俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第76章 地方が猫に接収され、そして私は図書館で小レポートを直していた

第76章 地方が猫に接収され、そして私は図書館で小レポートを直していた

 

新学期第四週、文化政策入門の小レポートの締切が近づいていた。

 

テーマは、

 

民間助成と文化活動の自主性。

 

私はすでに初稿を書き終えていた。

 

けれど、まだ納得できなかった。

 

特に結論部分。

 

私はこう書いていた。

 

文化活動には資金が必要だが、自主性を保つことも必要である。

 

普通すぎる。

 

教科書に載っている文みたいだった。

 

私は画面を見つめ、長いあいだ考えた。

 

そして、こう直した。

 

一つの文化活動が、資金を拒否する能力、協力関係から退出する能力、参加者情報を保持する能力を失ったとき、助成はもはや単なる支援ではなく、支配へ変わる可能性がある。

 

その一文を書き終えたあと、私は止まった。

 

少し重い。

 

でも、正しい気がした。

 

意識の奥で、ソレンセンが口を開いた。

 

「また金の封印を書いているのか」

 

「これは文化政策」

 

「人間は金を政策と呼ぶのだな」

 

「そうじゃない」

 

「だいたい同じだ」

 

私は言い争わなかった。

 

今はレポートを仕上げなければならないからだ。

 

それに、明日は音声メディア研究の小テストもある。

 

大学生活はとても現実的だ。

 

たとえ外に猫目がいても、特調室がいても、奇妙な奨学金があっても、触れてはいけない資金線があっても、先生がそれを理由に課題を取り消してくれるわけではない。

 

私は文書を保存し、参考資料を一本探すために図書館へ行く準備をした。

 

その日、私はただ小レポートを直すだけだと思っていた。

 

私は知らなかった。

 

世俗界のいくつかの小さな地方が、すでに猫目に本当の意味で接収され始めていることを。

 

猫目に最初から完全に支配されたのは、東京の中心部ではなかった。

 

大阪や京都のような大都市でもなかった。

 

それは、いくつかの小さな地方だった。

 

地方の小さな商店街。

 

漁港のそばの倉庫地区。

 

郊外のイベント機材レンタル会社。

 

古い文化会館周辺の警備・清掃外部委託。

 

地方銀行が抱える小企業の不良債権。

 

地域物流の中継拠点。

 

小型の食品、飲料、紙製品、舞台消耗品のサプライヤー。

 

こうした場所は、地図の上では目立たない。

 

メディアもあまり注目しない。

 

けれど、それらは多くの実際の生活とつながっていた。

 

商店街は、それらを通じて商品を仕入れる。

 

文化活動は、それらを通じて機材を運ぶ。

 

地方LiveHouseは、それらを通じて照明、音響、仮設ステージを借りる。

 

学校の文化祭は、それらを通じて机、椅子、テント、保険を用意する。

 

青少年活動センターは、それらを通じて飲み物、紙コップ、印刷物、安全点検を用意する。

 

猫目は、最初から一番豪華なビルを買ったわけではない。

 

まず、こういうものを買った。

 

安い。

 

分散している。

 

目立たない。

 

けれど、十分な数を買えば、それはネットワークになる。

 

ある地方の小都市で、商店街の三分の一の店のローンが猫目関連金融に引き受けられた。

 

最初、店主たちは喜んだ。

 

利息が下がった。

 

返済期間が延びた。

 

さらに「地方文化活性化共同プロモーション」にも参加できるようになった。

 

猫目はポスターを作ってくれた。

 

オンライン宣伝もしてくれた。

 

夜間安全巡回も提供してくれた。

 

商店街の小規模音楽イベントに補助金まで出した。

 

誰もが、それを良いことだと思った。

 

その後、半年も経たないうちに、猫目関連会社は飲料、紙製品、清掃用品、イベント機材の一括仕入れを始めた。

 

価格はさらに安い。

 

配送も早い。

 

店主たちは当然、受け入れた。

 

さらにその後、元の地元サプライヤーは注文が取れずに倒産した。

 

すると商店街は、猫目のサプライチェーンを使い続けるしかなくなった。

 

この時点で、猫目は値上げをしなかった。

 

急いでいないからだ。

 

ただ、すべての人にゆっくり慣れさせるだけだった。

 

猫目がなければ、商品は遅く届く。

 

猫目がなければ、イベント保険は高くなる。

 

猫目がなければ、夜間巡回は止まる。

 

猫目がなければ、商店街のプロモーションは開けなくなる。

 

それで十分だった。

 

支配とは、扉に鍵をかけることではない。

 

扉は開いているのに、外に道がないと思わせることだ。

 

猫目の倉庫もまた、世俗界のより多くの場所へ拡張し始めた。

 

軍事基地のような倉庫ではない。

 

普通の物流倉庫だった。

 

地方配送センター。

 

文化活動機材倉庫。

 

特殊保険物資倉庫。

 

災害応急用品倉庫。

 

夜間安全巡回装備倉庫。

 

舞台照明・音響レンタル倉庫。

 

どの倉庫にも合法的な用途がある。

 

どの倉庫にも正常な帳簿がある。

 

どの倉庫も、なぜ存在するのかを説明できる。

 

しかし、それらの倉庫が猫目プラットフォームでつながったとき、巨大な物資ネットワークへ変わった。

 

昼間、それらはイベント機材、事務用品、飲料、照明設備、防火器材を配送する。

 

夜、それらは猫目巡回隊、低級術具、防護装備、通信機材、封存箱、応急医療バッグを差配する。

 

世俗界から見えるのは、物流効率の向上。

 

退魔界から見えるのは、猫目術師の補給がますます早くなっていること。

 

双方とも、自分たちの側だけを見ている。

 

全体図を簡単に見られる者はいない。

 

ニャーサには見えている。

 

それは東京本部の高層会議室に立ち、全国倉庫地図を見ていた。

 

赤い点、青い点、灰色の点、金色の点。

 

一つ一つの点が、倉庫であり、協力業者であり、保険ノードであり、地方活動施設であり、暗面補給点だった。

 

代理人が報告した。

 

「北海道に倉庫を二つ追加しました」

 

「東北に四つ追加」

 

「関東外縁に九つ追加」

 

「中部に五つ追加」

 

「九州に三つ追加」

 

「四国は交渉中です」

 

ニャーサは軽くうなずいた。

 

「急ぎすぎるな」

 

代理人は一瞬固まった。

 

「すでに速度は落としています」

 

「もう少し遅くできる」

 

「規制を警戒しているのですか?」

 

「違う」

 

ニャーサは地図を見つめていた。

 

「獲物が、まだ餌皿の位置に慣れていないからだよ」

 

それは、この比喩を好んでいた。

 

ニャーサは、いきなり部屋いっぱいに餌皿を置いたりしない。

 

まずは隅に置く。

 

相手が自分で歩いていくようにする。

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

相手がもう警戒しなくなったころ、餌皿は生活の一部になる。

 

世俗界の抵抗も始まっていた。

 

退魔界のような術式突襲ではない。

 

資本戦だった。

 

いくつかの大型財団は、猫目資本が地方経済、特殊物流、保険、文化安全、小企業債務の分野で異常な支配を形成しつつあることに、ついに気づいた。

 

彼らは非公開の会議を開いた。

 

参加したのは、銀行系資本、保険大手、不動産財団、総合商社、物流グループ、そしていくつかのメディアグループの代表だった。

 

彼らはニャーサを知らない。

 

ただ、猫目資本の拡張が速すぎること、キャッシュフローが深すぎること、手を伸ばす範囲が広すぎることだけを知っていた。

 

そして、それは伝統的な資本圏の「分寸」を守らない。

 

旧来のルールに従って、ケーキを分け合おうとしない。

 

彼らが重視していなかった小さな市場から始め、ますます多くの実質的な支配権を奪っていく。

 

誰かが言った。

 

「融資ルートを切断するべきだ」

 

誰かが言った。

 

「中核会社を買収しろ」

 

誰かが言った。

 

「メディアに調査させるべきだ」

 

誰かが言った。

 

「政界を通じて圧力をかける」

 

さらに直接的な者もいた。

 

「背後に武力があるのなら、こちらにもないわけではない」

 

こうして、世俗界の抵抗は二つの線へ分かれた。

 

経済線。

 

武力線。

 

先に動いたのは経済線だった。

 

いくつかの財団は、猫目による地方銀行の不良債権買収を共同で凍結しようとした。

 

しかし、それらの債権はすでに複数のファンドパッケージへ分割されていた。

 

一つ一つのファンドパッケージは、単独で見れば合法。

 

猫目は、唯一の買い手ですらなかった。

 

ただ、複雑な構造を通じて、実際の処分権を握っているだけだった。

 

凍結しようとすれば、複数の法廷戦を同時に行う必要がある。

 

時間がかかる。

 

コストも高い。

 

そして、猫目には現金がある。

 

非常に深いキャッシュプールが。

 

それは長期戦を恐れない。

 

いくつかの財団は、猫目関連サプライヤーの調達コストを引き上げようとした。

 

その結果、猫目は自前の物流と長期在庫を動員し、コストを抑え込んだ。

 

いくつかの保険大手は、低価格で文化施設保険を奪い返そうとした。

 

猫目は、それに合わせて無闇に値下げはしなかった。

 

代わりに、より細かい「付加サービス」を提供した。

 

夜間巡回。

 

設備点検。

 

イベントリスク管理。

 

応急物資。

 

データレポート。

 

小さな機関にとっては、少し安い保険料よりも、そのほうが有用だった。

 

財団が仕掛けたのは価格戦。

 

猫目が仕掛けたのは依存戦。

 

キャッシュプールの深い者は、一、二回の価格戦など最も恐れない。

 

武力線は、さらに失敗した。

 

世俗界の大資本家たちには、成規模の術師体系がない。

 

彼らが持っているのは、民間警備、地下組織、ヤクザとの関係、海外傭兵、商業調査会社だった。

 

そうした力は、普通の会社に対しては恐ろしい。

 

しかし、猫目に対してはほとんど意味がなかった。

 

第一陣は、猫目の地方倉庫を襲撃しようとした。

 

彼らは、それをただの物流倉庫だと思っていた。

 

しかし核心区へ入る前に、猫目の警備システムによって外縁通路に閉じ込められた。

 

照明が消える。

 

入退室ゲートが反ロックされる。

 

通信が失効する。

 

三分後、猫目巡回隊が現れた。

 

彼らは普通の警備員制服を着ていた。

 

大声で脅しはしない。

 

ただ、極めて効率的な非致死手段で、すべての侵入者を制圧した。

 

その中で最も強い地下の荒事要員数名が、銃を抜こうとした。

 

次の瞬間、彼らの腕は同時に砕かれた。

 

第二陣は海外警備会社から来た。

 

装備はさらに良い。

 

経験も豊富だった。

 

彼らは正面入口を使わず、隣接ビルから潜入した。

 

今度、彼らが遭遇したのは、猫目配下の本当に暗面訓練を受けた術師部隊だった。

 

普通人には結界が見えない。

 

符線も見えない。

 

空気の中で書き換えられた経路も見えない。

 

彼らはただ、自分たちがずっと回っているように感じた。

 

階段を上っては下りる。

 

廊下が繰り返す。

 

位置情報が失効する。

 

おかしいと気づいたときには、すでに三組に分断されていた。

 

それぞれの組が、別々の猫目小隊に制圧された。

 

死亡者はいない。

 

全員が昏倒。

 

目を覚ました後、二十分間の記憶を失っていた。

 

第三陣は、さらに強引だった。

 

猫目のある地域責任者を直接誘拐しようとした。

 

結果、誘拐用の車は途中でエンストした。

 

周囲の道路監視カメラは、すべてオフラインになった。

 

誘拐犯たちは逆に縛られ、警察署の前に捨てられた。

 

横には匿名資料が置かれていた。

 

彼らの過去三年間の違法行為が、詳細に列挙されていた。

 

世俗財団は結果を見て、ついに理解した。

 

猫目は普通の新興資本ではない。

 

その背後には、彼らにはまったく理解できない武力システムがある。

 

しかもその数は多い。

 

分布は広い。

 

反応は早い。

 

さらに、わずかな力を露出することを恐れない。

 

なぜなら、彼らが使う手段は、普通人には説明できず、しかも証拠を残しにくいものばかりだからだ。

 

いくつかの大財団は、さらに警戒した。

 

けれど、同時にさらに無力になった。

 

彼らには金がある。

 

猫目にも金がある。

 

しかも、猫目のキャッシュプールは異常なほど深い。

 

単一の銀行融資ではない。

 

単一の投資家でもない。

 

単一の産業利益でもない。

 

それは無数の暗渠を持つようだった。

 

小企業債権の収益。

 

保険資金プール。

 

物流利益。

 

文化安全サービス費。

 

退魔界外縁調達。

 

地方基金管理費。

 

匿名海外資金。

 

さらには、猫目に呑まれたいくつかの小勢力の資産。

 

これらの金が一つに集まり、深いキャッシュプールを形成していた。

 

干上がらせられない。

 

汲み尽くせない。

 

大資本家たちは、久しぶりに不快感を覚えた。

 

彼らは、金で他者を押さえつけることに慣れている。

 

しかし今、同じように金を持ち、しかも支配権と引き換えに長期赤字を受け入れる相手が現れた。

 

それは恐ろしいことだった。

 

もし相手がただ金儲けをしたいだけなら、話し合える。

 

市場シェアがほしいだけでも、まだ話せる。

 

けれど猫目の目的は、利益最大化ではない。

 

その目的は、支配最大化のように見える。

 

損失と引き換えに依存を得る。

 

公益プロジェクトと引き換えに入口を得る。

 

保険補助と引き換えにデータを得る。

 

低価格物流と引き換えに位置を得る。

 

これは会社ではない。

 

むしろ、何かが食事をしているようだった。

 

ある老いた財団会長が、非公開会議で言った。

 

「これは普通の競争ではない」

 

「あれは地方を呑んでいる」

 

誰も反論しなかった。

 

ニャーサも、世俗財団が怖がり始めていることを知っていた。

 

気にしてはいなかった。

 

世俗界の資本家たちは、退魔界の大勢力よりも理解しやすい相手だった。

 

彼らは金を信じる。

 

関係を信じる。

 

リスク交換を信じる。

 

自分たちが交渉できると信じている。

 

どれも良いことだ。

 

なぜなら、ルールを信じる者ほど、ルールに縛られやすいからだ。

 

ニャーサは大財団を急いで呑み込むつもりはなかった。

 

それは目立ちすぎる。

 

ただ、彼らに理解させればいい。

 

猫目は簡単に押し潰せる小会社ではない、と。

 

そして、彼らが十分重視していない小さな地方を食べ続ければいい。

 

小都市。

 

小港。

 

小型文化施設。

 

小企業債務。

 

地方物流。

 

地域保険。

 

青年活動支援。

 

こうした場所は毛細血管のようなものだ。

 

大財団は毛細血管を見下す。

 

けれど身体が本当に生きているのは、まさにそうした場所のおかげなのだ。

 

ニャーサはメモに書いた。

 

大資本の警戒上昇。

 

正面金融衝突は一時延期。

 

地方小経済および物資ノードの支配を継続。

 

倉庫拡張は低調を維持。

 

世俗武力抵抗は三度失敗。適度に威嚇を放出可。

 

書き終えると、それは全国地図を見た。

 

東京、大阪、名古屋、福岡、札幌といった大都市は、まだ完全に支配している場所ではない。

 

けれど急いではいない。

 

都市の周囲の小さな点は、ますます増えている。

 

夜の猫の目のように。

 

一つずつ、光り始めていた。

 

退魔界もまた、地方が詰まり始めていることを感じ始めた。

 

真壁仁が低級異常を処理したとき、もともと協力していた地元の物資店が、猫目配送に切り替えていることに気づいた。

 

彼は封存箱を買おうとした。

 

店主は言った。

 

「猫目プラットフォームのほうが安いんです」

 

真壁は言った。

 

「旧型が欲しい」

 

店主は困った顔をした。

 

「旧サプライヤーは倒産しました」

 

真壁仁は沈黙した。

 

倒産した。

 

そういうことなのだ。

 

戦闘はない。

 

陰謀の露出もない。

 

ただ、地元の旧サプライヤーが倒れた。

 

菅原涼も大阪で似た状況に遭遇した。

 

彼女は負傷術師のために、猫目ではない保険請求ルートを探そうとした。

 

しかし、地元の小規模保険代理店のいくつかは、すでに猫目関連会社に統合されていた。

 

遠野修司は北海道で、無人駅の照明を修理しようとした。

 

もともとの地方修理隊は、猫目関連の物流兼メンテナンス会社に買収されていた。

 

彼は雪の中に立ち、新しい修理車に描かれた淡い猫目ロゴを見つめ、ひと言罵った。

 

これらの出来事は小さい。

 

「猫目が攻撃を仕掛けた」と書けるほどではない。

 

けれど、一つ一つが示していた。

 

地方の経済と物資が、猫目に接収されつつあることを。

 

無門術師たちは気づき始めた。

 

自分たちが向き合っているのは、一つの戦闘ではない。

 

基礎生活レベルでの侵食なのだと。

 

特調室の会議で、若い分析官が言った。

 

「猫目の世俗倉庫拡張速度は、予測を超えています」

 

眼鏡の女性が尋ねた。

 

「普通の生活への影響は?」

 

「一部の小都市では、猫目関連サプライチェーンが文化活動物資、基礎警備、特殊物流、小企業債務、イベント保険をすでにカバーしています」

 

久我山統括官が言った。

 

「つまり、現地で小規模な青年音楽活動を開こうとすれば、会場保険、机と椅子のレンタル、夜間警備、宣伝印刷、飲料配送のうち、少なくとも一つは猫目由来である可能性が高い、ということか」

 

若い分析官はうなずいた。

 

「場所によっては三項目を超える可能性があります」

 

眼鏡の女性は沈黙した。

 

それは、たとえ私が猫目に接触しなくても、私が将来働きたい分野が間接的にそれと接触し得るという意味だった。

 

東京ではなく。

 

地方で。

 

大きな機関ではなく。

 

小さな活動で。

 

表面上の契約ではなく。

 

物資や保険の中で。

 

久我山は言った。

 

「白川一音の現在の生活圏を守り続ける」

 

「同時に、ホワイトリスト資源を作る」

 

若い分析官が尋ねた。

 

「ホワイトリスト資源、ですか?」

 

「どの文化活動機関、サプライヤー、保険、設備レンタルが猫目と関係していないかを確認する」

 

「今後、彼女が実習、研究、活動参加をするときに、その情報が必要になる」

 

眼鏡の女性はうなずいた。

 

「ただし、彼女に自分の未来が監視されていると思わせてはいけません」

 

久我山はため息をついた。

 

「そこが難しい」

 

保護と管理の境界は、あまりにも細い。

 

特調室は、私の代わりに猫目を防ぎながら、同時に私の普通の未来を彼らの手の中のルート表に変えてはいけなかった。

 

それは難しい。

 

けれど、やらなければならなかった。

 

私はそれでも、一部しか見えていなかった。

 

ある日、地域音楽研究会で秋の小調査について話し合った。

 

濑川会長は、いくつかの小型文化空間の公開資料研究を提案した。

 

正式なインタビューではない。

 

ただ活動の公開情報を見て、地方音楽活動がどう運営されているのかを分析するだけだ。

 

候補地の一つが、「初めてのステージ支援計画」を利用していた。

 

淡い猫目ロゴを見た瞬間、胸がきゅっと強張った。

 

「このプロジェクト……」

 

濑川会長が私を見た。

 

「知っているの?」

 

「前に見たことがあります。少し慎重になったほうがいい気がします」

 

相原が尋ねた。

 

「資金源の関係?」

 

私はうなずいた。

 

「うん。無料支援プロジェクトは、データと退出条件をよく見たほうがいいと思う」

 

濑川会長は真剣に少し考えた。

 

「それなら、この場所は主要事例から外しましょう」

 

私は息を吐いた。

 

彼女は、なぜ私がそこまで敏感なのかを聞かなかった。

 

ただ、それを予備候補へ移した。

 

それが、私にできることだった。

 

とても小さい。

 

研究会が、ひとまず一つのプロジェクトを避けるようにしただけ。

 

猫目がすでにどれほど地方物資を支配しているのか、私は知らない。

 

世俗財団の抵抗が失敗したことも知らない。

 

倉庫がさらに多くの地方へ広がっていることも知らない。

 

それでも私は、少なくとも一つのロゴを見ることはできた。

 

そして言えた。

 

まず慎重になりましょう、と。

 

たぶん、それも小さな抵抗なのかもしれない。

 

夜、私は研究会のことを日和に話した。

 

出どころのはっきりしない支援プロジェクトがあって、私たちはそれを選ばなかった、とだけ言った。

 

日和はうなずいた。

 

「よかったね」

 

陽菜が尋ねた。

 

「見た目はすごく良さそうな無料プロジェクトみたいなやつ?」

 

「うん」

 

陽菜はため息をついた。

 

「なんで良さそうなものまで、そんなに気をつけなきゃいけないんだろう」

 

私はすぐには答えられなかった。

 

日和が言った。

 

「良いものにも、条件がついていることがあるから」

 

澪が補足した。

 

「無料ごはんも辛いかもしれない」

 

みんなが彼女を見た。

 

彼女は真剣に言った。

 

「先に確認するべき」

 

私は笑った。

 

「うん。先に確認するべきだね」

 

その言葉は単純だった。

 

けれど今、どんどん重要になっている。

 

その深夜、ニャーサは地方倉庫拡張報告を見ていた。

 

世俗財団の武力抵抗は失敗。

 

経済封じ込めも失敗。

 

退魔界中小組織の依存はさらに深まっている。

 

大勢力の核心はまだ抵抗しているが、コストは上昇中。

 

白川一音の研究会は、猫目支援プロジェクトの一つを避けた。

 

代理人が最後の項目を報告したとき、少し緊張していた。

 

「対象の所属研究会は、当方支援プロジェクトの事例を採用しませんでした」

 

ニャーサは怒らなかった。

 

「彼女は慎重になった」

 

「周辺策略を調整しますか?」

 

「今は必要ない」

 

ニャーサは地図を見た。

 

「彼女は一つのプロジェクトを避けられる」

 

「でも、ある地域の保険、倉庫、物資、警備、印刷、飲料、設備がすでに猫目の手にあるなら、彼女は何を避けられる?」

 

代理人は頭を下げた。

 

ニャーサは静かに言った。

 

「急いで彼女に触れるな」

 

「地方を食べ続けろ」

 

「彼女が未来に行きたいどんな場所でも、まず猫の目が見えるようになるまで」

 

その声は軽かった。

 

けれど、一本の線が闇へ落ちていくようだった。

 

私は、その言葉を知らない。

 

私は小さなアパートで、音声メディア研究の小課題を直していただけだった。

 

テーマは、

 

音はどのように場所感を形作るのか。

 

私は書いた。

 

一つの場所の意味は、建築だけから生まれるのではない。そこで人々が繰り返し生み出す音、活動、関係からも生まれる。

 

書き終えたあと、AfterToneを思い出した。

 

大学食堂を思い出した。

 

青少年文化活動センターを思い出した。

 

初めて入室をためらっていた、短髪の女の子を思い出した。

 

私にとって、それらの場所はどれも、音と関係でできている。

 

私は、それらを守りたい。

 

黒弦で、ではない。

 

少なくとも、黒弦だけではない。

 

規則、資金判断、境界、拒否、代替案でも。

 

ただ、こういうものはどれも遅い。

 

とても普通だ。

 

戦闘のようには見えない。

 

けれど、普通だからこそ、最も重要なのかもしれない。

 

意識の奥で、ソレンセンが言った。

 

「今日もずいぶん温和な言葉を書いているな」

 

「うん」

 

「外が温和とは限らぬ」

 

「わかってる」

 

「それでも書くのか?」

 

「私が欲しい場所には、こういう言葉が必要だから」

 

それは少し静かになった。

 

「好きにしろ」

 

私はファイルを保存した。

 

窓の外には東京の夜景があった。

 

猫目の倉庫は、より多くの地方で灯りをつけている。

 

世俗財団は会議室で眠れない夜を過ごしている。

 

無門術師は地方の小店の前で頭を抱えている。

 

特調室はホワイトリスト資源を作っている。

 

ニャーサは網の中央で地図を見ている。

 

そして私は、ただ大学の小課題を書いていた。

 

世界全体が猫の網へ変わりつつあることを、私は見ていなかった。

 

けれど、猫目ロゴを見たときに、まず立ち止まることは学び始めていた。

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