 

「……」

 

ソレンセンが、少しだけ言葉に詰まったようだった。

 

弱さを素直に認めることで、逆に奴を黙らせられることがあると、最近わかってきた。

 

これが、暗黒王専用の防御術なのだろうか。

 

わからない。

 

でも、使えるなら使おう。

 

臨海地下共同溝は、想像していたよりずっと広かった。

 

入口のエレベーターがかなり長い時間降りた後、やっとドアが開いた。

 

地下空間には広い保守通路があり、壁には管路や通信ケーブル、見慣れない設備が並んでいた。

 

空気には湿った金属の匂いがした。

 

遠くから水の流れる音と、ほとんど聞こえないほどの低いうなりが聞こえた。

 

それが霊脈の音なのだろう。

 

神代鈴音が、普通の人間には聞こえないと言っていた。

 

しかし俺には、少し聞こえる気がした。

 

もしかすると、俺が聞いているのではなく、ソレンセンが聞いて、それを俺の意識に強制的に感知させているのかもしれない。

 

「これが、彼らの言う霊脈か?」

 

ソレンセンの声は、明らかに見下していた。

 

「腐りかけの細い糸のようだな」

 

「全部を貶さないでください」

 

「ただ事実を述べているだけだ」

 

少し間を置いてから、続けた。

 

「もっとも、これらの細い糸が全部切れたら、地上の虫はかなり死ぬだろうが」

 

俺の背中が冷たくなった。

 

「どうなるんですか?」

 

「恐怖が拡散し、怪異が増殖し、結界が崩壊し、都市内部が自らを飲み込み始める」

 

淡々とした口調だった。

 

天気を評しているようだった。

 

「俺にとっては、悪くない景色だな」

 

「黙ってください」

 

俺は通行証を強く握りしめた。

 

今夜は、本当に失敗できない。

 

失敗すれば、退魔界の問題で済まなくなる。

 

普通の人間も巻き込まれる。

 

二号予備地点は、支路の横にあった。

 

そこに仮設の機材がいくつか置かれ、特調室の人間が精神汚染指数を監視していた。

 

神代鈴音は西側結界陣地へ向かうことになり、去り際に俺に言った。

 

「イヤホンで撤退指令が聞こえたら、迷わず撤退してください」

 

俺は頷いた。

 

「あ、あなたも気をつけてください」

 

彼女は少し驚いた様子で、それから小さく頷いた。

 

「ありがとう」

 

彼女が去った後、俺は折りたたみ椅子に座った。

 

周囲は見知らぬ専門家ばかりだった。

 

誰も俺に話しかけてこなかった。

 

それが、逆に安心だった。

 

怪異と比べれば、積極的に話しかけられることのほうがまだ怖かった。

 

イヤホンからは、各班の報告が絶え間なく流れていた。

 

「一号結界地点、安定」

 

「東側管路、異常なし」

 

「霊脈波形、軽微な変動」

 

「警視庁第二班、旧排水支線に到着」

 

俺にはよくわからなかった。

 

しかし、みんながとても専門的に動いているのが伝わってきた。

 

きっと大丈夫だ。

 

絶対に大丈夫だ。

 

俺はここで予備として座っていればいい。

 

それで手当をもらって、AfterToneに戻り、新曲の練習を続けられる。

 

ソレンセンが突然言った。

 

「来た」

 

俺の体が硬直した。

 

「何が来たんですか?」

 

次の瞬間、地下通路の照明が一瞬点滅した。

 

監視機材が一斉に甲高い警報を鳴らした。

 

特調室の人間の顔色が大きく変わった。

 

「精神汚染指数、上昇!」

 

イヤホンから混乱した声が聞こえてきた。

 

「東側に異常呪紋を確認!」

 

「外部からの侵入ではない! 霊脈内部から浮上してきた!」

 

「逆柱会の術式が起動した!」

 

「警視庁第二班が大量の式神と遭遇!」

 

「西側結界地点、支援を要請!」

 

俺は立ち上がった。

 

心臓の鼓動が速かった。

 

速すぎた。

 

さっきまで静かだった地下空間が、内部から引き裂かれたように変わった。

 

壁の管路から黒い液体が滲み出し、地面の金色の線が薄れていった。

 

遠くから、赤ん坊が泣くような甲高い悲鳴が聞こえてきた。

 

そして、歌声が聞こえた。

 

音楽ではない。

 

たくさんの人間が混ざった低語だった。

 

「見たか?」

 

「わかったか?」

 

「怖いか?」

 

「広めろ」

 

「みんなに教えろ」

 

「東京を目覚めさせろ」

 

監視員が慌ててイヤホンを外し、頭を抱えた。

 

「違う……これは認知拡散を誘導している!」

 

別の人間が叫んだ。

 

「一般通信チャンネルを全部切断しろ! 音を外部に上げさせるな!」

 

俺の頭の中で、何かが弾けた。

 

認知拡散。

 

普通の人間に異常を知らせる。

 

これが、逆柱会の目的だったのか?

 

彼らはただ霊脈を汚染しているわけではない。

 

異常を通信やネット、監視カメラ、音を通じて、もっと多くの普通の人間に接触させようとしている。

 

もし外の工事作業員が聞いたら。

 

もし近くの通行人が撮影したら。

 

もしネットに上げられたら。

 

東京暗面の秘密に、亀裂が入ってしまう。

 

そして一度亀裂が入れば、そこからもっと多くの怪異が這い出してくる。

 

ソレンセンが低く笑った。

 

「思ったより賢いな」

 

俺は歯を食いしばった。

 

「敵を褒めないでください」

 

「褒めているわけではない。ただ、あの神社虫よりは、恐怖の使い方を知っていると認めているだけだ」

 

イヤホンから久我山統括官の声が聞こえた。

 

「各班、封鎖を維持せよ。白川協力者、原位置待機」

 

原位置待機。

 

いい。

 

俺は動かない。

 

俺はただの予備だ。

 

椅子に座り直した。

 

三秒後、イヤホンに新しい声が流れてきた。

 

「二号予備地点付近に異常反応!」

 

俺は顔を上げた。

 

通路の奥から、何かが現れた。

 

いや、人ではなかった。

 

三体の人間型の紙人形だった。

 

黒いコートを着て、顔に逆さの鳥居が描かれていた。

 

逆柱会。

 

紙人形の頭部が裂け、中から笑い声が漏れた。

 

「下北沢黒弦」

 

「見つけたぞ」

 

俺はその場に立ち、足が震え始めた。

 

なぜだ。

 

なぜ、いつも俺を見つけるのか。

 

俺はただ、予備地点で静かに座っていただけなのに!

 

特調室の人間が抑圧器を構えた。

 

「下がれ! 協力者を守れ!」

 

紙人形の体が突然崩れ、数十体の黒い紙蝶になった。

 

紙蝶は人間を攻撃しなかった。

 

代わりに機材へと向かっていった。

 

監視員の顔色が大きく変わった。

 

「外部回線に接続しようとしている!」

 

もし通信設備に接続されたら、さっきのような声が外部に漏れるかもしれない。

 

地上に。

 

普通の人間のスマホに。

 

ネットに。

 

俺の頭の中が真っ白になった。

 

身体が先に動いていた。

 

上着のポケットからピックを取り出した。

 

「条件」

 

ソレンセンは、まるで待っていたかのように応じた。

 

「言え」

 

「第一、体を乗っ取ることは禁止です」

 

「できる」

 

「第二、人を殺すことは禁止です」

 

「ここは紙人形だ」

 

「紙人形に繋がれている術者も含めて」

 

「……できる」

 

「第三、特調室と警視庁の人を傷つけることは禁止です」

 

「できる」

 

「第四、誰にもお前の存在を知られてはならない」

 

「もちろん」

 

「第五、紙人形と紙蝶、通信設備の接続を切断するだけで、地上回線に拡大してはならない」

 

ソレンセンが低く笑った。

 

「だんだん口うるさくなってきたな」

 

「約束してください」

 

「できる」

 

黒紫色の気がピックに缠みついた。

 

俺は手を振り下ろした。

 

ほとんど見えないほどの細い黒い線が通路を横切った。

 

機材へと向かっていた紙蝶が、すべて空中で止まった。

 

次の瞬間、それらの呪紋が切断された。

 

紙蝶は糸の切れた人形のように、地面に落ちていった。

 

監視員が呆然と言った。

 

「切断された?」

 

三宅の声がイヤホンから聞こえた。

 

「二号予備地点の状況!」

 

眼鏡の女性が答えた。

 

「白川協力者が紙蝶群を抑圧。通信設備は安全です」

 

俺は少し安堵した。

 

しかし、手を下ろす間もなく、通路の奥から再び笑い声が聞こえた。

 

今度は紙人形ではなかった。

 

真人だった。

 

白い面を被った男が、通路の奥に立っていた。

 

面に描かれた逆さの鳥居は赤かった。

 

その横に、黒い紙符の輪が浮かんでいた。

 

「やはり、術式を切断できるか」

 

彼は手を叩いた。

 

「実に便利な怪物だな」

 

俺の胃が冷たく縮んだ。

 

怪物。

 

この言葉が、少しだけ正しい気がして、嫌だった。

 

特調室の人間がすぐに俺の前に立った。

 

「逆柱会の術者! すぐに投降しろ!」

 

面を被った男が笑った。

 

「投降? 祭が始まる前に?」

 

彼は手を上げた。

 

壁に染み出していた黒い液体が、突然沸騰した。

 

液体の中から、無数の口が伸びてきた。

 

その口が、話し始めた。

 

俺たちに向かってではなく、普通の人間の声を真似て。

 

「ここで何が起きてるんだ?」

 

「早く撮れよ」

 

「マジかよ?」

 

「ネットに上げたら絶対バズるだろ」

 

「これ、特撮じゃね?」

 

俺の顔色が変わった。

 

彼らは普通の人間の好奇心を煽っている。

 

見物する様子を再現し、拡散欲を再現している。

 

「異常を見る」という行為そのものを、呪いにしている。

 

監視機材が狂ったように警報を鳴らした。

 

「認知汚染濃度、上昇!」

 

「二号予備地点、結界支援を要請!」

 

面を被った男が俺を見た。

 

「下北沢黒弦、知っているか? 普通の人間の好奇心は、恐怖より利用しやすい」

 

彼は両手を広げた。

 

「ただ見たい、撮りたい、広めたいと思わせれば、東京は自ら門を開く」

 

ソレンセンが愉悦に満ちた低笑を漏らした。

 

「いい言葉だな」

 

「敵を褒めないでください!」

 

「俺が褒めているのは、悪意の形だ」

 

ますます嫌だった。

 

黒い口の声がどんどん大きくなっていった。

 

特調室の人間が揺らぎ始めた。

 

誰かが無線機を手に取っては、すぐに置き、外部に連絡しかけた様子だった。

 

何かしなければならない。

 

しかし、相手は人間だった。

 

殺すことはできない。

 

回復不能な傷を負わせることもできない。

 

ソレンセンの力を無制限に拡大させることもできない。

 

はっきりと言わなければならない。

 

奴を、しっかり縛らなければならない。

 

俺はピックを強く握った。

 

「条件追加」

 

ソレンセンの声が近づいてきた。

 

「あまり時間はないぞ」

 

「敵の術式核心、通信媒体、行動能力のみを破壊する。生命維持への攻撃、精神的な拷問、永久的な損傷はすべて禁止です」

 

「俺を刀だと思っているのか、それとも繋がれた犬だと思っているのか?」

 

「どちらでもありません」

 

俺は面を被った男を睨み、声が震えるのを抑えきれずに言った。

 

「あなたは、わたしの体に閉じ込められた災厄です」

 

「今は、わたしの規則に従って動いてください」

 

黒い海が荒れた。

 

王座に座るソレンセンが、目を細めた。

 

その瞬間、俺は奴が本気で不快に思っていることを感じた。

 

いつもの嘲笑とは違う。

 

傲慢を冒涜されたことに対する、純粋な殺意だった。

 

「白川一音」

 

その声は、冷たかった。

 

「俺に命令を下しているのか?」

 

「そうです」

 

俺は初めて、心の中でそう答えた。

 

「わたしは、あなたに命令しています」

 

金色の鎖が光った。

 

封印の奥から、耳障りな摩擦音が聞こえた。

 

ソレンセンが笑った。

 

「いいだろう」

 

「ならば、よく見ておけ」

 

黒紫色の力が、俺の腕からピックへと流れ込んだ。

 

今回は前よりも冷たく、重かった。

 

まるで、殺意を堪えている深淵を握っているようだった。

 

俺は最初の一撃を放った。

 

黒い線が壁を横切った。

 

すべての口が、同時に閉じた。

 

引き裂かれたわけではない。

 

黒い液体との術式接続が、切断されただけだった。

 

二撃目。

 

地面の呪紋が断裂した。

 

認知汚染の声が、放送を止められたように消えていった。

 

三撃目。

 

面を被った男の横に浮かんでいた紙符が、すべて黒灰となって燃え尽きた。

 

彼はよろめき、後ずさり、初めて動揺の色を見せた。

 

「ありえない……お前は裏人格を完全に解放していないのに、なぜこんなことができる?」

 

俺は答えなかった。

 

答えられなかったし、どう答えればいいのかもわからなかった。

 

彼は突然、袖の中から黒い釘を取り出し、自分の掌に深く突き刺した。

 

「ならば、祭品がどこまで埋まっているか、見せてやる!」

 

釘が刺さった瞬間、地下共同溝全体が激しく揺れた。

 

イヤホンから混乱した叫び声が聞こえてきた。

 

「核心区域で汚染が爆発した!」

 

「臨海東側結界が引き裂かれた!」

 

「霊脈が逆流している!」

 

「一般地上監視に干渉が及んでいる!」

 

「外部の工事作業員が集まり始めている!」

 

普通の人間。

 

この言葉が、冷水のように降りかかってきた。

 

もし地上の人々が異常を見始めたら。

 

もしスマホを取り出したら。

 

もしあの声が聞こえたら。

 

すべてが、悪化する。

 

面を被った男が跪いたまま、狂ったように笑った。

 

「遅かったな」

 

「門は、もう開いた」

 

通路の奥に、黒赤色の亀裂が現れた。

 

亀裂の中から、無数の囁き声が漏れ出していた。

 

一瞬、地上の映像が見えた。

 

囲いの外に、何人かの普通の通行人が立ち止まっていた。

 

何か聞こえたのか、様子を窺っている。

 

誰かがスマホを取り出していた。

 

いけない。

 

絶対に、いけない。

 

三宅の声がイヤホンから怒鳴ってきた。

 

「全班、地上への認知漏洩を最優先で封鎖せよ!」

 

神代鈴音の声も聞こえた。

 

「西側結界がもう持たない! 白川さん、核心に近づかないでください!」

 

核心に近づくな。

 

しかし、核心はあの亀裂の向こうにあった。

 

処理しなければ、普通の人間が見てしまう。

 

俺はその場に立ち、身体が震えていた。

 

ソレンセンが静かに言った。

 

「お前は俺を必要としている」

 

俺は反論しなかった。

 

「もっと力を必要としている」

 

俺は歯を食いしばった。

 

「体を乗っ取ることはできません」

 

「もちろん」

 

「人を殺すことはできません」

 

「できる」

 

「普通の人間に見られてはならない」

 

「できる」

 

「誰にもお前の存在を知られてはならない」

 

「つまらないが、できる」

 

「汚染を拡大させてはならない」

 

「できる」

 

「敵を苦しめてはならない」

 

ソレンセンが小さく笑った。

 

「まだあの術者のことを気にかけているのか?」

 

「わたしは、自分のことを気にかけています」

 

俺は面を被った男を見た。

 

「もしあなたに好き勝手させたら、わたしはあなたと同じになってしまう」

 

ソレンセンが一瞬、沈黙した。

 

やがて、その声が異様に愉悦に満ちたものに変わった。

 

「なるほど」

 

「お前は善良なのではない」

 

「自分の形を守っているだけだ」

 

俺は否定しなかった。

 

今回は、奴の言う通りだったから。

 

俺は聖人でもなければ、英雄でもない。

 

ただ、自分がどうにも戻れなくなってしまうのが怖いだけだった。

 

だから、規則を加える。

 

たくさん、たくさん加える。

 

たとえ奴に嘲笑われようと。

 

たとえ面倒だと思われようと。

 

たとえそれで遅くなろうと。

 

俺はそうしなければならなかった。

 

金色の鎖が震えた。

 

契約が成立した。

 

俺はピックを胸に当てた。

 

そして、前へ走り出した。

 

足は震えていた。

 

怖かった。

 

それでも、走った。

 

亀裂の中から、声がどんどん大きくなっていった。

 

無数の普通の人間の好奇心、恐怖、覗き見欲が、地上から引きずり下ろされてくるようだった。

 

ソレンセンの力が、俺の指先に黒い弦となって凝縮した。

 

今回は一本ではなかった。

 

無数に。

 

それらが俺の手から伸び、黒い琴のように広がっていった。

 

俺にはギターがなかった。

 

しかし、この地下共同溝全体が、仮の共鳴箱になった。

 

俺は最初の弦を弾いた。

 

地上方向の声が、途切れた。

 

囲いの外にいた通行人たちが、突然ぼんやりと立ち止まり、なぜ自分が止まったのかを忘れたように見えた。

 

誰かがスマホを見て、首を振って歩き去っていった。

 

二番目の弦を弾いた。

 

亀裂周辺の認知汚染が、地下へと引き戻されていった。

 

こぼれたインクを、強引に瓶の中に引き戻すように。

 

三番目の弦を弾いた。

 

核心区域の黒赤色の呪紋が、姿を現した。

 

それは巨大な逆さの鳥居の模様で、霊脈のノードに刻まれていた。

 

その中心に、目のような黒い石が嵌め込まれていた。

 

ソレンセンが言った。

 

「それが核心だ」

 

「切り取るか?」

 

「いや」

 

その声には、残酷な笑みが混じっていた。

 

「剥ぎ取れ」

 

俺は頭皮が粟立つのを感じた。

 

「規則通りに」

 

「本当に興ざめだな」

 

「規則通りに!」

 

「わかった」

 

黒い弦が黒い石に絡みついた。

 

核心が激しく暴れ始めた。

 

無数の声が俺の頭の中に流れ込んできた。

 

「みんなに見せろ!」

 

「東京に見せろ!」

 

「全員に見せろ!」

 

「日常を壊せ!」

 

俺は歯を食いしばった。

 

「いやです」

 

声は小さかった。

 

しかし、黒い弦が締めつけられた。

 

「普通の人間は何も知らない」

 

「異常のことも」

 

「あなたたちのことも」

 

「わたしのことも」

 

「ソレ……」

 

俺は慌てて言葉を止めた。

 

危なかった。

 

あと少しで、その名前を口にしてしまうところだった。

 

ソレンセンが意識の奥で小さく笑った。

 

「危ないな」

 

それは警告か、それとも嘲笑か。

 

俺にはわからなかった。

 

ただ、言ってはいけないことだけは、はっきりとわかっていた。

 

絶対に、言ってはいけない。

 

俺は改めて口を開いた。

 

「わたしの裏人格のことも知らない」

 

黒い石が、逆さの鳥居の呪紋から少しずつ引き抜かれていった。

 

面を被った男が悲鳴を上げた。

 

身体が傷ついたわけではない。

 

術式が反噬されたからだった。

 

俺はすぐに条件を追加した。

 

「反噬が命に関わることは禁止です!」

 

ソレンセンが不満そうに鼻を鳴らした。

 

黒い弦がわずかに軌道を変え、反噬を地面の符陣へと誘導した。

 

符陣が砕け散った。

 

面を被った男が地面に倒れ、昏睡した。

 

核心がようやく引き抜かれた。

 

それはまるで脈打つ眼球のように、黒い弦の中で狂ったように回転していた。

 

ソレンセンが低く囁いた。

 

「俺に寄越せ」

 

「いやです」

 

「俺に寄越せ。食ってやる」

 

「いやです」

 

「ただの汚染核心だぞ」

 

「いやですと言いました」

 

俺はピックを強く押し下げた。

 

黒い弦が張りつめ、核心を層状に封じていった。

 

神代鈴音の声が遠くから聞こえてきた。

 

「白川さん! 核心を西側封印柱へ押し込めてください!」

 

俺は見た。

 

数十メートル先で、仮設の白い封印柱が光を放っていた。

 

神代鈴音がその前に立ち、顔色を悪くしながら両手で印を結んでいた。

 

彼女も、もう限界だった。

 

俺は黒い弦を引いて、核心をそこへ引きずっていった。

 

重かった。

 

物理的な重さではない。

 

中に、普通の人間の好奇心と恐怖と悪意が、大量に詰まっていたからだ。

 

一歩引くごとに、頭の中に無数の声が響いた。

 

「あなたも見られたかったんだろ」

 

「有名になりたかったんだろ」

 

「特別だと、みんなに知られたかったんだろ」

 

「何を邪魔する?」

 

俺はよろめいた。

 

ソレンセンが突然言った。

 

「それは、お前の一部を突いている」

 

「わかっています」

 

「それでも、封じるのか?」

 

「はい」

 

「なぜだ?」

 

俺は遠くの封印柱を見つめた。

 

神代鈴音が必死に結界を維持している姿を。

 

特調室の人間が昏睡した仲間を運んでいる姿を。

 

監視員が必死に外部回線を切断しようとしている姿を。

 

イヤホンから絶え間なく流れてくる各班の叫び声を。

 

そして、AfterToneの楽屋を思い浮かべた。

 

日和の予算表。

 

陽菜の笑顔。

 

澪が「飯」と言う声。

 

俺は小さく言った。

 

「見られることは、こんな方法であってはならないから」

 

ソレンセンが沈黙した。

 

俺は全力を振り絞り、最後の黒en弦を強く引いた。

 

核心が、封印柱に深く打ち込まれた。

 

白い光が爆発した。

 

地下共同溝全体が一瞬、激しく揺れた。

 

そして、すべての音が止んだ。

 

照明が戻り、監視機材の警報が徐々に低下していった。

 

イヤホンから久我山統括官の声が聞こえた。

 

「汚染指数、下降」

 

「外部への認知漏洩、遮断成功」

 

「各班、負傷者を確認せよ」

 

「逆柱会の術者、確保」

 

俺はその場に立ち、弦を弾く姿勢のまま固まっていた。

 

黒い弦が、一本ずつ切れていった。

 

最後の弦が切れたとき、足が震えて、ほとんど跪きそうになった。

 

神代鈴音が駆け寄ってきて、俺を支えた。

 

「白川さん!」

 

俺は彼女を見て、最初に出た言葉がこれだった。

 

「普通の人間……見ましたか?」

 

彼女は一瞬、固まった。

 

それから、首を振った。

 

「見ていません。外部記憶干渉はすでに処理済みです。数人が立ち止まった程度で、明確な認知は残っていません」

 

俺は大きく安堵した。

 

よかった。

 

普通の人間は知らない。

 

日和たちも知らない。

 

少なくとも今夜は。

 

三宅が近づいてきて、複雑な表情で俺を見た。

 

「本当に予備だったのか?」

 

俺は顔を伏せた。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「責めているわけではない」

 

彼は少し間を置いてから、言った。

 

「よくやった、下北沢黒弦」

 

その瞬間、俺は地割れに潜り込みたくなった。

 

しかし今回は、誰も笑わなかった。

 

周囲の特調室、警視庁、神社の人間たちが、俺を見ていた。

 

その視線には、警戒と驚愕と恐怖、そしてわずかな認めの色が混じっていた。

 

そんな目で見られるのは、好きではなかった。

 

少しも好きではなかった。

 

それでも、俺はわかっていた。

 

今夜から、この名前はもっと広がる。

 

一つの神社の中だけではなく。

 

特調室の狭い報告の中だけではなく。

 

関東全体の退魔界に。

 

ソレンセンが意識の奥で低く笑った。

 

「いいぞ」

 

俺は無視した。

 

ソレンセンは続けた。

 

「舞台が、大きくなったな」

 

俺は顔を伏せ、震える自分の手を見つめた。

 

そう。

 

舞台は、大きくなった。

 

でも、それは俺が望んでいた舞台ではなかった。

 

俺が立ちたかった舞台には、照明とドラムとベースと歌とギターがあった。

 

ここではない。

 

地下共同溝ではない。

 

見知らぬ人間が恐怖の目で俺を見る場所ではない。

 

それでも今、俺の足元には二つの舞台があった。

 

一つは普通の世界。

 

もう一つは東京暗面。

 

そして俺は、これからも二つを切り分け続けなければならない。

 

絶対に、余響楽団に知られてはいけない。

 

絶対に、普通の人間に知られてはいけない。

 

絶対に、誰にもソレンセンのことを知られてはいけない。

 

作戦終了後、眼鏡の女性が俺に告げた。

 

「今回の任務報酬は、明日振り込まれます。基礎協力金三十万円、緊急抑圧手当百万円、認知漏洩遮断特別手当百五十万円。合計二百八十万円です」

 

俺は呆然とした。

 

二百八十万円。

 

この数字は、俺には一瞬理解できないほど大きかった。

 

もう、普通のバンド活動費のレベルではなかった。

 

レコーディングができる。

 

MVが撮れる。

 

宣伝ができる。

 

もっと良い会場が借りられる。

 

余響楽団が、本当に大きく一歩を踏み出せる金額だった。

 

それでも、俺は少しも嬉しくなかった。

 

このお金の裏側には、臨海地下でほぼ裂けかけた東京があり、普通の人間がほぼ異常を見てしまいかけた夜があり、そして俺がまたソレンセンの力を使ったという事実があったからだ。

 

帰りの車の中で、俺は窓に寄りかかり、指がまだ震えていた。

 

スマホに、日和からのメッセージが来ていた。

 

『小音、終わった?』

 

俺は画面を長い時間見つめた。

 

結局、短い返事だけを送った。

 

終わった。ただ、ちょっと遅くなった。

 

日和はすぐに返信をくれた。

 

『お疲れ。明日も早めに来なくていいから、ゆっくり休んで』

 

「お疲れ」という言葉を見て、急に鼻の奥が熱くなった。

 

ソレンセンが闇の中で言った。

 

「また、嘘のせいで苦しんでいるな」

 

俺は目を閉じた。

 

「うん」

 

「ならば、彼女たちに話せばいい」

 

「無理です」

 

「なぜだ?」

 

「だって、彼女たちは普通の人間だから」

 

「普通の人間は、本当に面倒だな」

 

「そうですね」

 

俺は小さく言った。

 

「だから、普通を守らなきゃいけないんです」

 

ソレンセンはすぐに答えなかった。

 

やがて、低く笑った。

 

「ならば、続けろ」

 

「白川一音」

 

「これからも、俺の力を使って、お前の言う『普通』を守り続けろ」

 

「いつか、自分が結局どちら側にいるのか、わからなくなるまで」

 

俺は答えなかった。

 

車窓の向こうで、東京湾の明かりがゆっくりと遠ざかっていった。

 

普通の人間は、普通の夜を眠っていた。

 

彼らは地下で何があったのかを知らない。

 

「下北沢黒弦」という名前を知らない。

 

高校生が暗黒王の力を弦に結びつけ、東京の日常を切り裂きかけた異変を封じたことを知らない。

 

それでいい。

 

本当に、それでいい。

 

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