俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第71章 雷と影の修練、そして私はただ履修表にチェックを入れていた

第71章 雷と影の修練、そして私はただ履修表にチェックを入れていた

 

新学期が始まる前日、私は時間割を印刷して、小さなアパートの机の横に貼った。

 

音声メディア研究。

 

文化政策入門。

 

心理学発展。

 

地域文化実践。

 

大学英語。

 

それから、自動車学校に残っている予約。

 

その表を眺めていると、少し緊張して、少しだけ楽しみでもあった。

 

夏休みが終わろうとしている。

 

実習は終わった。

 

九州任務も終わった。

 

仮免は通った。

 

路上教習はまだ続いている。

 

AfterToneの新曲も、ようやくかなり安定した段階に入ってきた。

 

そのすべてが、私を大学一年の春学期から、新しい場所へ押し出しているようだった。

 

私はもう、入学したばかりで、資料すら逆さまに持ってしまう新入生ではない。

 

もちろん、今でも緊張はする。

 

知らない教室の前では、まだためらう。

 

ドアの鍵も三回確認する。

 

履修登録システムが突然私を裏切らないか、心配にもなる。

 

それでも入学式の日と比べれば、私は確かに、少しだけ前へ進んでいた。

 

意識の奥で、ソレンセンが気怠げに言った。

 

「お前は今、自分の小さな巣に、また紙を貼り増やしているようだな」

 

「これは時間割」

 

「だいたい同じだ」

 

「何でも巣って言わないで」

 

「では、領地計画か?」

 

「もっと悪い」

 

私は音声メディア研究の教材リストを、メモ帳に書き込んだ。

 

ソレンセンは最近、とても静かだった。

 

静かすぎて、たまに不安になるほどに。

 

でも、それは外の偽の線が少なくなったからだと言っていた。

 

私は信じた。

 

私自身も、何の異常も見つけていなかったから。

 

任務の電話はない。

 

キャンパスの危険もない。

 

知らない術式が近づいてくる気配もない。

 

猫目基金からの直接接触もない。

 

私の世界は、ようやく正常に戻り始めたように見えていた。

 

私は知らなかった。

 

私に見えない場所で、ある存在が「万が一ソレンセンが封印を破った場合」に備えていることを。

 

そしてソレンセン自身も、あの猫がすでに自分を仮想敵にしていることを、まったく知らなかった。

 

ニャーサの本当の修練場は、東京にはなかった。

 

京都でもない。

 

退魔界に登録されている、どんな施設でもなかった。

 

それは、廃棄された海上風力発電実験プラットフォームの地下整備層に、修練場を作っていた。

 

そのプラットフォームは、表向きにはすでに破産したエネルギー会社の所有物だった。

 

その後、猫目資本が第三層ファンドを通じて買収した。

 

外向きの理由は、

 

海洋エネルギー施設の再利用研究。

 

書類は合法。

 

資金は清潔。

 

地方自治体も歓迎している。

 

誰も知らなかった。

 

プラットフォームの地下が、電磁封鎖された訓練場へ改造されていることを。

 

厚い合金の壁。

 

絶縁層。

 

高圧導電柱。

 

人工雷場。

 

エネルギー隔離室。

 

多層の霊的遮蔽結界。

 

そして、猫目の技術者たちが組み上げた高出力パルスシステム。

 

ここは、退魔界の伝統的な意味での道場ではなかった。

 

むしろ、実験室、発電所、武器庫、そして巣穴を混ぜ合わせたような場所だった。

 

ニャーサは訓練場の中央に立っていた。

 

身体は大きくない。

 

なにしろ、今は蝶ネクタイをつけた猫の姿にすぎない。

 

けれど、その影は長く伸びていた。

 

暗紫色の影が足元から広がり、夜の色が金属の床へ滴り落ちていくようだった。

 

次の瞬間、周囲の導電柱が一斉に光った。

 

それは空間へ、きわめて細い電弧を数本放ち、導電システムを最大負荷で稼働させた。

 

青白い稲妻が、訓練場全体を照らし出す。

 

もしこの世界の頂点級の術師がここに立っていたなら、たとえ防護があっても、第一波の電弧だけで引き裂かれていただろう。

 

電光はニャーサの爪先から生まれる。

 

雷の力が体内を流れていく。

 

無数の、小さく鋭い蛇のように。

 

影はその電光の下に張りつき、爆ぜるエネルギーの一本一本を、影の隙間へ隠していた。

 

雷と影。

 

それこそが、ニャーサの本当の本質だった。

 

ただ暗がりで盤面を操るだけの存在ではない。

 

経済支配しかできない陰謀家でもない。

 

それは、雷と影という二つの元素を操る強者だった。

 

この二つの力が組み合わさっているからこそ、ニャーサはもっとも危険なのだ。

 

この世界では、たとえ何の修練もせずとも、ニャーサは世界全体を蹂躙できる。

 

普通の家系術師では足りない。

 

御影、京都、玄海、四国の達人でも足りない。

 

天城グループの残存システムでも足りない。

 

無門術師たちの中にいる、本当に老練な達人たちは敬意に値する。

 

けれど、正面から戦うには、それでも足りない。

 

安全出力の範囲で白川一音が借りる黒弦でさえ、足りない。

 

なぜなら、それは漏れ出た一縷の力でしかないからだ。

 

鋭く、精密で、危険。

 

けれど、しょせんは一縷。

 

ニャーサはそのことをよく理解していた。

 

集めた混沌残留が、すでにそれを証明していた。

 

安全出力の黒弦は、この世界の術式構造を簡単に蹂躙できる。

 

しかし、正面戦闘でニャーサを撃破するには足りない。

 

白川一音が安全出力だけを使うなら、ニャーサは苦もなく彼女を制圧できる。

 

彼女が弱いからではない。

 

彼女の手にあるものが、完全な混沌の力ではないからだ。

 

封印によって押さえつけられたあと、条件を通じて流れ出せる、ごくわずかな混沌の力。

 

一縷の炎は、紙の家を燃やすことができる。

 

けれど、深海全体を照らすことはできない。

 

ニャーサは白川一音を軽視していなかった。

 

軽視しているのは、この世界が力の差を理解する浅さのほうだった。

 

退魔界は、黒弦が邪術師を蹂躙するのを見て、それがすでに限界だと思い込んでいる。

 

浅すぎる。

 

ニャーサは、もっと高い階層の戦闘概念と向き合ったことがある。

 

それどころか、セイル号世界観における元素の祖を、正面から撃破することさえできる。

 

その戦闘力をこの世界へ持ち込めば、もはや退魔界の測定単位を完全に超えている。

 

だからこそ、それは知っていた。

 

安全出力の白川一音は、自分の敵ではない。

 

本当に備えなければならないのは、別の可能性だ。

 

もし封印が破られたら。

 

もし内側の混沌存在が、もはや一縷の力を貸すだけではなくなったら。

 

もしその混沌の本体が、本当に出てき始めたら。

 

それこそが問題だった。

 

ニャーサは、この世界のソレンセンを見たことがない。

 

元の世界でも、ソレンセンの全軌跡を知っていたわけではない。

 

秩序戦争期のソレンセンと、正面から交戦したこともない。

 

けれど今、混沌残留からいくつかのものを読み取っていた。

 

その残留は、あまりにも深い。

 

あまりにも黒い。

 

あまりにも暴虐的。

 

まるで、一枚の扉の向こうに押し込められた、果てしない海のようだった。

 

ニャーサは知っていた。

 

扉の向こうの存在が完全に出てくれば、この世界の退魔界など絶対に耐えられない。

 

そして、自分にとっても、軽く弄べる相手ではない。

 

それは、封印された混沌系存在の全盛状態を、正面から簡単に撃破できるとは思っていなかった。

 

だから、雷の力を修練し始めたのだ。

 

今の白川一音に対処するためではない。

 

それは必要ない。

 

修練するのは、三つの事態に備えるためだった。

 

第一。

 

白川一音が限界まで追い詰められ、安全出力を超える混沌出力を自ら使う場合。

 

第二。

 

封印に亀裂が入り、封印されているあの存在の意志の一部が、宿主の制御条件を越える場合。

 

第三。

 

どこかの愚か者、どこかの大勢力、あるいは猫目自身が敷いた何らかの線が、予想以上に大きく扉を開いてしまう場合。

 

ニャーサは、想定外が嫌いだった。

 

だから備える。

 

訓練場の中で、細い電弧がさらに精密に操作される。

 

ニャーサはわかっていた。

 

もし少しでも慎重さを欠いて力を制御すれば、この世界は漏れ出したエネルギーだけで消滅する。

 

そうなれば、白川一音は必ず体内に封印されたあのものを直接解放する。

 

それは、ニャーサが望まない状況だった。

 

ニャーサは冷静だった。

 

勇敢さを美徳とは見なさない。

 

生きること。

 

制御すること。

 

利益を得ること。

 

待つこと。

 

それこそが猫のやり方だった。

 

訓練場の上方で、猫目資本の技術者たちは、計器が狂ったように跳ねるのを見ているだけだった。

 

電圧ピークは安全設計値を次々と突破していく。

 

霊的遮蔽層には連続した波紋が生じている。

 

監視担当の研究員は、顔面蒼白になっていた。

 

「出力が、すでにプラットフォームの設計限界値を超えています」

 

代理人が横に立ち、震える声で言った。

 

「暴走する可能性は?」

 

研究員は画面を見つめた。

 

「通常判断なら、とっくに暴走しているはずです」

 

しかし訓練場の中央で、ニャーサに狼狽は一切なかった。

 

それは、極限まで力を収束させた状態で、雷元素への制御力をさらに高めることに慣れようとしていた。

 

もし来るかもしれない決戦で、あの混沌属性の存在に対して、より高い殺傷力を得るために。

 

乱れ飛ぶ電弧はない。

 

爆発もない。

 

ニャーサは低く言った。

 

「電は、ただ爆ぜるものではない」

 

「命令でもある」

 

「速度でもある」

 

「相手に後悔する暇を与えない一瞬でもある」

 

爪先が緩む。

 

人間の肉眼では観測できない領域で、細い電弧が消えた。

 

爆発ではない。

 

それは、そのまま影の中へ沈み込んだ。

 

次の瞬間、訓練場に並ぶ四十九個の試験標的が、同時に跡形もなく破壊された。

 

音はない。

 

火光もない。

 

もしあれが術師なら、自分が攻撃されたと意識する暇すらなかっただろう。

 

もしあれが安全出力下の黒弦防御なら、多点高周波の暗電によって限界まで追い込まれていたはずだ。

 

ニャーサは結果を見つめたが、表情は変わらなかった。

 

「足りない」

 

それは言った。

 

代理人は呆然とした。

 

「ボス、すでにすべての試験目標を超えていますが……」

 

ニャーサは彼を見もしなかった。

 

「足りない、と言った」

 

白川一音に対してなら、もちろん十分だ。

 

この世界に対しても、もちろん十分だ。

 

複数の元素の祖級の相手に対しても、渡り合い、あるいは勝利することさえできる。

 

けれど、扉の向こうにいるあの混沌災厄が本当に目覚めたなら、これでは足りない。

 

少なくとも、安全とは言えない。

 

ニャーサは修練を続けた。

 

そしてその日、私はA大学で新学期前の研究会の小さな整理作業に参加していた。

 

濑川会長は、夏休みの録音資料をアーカイブするように言った。

 

相原真紀はファイルにキーワードを追加する担当。

 

私は音声バックアップの確認を担当した。

 

食堂入口。

 

中央広場。

 

図書館前。

 

夏の蝉声。

 

サークル棟の廊下。

 

実習関連資料は研究会アーカイブに入れない。

 

あれは活動センターの内部内容だからだ。

 

そのルールは、はっきり覚えていた。

 

高橋さんは言っていた。

 

記録は所有ではない。

 

濑川会長も言っていた。

 

音は、勝手に使っていい素材ではない。

 

私は一つの音声ファイルをフォルダへドラッグし、バックアップ完了を確認した。

 

新しいパソコンの動作はとてもスムーズだった。

 

少し嬉しかった。

 

相原が尋ねた。

 

「白川さん、新学期も自動車学校は続けるの?」

 

私はうなずいた。

 

「うん。まだ正式な免許は取れてないから」

 

「すごいよ。もう路上教習まで行ってるんでしょ」

 

「すごく怖い」

 

彼女は笑った。

 

「私も運転は怖いと思う」

 

「本当?」

 

「もちろん。道路にはあんなに車がいるんだよ」

 

私はほっとした。

 

怖いのは、私だけではない。

 

意識の奥で、ソレンセンが言った。

 

「お前はいつも、他人も怖がっていると安心するな」

 

「そうだと、私だけが特別に変なわけじゃないってわかるから」

 

「お前はもともと十分変だ」

 

「黙って」

 

それは知らなかった。

 

遠い海上プラットフォームで、ニャーサが雷と影を使い、今の私が使える力と、今後それに脅威を与えるかもしれないソレンセンをどう制圧するか、模擬していることを。

 

私も知らなかった。

 

私たちはただ、大学の活動室で音声を整理し続けていただけだった。

 

異常感はまったくない。

 

警告もない。

 

手がかりもない。

 

ニャーサの修練場は、あまりにも徹底して隔離されていたからだ。

 

それは力を私へ伸ばしていない。

 

混沌残留を共鳴させてもいない。

 

ただ、集めた断片を参考にして、冷静に自分を鍛えているだけだった。

 

ソレンセンには感知できない。

 

私には、なおさら感知できない。

 

ニャーサの経済支配も、さらに深まっていった。

 

猫目資本は、日本の世俗界のより中核的な経済層へ入り始めた。

 

もはや、小型文化施設や退魔界の外縁だけではない。

 

投資基金を通じて、地方銀行の不良資産処理へ。

 

保険会社を通じて、文化施設や小規模商店街のリスク評価へ。

 

データ会社を通じて、夜間安全システムへ。

 

物流企業を通じて、医療、イベント設備、特殊材料の輸送へ。

 

コンサルティング会社を通じて、地方自治体の青年文化振興事業へ。

 

これらの業界は、一つ一つ見れば、ごく普通に見える。

 

けれど、組み合わされば、世俗界の神経網になる。

 

金はどこから来るのか。

 

設備はどこへ運ばれるのか。

 

どの活動センターが修繕を必要としているのか。

 

どの商店街の夜間人流が減っているのか。

 

どのLiveHouseがローンを払えないのか。

 

どの地方自治体が青年音楽祭をやりたがっているのか。

 

これらの情報は、本来なら別々のシステムに分散していた。

 

猫目は、それらを少しずつ一か所へ集めていった。

 

退魔界の大勢力もまた、侵食され始めていた。

 

天城の旧サプライヤー。

 

御影旁系の保険。

 

京都文化デジタル化の外縁請負。

 

玄海漁港の安全設備。

 

四国遍路道の文化修復。

 

長野山間観測施設の保守。

 

さらに、特調室の一部非中核外部委託後方業務でさえ、猫目プラットフォームへ接続しかけたことがあった。

 

幸い、眼鏡の女性がそれを間に合って止めた。

 

けれど、一度止めたからといって、永遠に止められるわけではない。

 

猫目は、一つの扉だけを叩くのではない。

 

同時に百の扉を叩く。

 

そのうち三つでも開けば、それで十分なのだ。

 

ニャーサはよく理解していた。

 

退魔界だけを支配しても足りない。

 

退魔界は世俗界に依存している。

 

世俗界は、土地、金、保険、医療、交通、メディア、法律、公共施設を提供している。

 

退魔界だけを支配すれば、特調室や大勢力はまだ反撃できる。

 

けれど、世俗界との接合部も同時に支配すれば、反撃のコストは跳ね上がる。

 

たとえば、小型LiveHouseが猫目のローンを受ける。

 

その後、その会場で異常が発生する。

 

特調室が介入しようとしても、会場側はまず猫目の安全顧問へ連絡する。

 

猫目の安全顧問が、それから「外部専門支援」が必要かどうかを判断する。

 

これで、扉が一つ増える。

 

その扉は、猫目の手にある。

 

またたとえば、青少年活動センターが猫目の夜間安全システムを使用している。

 

あるとき、システムが異常音を記録する。

 

データはまず猫目のクラウドへアップロードされる。

 

特調室が見ようとすれば、正式な申請が必要になる。

 

また扉が一つ増える。

 

その扉も、やはり猫目の手にある。

 

ニャーサは、すべての人間の行動を止める必要はない。

 

すべての行動の前に、扉を一つ増やせばいい。

 

最終的に退魔界は気づくことになる。

 

彼らはまだ戦える。

 

けれど、出かける前に猫を通らなければならない。

 

無門術師たちは、ますます焦り始めていた。

 

真壁仁は、いくつかの小組織が猫目システムの停止を嫌がっていることに気づいた。

 

理由は単純だった。

 

「停止したあと、誰が補償してくれるんですか?」

 

「代替装備は誰が提供するんですか?」

 

「過去三か月のデータ移行は誰が担当するんですか?」

 

「傷害保険は誰が見るんですか?」

 

真壁仁は言葉に詰まった。

 

それらの問題は、すべて現実的だったからだ。

 

彼は人を怒鳴ることはできる。

 

現場を清理することもできる。

 

偽の符陣を解体することもできる。

 

けれど、何もないところから金を生み出すことはできない。

 

菅原涼も似た問題に直面していた。

 

負傷した術師の中には、猫目保険が過剰な資料を要求すると知っていても、それでも使いたがる者がいた。

 

治療費が必要だからだ。

 

菅原涼は、道徳的な高みから「使うな」と言うことはできなかった。

 

彼女にできるのは、報告書を削り、提出内容を最小限にすることだけだった。

 

遠野修司の側では、いくつかの地方修繕事業が、すでに猫目設備と結びついていた。

 

外せば通常の照明や安全管理に影響が出る。

 

外さなければ、データが流出するかもしれない。

 

どの選択肢もよくない。

 

そこが、猫目の最も気持ち悪いところだった。

 

それは単純な敵味方を作らない。

 

すべての人間が、それの一部を必要とする現実を作るのだ。

 

特調室は、反猫目勢力案の策定を始めた。

 

けれど、その案の進行は遅かった。

 

資金の代替には財政が必要だ。

 

装備の代替にはサプライヤーが必要だ。

 

保険の代替には法的協定が必要だ。

 

文化施設安全の代替には、地方自治体との協力が必要だ。

 

これはもはや、一つの行動班で解決できる問題ではなかった。

 

久我山統括官は会議で言った。

 

「猫目は、自らをインフラに変えつつある」

 

眼鏡の女性はうなずいた。

 

「もし今、強引に切断すれば、多くの中小組織が先に崩れます」

 

若い分析官が尋ねた。

 

「では、どうすれば?」

 

久我山は長いあいだ沈黙した。

 

「まず核心を守る」

 

「白川一音に関わる生活圏を守る」

 

「無門術師の連絡網を守る」

 

「猫目に接続されていない文化空間を守る」

 

「同時に、代替体系を構築する」

 

そこまで言って、彼の声はさらに低くなった。

 

「これが彼女の未来の方向へ近づいていることを、彼女に知らせるな」

 

眼鏡の女性にはわかっていた。

 

もし私が、猫目勢力が青少年音楽活動、LiveHouse、文化センターといった領域を侵食していると知れば、必ず影響を受ける。

 

自分で調べに行こうとするかもしれない。

 

自責するかもしれない。

 

自分の未来の仕事の方向まで、また暗面に汚染されたと思うかもしれない。

 

だから、彼らは先に私へすべてを知らせないことにした。

 

今回、彼らが私の代わりに防いでいるのは怪物ではなかった。

 

社会構造の中に潜む猫の爪だった。

 

私が知っていたのは、新学期がもうすぐ始まるということだけだった。

 

ある夜、私は新学期の時間割をAfterToneのグループへ送った。

 

陽菜が言った。

 

音声メディア研究! すごく専門的な感じ!

 

澪が言った。

 

文化政策、字が多そう。

 

日和が言った。

 

どの授業も、あなたがやりたい方向に関係してるね。いいと思う。

 

そのメッセージを見て、胸が温かくなった。

 

「あなたがやりたい方向に関係してる」

 

そうだ。

 

新学期、私はその方向へ真剣に歩いていこうとしている。

 

青少年音楽活動。

 

小型文化空間。

 

音声記録。

 

文化政策。

 

私は、その道がまだ清潔だと思っていた。

 

少なくとも、私の目にはそう見えていた。

 

猫目勢力が、同じ領域へすでに爪を伸ばしていることを、私は知らなかった。

 

ソレンセンも知らなかった。

 

それはただ、私が時間割を整理するのを見ながら、嫌そうな声を出すだけだった。

 

「お前の人生は、ますます紙の山みたいになってきたな」

 

「この紙は大事なの」

 

「弱い」

 

「役に立つ」

 

「いずれわかる。紙では本当の敵は防げない」

 

私は少し止まった。

 

「でも、紙があれば、明日どの教室へ行けばいいかはわかる」

 

ソレンセンは数秒黙った。

 

「それは、まあそうだな」

 

私は少し笑った。

 

それが、その日の私たちの会話だった。

 

小さくて。

 

普通で。

 

本当の敵が遠くで雷と影を修練し、混沌残留を研究し、資本ネットワークを操り、退魔界の大勢力を侵食していることなど、まったく意識していなかった。

 

深夜、小さなアパートで、私は新学期資料を閉じた。

 

明日は大学へ行って、いくつかの履修確認手続きをする。

 

明後日は自動車学校。

 

週末は練習。

 

それらをカレンダーに書き込んだ。

 

灰色の日程は、まだ空いている。

 

それが私を安心させた。

 

黒海の中で、ソレンセンがしばらく静かにしていた。

 

そして、ふいに言った。

 

「最近、静かすぎる」

 

私の指が止まった。

 

「何かおかしいと思うの?」

 

「退屈だ」

 

「ただ退屈なだけ?」

 

「ああ」

 

私は息を吐いた。

 

「静かなのは悪いことじゃないよ」

 

「お前にとってはそうだ」

 

「私にとってもそう」

 

「吾は嫌いだ」

 

「嫌いでもいい」

 

電気を消す前に、私は冷蔵庫のメモを一度見た。

 

食べるのを忘れない。

 

飯。

 

生活はまだここにある。

 

時間割は机の上にある。

 

ギターは壁に立てかけてある。

 

自動車学校の教材はバッグに入っている。

 

私は何の異常にも気づかなかった。

 

ソレンセンも気づかなかった。

 

私たちはどちらも、静けさはただの静けさだと思っていた。

 

それが、猫が歩くときに、わざと爪音を消していたからだとは知らずに。

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