俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ   作:arctichare

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第90章 二週間の猫目臨時首領、そして私は檻がなぜ閉まらないのかを見た

第90章 二週間の猫目臨時首領、そして私は檻がなぜ閉まらないのかを見た

 

ニャーサが地球を離れるという出来事は、あまりにも突然だった。

 

少なくとも、私にとっては突然だった。

 

その日、私は音声メディア研究の授業を受け終えたばかりだった。

 

先生は「音の中の権力関係」について話していた。

 

私はノートに書いた。

 

どの音を残すかを決める者は、その場所を解釈する権力の一部を持つ。

 

その一文を書き終えたとき、これは小レポートに使えそうだと思っていた。

 

そのとき、スマホが震えた。

 

眼鏡の女性からだった。

 

授業後、すぐにキャンパスを離れないでください。会う必要があります。戦闘任務ではありません。

 

戦闘任務ではありません。

 

その言葉は、もう私を安心させてくれない。

 

いちばん厄介なことの多くは、戦闘任務ではないからだ。

 

私は返した。

 

わかりました。

 

ソレンセンが黒海の中で言った。

 

「また面倒事だな」

 

「うん」

 

「猫か?」

 

「わからない」

 

「たぶんそうだ」

 

それは当たっていた。

 

けれど今回、猫が持ってきたのは戦闘ではなかった。

 

もっと荒唐無稽な安排だった。

 

待ち合わせ場所は、A大学近くの普通の会議室だった。

 

眼鏡の女性と久我山統括官がいた。

 

それから、見たことのない中年男性もいた。官僚体系の人間に見えた。

 

机の上には、薄い書類が一部置かれている。

 

大事には見えないほど薄い。

 

けれど、彼らの表情は、これがとても大きなことだと示していた。

 

久我山が先に口を開いた。

 

「猫目側から、臨時安排の提案があった」

 

私は何も言わなかった。

 

彼は続けた。

 

「ニャーサが、一時的に地球を離れる。期間は約二週間だ」

 

私は固まった。

 

「地球を……離れる?」

 

その言い方は、あまりにも現実感がなかった。

 

SF小説みたいだった。

 

けれど、ソレンセンが黒海の中で突然静かになった。

 

それは、その言葉が本当である可能性を知っていた。

 

久我山は、ニャーサがどこへ行くのかを説明しなかった。

 

彼らもすべてを知っているわけではないからだ。

 

眼鏡の女性が言った。

 

「猫目代理人から、ニャーサは地球圏外の宴会に出席する必要があるという連絡がありました」

 

私はゆっくり背筋を伸ばした。

 

「宴会?」

 

その二文字は、「地球を離れる」よりもさらに荒唐無稽だった。

 

日本退魔界、世俗財団、官僚体系にとって、猫目はほとんど全員の頭上にのしかかる災害だ。

 

そしてその災害が、今から宴会に行くらしい。

 

理由は、ある友人が計画成功を祝うためだという。

 

私は急に、とても現実味のない感覚に襲われた。

 

私たちが必死にもがいているこの世界は、それの日程表の中では、一時的に置いておける仕事の一つにすぎないようだった。

 

久我山が言った。

 

「相手は、ニャーサ不在期間中、あなたを猫目勢力の臨時首領にすることを提案している」

 

聞き間違えたのかと思った。

 

「私?」

 

眼鏡の女性の顔色は、とても悪かった。

 

「はい」

 

「どうして?」

 

中年官僚が低い声で言った。

 

「猫目側の説明では、これまでの対峙後の境界確認として、とのことです」

 

私は彼を見た。

 

「それはどういう意味ですか?」

 

彼は答えなかった。

 

眼鏡の女性が代わりに言った。

 

「それは、あなたに猫目がどう動いているのかを見せたいのだと思います」

 

私はすぐに理解した。

 

信頼ではない。

 

権限譲渡でもない。

 

好意でもない。

 

展示だ。

 

ニャーサは私を猫目の位置に座らせ、すでに完成した支配構造を見せようとしている。

 

たとえ私がその位置に座っても、何も変えられないことを見せる。

 

地方がなぜすでに猫目のものになったのかを見せる。

 

最後の東京と京都も、いずれ陥落するのだと見せる。

 

これは罰だ。

 

同時に教育だ。

 

ニャーサ式の教育。

 

私の最初の反応は拒否だった。

 

「行きません」

 

その言葉は、ほとんど反射的に口から出た。

 

眼鏡の女性は私を説得しなかった。

 

むしろ、少しほっとしたように見えた。

 

けれど、あの官僚が口を開いた。

 

「完全に拒否した場合、猫目は一方的に別の臨時執行者を指定する可能性があります」

 

私は彼を見た。

 

「それが私に何の関係があるんですか?」

 

彼は言葉に詰まった。

 

久我山が言った。

 

「猫目はすでに地方支配を完成させている。ニャーサが二週間離れるあいだ、その残したシステムに制衡がなければ、より急進的な統合が進む可能性がある」

 

「私が行けば、制衡できますか?」

 

「非常に限られる」

 

彼は嘘をつかなかった。

 

「相手があなたに与える権限は、象徴的なものにすぎない可能性が高い」

 

「なら、どうして私が行く必要があるんですか?」

 

眼鏡の女性が低く言った。

 

「たとえ象徴的なものでも、あなたは何かを見られるかもしれないからです」

 

私は苦笑した。

 

「それは、私に見せたいものを見せるだけでしょう」

 

「はい」

 

「後手も残している」

 

「はい」

 

「私はそこで、ゴム印になるだけです」

 

今回は、誰も反論しなかった。

 

私はうつむいて書類を見た。

 

そこにはこう書かれていた。

 

猫目臨時名義代表安排。

 

期間:約十四地球日。

 

範囲:地方運営全面接収および政権過渡期における定例書類、非戦闘支配事務、文化安全プロジェクト調度、物流および保険協調。

 

制限:猫目核心戦力档案への接触禁止。高危術師部隊の動員禁止。地方支配契約の解除禁止。ニャーサ私的研究資料へのアクセス禁止。東京、京都戦略の変更禁止。

 

それらの制限を見て、心が少しずつ冷えていった。

 

これは臨時首領ではない。

 

透明な檻の中に座って判子を押すだけだ。

 

ニャーサは、それを隠そうとすらしていない。

 

直接、私に告げている。

 

座ってもいい。

 

でも、本物には触れない。

 

私は尋ねた。

 

「もし私が書類への署名を拒否したら?」

 

久我山が言った。

 

「猫目システムは、自動的に代理人執行へ移行する」

 

「もし地方支配を停止しろと命令したら?」

 

「権限不足だ」

 

「もし地方組織を猫目から離脱させようとしたら?」

 

「権限不足だ」

 

「もし猫目内部資料を公開したら?」

 

眼鏡の女性が私を見た。

 

「そもそも、本当の内部資料は手に入らない可能性が高いです」

 

私は目を閉じた。

 

これがニャーサの後手だ。

 

それは地球にいない。

 

けれど、残された猫目システムは動き続ける。

 

代理人が動く。

 

契約が動く。

 

倉庫が動く。

 

保険が動く。

 

術師部隊が動く。

 

官僚との連絡が動く。

 

地方依存が動く。

 

私がいてもいなくても、変わらない。

 

それはただ、私にそれを見せようとしている。

 

ソレンセンが黒海の中で低く言った。

 

「行け」

 

私は固まった。

 

「行けって言うの?」

 

「見に行け」

 

「罠だと思わないの?」

 

「当然、罠だ」

 

「じゃあ、どうして?」

 

「檻には、中に座ってみなければ、錠がどこにあるかわからないものもある」

 

私は沈黙した。

 

「でも、それは錠を見せてくれない」

 

「なら、奴が見せたいものを見ろ」

 

ソレンセンは言った。

 

「猫は、お前を絶望させるには十分だと思っているものを見せる」

 

「絶望の中にも情報はある」

 

その言い方はいかにもソレンセンだった。

 

冷酷だ。

 

けれど、理はある。

 

私はゆっくり目を開けた。

 

「条件があります」

 

久我山はすぐに言った。

 

「言ってくれ」

 

「一つ目、特調室は私がどこにいるのか、全行程を把握すること」

 

「もちろんだ」

 

「二つ目、安全確認がない限り、東京から遠く離れないこと」

 

眼鏡の女性が言った。

 

「猫目が安排した場所は東京湾内のビジネス施設です。地方核心区ではありません」

 

「三つ目、猫目が私に戦闘指令を求めた場合、私は拒否します」

 

「書き込めます」

 

「四つ目、私は普通人を傷つけず、東京と京都の陥落を加速させない定例書類だけに署名します」

 

中年官僚が眉をひそめた。

 

「猫目がその定義を受け入れない可能性があります」

 

私は彼を見た。

 

「なら、行きません」

 

彼は黙った。

 

「五つ目、私の名義を利用してAfterTone、A大学、研究会、実習機関を傷つける安排をしたとわかった場合、即座に終了します」

 

眼鏡の女性はうなずいた。

 

「同意します」

 

「六つ目、終了後、私は普通に学校へ戻る必要があります」

 

その言葉を口にしたとき、自分でも少し悲しかった。

 

私は「学校へ戻る」ことを条件として書かなければならない。

 

眼鏡の女性の声は、とても軽かった。

 

「あなたは学校へ戻ります」

 

私は彼女を見た。

 

「書いてください」

 

彼女は書いた。

 

ニャーサが地球を離れる前に、私は一度それに会った。

 

場所は人工島ではない。

 

埠頭でもない。

 

猫目本部の高層会議室だった。

 

それは机の上に座り、私が見たものよりさらに厚い書類を前に置いていた。

 

代理人は横に立っている。

 

彼が私を見る目は複雑だった。

 

単純な敵意ではない。

 

同情でもない。

 

むしろ、檻の中に長く閉じ込められた人間が、別の誰かが檻の中へ見学に招かれるのを見るような目だった。

 

ニャーサは私を見ると、笑った。

 

「来たんだね」

 

私は座らなかった。

 

「どこへ行くの?」

 

「挽塵星」

 

それは、とても気軽に答えた。

 

「私の友人が面白い計画を完成させたから、祝いに招かれている」

 

「友人なの?」

 

「長い付き合いだよ」

 

その言葉は、さらに現実味を失わせた。

 

ニャーサには友人がいる。

 

ニャーサは宴会に行く。

 

ニャーサは誰かの計画成功を祝うために、地球を二週間離れる。

 

そして私たちの世界では、それが二週間離れるだけで、世界システムが止まりかねないかのように緊張している。

 

私は尋ねた。

 

「どうして私を臨時首領にするの?」

 

「もうわかっているんじゃない?」

 

「私を絶望させるため」

 

ニャーサは軽く笑った。

 

「直接言いすぎだね」

 

「じゃあ、あなたが言って」

 

「理解させるため」

 

「何を?」

 

「猫目がなぜ地方を支配できたのかを」

 

その目は明るかった。

 

「君はいつも、支配とは悪人が善人の頭を押さえつけることだと思っている」

 

「浅すぎる」

 

「この二週間、君は私の位置に座る」

 

「本当の位置ではない」

 

「見るには十分」

 

それは机から飛び降り、私の前へ歩いてきた。

 

「君は見ることになる。地方は、私が毎日爪で押さえつけているから動いているわけじゃない」

 

「地方自身が申請を出す」

 

「自分から猫目に供給継続を求める」

 

「自分から巡回隊を撤退させないでくれと頼む」

 

「猫目システムを切断しようとする者に、自分から苦情を言う」

 

「君は見ることになる。私がいなくても、猫目は動く」

 

「君は見ることになる。東京と京都がまだ陥落していないのではなく、まだ時期が来ていないだけなのだと」

 

私は歯を食いしばった。

 

「私は、あなたのために東京と京都の陥落を進めたりしない」

 

「君にはその権限がない」

 

それは非常に平静に答えた。

 

その一言は、嘲笑よりも耳に痛かった。

 

私は手を握りしめた。

 

それは私を見て、さらに言った。

 

「扉を勝手に触らないこと」

 

心が冷えた。

 

それが言っているのは、東京と京都の扉ではない。

 

ソレンセンの扉だ。

 

「地球にいないのに、私が怖いの?」

 

ニャーサは笑った。

 

「怖いのは、君が愚かになることだよ」

 

黒海の中で、ソレンセンが冷たく鼻を鳴らした。

 

ニャーサは、それが聞こえないようでいて、そこにいることを知っているようだった。

 

「この二週間、よく見ておくといい」

 

それは言った。

 

「英雄になろうとしないこと」

 

「システムの前で、英雄にできることは少ないとわかるよ」

 

そう言うと、それは振り返った。

 

会議室の中央に、形容しがたい光が現れた。

 

この世界の術式ではない。

 

陰陽術でもない。

 

結界でもない。

 

まるで星空が向こう側から切り開かれたような裂け目だった。

 

ニャーサはその中へ歩いていった。

 

消える直前、それはこちらを一度振り返った。

 

「戻ってくる頃には、君がもう少し理解していることを期待しているよ」

 

光が消えた。

 

ニャーサは地球を離れた。

 

期間は、およそ地球時間で二週間。

 

猫目臨時首領になった一日目、私は「ゴム印」という言葉の意味を理解した。

 

机の上には、確認待ちの書類が三百件以上置かれていた。

 

すべて、猫目システム、代理人、法務チーム、リスク部門、地方執行隊による審査を終えている。

 

私に必要なのは、「臨時名義代表」として確認することだけだった。

 

第一の書類。

 

ある地方高校の外部音楽活動支援プロジェクト物資調度。

 

内容は、仮設ステージ、音響、保険、交通補助、ボランティア研修を含む。

 

もし私が署名しなければ、活動は延期される。

 

延期の結果、その高校軽音部の校内外交流演奏が中止になる。

 

学生たちは失望する。

 

地方活動センターは苦情を出す。

 

学校の教師は、なぜ猫目がすでに約束した支援を一時停止したのかと尋ねる。

 

私はその書類を見つめ、長いあいだ動かなかった。

 

代理人が言った。

 

「あなたが確認しない場合、システムは六時間後に自動執行へ切り替えます」

 

私は顔を上げた。

 

「なら、私が署名するかどうかに何の意味があるんですか?」

 

「対外プロセスの完整性です」

 

ゴム印。

 

私は初めて、その四文字を自分の手で感じた。

 

私は署名した。

 

猫目を支持したからではない。

 

署名しなくても執行されるからだ。

 

そして署名すれば、少なくとも次の書類を見続けることができる。

 

第二の書類。

 

漁港夜間照明維持更新。

 

拒否すれば、いくつかの夜間巡回が中断する。

 

第三の書類。

 

地方商店街秋祭り安全巡回人員追加。

 

拒否すれば、活動主催者が祭りを中止する可能性がある。

 

第四の書類。

 

負傷した低級術師の医療理賠確認。

 

拒否すれば、彼は金を受け取れない。

 

第五の書類。

 

旧遍路道観光客案内設備修理。

 

拒否すれば、地方政府は安全リスクについて苦情を出すだろう。

 

これらは悪事ではない。

 

少なくとも表面上はそうではない。

 

すべて、地方を動き続けさせるためのことだった。

 

それこそが、最も絶望的な部分だった。

 

もし書類に「抵抗者の鎮圧」「学生名簿の奪取」「猫目武力の拡張」と書かれていたなら、私は拒否できたし、怒ることも、書類を机に叩きつけることもできた。

 

けれどそこに書かれているのは、

 

灯りを直すこと。

 

精算すること。

 

音響を送ること。

 

保険を補うこと。

 

学生に交通費を出すこと。

 

商店街へ夜間巡回を安排すること。

 

私は猫目の位置に座り、初めて本当に見た。

 

地方を支配しているのは、一連の邪悪な命令ではない。

 

拒みがたい必要な事務の連続なのだと。

 

二日目、私は抜け穴を探そうとした。

 

代理人に、地方支配プロジェクトの全体一覧を出させた。

 

彼は削減版を渡した。

 

すぐに気づいた。

 

本当の核心権限は、すべてロックされている。

 

倉庫底層調度アルゴリズム、ロック。

 

術師部隊高危名簿、ロック。

 

猫目核心キャッシュプール、ロック。

 

ニャーサ私的研究、ロック。

 

東京、京都戦略、ロック。

 

大都市浸透計画、ロック。

 

私が見られるのは、地方の日常運営だった。

 

文化安全。

 

倉庫配送。

 

保険理賠。

 

青少年活動支援。

 

地方巡回。

 

小組織任務外注。

 

医療相互扶助。

 

それだけでも十分多い。

 

めまいがするほど多い。

 

けれど、それらはどれも私が反撃に使える刃ではなかった。

 

私は代理人に尋ねた。

 

「あなたたちの本当の武力はどこですか?」

 

彼は答えた。

 

「あなたに権限はありません」

 

「臨時首領として命令したら?」

 

「無効です」

 

「誰が無効と判断するんですか?」

 

「システムです」

 

「そのシステムは誰が設定したんですか?」

 

彼は私を一目見た。

 

「ニャーサ様です」

 

これが後手だ。

 

ニャーサは地球にいない。

 

けれど、残されたシステムは、なお私より上にある。

 

私はただ、最外層の王座に座ることを許された人間にすぎない。

 

王座の下に王笏はない。

 

あるのは印章だけ。

 

三日目、私は地方からのフィードバックを受け取り始めた。

 

ある商店街から感謝状が届いた。

 

猫目のご協力により、秋祭りを無事開催できました。ありがとうございます。

 

ある高校教師から活動写真が届いた。

 

学生たちが仮設ステージで演奏し、緊張しながらも楽しそうに笑っている。

 

ある漁港責任者は、猫目に夜間巡回頻度の追加を求めた。

 

ある地方退魔小組織は、より高等級の防護装備を申請した。

 

ある文化活動センターは、猫目に安全研修の継続提供を求めた。

 

ある負傷術師は理賠確認を送ってきた。

 

もし猫目保険がなければ、私はもう退行していたかもしれません。

 

私はそれらのフィードバックを見て、最初は怒った。

 

その後、沈黙した。

 

さらにその後、無力さを感じ始めた。

 

この人たちは猫目の敵ではない。

 

猫目の爪牙でもない。

 

地方にいる普通の人、職員、学生、術師、店主、教師なのだ。

 

彼らは本当に猫目に助けられている。

 

そしてその助けが、一層一層、支配へ変わっている。

 

私は「依存を減らす提案」を書いてみた。

 

たとえば、

 

地方自主予備倉庫を設立すること。

 

非猫目保険ルートを残すこと。

 

活動プロジェクトには必ず退出メカニズムを設けること。

 

学生支援を後続プラットフォームへ縛らないこと。

 

巡回隊データを集中回収しないこと。

 

代理人はそれを読み終えると、言った。

 

「これらの提案は保存できます」

 

私は尋ねた。

 

「実行されますか?」

 

彼は言った。

 

「ニャーサ様の確認が必要です」

 

「それは確認すると思いますか?」

 

代理人は答えなかった。

 

私は少し笑った。

 

「しないでしょう」

 

彼は低く言った。

 

「おそらく、しません」

 

これが私の無力だった。

 

提案は書ける。

 

判子は押せる。

 

見ることはできる。

 

けれど、変えられない。

 

六日目、特調室から連絡が来た。

 

眼鏡の女性が尋ねた。

 

大丈夫ですか?

 

私は画面を見て、どう答えればいいかわからなかった。

 

最後に書いた。

 

地方がどう動いているのかを見ています。

 

彼女は返した。

 

危険はありますか?

 

直接的な危険はありません。

 

少しして、彼女は返した。

 

あなたの情緒状態は?

 

私は打っては消した。

 

最後に書いた。

 

よくありません。

 

今回は返信が早かった。

 

終了が必要ですか?

 

私はその一文を見つめ、長いあいだ動かなかった。

 

終了。

 

もちろん、私は終了したかった。

 

A大学へ戻りたい。

 

授業へ行きたい。

 

AfterToneへ行きたい。

 

陽菜の声を聞きたい。

 

澪が飯と言うのを聞きたい。

 

日和に無理するなと注意されたい。

 

けれど、今ここで終了すれば、私が見ているものは途切れてしまう。

 

猫目の核心秘密ではない。

 

けれど、本当の地方運営メカニズムだ。

 

私はようやく、猫目がなぜ地方を支配できるのかを理解し始めていた。

 

もう少し見たかった。

 

ニャーサのためではない。

 

いつか誰かに、

 

「なぜ地方は猫目から離れられないのか」

 

と聞かれたとき、答えられるようにするためだ。

 

私は返した。

 

あと数日、続けます。

 

眼鏡の女性は返した。

 

無理はしないでください。

 

その四文字を見て、胸が痛んだ。

 

私はずっと無理をしている気がする。

 

ただ、その程度が違うだけだ。

 

八日目、東京と京都に関する書類が初めて机の上に現れた。

 

だが、戦略書類ではない。

 

外縁事務だった。

 

東京のある文化施設による臨時安全評価申請。

 

京都外輪のある保存センターによる防潮材料の追加要求。

 

私はすぐに警戒した。

 

「これは東京と京都の陥落を進めますか?」

 

代理人は言った。

 

「ただの外縁維持です」

 

「拒否します」

 

「できます」

 

私は固まった。

 

「できます」という言葉を初めて聞いた。

 

私は即座にその二件を拒否した。

 

システム表示。

 

臨時代表拒否。代理人再審査へ移行。

 

三時間後、書類は代理人再審査を経て承認された。

 

理由。

 

東京核心および京都内層戦略変更に該当せず。既存契約の履行に属する。

 

私はシステム表示を見て、乾いた笑いを漏らした。

 

拒否した。

 

そして猫目は実行を続けた。

 

これこそが、ニャーサが私に見せたかったものだ。

 

最後の二都市も、突然陥落するわけではない。

 

それらは、外縁維持、既存契約、文化協力、安全評価、防潮材料、倉庫部品から始まる。

 

一つ一つは大きくない。

 

一つ一つは合理的だ。

 

一つ一つが再審査で通過できる。

 

いつか、東京と京都も気づくのだろう。

 

自分たちは核心を守っていると思っていたが、すでに猫目の外縁システムから離れられなくなっていると。

 

私は、ニャーサのあの言葉をふいに理解した。

 

「都市は、ゆっくりでいい」

 

ゆっくりが、一番恐ろしい。

 

十日目、私は猫目地方支配の「悪意の核心」を探そうとした。

 

大量の書類を読んだ。

 

債権接管。

 

保険理賠。

 

物流調度。

 

学校活動支援。

 

術師任務分配。

 

地方政府協力。

 

倉庫維持。

 

医療精算。

 

地方商店街販促。

 

青年文化プロジェクト。

 

私は、これこそが猫目の邪悪だと指差せる決定的なものを探そうとした。

 

けれど、見つかったものの大半は、構造的な問題だった。

 

単一の悪意ではない。

 

全員が、最も現実的な位置で、いちばん理解しやすい選択をしているだけだった。

 

地方政府は猫目を選ぶ。猫目が速いから。

 

小店は猫目を選ぶ。猫目が安いから。

 

学生サークルは猫目を選ぶ。猫目が舞台をくれるから。

 

負傷術師は猫目を選ぶ。猫目が理賠してくれるから。

 

高校教師は猫目を選ぶ。猫目が活動を実現させてくれるから。

 

退魔小組織は猫目を選ぶ。猫目が装備と給与をくれるから。

 

世俗財団の一部は協力を選ぶ。猫目を止められないから。

 

官僚は投降を選ぶ。猫目がすでに支配者だから。

 

一つ一つの選択を単独で見れば、それほど奇妙ではない。

 

合わせると、檻になる。

 

私はようやく理解した。

 

猫目は、全員に悪い選択をさせて地方を支配しているのではない。

 

全員に「今この時点で最も合理的な選択」をさせて、地方を支配している。

 

それこそが、絶望だった。

 

十二日目、代理人側からニャーサがまもなく帰還するという知らせが届いた。

 

代理人は明らかにほっとしていた。

 

私は彼を見た。

 

「戻ってこないのが怖いんですか?」

 

彼は頭を下げた。

 

「猫目にはニャーサ様が必要です」

 

「猫目システムは、そのまま動いているでしょう」

 

「運行と存在意義は同じではありません」

 

その言葉は、少し意外だった。

 

「猫目の意味は、あれが与えていると思っているんですか?」

 

代理人は沈黙した。

 

それから言った。

 

「ニャーサ様がいなければ、猫目は巨大な機械にすぎません」

 

「ニャーサ様がいれば、猫目は日本の支配者です」

 

私は理解できなかった。

 

けれど、少し理解できた。

 

この二週間、私は猫目が機械のように動くのを見た。

 

精密で。

 

冷静で。

 

自動的で。

 

止められない。

 

だが、機械の方向はニャーサから来ている。

 

それが不在でも、機械は回り続ける。

 

けれど、全員がその帰還を待っていた。

 

私もだ。

 

期待ではない。

 

審判がもうすぐ終わると知っているからだ。

 

十四日目、ニャーサは戻ってきた。

 

場所は、やはり猫目本部高層会議室だった。

 

あの星空のような裂け目が再び開く。

 

ニャーサはそこから歩いて出てきた。

 

宴会帰りの疲労は、まったく見えなかった。

 

むしろ機嫌が良さそうだった。

 

「友人の計画は、とても成功したよ」

 

それは言った。

 

普通の友人の集まりについて話すように。

 

「彼はとても喜んでいた」

 

私は机のそばに立ち、答えなかった。

 

ニャーサは机上の書類を見て、それから私を見た。

 

「二週間、どうだった?」

 

私は低く言った。

 

「あなたは最初から全部安排していました」

 

「もちろん」

 

「私は何も変えられなかった」

 

「そうだね」

 

「私はただ判子を押しただけ」

 

「時には、その判子さえ必要なかった」

 

私は手を握りしめた。

 

「なら、どうして私をそこに座らせたの?」

 

ニャーサは私の前へ歩いてきた。

 

「君には、自分の目で見る必要があったから」

 

「何を?」

 

「地方がなぜ猫目を選ぶのかを」

 

私は何も言わなかった。

 

それは続けた。

 

「今なら、わかる?」

 

答えたくなかった。

 

でも答えは、すでに私の中にあった。

 

わかった。

 

猫目は金を与える。

 

物資を与える。

 

速度を与える。

 

安全を与える。

 

舞台を与える。

 

保険を与える。

 

理賠を与える。

 

システムを与える。

 

人々が今いちばん必要としているものを与える。

 

そしてそれらを、退出できない支配へ変える。

 

私は低く言った。

 

「あなたは、恐怖だけを使っているわけじゃない」

 

「もちろん」

 

「あなたは、助けを使っている」

 

「助けはとても使いやすい」

 

ニャーサは笑った。

 

「恐怖は人を頭を下げさせるだけだ」

 

「助けは、人を自分から中へ歩かせる」

 

その言葉に、吐き気がした。

 

「あなたは高校生も、普通の店主も、負傷術師も、自分の支配構造の一部にしている」

 

「彼らも利益を得ている」

 

「だからといって、あなたが彼らを制御していないことにはならない」

 

「もちろん」

 

それは恐ろしいほど率直だった。

 

「利益と制御は矛盾しない」

 

私はそれを見た。

 

「東京と京都も、そうなるの?」

 

「なる」

 

「私は止められない?」

 

「今の君には、止められない」

 

それはとても軽く言った。

 

けれど、それは最後の釘のようだった。

 

「私が二週間地球にいなくても、君は止められなかった」

 

「それこそが、私が君に知ってほしかったことだ」

 

私はうつむいた。

 

心には怒りがなかった。

 

怒りは、二週間の書類で鈍く削られていた。

 

残ったのは沈み込む感覚だけだった。

 

深く沈む感覚。

 

ニャーサは言った。

 

「帰りなさい」

 

私は顔を上げた。

 

「え?」

 

「A大学へ」

 

それは人を解放するように言った。

 

「君はもう十分見た」

 

「これから君がそれをどう理解するかは、君の問題だ」

 

それは机へ戻った。

 

代理人はすぐにシステム権限を受け取った。

 

猫目臨時代表状態解除。

 

私の二週間の首領身分は終わった。

 

儀式はない。

 

引き継ぎもない。

 

システムにはただ一行が表示された。

 

臨時権限は終了しました。

 

私は何も失っていない。

 

最初から、本当には何も持っていなかったからだ。

 

特調室の人が、私を東京市街へ送った。

 

道中、私は一言も話さなかった。

 

眼鏡の女性が隣に座っていた。

 

彼女はあまり尋ねなかった。

 

ただ、水のボトルを一本渡してくれた。

 

私は受け取った。

 

「ありがとうございます」

 

彼女は軽く尋ねた。

 

「何を見ましたか?」

 

私は窓の外を見た。

 

東京の建物が、一つまた一つと過ぎていく。

 

ここはまだ、猫目に完全には食べられていない。

 

少なくとも、核心はまだだ。

 

けれど私はもう、猫目がどうやって食べるのかを知っている。

 

最初に心臓を噛むのではない。

 

先に水、電気、保険、活動、倉庫、舞台、理賠、便利、そして感謝を運んでくる。

 

私は低く言った。

 

「檻がどうやって生活になるのかを見ました」

 

眼鏡の女性は何も言わなかった。

 

私は続けた。

 

「地方は、恐怖だけで支配されたわけではありません」

 

「多くの場合、猫目は本当に彼らを助けました」

 

「そして彼らは、離れられなくなりました」

 

彼女の指が、ゆっくり強張った。

 

「大丈夫ですか?」

 

大丈夫だと言いたかった。

 

けれど、言えなかった。

 

最後に言ったのは、

 

「あまり大丈夫ではありません」

 

だった。

 

彼女はうなずいた。

 

「学校へ戻ったら、まず休んでください」

 

「明日、授業があります」

 

「休んでもいいんですよ」

 

私は首を横に振った。

 

「授業へ行きたいです」

 

彼女は私を見た。

 

私は言った。

 

「行かなかったら、ずっとあの書類のことを考えてしまうから」

 

彼女はもう説得しなかった。

 

A大学に戻ったころには、もう夕方だった。

 

キャンパスでは学生たちが授業を終えていた。

 

食堂へ向かう人がいる。

 

中央広場で話している人がいる。

 

研究会の掲示板には、文化祭展示後のフィードバックまとめが貼られている。

 

AfterToneのグループでは、陽菜が週末に練習を再開するかと聞いていた。

 

澪が送っていた。

 

飯。

 

日和が聞いてきた。

 

戻った?

 

私は校門の前に立ち、それらの普通のものを見ていた。

 

急に、それらが自分からとても遠くにあるように感じた。

 

この二週間、私は猫目の位置に座り、地方がどう動いているのかをあまりにも多く見た。

 

今、A大学へ戻ると、心に薄い灰が積もっているようだった。

 

私は日和へ返した。

 

戻った。

 

彼女はすぐに返した。

 

先にご飯。

 

その言葉を見て、目の奥が少し熱くなった。

 

そうだ。

 

先にご飯。

 

たとえ地方がすでに猫目に制御されていても。

 

たとえ東京と京都も、ゆっくり陥落していくかもしれなくても。

 

たとえ私が二週間、ゴム印だったとしても。

 

たとえ何もできなかったとしても。

 

それでも、まずご飯だ。

 

私は食堂へ向かった。

 

その途中で、ソレンセンが黒海の中で口を開いた。

 

「見たか?」

 

「うん」

 

「絶望したか?」

 

「少し」

 

「あの猫は、お前を絶望させたいんだ」

 

「知ってる」

 

「では、絶望したのか?」

 

私は長いあいだ沈黙した。

 

「完全には」

 

ソレンセンは低く笑った。

 

「なぜだ?」

 

私は食堂の明かりを見た。

 

「ようやく、あの檻がどう編まれているのかを知ったから」

 

「檻の編み方を知ったからといって、壊せるとは限らない」

 

「うん」

 

「だが知らなければ、永遠に壊せない」

 

黒海が少し静かになった。

 

それからソレンセンが言った。

 

「少しは役に立ったな」

 

私は答えなかった。

 

食堂へ入り、普通の定食を一つ買った。

 

座る。

 

箸を取る。

 

一口目を食べたとき、自分が本当に空腹だったことに気づいた。

 

二週間の猫目臨時首領身分は終わった。

 

私は何も変えられなかった。

 

持ち帰ったのは、一つの重い理解だけだった。

 

地方はなぜ支配されたのか。

 

猫目はなぜ取り除きにくいのか。

 

東京と京都もなぜ危険なのか。

 

そして、なぜ私は黒弦で全部を切断することだけを考えてはいけないのか。

 

ある檻は、鉄でできているわけではないからだ。

 

助け、便利さ、感謝、保険、舞台、倉庫、理賠、そして無数の「今この時点で最も合理的な選択」で編まれている。

 

黒弦は、多くのものを切れる。

 

けれど、誰かがすでに依存している生活までは切れない。

 

私はうつむいてご飯を食べた。

 

気分は沈んでいた。

 

けれど、私はまだ東京にいる。

 

まだA大学にいる。

 

まだ、完全には絶望していない。

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