俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第74章 顔見知りの勢力の焦り、そして特調室が初めて猫目の核心を同級脅威に分類した日

第74章 顔見知りの勢力の焦り、そして特調室が初めて猫目の核心を同級脅威に分類した日

 

新学期第二週が終わるころ、私はようやく迷子にならなくなった。

 

これは大きな進歩だった。

 

少なくとも、私にとってはかなり大きい。

 

音声メディア研究の教室は三号館四階。

 

文化政策入門は二号館三階。

 

心理学発展は一号館。

 

地域文化実践は、ときどき教室が変わるので、私は前日に確認する。

 

三回確認する。

 

四回目はない。

 

私は少しずつ、大学の地図を把握し始めている気がした。

 

もちろん、その把握はまだとても脆い。

 

もし急に教室が別の棟へ変わったら、私はまだ慌てると思う。

 

ソレンセンはそれについて、こう評価した。

 

「お前はようやく、自分の巣の中を歩けるようになったな」

 

「巣じゃない」

 

「お前の反論も、だんだん力がなくなってきたな」

 

私は時間割を見下ろし、それを無視した。

 

その日の夕方、私はAfterToneの練習へ行った。

 

陽菜は新しい歌詞を持ってきた。

 

澪はおにぎりを持ってきた。

 

日和は修正済みの練習予定を持ってきた。

 

私は大学食堂で買った普通のお菓子を持ってきた。

 

すべてが普通だった。

 

普通すぎて、この新学期は少し順調に進むかもしれないと思えた。

 

けれど私は知らなかった。

 

私に見えない暗面で、私が知っているいくつかの大勢力が、すでに座っていられなくなっていたことを。

 

彼らは、あの見知らぬ強硬派ではなかった。

 

以前、勝手に行動した家族清剿隊でもなかった。

 

かつて私と関わり、私が道具ではないと知り、何度も自分たちに「彼女を前へ押し出してはいけない」と言い聞かせてきた勢力だった。

 

天城。

 

御影。

 

京都旧結界管理委員会。

 

玄海鎮守連合。

 

四国地方連合。

 

彼らは皆、距離を保つことを学んでいた。

 

そして、私の大学生活を簡単に暗面へ引きずり込んではいけないことも知っていた。

 

けれど、猫目の浸透はあまりにも速かった。

 

急いではいけないとわかっていても、焦りを抑えきれなくなるほどに。

 

最初に問題が出たのは、天城グループだった。

 

猫目は天城の核心には触れていない。

 

けれど、天城の外部サプライヤーの首には、すでに噛みついていた。

 

いくつかの重要保守会社が、天城の内部切り替え要求を遅らせ始めた。

 

理由は非常に合理的だった。

 

契約期間がまだ残っている。

 

保険会社が設備の早期撤去に同意しない。

 

代替サプライヤーの資格が不足している。

 

物流コストが上昇している。

 

過去データの移行には猫目プラットフォームの協力が必要だ。

 

一つ一つは商業上の問題に見える。

 

けれど、合わせれば、天城は自分たちの外縁の血管を猫目の手からうまく引き抜けなくなっていた。

 

天城美咲は三日連続でよく眠れなかった。

 

会議室で、ある人物が提案した。

 

「猫目の核心戦力が危険なのは確かです。ですが、我々は永遠に受け身でいるわけにはいきません」

 

「直接核心を叩けないなら、外縁の武力ノードを攻撃すればいい」

 

「先に、彼らの手下である術師部隊を切り落とし、実行能力を減らすのです」

 

天城怜司はすぐには同意しなかった。

 

「前回の家族清剿隊の結果は、皆見ただろう」

 

その安全責任者は言った。

 

「だから今回は、核心個体には触れません」

 

「外縁だけを叩きます」

 

「高速突襲で、猫目巡回隊と装備倉庫を排除します」

 

「天城は情報と技術支援だけを提供し、実行は協力術師に任せます」

 

天城美咲は長いあいだ沈黙した。

 

彼女は、それが危険だとわかっていた。

 

けれど同時に、このまま待てば、天城の外縁が猫目にますます絡め取られることもわかっていた。

 

最後に、彼女は言った。

 

「普通人に被害を出さないこと」

 

「白川さん関連区域に近づかないこと」

 

「彼女を巻き込まないこと」

 

安全責任者はうなずいた。

 

「承知しました」

 

こうして、天城関連の協力勢力は、猫目外縁武力ノードを狙う一つの行動に参加した。

 

彼らは、自分たちは十分慎重だと思っていた。

 

猫目の核心倉庫を攻撃しない。

 

猫目資本本部にも触れない。

 

選んだのは、千葉郊外にある「文化安全巡回訓練センター」だけだった。

 

そこは表向き、夜間文化施設の警備員を訓練する場所だった。

 

実際には、猫目がそこで低級術師と装備部隊を再編していた。

 

天城側の判断では、

 

この訓練センターを潰せば、関東における猫目の低級実行力は損なわれる。

 

彼らは間違っていた。

 

目標に価値がなかったからではない。

 

猫目の手下術師の数と組織力を、見誤っていたからだ。

 

行動開始から二十分後、天城協力術師は足止めされた。

 

猫目巡回隊は、伝統的な術師のように一人で戦わない。

 

三人一組。

 

五組で一層。

 

防護を担当する者。

 

妨害を担当する者。

 

撤退を担当する者。

 

戦場誘導を担当する者。

 

敵方の術式種類を記録する者。

 

彼らは強くない。

 

けれど、あまりにも整っていた。

 

天城協力術師が一組を倒すと、後ろからすぐに次の一組が補充される。

 

装備箱を破壊すれば、隣の自動封存システムが残りの倉庫を即座にロックする。

 

通信を一本切断すれば、猫目はすぐに予備の短距離符号灯へ切り替える。

 

天城技術支援は猫目プラットフォームの妨害を試みた。

 

しかし、訓練センターの核心システムはオフラインの局域指揮系統だった。

 

外部ネットワークには接続していない。

 

天城が準備したネットワーク妨害は、ほとんど役に立たなかった。

 

戦闘が四十分続いたころ、天城協力術師に負傷者が出始めた。

 

達人にやられたのではない。

 

数、消耗品、交代によって削られたのだ。

 

防護符は尽きた。

 

治療薬も足りない。

 

撤退ルートは、低級封鎖帯によって何度も遅延させられた。

 

最後に、猫目の隠し術師小隊が側面から切り込み、天城協力術師側の指揮核心を崩した。

 

行動は失敗した。

 

全滅ではない。

 

けれど、完全に撃退された。

 

天城側の損失は致命的ではなかったが、非常に見栄えが悪かった。

 

なぜなら、彼らは「普通の猫目術師」の集団に押し返されたからだ。

 

あの核心個体にすら会っていない。

 

これは、ニャーサに直接敗れるよりもつらかった。

 

王に蹂躙されたなら、相手が強すぎたと言える。

 

訓練された普通の術師に撃退されたということは、猫目がすでに本物の体系化された武力組織を持っているということだった。

 

御影家も、我慢できなかった。

 

もちろん、彼らは天城と一緒に行動したわけではない。

 

御影は天城と同じ場に立つのを好まない。

 

彼らは別の線を選んだ。

 

猫目関連保険が、御影旁系へ侵入していた。

 

御影冬子が契約を強制的に一時停止したあと、旁系は不満を抱いた。

 

いくつかの旁系は、秘密裏に猫目サービスを使い続けてさえいた。

 

御影本家は、この制御不能を受け入れられなかった。

 

そこで御影は、小隊を一つ派遣し、ある旁系が管理していた旧倉庫を取り戻そうとした。

 

その倉庫はもともと、御影家外縁の護符材料を保管する場所だった。

 

最近では、猫目関連の保守会社が除湿と安全管理を引き受けていた。

 

御影は、それを猫目が家族資産に伸ばした爪だと判断した。

 

彼らはその爪を切り落とすつもりだった。

 

今回の行動は、御影家の中堅高手二名が率いた。

 

頂点級の長老ではない。

 

しかし、決して弱者ではなかった。

 

御影秋人は反対した。

 

御影冬子も迷った。

 

けれど旁系問題は、すでに本家の権威に影響し始めていた。

 

最後に、彼らはやはり人を派遣した。

 

結果はさらに悪かった。

 

猫目は核心個体を出さなかった。

 

大量の訓練済み術師護衛と、法務代理人を出しただけだった。

 

そう。

 

法務代理人だ。

 

御影小隊が外縁結界を突破した直後、猫目側は同時に地方警察と消防システムへ、「文化倉庫施設への不法侵入」として通報した。

 

世俗界の車両が近くへ到着した。

 

御影術師は、大規模に術式を展開できなくなった。

 

動きが大きすぎれば、普通人に見られてしまう。

 

一方、猫目術師はこの環境にとっくに慣れていた。

 

彼らは低可視度術具を使う。

 

短距離妨害。

 

電撃式の非致死装備。

 

煙幕。

 

封路。

 

警備員に偽装した包囲。

 

御影の高手には実力があった。

 

けれど、制限されていた。

 

露出してはいけない。

 

殺してはいけない。

 

倉庫を壊してはいけない。

 

世俗界に見られてはいけない。

 

これらの制限は、本来なら私がよく直面するものだった。

 

今、猫目はそれを御影に使っていた。

 

三十分後、御影小隊は撤退を余儀なくされた。

 

中堅高手二名が負傷。

 

一名は術式回路が一時的に麻痺した。

 

京都側も動いた。

 

七条は、実のところ武力突襲には反対していた。

 

しかし、京都内部にいるのは七条だけではない。

 

猫目関連の請負業者を彼女が連続して止めたあと、いくつかの家系長老は強い不満を持っていた。

 

彼らは、京都がずっと受け身で守るだけではいけないと考えた。

 

とくに、猫目がすでに文化保存プロジェクトと古典芸能デジタル化に影響を及ぼし始めていたからだ。

 

誰かが提案した。

 

「猫目が外縁請負業者を通じて手を伸ばすなら、その請負業者の暗面インターフェースを排除すればいい」

 

それは正面攻撃には聞こえなかった。

 

むしろ、技術的な排除に近かった。

 

七条は完全には阻止しなかった。

 

彼女自身も、猫目の実際の防御水準を確認する必要があったからだ。

 

こうして京都は監察小隊を派遣し、猫目関連デジタル化会社の秘密データ中継点を襲撃した。

 

この小隊は専門的だった。

 

結界、封存、資料奪回に長けている。

 

彼らは猫目を撃破しようとしたのではない。

 

ただ証拠を取りに行っただけだった。

 

だが、猫目はとっくに待ち構えていた。

 

データ中継点に、大量の資料はなかった。

 

あったのは誘導層だけだった。

 

京都小隊が進入した瞬間、外縁には低級だが密集した封鎖陣が立ち上がった。

 

数十名の猫目術師が、異なる方向から姿を現す。

 

彼らの術式は普通だった。

 

だが、一人ひとりが京都結界術に特化した干渉器を装備していた。

 

完全に破解するわけではない。

 

ただ遅延させる。

 

京都術師が結界を一つ展開するたび、半拍遅くなるようにする。

 

高手同士の戦闘では、半拍の遅れだけで十分に致命的だった。

 

京都小隊は戦いながら撤退せざるを得なかった。

 

最後に持ち帰れたのは、無意味な偽データの山だけだった。

 

三名が重傷。

 

五名が軽傷。

 

玄海と四国は、もともと最も慎重だった。

 

彼らは私を巻き込みたくなかった。

 

家族清剿隊の二の舞も避けたかった。

 

けれど、猫目は漁港保険と旧遍路道修復に影響を及ぼし始めていた。

 

これはすでに地方基盤へ入り込んでいる。

 

処理しなければ、将来、地方鎮守は猫目にデータ、ルート、設備、資金を押さえられてしまう。

 

玄海鎮守連合が派遣したのは、海辺の夜間突襲小隊だった。

 

目標は猫目核心ではない。

 

漁港に設置される予定の「夜間安全監視設備」一式だった。

 

彼らは設備が稼働する前に撤去し、証拠を取るつもりだった。

 

だが、猫目術師はすでに伏せていた。

 

大量の低級術師が玄海側を足止めした。

 

彼らは強攻しない。

 

ただ遅延させる。

 

分断する。

 

護符を消耗させる。

 

玄海小隊が最良の撤退タイミングを逃すまで。

 

最後に、未知の電流性攻撃が影の中を走り、主力術師二名の行動能力を直接撃ち抜いた。

 

宗像怜央は、戦闘後の医学検査報告を見たとき、指先が冷たくなった。

 

「また電流ですか?」

 

白髪の宮司はうなずいた。

 

「だが、普通の電流ではない」

 

「我々が見たことのある雷術でもない」

 

「相手は追跡可能な術式を残していない」

 

四国でも同じだった。

 

彼らは旧遍路道のそばに設置された猫目の観光客異常記録システムを撤去しようとした。

 

猫目術師が地方人員を足止めしたあと、隠れていた何者かが、ほんの一瞬だけ手を出した。

 

三名の地方高手が同時に倒れた。

 

いずれも死亡してはいない。

 

傷口は、電流が貫通したようだった。

 

しかし電源はない。

 

雷符もない。

 

陰陽術の残留もない。

 

残ったのは、ごく薄い麻痺痕と、術式核心の短時間停止だけだった。

 

四国の久世真帆は報告を見つめ、歯を食いしばって言った。

 

「それは、いつでも手を出せると私たちに知らせている」

 

明厳老僧は低く言った。

 

「しかも、自ら姿を現す必要すらない」

 

これらの行動は、ほぼすべて失敗した。

 

大勢力が弱かったからではない。

 

彼らは弱くない。

 

彼らは、この世界の退魔界の主幹だった。

 

問題は、猫目がすでに一つの点としての敵ではなくなっていたことだ。

 

猫目には膨大な術師数がある。

 

後方支援がある。

 

世俗界における合法の外衣がある。

 

装備がある。

 

予備通信がある。

 

保険と撤退システムがある。

 

そして、背後に隠れた核心戦力がある。

 

大勢力が派遣した戦闘力は、毎回ニャーサ本人に全滅させられたわけではない。

 

多くの場合、彼らはニャーサの前にすらたどり着けなかった。

 

猫目配下の術師たちだけで、十分に彼らを足止めし、切断し、消耗させた。

 

彼らがようやく局所的に突破したときには、暗がりに潜む未知の電流攻撃が、核心戦力を倒す。

 

殺さない。

 

公開の屈辱も与えない。

 

ただ、これ以上戦えない状態にする。

 

そして帰す。

 

恐怖と報告を持たせて、帰す。

 

これは、殺すよりも有効だった。

 

死人は会議をしないからだ。

 

特調室は、すべての戦後分析を受け取った。

 

会議室では、スクリーンに六つの報告が同時に表示されていた。

 

天城協力術師、失敗。

 

御影小隊、撤退。

 

京都監察小隊、証拠取得失敗。

 

玄海設備撤去、失敗。

 

四国ルートシステム撤去、失敗。

 

そして最初の、家族清剿隊の核心高手が一撃で全滅した件。

 

眼鏡の女性がスクリーンの前に立ち、冷静な声で言った。

 

けれど、全員がその冷静さの下にある重圧を聞き取っていた。

 

「共通点は三つあります」

 

「第一に、猫目外縁術師の数は膨大で、組織化の程度が高く、伝統的な高手を有効に足止めできます」

 

「第二に、猫目は世俗界の規則を利用し、大勢力の術式展開を制限することに長けています」

 

「第三に、複数の戦闘で、未知の高周波電流による非致死攻撃が確認されています」

 

彼女は傷口分析図に切り替えた。

 

図には、数名の家族術師の術式核心損傷が表示されている。

 

「被害者の証言では、瞬間的な麻痺、短時間の意識空白、術式ノードを針で刺し貫かれたような感覚があったとのことです」

 

「傷口と経絡反応から見て、攻撃には電流に似た伝導特性があります」

 

「しかし現場からは、通常電源、雷符、現代式電撃武器、本土の雷術残留のいずれも検出されていません」

 

若い分析官が低い声で言った。

 

「つまり、こちらで判断できるのは、何らかの未知の電流攻撃ということだけですね」

 

眼鏡の女性はうなずいた。

 

「はい。力の体系がわかりません」

 

この世界の人間は、雷電属性を知らない。

 

暗影属性も知らない。

 

彼らに言えるのは、

 

未知の電流性攻撃。

 

源頭追跡不能。

 

それだけだった。

 

久我山統括官はすべての資料を読み終えると、長いあいだ沈黙した。

 

最後に、彼は言った。

 

「猫目核心戦力の戦力表現は、白川一音を絶対に下回らない」

 

会議室は凍りついたように静まり返った。

 

その言葉は重すぎた。

 

特調室内部において、白川一音は、もはや軽々しく比較対象にしてよい存在ではなかった。

 

誰もが彼女を道具として扱うまいと努力している。

 

それでも、戦闘面において彼女が異常基準であることは認めざるを得ない。

 

今、久我山は猫目核心戦力が彼女を下回らないと言った。

 

若い分析官が、苦しそうに口を開いた。

 

「通常出力下の白川さん、という意味ですか?」

 

眼鏡の女性は彼を見た。

 

「私たちに、彼女のより深い力を推測する資格はありません」

 

久我山は言った。

 

「比較するのは、彼女が現実任務で使用可能な力の表現だ」

 

「その範囲において、猫目核心戦力は少なくとも同級」

 

「正面戦闘では、むしろさらに危険かもしれない」

 

誰も言葉を発しなかった。

 

その意味を、全員が理解していたからだ。

 

今、私を猫目へ押し出すことは、「最強戦力に問題を解決してもらう」ことではないかもしれない。

 

それは、未知の体系を持ち、同級あるいはそれ以上の制圧力を持つかもしれない敵へ、私を押し出すことになる。

 

さらに恐ろしいのは、猫目核心が非致死制圧を得意としているらしいことだった。

 

殺さない。

 

帰らせる。

 

恐怖を広げる。

 

まるで、退魔界全体に恐怖を学習させているかのように。

 

若い分析官が尋ねた。

 

「白川さんに知らせますか?」

 

眼鏡の女性はすぐには答えなかった。

 

久我山が言った。

 

「具体的な戦闘詳細は知らせない」

 

「だが、猫目関連プロジェクトから距離を置くよう注意する必要はある」

 

眼鏡の女性は言った。

 

「彼女はすでに猫目文化安全基金を見ています」

 

「以前、接触しないよう伝えました」

 

久我山はうなずいた。

 

「継続してくれ」

 

「ただし、猫目核心戦力が彼女を下回らないとは伝えるな」

 

若い分析官が尋ねた。

 

「もし本人が尋ねたら?」

 

眼鏡の女性は少し沈黙した。

 

「そのときは、猫目には高危険度の未知個体が存在し、彼女が能動的に接触することは許可できない、と伝えます」

 

久我山が補足した。

 

「言葉は明確にすること」

 

「『現時点ではあなたを必要としていない』ではない」

 

「『あなたは能動的に接触してはいけない』だ」

 

その言葉が、再び会議室を静かにした。

 

能動的に接触してはいけない。

 

それは保護だった。

 

同時に、承認でもあった。

 

この敵は、今の私が向き合うべき相手ではない可能性がある、という承認だった。

 

無門術師チャンネルの空気も重かった。

 

真壁仁は、漏れてきた数件の負傷摘要を読んだあと、こう一言だけ送った。

 

もう直接殴るな。

 

菅原涼が返信した。

 

傷口は高周波電流に似ている。でも現代式電撃ではない。体内の術式ノードを通り抜けたように見える。

 

遠野修司:

 

攻撃がどこから来たかわからない、と全員が言っている。

 

誰かが尋ねた。

 

これは黒弦と比べてどうなんですか?

 

チャンネルは沈黙した。

 

最後に、真壁仁が返信した。

 

比べるな。比べ終わったら、誰かが彼女を出そうとする。

 

菅原涼:

 

同意。彼女は猫目のテスターじゃない。

 

遠野修司:

 

今回は、鋭く切断すれば解決する話ではない。猫目には網があり、金があり、人がいて、核心怪物もいる。

 

若い術師が尋ねた。

 

じゃあ、私たちは何ができるんですか?

 

真壁仁は送った。

 

格好よくないが役に立つことをやる。

 

契約を切る。

 

代替在庫を作る。

 

小組織を猫目システムから移すのを手伝う。

 

余計な報告を削る。

 

相手が望む位置へ戦場を持っていくな。

 

菅原涼が補足した。

 

負傷術師を守る。保険請求を通じて猫目にこれ以上データを取らせない。

 

遠野:

 

ルート記録器を点検する。外せるなら外し、外せないなら隔離する。

 

それが、無門の達人たちの反応だった。

 

彼らも恐れていた。

 

だが、その恐怖を「黒弦を呼ぶ」に変えなかった。

 

恐怖を、もっと細かく、もっと遅く、もっと面倒な仕事へ変えた。

 

一方そのころ、私は文化政策入門の授業を受けていた。

 

先生は民間基金のガバナンス構造について話していた。

 

私は真剣にノートを取った。

 

資金提供者の透明性。

 

利益相反。

 

データ使用権。

 

受益者のプライバシー。

 

退出メカニズム。

 

退出メカニズム。

 

私はその四文字の下に線を引いた。

 

なぜなら、ふと、一つの支援プロジェクトにおいて最も重要なのは、入ることではなく、退出することかもしれないと思ったからだ。

 

活動センターが支援を受けたあと、不適切だと気づいたとき、退出できるのか。

 

小型LiveHouseがあるプラットフォームを使ったあと、自分たちのデータを取り戻せるのか。

 

学生バンドが保険を買ったとき、余計な個人情報を渡さずに済むのか。

 

そういう問題を、私は以前考えたことがなかった。

 

今は、考えれば考えるほど重要だと思う。

 

授業後、私は相原真紀と話した。

 

彼女は言った。

 

「白川さん、最近、資金とか制度にすごく敏感になってるね」

 

私はうなずいた。

 

「うん。もし将来、本当に文化空間の仕事をするなら、こういうことを知らないのは危険だと思うから」

 

「危険?」

 

私は少し止まった。

 

「聞こえのいい支援に、引っ張られてしまうかもしれないから」

 

相原は真剣に考えた。

 

「確かに」

 

私たちは一緒に食堂へ向かった。

 

キャンパスには、明るい陽射しが差していた。

 

学生たちが道端で話している。

 

自転車で通り過ぎる人もいる。

 

私は知らなかった。

 

その「聞こえのいい支援」が、外ではすでに網になっていることを。

 

いくつかの大勢力が、猫目勢力への攻撃に失敗したことも。

 

特調室がたった今、猫目核心戦力の表現された実力を、現実任務中の私を下回らないと評価したことも。

 

ソレンセンも知らなかった。

 

それはただ言った。

 

「今日の授業は、ようやく音だけではなかったな」

 

「文化政策」

 

「それでも紙だ」

 

「紙も線になるよ」

 

私は言った。

 

それは少し静かになった。

 

「その言葉は、まあ悪くない」

 

夕方、眼鏡の女性からメッセージが届いた。

 

猫目文化安全基金および関連プロジェクトへの接触を、引き続き避けてください。大学、研究会、実習機関、バンド周辺に関連の招待が届いた場合、まず返信せず、信頼できる責任者へ審査を回してください。

 

私はそのメッセージを見て、胸が沈んだ。

 

何かありましたか?

 

彼女はしばらくしてから返信した。

 

猫目のリスク等級が上がりました。あなたが介入する必要はありません。重要なのは、接触しないことです。

 

私はさらに尋ねた。

 

どのくらい危険なんですか?

 

今度は、彼女の沈黙がさらに長かった。

 

最後に返ってきたのは、こうだった。

 

高危険度です。未知戦力と複雑な資金ネットワークが存在します。能動的に調査しないでください。

 

能動的に調査しないでください。

 

その言葉は、とても直接的だった。

 

私は画面を見つめ、指先が少し冷たくなった。

 

意識の奥で、ソレンセンが口を開いた。

 

「どうやら猫がまた爪を伸ばしたらしいな」

 

「わかるの?」

 

「吾は知らぬ」

 

それはあっさりと言った。

 

「だが、あの女の口調は、引っかかれたようだ」

 

私はメッセージを見下ろした。

 

「未知戦力……」

 

ソレンセンは冷笑した。

 

「勝てるかどうか聞きたいのか?」

 

私は何も言わなかった。

 

それは続けた。

 

「もし相手が、吾が前に嫌った類のものなら、今のお前は行くべきではない」

 

「どうして?」

 

「お前は多すぎるためらいを抱えて行くからだ」

 

「ためらいは悪いことじゃない」

 

「戦闘では遅くなる」

 

「私はそもそも、自分から戦いに行きたくない」

 

「なら、なおさら行くな」

 

今回、ソレンセンの助言は、特調室と同じだった。

 

能動的に調査しない。

 

能動的に接触しない。

 

私は眼鏡の女性へ返信した。

 

わかりました。自分から接触しません。

 

彼女はすぐに返した。

 

ありがとうございます。

 

その「ありがとうございます」は、少し重かった。

 

本当に、彼女がほっとしたように見えた。

 

夜のAfterToneの練習中、私は少しだけ集中が途切れた。

 

日和はすぐに気づいた。

 

「小音、今日は疲れてる?」

 

私はうなずいた。

 

「少し」

 

「大学?」

 

「うん。文化政策の授業、内容が多くて」

 

それは本当だった。

 

ただ、猫目のメッセージもあった。

 

でも、それは言えなかった。

 

日和は私を見て、追及しなかった。

 

「じゃあ、今日は一回少なく練習しよう」

 

陽菜が言った。

 

「小音、お茶飲む?」

 

澪はおにぎりを押し出してきた。

 

「補給」

 

私はおにぎりを受け取った。

 

「ありがとう」

 

彼女たちを見て、胸の中で急に、はっきりと理解した。

 

私は能動的に猫目へ接触してはいけない。

 

それは特調室が危険だと言ったからだけではない。

 

ソレンセンが、今は行くべきではないと言ったからでもない。

 

ここを巻き込むわけにはいかないからだ。

 

AfterToneを。

 

大学を。

 

研究会を。

 

実習の方向を。

 

私が未知の敵を試す理由にしてはいけない。

 

もし猫目が本当に危険なら、なおさら「私なら切断できるかもしれない」と思って突っ込んではいけない。

 

物事によっては、ゆっくり調べる必要がある。

 

誰かが代替システムを作る必要がある。

 

大勢力は、自分たちの失敗を自分たちで引き受ける必要がある。

 

無門術師たちは、現場を守り続ける必要がある。

 

すべての問題を黒弦が解決すべきではない。

 

この言葉は、もう何度も書いた。

 

けれど今日、それはさらに重くなった。

 

同じ夜、ニャーサは各勢力の失敗後の報告集約を見て、機嫌がよかった。

 

勝ったからではない。

 

勝つこと自体は簡単すぎる。

 

それが本当に満足していたのは、各勢力が姿勢を変え始めたことだった。

 

大勢力は、核心をむやみに叩けなくなった。

 

特調室は、白川一音をより慎重に保護し始めた。

 

無門術師たちは、後方支援の対抗を続けている。

 

中小勢力は、猫目から離脱すべきかどうか、さらに迷い始めた。

 

それこそが、ニャーサの望んだ局面だった。

 

恐怖は強者を退かせる。

 

便利さは弱者を留まらせる。

 

議論は中間者をためらわせる。

 

ニャーサは高い場所に座り、静かに言った。

 

「いいね」

 

「今、彼らは猫目に爪があることを知った」

 

「でも、猫が本当にどこにいるのかは、まだ知らない」

 

それは別の報告を見た。

 

そこにはこう書かれていた。

 

白川一音、リスク注意を受領。能動的接触なし。

 

ニャーサは笑った。

 

「いい子だ」

 

「授業を続けて」

 

「練習を続けて」

 

「免許試験を続けて」

 

「網がもう少し深くなるまで」

 

それは前足を上げた。

 

暗紫色の電光が、かすかに跳ねた。

 

「今はまだ、君と私が会うときじゃない」

 

小さなアパートへ戻ったあと、私はメモ帳を開いた。

 

書いた。

 

猫目リスク上昇。

 

能動的に接触しない。

 

調査しない。

 

研究会、大学、バンド、実習関連機関に猫目からの招待が来た場合、まず信頼できる責任者へ審査を回す。

 

書き終えてから、さらに一文を足した。

 

危険が自分の未来の方向へ近づいているからといって、すぐ自分で処理しようとしないこと。

 

その一文を書くのは難しかった。

 

なぜなら、私は実際にそうしてしまうからだ。

 

もし猫目がただどこかの倉庫を攻撃しているだけなら、私は特調室の判断に従うと思う。

 

けれど、それが青少年音楽活動、LiveHouse、大学研究会に近づくなら、私はもっと動きたくなる。

 

それは、私が大切に思っている場所だから。

 

そして大切に思っているからこそ、なおさら衝動的に動いてはいけない。

 

ソレンセンが言った。

 

「自分に縄をつけているな」

 

「境界だよ」

 

「似たようなものだ」

 

「今回、あなたも行かないほうがいいと思うの?」

 

「そうだ」

 

「どうして?」

 

黒海はしばらく沈黙した。

 

「あの猫は、普通の虫とは違う」

 

私の指がこわばった。

 

「やっぱり、それが何かはわからないの?」

 

「知らぬ」

 

「でも、猫っぽいと思うの?」

 

「お前たちがずっと猫目と言っているだけだ」

 

それは鼻で笑った。

 

「吾はその名が気に食わぬ」

 

私はメモ帳の「猫目」という文字を見た。

 

私も、好きではなかった。

 

けれど、私はまだ本当のニャーサを知らない。

 

それが持つ雷電属性と暗影属性の力も知らない。

 

それが今、いくつもの大勢力にどれほど大きな痛手を与えたのかも知らない。

 

それの戦力表現が、現実任務中の私を絶対に下回らないと特調室に評価されたことも知らない。

 

私が知っているのは、

 

接触しない。

 

調査しない。

 

未来の方向に引っ張られて、危険へ歩いていかない。

 

今の私にできるのは、それがすべてだった。

 

窓の外には東京の夜景があった。

 

新学期は始まったばかり。

 

授業は多い。

 

自動車学校も、まだ終わっていない。

 

AfterToneの新曲練習も続けなければならない。

 

私はメモ帳を閉じて、音声メディア研究の事前読書を開いた。

 

今回は、読むのにとても時間がかかった。

 

それでも読んだ。

 

明日も授業があるからだ。

 

そして明日の授業もまた、本物だから。

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