俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第73章 猫影の一撃、そして私はその日、暗面の一角が崩れたことをまったく知らなかった

第73章 猫影の一撃、そして私はその日、暗面の一角が崩れたことをまったく知らなかった

 

新学期第二週、私は音声メディア研究に慣れ始めていた。

 

この授業は、思っていたよりずっと面白い。

 

先生は第一回の授業で、こう言った。

 

「音はただ聞こえるものではありません。人が空間をどう理解するかも決めます」

 

私はすぐに書き留めた。

 

音と空間。

 

音と記憶。

 

音と身体。

 

音と権力。

 

このいくつかの言葉をノートに書いたとき、ふと京都旧音庫を思い出し、九州の潮返洞も思い出した。

 

けれど、あまり深く考え続けなかった。

 

それは灰色の日程だ。

 

今は授業。

 

授業中の私は、ただのA大学音楽文化学科一年生だった。

 

相原真紀は隣に座って、真剣にノートを取っていた。

 

授業が終わると、彼女が尋ねた。

 

「白川さん、この授業どう思う?」

 

私はうなずいた。

 

「すごく役に立つ」

 

「すごく真剣に聞いてたね」

 

「音は本当に、場所に影響するから」

 

相原は笑った。

 

「その言い方、白川さんらしい」

 

少し恥ずかしくなった。

 

それから、私たちは一緒に食堂へ行った。

 

今日の食堂には唐揚げ定食があった。

 

澪なら、きっと合格と言う。

 

私は写真を撮って、AfterToneのグループに送った。

 

澪はすぐに返信した。

 

合格。

 

陽菜が送ってきた。

 

小音の大学ごはん調査、継続中!

 

日和は言った。

 

野菜も忘れないで。

 

私はトレーを見た。

 

確かに野菜は少ない。

 

だから、小さなサラダを追加で買った。

 

それが、その日の昼に私が見ていた世界だった。

 

授業。

 

食堂。

 

友達からのメッセージ。

 

唐揚げ定食。

 

サラダ。

 

私はまったく知らなかった。

 

同じ時刻、退魔界のいくつかの大勢力が、すでに我慢の限界に近づいていたことを。

 

猫目資本の拡大は、ついに一部の大勢力を座っていられなくさせた。

 

誰もが特調室のように、ゆっくり代替体系を作れるわけではない。

 

自分たちが一つの会社に、契約、保険、装備、資金線で首を締められていると認めたがる家も、そう多くはない。

 

一部の家系は、もっと直接的な解決に慣れていた。

 

とくに伝統的な強硬派はそうだった。

 

彼らは考えた。

 

猫目資本がどれほど複雑でも、所詮は外来資本だ。

 

猫目基金がどれほど合法でも、所詮は殻だ。

 

猫目安全がどれほど拡張しても、倉庫、サーバー、人員、術具、資金ノードは必要なはずだ。

 

いくつかの中核ノードを武力で引き抜けば、猫目は自然と退く。

 

その考えは乱暴だった。

 

けれど、ある家族の長老たちから見れば、乱暴さこそが有効性だった。

 

彼らは特調室の慎重さを信用していなかった。

 

無門術師たちの報告も信用していなかった。

 

まして、「代替供給体系を構築する」などという悠長な方法を信用するはずもなかった。

 

彼らは、退魔界とは本来、力で秩序を維持するものだと考えていた。

 

猫目が暗面に手を伸ばすなら、その手を斬り落とせばいい。

 

こうして、いくつかの家族は特調室を迂回し、臨時の清剿隊を組んだ。

 

名目は、

 

猫目関連異常ノード強制排除行動。

 

実際には、突襲だった。

 

目標は、関東近郊にある猫目関連の物流倉庫。

 

その倉庫は表向き、文化安全設備、舞台保険物資、特殊防護消耗品、夜間巡回装備の中継を担当していた。

 

しかし、いくつかの家族は、そこが猫目による退魔界外縁装備流通支配の重要ノードでもあると考えた。

 

派遣された人数は少なくなかった。

 

三十名以上の家族術師。

 

そのうち七名は、各家の本物の達人だった。

 

退魔界の評価基準で見れば、いずれも一般的なA級術師をはるかに上回る実力者だった。

 

キャンパス襲撃のときのような低級邪術師ではない。

 

金で買われた周辺術師でもない。

 

彼らには家伝術式があった。

 

実戦経験もあった。

 

正式な封印装備もあった。

 

長年の訓練によって作られた連携もあった。

 

日本の退魔界に置けば、彼らはほとんどの中高危険度事件を処理できるだけの戦力だった。

 

その領隊の名は、藤堂兼清。

 

五十歳前後。

 

京都の中核人物ではない。

 

しかし、地方家系圏ではかなり知られた人物だった。

 

雷火系の封鎖術を得意とする。

 

猫目に対しては、以前から強硬姿勢を主張していた。

 

出発前、彼は言った。

 

「猫目は帳簿を結界にし、契約を符紙にしている」

 

「なら今夜、我々が思い出させてやる。真の退魔界が何によって語るのかを」

 

そばにいた数名の長老がうなずいた。

 

彼らは皆、この行動が猫目を後退させると思っていた。

 

少なくとも、大勢力が会議や報告書を書くことしかできないわけではないと、相手に知らせることはできるはずだった。

 

彼らは知らなかった。

 

自分たちが向き合う相手が、猫目の管理職の誰かではないことを。

 

猫目に雇われた普通の術師でもないことを。

 

それが、網の中央に本当に隠れている猫だということを。

 

倉庫外縁の戦闘は、最初は順調だった。

 

猫目には確かに大量の術師がいた。

 

その数は、家族清剿隊を驚かせるほど多かった。

 

低級除霊人。

 

債務術師。

 

再編された邪術師。

 

文化安全巡回隊。

 

装備会社の護衛。

 

外部委託の結界技師。

 

そして、かつては中小組織に属し、今は猫目の給料を受け取っている者たち。

 

個々の実力は、特別に高いわけではない。

 

けれど、装備は統一され、補給は十分で、通信は安定し、戦闘指揮は非常に明確だった。

 

これこそが猫目の恐ろしさだった。

 

すべての手下が達人である必要はない。

 

普通の術師に、統一装備、統一通信、統一撤退ルート、統一補給を与えればいい。

 

平凡な者たちも、大量に組織されれば、いわゆる家族精鋭を足止めするには十分だった。

 

家族清剿隊はすぐに、自分たちが直接突破できないことに気づいた。

 

一歩前進するたびに、三組から五組の猫目術師が交代で牽制してくる。

 

ある者は低級結界を展開して時間を稼ぐ。

 

ある者は防護符で攻撃を消耗させる。

 

ある者は臨時封鎖帯を配置する。

 

ある者は家族術師同士の伝令だけを狙って切断する。

 

負傷者が出れば即座に後方へ下げ、別の組が補充される。

 

これは伝統的な退魔戦ではなかった。

 

もっと現代的な後方支援戦争に近い。

 

藤堂兼清の顔色は、どんどん悪くなっていった。

 

「こいつら、なぜこんなに整っている?」

 

そばの家族達人が歯を食いしばって言った。

 

「強いわけではない。多すぎる」

 

別の者が言った。

 

「それに、装備が良すぎる」

 

猫目術師たちは、確かに伝統家系のように術式の美しさを重視していなかった。

 

動きは、むしろ少し不器用に見える。

 

けれど、彼らには金があった。

 

消耗品がある。

 

予備符がある。

 

薬剤がある。

 

防護服がある。

 

撤退車両がある。

 

現場医療がある。

 

データ指揮がある。

 

家族達人は、一撃で一組を撃破できる。

 

しかし、次の組がすぐに補充される。

 

一本の線を斬っても、十本の線が絡みついてくるようだった。

 

猫目は、膨大な術師数と後方支援で、大勢力の戦闘力を倉庫外縁に縛りつけた。

 

本物の達人たちは、少しずつ消耗を強いられた。

 

藤堂兼清は、ついに我慢できなくなった。

 

彼は家伝の雷火術式を展開し、外縁三層の防護を轟き破った。

 

七名の家族達人がその機に乗じて突破し、倉庫中核区へ突入した。

 

彼らは、指揮中枢を見つけさえすれば、この遅延戦を終わらせられると思っていた。

 

倉庫中核区は静かだった。

 

あまりにも静かだった。

 

指揮員はいない。

 

サーバーの振動もない。

 

大量の護衛もいない。

 

ただ、片づけられた貨物スペースが広がっている。

 

その中央に、普通の折りたたみテーブルが一つ置かれていた。

 

テーブルの上には、未開封のペットボトルの水が一本。

 

水の横に、一匹の猫が伏せていた。

 

いや。

 

猫ではない。

 

ニャーサだった。

 

それは目を上げ、突入してきた七名の家族達人を見た。

 

「ようやく入ってきたか」

 

藤堂兼清は、瞬時に異常を感じた。

 

彼は弱者ではない。

 

大勢力の中で達人と呼ばれる者の直感は、鈍くない。

 

目の前の存在は、巨大な殺気を放っていない。

 

結界も展開していない。

 

咆哮もしていない。

 

威圧的な登場すらしていない。

 

だが、静かすぎるからこそ、背筋が冷えた。

 

藤堂兼清は手を上げた。

 

「封!」

 

七名の家族達人が、ほぼ同時に術を放った。

 

雷火。

 

土封。

 

鏡返。

 

線鎖。

 

浄風。

 

鎮魂符。

 

七つの術式が、異なる方向からニャーサへ押し寄せる。

 

もし相手がこの世界の普通の強者であれば、この一撃で抵抗能力を失っていただろう。

 

もし頂点級の邪術師であっても、核を露出せざるを得なかったはずだ。

 

しかし、ニャーサは一瞥しただけだった。

 

本当に、それだけだった。

 

立ち上がりもしない。

 

テーブルの水にも触れない。

 

人間には感知できないほどの暗紫色の電光が、尾の先から滑り出した。

 

細い。

 

監測機器でもほとんど見えないほど、細い線。

 

電光が一閃する。

 

七つの術式が、同時に空中で止まった。

 

次の瞬間、すべて砕けた。

 

強引に粉砕されたのではない。

 

内部構造を一瞬で見抜かれ、最も重要な場所を軽く挑ねられたようだった。

 

雷火は火花となって断たれた。

 

土封は灰となって崩れた。

 

鏡返はただのガラス片の光になった。

 

線鎖は力を失い、地面へ落ちた。

 

浄風は方向を失った。

 

鎮魂符は直接、効力を失った。

 

七名の家族達人は、同時に硬直した。

 

何が起きたのか理解する間もなく、暗電は彼らの足元の影を通り抜けていた。

 

血はない。

 

悲鳴もない。

 

ただ、術式の核が一瞬で撃ち抜かれる鈍い響きだけがあった。

 

七人は、ほぼ同時に倒れた。

 

膝をつく者。

 

そのまま気絶する者。

 

手にしていた法器が割れる者。

 

家伝の護符がその場で白い灰になる者。

 

藤堂兼清は、全力で最後の護身雷火を展開した。

 

その一筋の暗電は、彼の護身雷火を貫いた。

 

まるで針が水面を通り抜けるように。

 

藤堂兼清の胸に衝撃が走り、彼の身体は後方へ吹き飛ばされ、棚の前に叩きつけられた。

 

意識が消える直前、彼が聞いたのは、ニャーサの怠そうな一言だけだった。

 

「君たちの世界の雷は、道端の雑魚にも及ばないね」

 

七名の家族達人。

 

全滅。

 

戦術的撤退ではない。

 

小さな敗北でもない。

 

まったく反撃できないまま、一撃で撃破された。

 

ニャーサが使った力は、ペットボトルの水を一口飲むための労力にも届いていなかった。

 

テーブルの上の水は、いまだに開封されていない。

 

それは飲んでいない。

 

喉など、まったく渇いていなかったからだ。

 

外縁の戦闘も、同時に終わった。

 

猫目術師たちは命令を受け、追撃を停止した。

 

家族清剿隊の全員が制圧され、武装解除され、術式行動を封じられた。

 

公開処刑はない。

 

血まみれの見せしめもない。

 

ニャーサは、そんなものを必要としていなかった。

 

必要なのは情報だった。

 

自然に流れていく情報。

 

大勢力が送り出した家族達人たちは、猫目の本当の核心に触れることすらできず、ただの一撃で全滅した。

 

しかも相手は本気ではなかった。

 

水すら飲まなかった。

 

ニャーサは、あえて気絶させておいた藤堂兼清の前まで歩き、低く見下ろした。

 

「送り返せ」

 

代理人が頭を下げた。

 

「全員ですか?」

 

「全員だ」

 

「何人か残しますか?」

 

ニャーサの視線が淡く彼をかすめた。

 

代理人は即座に頭を下げた。

 

「不要ですね」

 

ニャーサは言った。

 

「帰らせて、話させろ」

 

「何を話させるので?」

 

「彼らが見たものを」

 

代理人の喉が強張った。

 

「彼らは話すでしょうか?」

 

「もちろん話す」

 

ニャーサは静かに笑った。

 

「恐怖は、宣伝よりずっと本物だからね」

 

それはテーブルのほうへ戻った。

 

そして、ようやくペットボトルの水を手に取った。

 

けれど、少し眺めただけで、また置いた。

 

「やっぱりいい」

 

「必要ない」

 

その夜のうちに、知らせは伝わった。

 

公開ネットではない。

 

大勢力の内部暗線を通じてだった。

 

藤堂兼清が目を覚まして最初に言った言葉は、

 

「もう人を送るな」

 

二つ目は、

 

「あれは猫目が雇った術師ではない」

 

三つ目は、

 

「我々は、あれに動作らしい動作すらさせられなかった」

 

いくつかの家族の会議室は、死んだように静まり返った。

 

信じない者もいた。

 

「七名の達人が、一撃で全滅?」

 

藤堂兼清の顔は蒼白だった。

 

「あれは本気ではなかった」

 

「確かか?」

 

藤堂兼清は顔を上げた。

 

その目には初めて、本当の恐怖が浮かんでいた。

 

「あれの机には、水が一本置いてあった」

 

「我々を倒し終わっても、その水は開けられていなかった」

 

会議室の誰も、言葉を発しなかった。

 

その一言は、どんな戦闘報告よりも恐ろしかった。

 

なぜなら、それは相手が偶然勝ったのではないことを示していたからだ。

 

必死だったわけでもない。

 

一度きりの大術に頼ったわけでもない。

 

ただ、ついでだったのだ。

 

机の周りにいる虫を追い払うように。

 

特調室はすぐに報告を受け取った。

 

久我山統括官は読み終えると、顔色を恐ろしく沈ませた。

 

眼鏡の女性はそばに立ち、第二報の現場分析を手にしていた。

 

「家族清剿隊は調整なしに、独断で行動しました」

 

「外縁では、猫目の大量術師に足止めされています」

 

「七名の達人が核心区へ突破した後、未知個体に瞬時に撃破されました」

 

「通常の大規模術式残留は検出されていません」

 

「この世界に対応する既知強者の記録はありません」

 

久我山は沈黙した。

 

会議室の全員が、一つの問題を思い浮かべていた。

 

もし猫目の核心にそのような存在がいるなら、これまでのすべての判断を書き換えなければならない。

 

猫目は、資本と後方支援と大量の術師だけを持っているのではない。

 

家族達人を片手間に撃破できる個体まで持っている。

 

いや、その個体こそが、この事件の本当の核心かもしれない。

 

若い分析官が低い声で尋ねた。

 

「白川さんへ通知しますか?」

 

眼鏡の女性は、ほとんど即答した。

 

「しません」

 

久我山も言った。

 

「しない」

 

会議室は静まり返った。

 

久我山は説明した。

 

「今知らせれば、彼女は自分が介入しなければならないと思う」

 

眼鏡の女性も補足した。

 

「それに、報告によれば未知個体は彼女へ能動的に接触していません。こちらから彼女を押し出すことはできません」

 

若い分析官が尋ねた。

 

「もし、それが黒弦より強かったら?」

 

その言葉が出た瞬間、会議室はさらに静かになった。

 

眼鏡の女性は答えなかった。

 

久我山がゆっくりと言った。

 

「だからこそ、彼女を行かせてはいけない」

 

「白川一音は、敵の上限を測るための道具ではない」

 

その言葉は、最高級会議記録に書き込まれた。

 

無門術師チャンネルも騒然となった。

 

真壁仁が報告を読んだとき、最初にしたことは罵倒だった。

 

猫目を罵ったのではない。

 

あの家族たちを罵ったのだ。

 

誰が直接殴りに行けと言った?

 

菅原涼の返信は早かった。

 

負傷状況は?

 

真壁:

 

大半は命を保っている。術式核に損傷。七人の達人は、恐怖で再戦不能。

 

遠野修司:

 

相手の手下は数が多く、核心個体は強い。厄介になった。

 

誰かが尋ねた。

 

では、黒弦を頼むしかないのでは?

 

真壁仁は即座に返した。

 

黙れ。

 

菅原涼も返した。

 

彼女を未知の強者へ押し出さないで。

 

遠野修司が一言送った。

 

家族達人でも相手に水を飲ませられなかった。彼女を試し斬りに使うべきではない。

 

チャンネルは長いあいだ沈黙した。

 

やがて、誰かが低く打ち込んだ。

 

じゃあ、どうすれば?

 

真壁仁は返した。

 

まず死にに行くな。

 

菅原涼:

 

後方支援を切る。代替を守る。核心を調べる。正面から突っ込まない。

 

遠野:

 

相手はこちらに、自分が強いと知らせたがっている。つまり、こちらの行動を変えさせたいということだ。まず、相手の望む動き方をするな。

 

その言葉は、とても重要だった。

 

ニャーサが力を見せたのは、ただ勝つためではない。

 

退魔界に恐怖を与えるためでもあった。

 

恐怖のあと、人は跪くか、もっと強い武器を探し始める。

 

そして「もっと強い武器」と聞いて、多くの人が最初に思い浮かべるのは、下北沢の黒弦だ。

 

それこそが、最も危険な方向だった。

 

大勢力たちは焦り始めた。

 

天城グループ内部で、天城美咲は報告を読み終えると顔を白くした。

 

「家族達人が全滅?」

 

「戦闘的な意味で全滅です」

 

「殺されてはいないのね」

 

「はい」

 

天城美咲は沈黙した。

 

そのほうが、むしろ恐ろしかった。

 

殺せば全面戦争を招く。

 

殺さずに、全員に恐怖を持ち帰らせる。

 

相手は、とてもよく制御を理解している。

 

ある取締役が低い声で言った。

 

「もし白川さんなら……」

 

天城美咲は猛然と彼を見た。

 

「言わないで」

 

会議室が凍った。

 

彼女の声は冷たかった。

 

「彼女を次の札のように扱わないで」

 

天城怜司はうなずいた。

 

「まず、私たちは自分たちの外縁線を処理する」

 

「猫目は、各勢力に自分たちの武力核心を意識させようとしている」

 

「目的の一つは、私たちにより強い戦力を探させることかもしれない」

 

「乗ってはいけない」

 

今回、天城は学んでいた。

 

恐怖はしていた。

 

それでも、私をすぐ前へ押し出すことはなかった。

 

御影家は、そこまで静かではなかった。

 

会議で誰かが言った。

 

「七名の家族達人が片手間に撃破されたのなら、これはもはや経済浸透の問題ではありません」

 

「本当に対抗できる者を頼むべきです」

 

御影冬子が冷たく尋ねた。

 

「誰を?」

 

その人は一秒沈黙した。

 

「下北沢の黒弦です」

 

御影冬子の顔色は、完全に冷えた。

 

「あなたは、一人の大学生を自分たちの試し斬りのために送る気?」

 

「彼女は普通の大学生ではありません」

 

「彼女も大学生です」

 

その人は歯を食いしばった。

 

「もし彼女が解決できるなら?」

 

御影秋人が、ふいに口を開いた。

 

「もし、彼女にもできなかったら?」

 

会議室が静まった。

 

御影秋人は続けた。

 

「あなたたちが見てきたのは、彼女がこの世界の術師たちを圧倒する姿です」

 

「でも今日現れたものは、そもそもこの世界の尺度ではないかもしれない」

 

「もし彼女も勝てなかったら、あなたたちはどうするつもりですか?」

 

誰も答えなかった。

 

御影冬子が言った。

 

「さらに重要なのは、もし彼女が勝つために、私たちの知らない代償を払うことになったら?」

 

その言葉で、全員が沈黙した。

 

彼らはソレンセンを知らない。

 

封印も知らない。

 

安全出力も知らない。

 

けれど、下北沢の黒弦の力が無代償ではないことくらいは、少なくとも知っていた。

 

御影冬子は命じた。

 

「御影家は、白川一音に協力要請を出してはならない」

 

「猫目契約の調査を続ける」

 

「本家の防護を強化する」

 

「これ以上、人を死地へ送らない」

 

京都旧結界管理委員会にも衝撃が走った。

 

七条が戦闘報告を読み終えて、最初に言ったのは、

 

「愚かね」

 

老委員はため息をついた。

 

「彼らは焦ったのだろう」

 

「焦ったら、人を送り込むのですか?」

 

七条の声は冷たかった。

 

「猫目は、強すぎる核心個体を持っていることを、こちらに知らせたかった」

 

「今、それは成功しました」

 

老委員が尋ねた。

 

「京都はどうする?」

 

七条は言った。

 

「第一に、猫目の外縁プロジェクトを止め続ける」

 

「第二に、正面衝突は避ける」

 

「第三に、いかなる家系も私的に白川一音へ連絡することを禁じる」

 

誰かが尋ねた。

 

「もしその核心個体が京都を攻撃してきたら?」

 

七条は少し沈黙した。

 

「そのときは別です」

 

「でも、その前に、恐怖から彼女を押し出してはいけません」

 

老委員はうなずいた。

 

「彼女は、つい最近、旧音庫を解決してくれたばかりだ」

 

「京都は、その直後に彼女を未知の戦場へ送るような真似はできない」

 

七条は何も言わなかった。

 

けれどその表情は、完全に同意していることを示していた。

 

玄海と四国も、緊急会議を開いた。

 

宗像怜央は報告を聞き終えると、最初に言った。

 

「これは、我々が正面から処理できるものではありません」

 

白髪の宮司はうなずいた。

 

「少なくとも今は、そうだな」

 

「白川さんを頼ってはいけません」

 

宗像怜央は早口で言った。

 

「彼女は九州の刀ではありません」

 

白髪の宮司は彼を一瞥した。

 

「ずいぶん成長したな」

 

宗像怜央は頭を下げた。

 

「ただ、今回は本当に危険だと思うだけです」

 

四国の久世真帆も言った。

 

「もしそれが家族達人を片手間に撃破できるものなら、白川さんを行かせるのは、彼女をさらに深いリスクへ押し出すだけです」

 

明厳老僧は言った。

 

「恐怖は、人に身代わりの英雄を探させやすい」

 

「彼女を、その英雄にしてはならない」

 

そして私は、何も知らなかった。

 

その夜、私はAfterToneで練習していた。

 

新曲の二番が、ようやくスムーズになった。

 

陽菜は楽しそうに歌っていた。

 

澪は今日のベースラインを「かなり飯がある」と言った。

 

私には意味がわからなかったけれど、日和は理解しているようだった。

 

練習が終わると、私たちは楽屋でお菓子を食べた。

 

陽菜が尋ねた。

 

「小音、新学期第一週どうだった?」

 

私は少し考えた。

 

「一回迷子になった」

 

陽菜が笑い出した。

 

澪が言った。

 

「大学は強い」

 

日和は笑って言った。

 

「音声メディア研究は?」

 

「すごくいい」

 

「文化政策は?」

 

「それもいい。でも、お金とか制度の話が多い」

 

日和はうなずいた。

 

「将来、文化空間に関係する仕事をするなら、そういうのは大事になるよ」

 

「うん」

 

私は手の中のお茶を見下ろした。

 

「場所を守るって、気持ちだけじゃ足りないんだってわかった。お金がどこから来るのか、契約をどう書くのか、誰が支えているのかもわからないと」

 

日和は私を見た。

 

「現実的だね」

 

「ちょっと難しい」

 

「ゆっくり学べばいいよ」

 

私はうなずいた。

 

「うん」

 

私が「ゆっくり学ぶ」と言ったそのとき、退魔界のいくつかの大勢力は、猫目の一撃のせいで眠れない夜を過ごしていた。

 

けれど、私は知らなかった。

 

ソレンセンも知らなかった。

 

それはただ黒海の中で、気怠げに言った。

 

「今日は、弾き間違いが少なかったな」

 

私は心の中で答えた。

 

「ありがとう」

 

「褒めていない」

 

「褒め言葉として受け取る」

 

それはニャーサの出手に気づかなかった。

 

ニャーサの戦闘は、隔離された倉庫核心区で起きていたからだ。

 

力の残留は、ニャーサ自身によってすぐに封じられた。

 

それ以上に、プニの封印の質があまりにも高く、ソレンセンの外界感知をほぼ完全に遮断していた。

 

それは私へ近づいていない。

 

力の波動も引き起こしていない。

 

ソレンセンはただ、外がいつもより静かだと感じただけだった。

 

それは知らなかった。

 

その静けさが安全ではないことを。

 

多くの勢力が、恐怖で声を出せなくなっているからだということを。

 

深夜、ニャーサは海上プラットフォームへ戻った。

 

それは雷の修練を続けた。

 

七名の家族達人を撃破したことなど、ニャーサにとっては何でもなかった。

 

水を一口飲むことにすら及ばない。

 

けれど、その戦いには価値があった。

 

それは、退魔界に猫目が資本だけではないと知らせた。

 

大勢力に、武力清除という道がそう簡単ではないと知らせた。

 

これから、彼らはためらう。

 

議論する。

 

恐れる。

 

代替案を探す。

 

誰かは黒弦を思い出す。

 

また誰かは、黒弦を頼ることを止めようとする。

 

ニャーサは、どちらが勝つのか見てみたかった。

 

それは訓練場の中央に立った。

 

電光が灯る。

 

影が広がる。

 

プラットフォームの外で、海面が無音で震えた。

 

猫は、なおも練習していた。

 

まだ見たこともなく、今はまだ見たくもない混沌災厄に備えるために。

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