俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第75章 奨学金の入金、そして猫目が核心へ爪を伸ばす
新学期第三週、私の銀行口座に一件の入金があった。
金額は、そこまで大げさなものではない。
二十万円。
入金名目は、
青年文化活動学習支援奨学金。
そのお金を見たとき、私の最初の反応は嬉しさではなかった。
全身が固まった。
なぜなら、私はその奨学金に申請した覚えがなかったからだ。
小さなアパートの机の前に座り、スマホの銀行アプリ画面を見つめたまま、私は長いあいだ指を画面の上で止めていた。
意識の奥で、ソレンセンが口を開いた。
「金だ」
「うん」
「嬉しくないのか?」
「申請してない」
「なら、誰かが押し込んできたのだな」
それは、とても直接的に言った。
私はすぐにスクリーンショットを撮り、眼鏡の女性へ送った。
口座に突然、奨学金が入っていました。私は申請していません。
彼女の返信はとても早かった。
そのお金には触らないでください。返金もしないでください。まずはそのままにしてください。こちらで調べます。
触らない。
返金しない。
そのままにする。
その言葉で、胸がさらに沈んだ。
もし普通の誤振込なら、彼女はそんな言い方をしない。
私は返信した。
私に影響しますか?
彼女は数分してから返してきた。
今のところはありません。報告したのは正しい判断です。
私は「正しい判断です」という言葉を見つめて、少しだけ息を吐いた。
でも、完全には安心できなかった。
銀行口座に増えた二十万円は、細い一本の線のように、突然、私の普通の生活口座へ横たわっていた。
悪意の気配はない。
術式もない。
汚染もない。
黒弦の反応もない。
ただのお金。
けれど今の私は、もう知っている。
お金も線になり得るのだと。
このお金の出どころは、とても綺麗に見えた。
青年文化活動学習支援奨学金は、ある地方文化振興財団から出ていた。
その財団は何年も前から存在している。
資格も正規。
過去にも、多くの大学生に奨学金を出していた。
私が名簿に入った表向きの理由は、
青少年音楽活動の実習に参加し、文化活動運営を継続的に学ぶ潜在力があるため。
推薦元の表示は、
大学キャリア支援システムによる自動候補。
これは、行政上のミスのようにも見えた。
あるいは、どこかのシステムが私の実習記録を奨学金候補リストに取り込んだのかもしれない。
けれど問題は、私が申請書を出していないことだった。
推薦に同意していない。
受領書類にも署名していない。
さらに重要なことに、眼鏡の女性はすぐに、その財団が最近、指定用途の寄付を受け取っていると突き止めた。
寄付元は猫目ではない。
猫目文化安全基金でもない。
ある地方教育支援会社だった。
その会社の背後には、文化データコンサルティング会社がある。
さらに上には、投資基金。
さらに上へ、四層の殻を越えた先で、ようやく猫目資本の影がかすかに見える。
非常に遠い。
通常審査では発見できないほど遠い。
そして私が入金名目を見ただけでは、それが猫目と関係しているなど、絶対にわからないほど遠かった。
ニャーサは、猫目の名前を私の口座へ直接打ち込んだわけではない。
それでは粗すぎる。
ただ、正当で、清潔で、温和で、しかも私の未来の方向に合っているように見えるお金を、静かに私の生活へ入れただけだった。
二十万円。
学校や銀行が必ず警戒するほど大きな金額ではない。
でも、完全に無意味なほど小さくもない。
ちょうど、励ましのように見える。
「あなたはよくやっています。このまま文化活動を続けてください」という善意のように。
これは、直接百万円を渡されるより危険だった。
なぜなら、それは加減をわかっているからだ。
特調室内部の空気は、一気に冷えた。
眼鏡の女性が資金経路をスクリーンに映した。
「奨学金は、六層の間接構造を通じて白川一音の口座へ入りました」
「表面上は合法です」
「手続き上の異常点は、本人が申請していないこと、大学システムが明確に推薦を承認していないことです」
「資金遠端に猫目関連の疑いがあります」
若い分析官の顔色はひどく悪かった。
「ついに、彼女へ直接触れたんですね」
眼鏡の女性は言った。
「直接ではありません」
久我山統括官が続けた。
「だからこそ、さらに面倒だ」
会議室は静かになった。
もし猫目が直接送金してきたなら、特調室は即座に凍結できる。証拠も明確だ。
もし猫目基金が私へ招待を出したなら、それも拒める。
しかし、正規の財団、自動候補、文化学習支援という名目を通じて、口座にお金を入れてきた。
これは攻撃ではない。
脅迫でもない。
それどころか、表面から見れば善意だ。
久我山は言った。
「彼女に元の口座へ返金させてはいけない」
若い分析官が尋ねた。
「なぜですか?」
「返金しても、やり取りの記録ができます」
眼鏡の女性が説明した。
「相手は、彼女に反応させたいだけかもしれません」
「受け取ることも線」
「返すことも線」
「問い合わせることも線」
若い分析官は低い声で言った。
「では、どうすれば?」
久我山は言った。
「彼女の個人口座内で凍結し、使用しない」
「大学と財団の審査手続きを通じて異常を確認する」
「必要なら、学校側が一括して処理する」
「彼女を一人で向き合わせるな」
眼鏡の女性はうなずいた。
「A大学の指定担当者に連絡します」
彼女は一度止まった。
「この件を、彼女が自分のせいだと思わないようにしなければなりません」
久我山は彼女を見た。
「だが、彼女は必ずそう思う」
会議室では、誰も反論しなかった。
私は実際に、そう思った。
その夜、私はAfterToneへ行かなかった。
理由は大学の用事。
それは本当だった。
私は小さなアパートの床に座り、スマホを机の上に置いていた。
銀行画面はすでに閉じている。
けれど、あの数字はまだ頭の中に残っていた。
二十万円。
青年文化活動学習支援。
青少年音楽活動実習。
文化空間。
未来の方向。
その言葉は全部、私に関係している。
だからこそ怖かった。
もしそれが退魔報酬なら、協力用口座に入れればいい。
もしそれが怪しい振込なら、警察に相談できる。
けれどそれは、よりによって「私の未来の仕事を学ぶことを支援する」という外衣をまとっていた。
どうしても考えてしまう。
私がこの方向を目指しているから、猫目が爪を伸ばしてきたのだろうか。
もし青少年音楽活動の実習をしていなければ、このお金は来なかったのだろうか。
もし職業計画を書いていなければ、この線は生まれなかったのだろうか。
もし小型文化空間を大切に思っていなければ、誰もここへお金を送ってこなかったのだろうか。
ソレンセンが冷たく口を開いた。
「また虫どもの気持ち悪い行為を、自分のせいにするつもりか」
「私の方向を狙ってきたんだよ」
「それでも、選んだのは相手だ」
「でも……」
「白川一音」
それが、こうして私の名前を直接呼ぶことは少ない。
私は止まった。
「誰かが、お前の道に毒魚を投げ込んだ」
「それは、お前が道を歩きたいと思ったことが間違いだという意味ではない」
私は長いあいだ黙った。
「それ、慰めてるの?」
「吾は、お前が他人の魚臭さを自分に塗りつけるのが気に食わないだけだ」
とてもソレンセンらしい慰めだった。
でも、役に立った。
私はその言葉をメモに書いた。
誰かが私の道にお金を投げ込んだからといって、私の道が間違っているわけではない。
書き終えてから、「お金を投げ込む」という表現は少し変だと思った。
でも、消さなかった。
翌日、A大学から連絡が来た。
公開の通知ではない。
学生支援課の先生と、キャリア支援センターの先生が一緒に、私と面談した。
眼鏡の女性は現れなかった。
そのことに少し安心した。
学校の先生は言った。
「白川さん、あなたの口座に入った奨学金について、学校側で推薦手続きに異常があることを確認しました」
私はうつむいた。
「私は申請していません」
「わかっています」
先生の声は、とても穏やかだった。
「これは、あなたの責任ではありません」
また、その言葉だった。
あなたの責任ではない。
最近、何度も聞いている。
それでも、聞くたびに必要だった。
キャリア支援の先生が言った。
「このお金は、当面使わないでください。学校が財団に連絡し、手続きを確認します。最終的に不適切な支給だと判断された場合は、学校と財団の間で処理します。あなた個人が直接やり取りする必要はありません」
私はうなずいた。
「はい」
彼女は私を見た。
「白川さん、今後も正規の奨学金へ申請することに問題はありません。ただし、必ず自分で申請し、自分で条件を確認してください。出どころのはっきりしない推薦は受けないこと」
「わかりました」
「それと、この件のせいで、あなたが学びたい方向を諦めないでください」
私は顔を上げた。
先生は、とても真剣な表情で言った。
「あなたが青少年文化活動や小型音楽空間の運営を目指すのは、正常で、とても良い方向です」
「誰かが妙な方法でその方向へ近づいてきたのは、相手の問題です」
私はうつむいた。
目が少し熱くなった。
「ありがとうございます」
その言葉は、あのお金を凍結することよりも大事だった。
それは、私の未来の方向を、あのお金から切り離してくれたからだ。
猫目は奨学金を線に変えようとした。
学校と特調室は、その線を切り離そうとしてくれている。
黒弦ではなく。
手続き、規則、そして一つ一つの明確な言葉によって。
ニャーサは、奨学金が発見されたことを知っても、失望しなかった。
そもそも、そのお金を私が使うことを期待していたわけではない。
それは三つのことを試したかっただけだった。
第一に、資金は六層の間接構造を通じて、私の個人口座へ入れられるのか。
答えは、入れられる。
第二に、私はすぐ報告するのか。
答えは、報告する。
第三に、特調室と学校はどんな手続きで処理するのか。
その答えも得られた。
ニャーサは猫目本部の最上階に座り、報告を見て静かに笑った。
「反応が速いね」
「彼女も警戒している」
代理人が慎重に尋ねた。
「では、今回は失敗でしょうか?」
ニャーサは彼を見た。
「失敗?」
その声には、わずかに軽蔑が混じっていた。
「魚が食べられなかったからといって、猫が穴の風を嗅げなかったことにはならない」
それはすでに知った。
私は簡単にはお金を受け取らない。
そして私の周囲には、学校、特調室、友人、自分自身の規則による守りがある。
それは悪い知らせではない。
地図だった。
ニャーサは地図が好きだった。
一度の奨学金で、私の生活防衛線のいくつかの節点を描いたのだ。
銀行口座。
大学学生支援課。
キャリア支援センター。
特調室の教育保護線。
私のお金に関する規則。
そして、未来の方向に対する私の敏感な点。
次は、同じ方法を使わない。
猫は同じ穴へ一度だけ爪を伸ばすわけではない。
角度を変える。
同時に、猫目による大勢力核心への侵食はさらに進んでいた。
外縁だけではもう足りない。
それは核心へ入り始めた。
武力で殴り込むのではない。
「拒否できない現実問題」によって入るのだ。
天城グループの核心にあるデータ修復プロジェクトでは、天穹時代の違法データチェーンがシステム内に残っていないことを、独立監査機関に証明してもらう必要があった。
天城は自分たちで三社の機関を探した。
一社目は資格が不足していた。
二社目は費用が高すぎた。
三社目は背景が複雑だった。
最後に、完全に中立に見える国際監査会社が現れた。
専門的で、早く、価格も合理的。
天城美咲は最初から警戒していた。
何層にもわたって審査した。
猫目は見つからなかった。
それでも天城怜司は違和感を覚えた。
さらに上まで追い続け、ついに海外ファンドの株式の最遠端に、ごく薄い猫目の影を見つけた。
これは、猫目が天城の核心治理に触れ始めていることを意味していた。
もし天城が見抜けなかったなら、将来、天城システムのコンプライアンス報告の一部は、猫目の目を通ることになっただろう。
あまりにも危険だった。
美咲はその場で協力を否決した。
しかし否決の代償として、データ修復プロジェクトは二か月遅れた。
取締役会は強い不満を示した。
猫目は、天城の核心へ入れなかった。
しかし、天城の核心に、拒否のための時間とコストを支払わせた。
これこそが侵食だった。
一度の成功ではない。
拒否するたびに血を流させること。
御影家の核心にも、猫目の影が現れた。
御影本家のある古い封存庫には、全面的な防湿修繕が必要だった。
この種の修繕は非常に高額だ。
しかも、建築保護、結界安定、文物保存を同時に考えなければならない。
御影冬子は、家族内部ルートを使うよう求めた。
だが内部ルートの見積もりは信じられないほど高く、工期も長かった。
旁系の一人が、ある文化資産維持会社の案のほうが安く、しかも複数の伝統建築を修復した実績があると提案した。
御影冬子はその会社を調べた。
表面上は問題なし。
さらに上流の材料供給を調べる。
保険を調べる。
作業員の訓練機関を調べる。
第三層の先で、猫目が現れた。
御影冬子は資料を読み終えると、書類を机に叩きつけた。
「またそれなの」
旁系責任者は思わず言った。
「ですが、本家案は三倍も高いのです」
御影冬子は冷たく彼を見た。
「では、封存庫の壁体構造、湿度点、結界の薄弱面を、猫目に知らせたいの?」
相手は黙った。
御影秋人は静かに言った。
「猫目はもう、地図を盗む必要がないのですね」
「私たちに、修繕会社へ自分から地図を渡させている」
御影冬子の顔色は、ひどく悪かった。
御影は最終的に内部修繕を選んだ。
代償として、予算は大幅に増えた。
旁系の不満はさらに深まった。
猫目は、御影本家の封存庫へ入れなかった。
けれど、御影内部の亀裂をさらに深くした。
京都旧結界管理委員会も、似たような苦境に直面した。
旧音庫事件のあと、京都は音声アーカイブシステムを再建しなければならなかった。
新しい同意管理。
封存権限。
検索隔離。
デジタル化規則。
七条は、猫目関連会社を使わないことにこだわった。
しかし猫目は水のように回り込む。
ある大学研究機関が協力を提案した。
背景は清潔。
研究者も、本当に音声アーカイブ倫理を専門にしている人物だった。
京都は、ほとんど受け入れるところだった。
最後に七条が、プロジェクト資金の確認を求めた。
その結果、その研究機関が前年度に、ある文化資料保存基金から共同助成を受けていたことがわかった。
その基金の背後には、間接的に猫目文化安全がつながっていた。
これは違法ではない。
研究者本人に問題があるという意味でもない。
それでも、猫目は京都の再建核心システムへ近づいていた。
七条が停止を命じると、研究担当の教授は強い不満を示した。
「もし間接的に民間基金を受けた機関まで全部除外するなら、京都のデジタル化プロジェクトは進みません」
七条は答えた。
「それなら、遅くします」
教授は言った。
「遅くすれば、資料はさらに損傷します」
七条は沈黙した。
彼の言葉が正しいことを、彼女は知っていた。
猫目の恐ろしさはそこにある。
拒否しても、現実の損失が発生する。
その後、老委員は七条に言った。
「私たちには、私たち自身の代替案が必要だ」
七条はうなずいた。
「そうでなければ、これから拒否するたびに、内部対立になります」
玄海の核心にも、接触が始まっていた。
潮返洞事件後、玄海鎮守は旧祭礼資料と漁港安全体系を整理し直す計画を立てた。
ある海洋文化リスク管理会社が協力を申し出た。
海洋保険に詳しい。
漁港安全に詳しい。
文化遺産に詳しい。
観光客管理にも詳しい。
価格は合理的。
案は優秀だった。
宗像怜央は読み終えると、ただ言った。
「優秀すぎます」
白髪の宮司は笑った。
「優秀であることも危険なのか?」
「危険になり得ます」
調べてみると、やはり猫目へ迂回していた。
玄海が拒否したあと、地元漁港の責任者たちは強い不満を持った。
「鎮守の皆さんは危険だと言いますが、猫目系の会社なら保険料を下げられるんです」
「あなたたちは、それができますか?」
宗像怜央は答えられなかった。
それは戦闘より難しかった。
彼は潮返洞の前に結界を張ることはできる。
しかし、漁師たちの保険料を何もないところから下げることはできない。
玄海鎮守は、独自の地方基金を作るために動かざるを得なくなった。
とても遅い。
そして痛みを伴う。
四国も同じだった。
旧遍路道修復プロジェクトが猫目資金を拒否すれば、半年延期になる。
地方商店は不満を持つ。
観光客向けの安全設備も遅れる。
久世真帆は板挟みになり、ほとんど毎日のように会議に出ていた。
会議で彼女は言った。
「猫目が出すお金は、無料ではありません」
商店代表が聞き返した。
「では、あなたの代替資金はどこにあるんですか?」
その一言は刃のようだった。
術式ではない。
けれど、とても痛い。
世俗界の大資本家たちも、猫目に警戒し始めていた。
日本の旧財閥、銀行系資本、総合商社、保険大手、不動産資本は、この異常な速度で拡大する猫目資本に気づいた。
参入している領域が多すぎる。
文化安全。
地方保険。
特殊物流。
小型金融。
イベント管理。
公共施設リスク評価。
夜間安全システム。
青年文化プロジェクト。
これらの領域は、単独で見れば最大市場ではない。
けれど猫目は、それらを一つの新しいネットワークへつなげていた。
最初、いくつかの大資本家は猫目を買収しようとした。
失敗した。
猫目の株式構造は、ほとんど迷宮のように複雑だった。
融資ルートを凍結しようとした者もいた。
失敗した。
猫目の資金源は分散しており、キャッシュフローは異常に安定していた。
政治的な関係を使って圧力をかけようとした者もいた。
効果は限られた。
猫目のプロジェクトは、表向きには公益、安全、文化振興、中小企業支援が多く、直接手を出しにくかった。
さらに直接的な資本勢力は、ヤクザ、民間警備、あるいは地下ルートで猫目を試そうとした。
その結果、送り込まれた者たちはすぐに連絡を失った。
数日後、彼らは無事に送り返された。
目立つ傷はない。
ただ、短時間の記憶空白と神経麻痺の後遺症だけが残っていた。
検査結果はこう示した。
強電流が一瞬で身体を通り抜けたようだ。
しかし、電撃の痕跡はない。
世俗界は、退魔界を通じて具体的な状況を知った。
彼らにわかったのは、猫目資本の背後にあるのが金だけではないということだった。
膨大な人数、強い規律、強力な手段を持つ武力ネットワークがある。
それは全日本の大資本家たちに警戒を生ませた。
けれど、警戒は方法があるという意味ではない。
猫目は普通の相手ではなかった。
金がある。
合法の外衣がある。
公益プロジェクトがある。
技術会社がある。
保険ルートがある。
地方協力がある。
さらに、膨大な暗面術師と、説明不能の未知武力がある。
世俗資本が金融戦を仕掛けようとすると、猫目のキャッシュフローの深さに気づく。
法廷戦を仕掛けようとすると、猫目の契約が清潔だとわかる。
世論戦を仕掛けようとすると、猫目が多くの良さそうな青年文化と地方安全プロジェクトを支援していることが見える。
地下戦を仕掛けようとすると、送り込んだ人間がそもそも核心に触れられない。
こうして、世俗界の大資本家たちも眠れなくなり始めた。
彼らはニャーサを知らない。
混沌も雷も知らない。
彼らが知っているのは一つだけだった。
日本の資本圏に、見通せず、噛み砕けず、しかも成長が速すぎる猫が現れた。
ニャーサは最上階のオフィスに座り、世俗界資本の反応報告を眺めていた。
「ようやく、彼らも怖がり始めたね」
代理人は頭を下げた。
「いくつかの大型財閥が、地方銀行の不良資産処理への当社参入を共同で制限しようとしています」
「試させておけ」
「保険大手も、当社のリスクモデルを調査しようとしています」
「一部を見せてやれ」
「商社側はどうでしょう?」
「特殊物流への参入を快く思っていません」
ニャーサは笑った。
「当然だ」
「物流は血管だからね」
「血管の中に猫が増えることを、誰も好まない」
代理人は慎重に尋ねた。
「反撃しますか?」
「急がない」
ニャーサは窓の外を見た。
「世俗資本は、退魔界より文明的なふりが上手い」
「でも本質は同じだ」
「彼らも支配を失うのが怖い」
それは軽く尾を揺らした。
「警戒し続けさせろ」
「警戒は彼らに試探させる」
「試探は、彼ら自身の線を露出させる」
「線が十分に増えたら、収穫する」
猫目は退魔界だけを支配しているのではない。
日本の世俗経済の中で、最も見落とされやすく、しかし最も接続価値の高い部分を支配する方法を学んでいた。
最大銀行と正面から争わない。
先に小銀行の不良資産を取る。
最大保険会社と正面から争わない。
先に文化施設と特殊リスク保険を取る。
最大商社と正面から争わない。
先に特殊物流とイベント設備輸送を取る。
政府と正面から争わない。
先に地方公益協力をする。
猫目は山ではない。
水だ。
水は、隙間へ流れていく。
私は、そのすべてを何も知らなかった。
私が知っているのは、あの二十万円が一時的に口座内で凍結され、「処理待ち」と表示されていることだけだった。
使えない。
返金する必要もない。
学校が処理すると言った。
特調室も処理すると言った。
私は、触らずにいるしかなかった。
それでも、銀行アプリを開くたび、使用できないそのお金が残高に見えると、少しだけ気持ち悪かった。
それは、口座の隅に静かに伏せている猫のようだった。
動かない。
でも、そこにいる。
日和は、「出どころのはっきりしない奨学金が入った」ことを知った。
私は猫目の名前は出さなかった。
ただ、学校が調べているとだけ言った。
彼女は聞き終えると、言った。
「あなたは正しく動いたよ」
「私は何もしてない」
「報告したし、触らなかった」
「うん」
「それが正しく動いたってこと」
私はうつむいた。
「でも、私の実習方向が理由だった」
日和は私を見た。
「それは、相手があなたの方向を利用しようとしたから」
彼女はゆっくり言った。
「方向そのものが間違っているわけじゃない」
私はうなずいた。
「うん」
陽菜はあとで変な奨学金のことを知ると、ものすごく怒った。
「勝手に人へお金を振り込むなんて、どうしてそんなことできるの!」
澪は言った。
「お金も並ぶべき」
その言葉は変だけれど、妙に正しかった。
そうだ。
お金も並ぶべきだ。
勝手に私の生活へ割り込んではいけない。
私はその言葉をメモに書いた。
お金も並ぶべき。
ソレンセンはそれを見て、しばらく私を笑った。
でも、私は消さなかった。
その夜、小さなアパートへ戻った私は、文化政策のノートを開いた。
先生が出した小レポートのテーマは、
民間助成と文化活動の自主性。
あまりにもタイミングが良すぎた。
私はその題を見つめ、胸の中が複雑になった。
書けることは、たくさんある。
でも、本当の猫目は書けない。
奨学金のことも書けない。
特調室のことも書けない。
だから、普通の事例を書いた。
ある青年音楽プロジェクトが民間基金の助成を受ける場合、何を考える必要があるのか。
助成条件。
データ利用。
宣伝要求。
退出メカニズム。
参加者のプライバシー。
資金の透明性。
代替案。
私はとても真剣に書いた。
これは空想の課題ではなかったからだ。
私が今、実際に経験していることの普通版だった。
レポートの最後に、私は書いた。
文化活動には資金支援が必要である。しかし資金は、参加者と場所そのものの関係を代替してはならない。良い助成とは、場所の自主性を強めるものであり、場所から拒否と退出の能力を奪うものであってはならない。
書き終えたあと、私は長いあいだその文を見ていた。
拒否と退出の能力を失う。
それこそが、猫目の最も恐ろしいところだった。
ただ、その時の私はまだ知らなかった。
猫目がすでに多くの大勢力と世俗資本に、この能力を失わせ始めていることを。
私はただ、一件の奇妙な奨学金から、それを学んだだけだった。
特調室は最後まで、奨学金の後処理に私を関わらせなかった。
学校が財団と連絡を取り、そのお金は学校側の臨時管理口座へ移された。
私の個人口座は正常に戻った。
理由は、
支給手続きに本人確認未完了部分があり、再審査が必要なため。
全体の流れは、とても正式だった。
とても清潔だった。
私が直接財団と接触することもなかった。
猫目関連の資金源へ返金されることもなかった。
その線は、手続きによって切られた。
私はほっとした。
けれど眼鏡の女性は、最後にこう注意してきた。
今後、申請していない資金、奨学金、補助、設備、実習推薦は、すべて先に確認してください。
私は返信した。
わかりました。
そしてメモ帳に書いた。
申請していないものは、受け取らない。
とても単純なルールだ。
そして、とても重要なルールだった。
ニャーサは、奨学金の線が切られたのを見ても怒らなかった。
すでに欲しい情報は得ていた。
次に、それはさらに深い場所へ爪を伸ばし続けた。
大勢力の核心。
世俗資本の隙間。
文化活動資金。
退魔界後方支援。
無門術師たちの代替システム。
特調室の反応速度。
そして、私の生活防衛線。
すべての線が、その目には映っている。
それは急がない。
猫は、とても長く待てる。
一方で、私の新学期の日々は前へ進んでいた。
音声メディア研究では、最初の小課題を提出しなければならない。
文化政策レポートも修正が必要だ。
自動車学校では、次の路上教習を予約した。
AfterToneの新曲は、小規模試演に向けて準備中。
研究会では秋の調査計画を話し合うことになっていた。
私の生活は、またたくさんの小さなことになった。
その一つ一つは、猫目資本ほど恐ろしくない。
ニャーサほど恐ろしくない。
未知の電流攻撃ほど恐ろしくない。
大勢力核心の侵食ほど恐ろしくない。
けれど、それらは私が見て、できて、守れるものだった。
私は時間割をもう一度貼り直した。
凍結された奨学金の記録を「お金のルール」フォルダへ入れた。
文化政策レポートを保存した。
そして電気を消した。
黒海の中で、ソレンセンが低く言った。
「今日は猫目がなかったな」
私は少し固まった。
「うん」
「だが、お前はまだ猫目のことを考えている」
「少しだけ」
「面倒だな」
「本当に面倒」
それは小さく笑った。
「なら寝ろ」
私は横になり、暗闇の天井を見つめた。
私は知らなかった。
猫目がすでにどれほどの核心へ入っているのかを。
世俗の大資本家たちまで恐れ始めていることを。
大勢力が猫目を拒否するために、どれほどの代償を払っているのかを。
そしてニャーサが、一件の奨学金を通じて、私の生活防衛線の一部をすでに把握したことを。
私が知っていたのは、そのお金が私の生活に入らなかったことだけだった。
少なくとも、今回は。