俺の頭の中に敗北した暗黒の王が住み着いているが、俺はただギターを弾きたいだけだ 作:arctichare
第98章 小さなアパートへの夜襲、そして黒弦はなお多くのものを切断できる
大学三年後期の東京は、表面上、以前よりも平静だった。
猫目はすぐには東京核心へ攻め込んでこなかった。
京都内層も、まだ噛み破られていなかった。
フランス、スイス、オーストリア、ノルウェーの撤離方案は、特調室の最高級ファイルに封印されていた。
A大学ではいつも通り授業がある。
AfterToneもいつも通り練習している。
互助会もいつも通り会議を開いている。
普通の人たちはいつも通り電車に詰め込まれ、予算を書き、サプライヤーを調べ、非猫目プロセスが面倒すぎると文句を言っている。
この平静は、人を疲れさせた。
なぜなら全員が知っていたからだ。
それは安全ではない。
猫がまだ飛び込んできていない、その一秒にすぎない。
そしてその夜、猫目はついに爪を伸ばしてきた。
ニャーサ本人が来たわけではない。
勧降書でもない。
資金プロジェクトでもない。
文化安全プラットフォームでもない。
大量の精鋭術師による、私の住処への直接突撃だった。
その夜、私はA大学から帰ってきたばかりだった。
授業の内容は「文化空間と公共信頼」。
先生は一つの概念について話していた。
信頼は一度で築かれるものではなく、反復される予測可能な相互作用の中で形成される。
私はそれを役に立つと思い、ノートに書き留めた。
それからコンビニで夕食を買った。
小さなアパートへ戻る。
手を洗う。
ご飯を温める。
AfterToneのグループメッセージを見る。
陽菜は、週末に新しいメロディを試したいと言っていた。
澪は、おにぎりの絵文字を送っていた。
日和は、最近手首に違和感がないかと聞いてきた。
私は返信した。
大丈夫。最近は状態も悪くない。
その一文を送った直後、黒海の深部でソレンセンが突然静かになった。
私は顔を上げた。
部屋の中に音はなかった。
冷蔵庫はまだ動いている。
電気はまだついている。
窓の外からは車の音が聞こえる。
すべてが正常だった。
けれどソレンセンは言った。
「誰かが来た」
私の指が止まった。
「猫目?」
「術師だ」
その声は冷たかった。
「多い」
私はすぐにスマホを置き、立ち上がった。
ほとんど同時に、特調室から渡されていた緊急信号器が震えた。
眼鏡の女性の声が、暗号化イヤホンから聞こえてくる。
白川さん、あなたの住処周辺で異常人員の集結を確認しました。部屋から出ないでください。支援が向かっています。
私は低く尋ねた。
「何人ですか?」
彼女は一瞬止まった。
初期判断では、少なくとも三十名以上。全員、高度に訓練された術師です。
三十名以上。
しかも精鋭。
私は玄関を見た。
廊下の外は、とても静かだった。
アパートとは思えないほど静かだった。
この建物は普段、必ず何かしら音がする。
隣のドアが開く音。
上の階の足音。
配達員の呼び鈴。
洗濯機。
テレビの音。
けれど今、すべての音が誰かに消されたようだった。
猫目はすでに建物を封鎖していた。
普通の襲撃ではない。
精密行動だ。
特調室は続けた。
一般住民は静かに避難中です。能動的に出撃しないでください。
私は尋ねた。
「私が標的ですか?」
はい。
「私を捕まえるつもりですか?」
奪取、逼迫、試探、あるいはあなたに高リスク力量を使わせる誘導の可能性があります。
その言葉の意味はわかった。
ニャーサは来ていない。
大量の精鋭術師を送ってきた。
目的は必ずしも、私を倒すことではない。
東京防線の反応を試すためかもしれない。
特調室の対応を試すためかもしれない。
フランス方案が起動するかどうかを試すためかもしれない。
住処を襲われたとき、私が混乱するかどうかを試すためかもしれない。
そしてもっと危険なのは、私が普通の人を守るため、自分の家を守るため、東京を守るために、扉を開けるかどうかを試すことだった。
ソレンセンが低く言った。
「愚かになるな」
「わかってる」
「冷化するな」
「わかってる」
「扉を開けるな」
「わかってる」
私は深く息を吸った。
そして、机の上の夕食を見た。
まだ食べていない。
それが突然、少し腹立たしくなった。
恐怖ではない。
怒りだった。
猫目は本当に時間の選び方が悪い。
私はご飯を買ったばかりだった。
帰ってきたばかりだった。
普通の夜を過ごそうとしていたばかりだった。
彼らは、その普通にさえ手を伸ばしてくる。
私はスマホと信号器をポケットへ入れ、普通のピックを手に取った。
黒弦はすぐには展開しなかった。
まず部屋を確認する。
窓。
扉。
ベランダ。
通気口。
天井。
排水管。
私はもう、大学一年のころの、ただ慌てるだけの私ではない。
訓練された。
失敗した。
撤退した。
そして、まず環境を確認することを覚えた。
眼鏡の女性が言った。
支援は三分後に外層へ到達予定です。
私は扉を見た。
「三分は長すぎます」
次の瞬間、廊下の灯りが消えた。
第一波は、扉から入ってきたのではなかった。
彼らは壁から入ってきた。
厳密に言えば、何らかの空間折り畳み式結界を通じて、廊下と私の部屋の外壁のあいだの距離を圧縮し、側面から切り込もうとしたのだ。
かなり高度だった。
地方の低級猫目術師ではない。
猫目が本当に訓練した精鋭術師だった。
三つの影が、同時に部屋の三か所へ現れた。
左側の壁面。
キッチン入口。
ベランダ扉のそば。
彼らは何も言わなかった。
私の名前も呼ばなかった。
脅しもしなかった。
動きは非常に速い。
一人が私の手を封じる。
一人が部屋の結界を圧制する。
一人が捕縛網のようなものを展開する。
目的は明確だった。
先に黒弦を展開させない。
その後、私をアパートから引きずり出す。
もしずっと以前の私なら、本当に半拍遅れていたかもしれない。
でも今は違う。
黒弦が地面から無音で立ち上がった。
大範囲の爆発ではない。
冷化状態でもない。
高出力でもない。
ただ精密だった。
一本目の黒弦が、捕縛網の術式ノードを切断する。
二本目がキッチンの影を貫き、圧制結界の閉合点を直接切り開く。
三本目が私の足元から跳ね上がり、最も近くにいた術師の手首に絡みつく。
切断ではない。
固定だ。
彼の動きが強張った。
私は半歩後ろへ下がり、指先でピックを回した。
黒弦が彼の肩線に沿って滑り、身に付けていた三か所の補助符を切断する。
彼の全身が、電源を抜かれたように膝をついた。
残りの二人は即座に後退した。
とても専門的だった。
彼らは慌てない。
無理に突っ込んでもこない。
けれど黒弦のほうが速かった。
私は冷化状態には入っていない。
だから私はなお顧慮する。
殺さない。
急所を避ける。
それでも、それは私が遅いという意味ではない。
黒弦は、とても穏やかに人を制圧できる。
同時に、とても冷静に術式を切断することもできる。
私はもう、「傷つけない」と「有効」の二択しかないわけではない。
この数年、ずっとそれを学んできた。
二人目の術師は身体を霧化し、壁面の折り畳み層へ逃げ込もうとした。
私は折り畳み層と廊下の接続を直接切断した。
彼は半歩の位置で引っかかり、部屋へ弾き戻された。
三人目の術師は黒い短釘を投げた。
短釘には高密度麻痺術式が乗っていた。
私はそれを見た。
猫目のあの未知の電流攻撃を模倣しようとしているのも見えた。
けれどそれはニャーサではない。
ただの模倣だ。
黒弦が空中で軽く一点を打つ。
短釘は三つに砕けた。
そして私は四本目の黒弦で、彼と破片をまとめて地面へ押さえつけた。
第一波終了。
所要時間、七秒未満。
イヤホンの中で、眼鏡の女性の声が急になった。
白川さん、状況は?
「第一波を制圧。三名。死亡なし」
彼女は一瞬沈黙した。
それから言った。
追撃しないでください。
「三人だけのはずがありません」
はい。第二波が上階へ向かっています。
私は扉を見た。
扉の外から、かすかな足音が聞こえた。
一人ではない。
多い。
猫目の今回の襲撃は、普通の突撃ではなかった。
彼らは私の小さなアパートを、微型要塞として攻めている。
私が軽々しく出力を上げないことを知っている。
扉を開けないことを知っている。
住処の空間が狭く、大範囲の黒弦展開に向かないことを知っている。
私が一般住民を気にすることを知っている。
だから先に環境を疎開させ、それから多数で分割侵入し、高密度術式で私の反応空間を圧縮しようとしている。
賢い。
けれど彼らは、一つだけ計算に入れていなかった。
ここは私の部屋だ。
私は彼らより、この場所の一寸一寸を知っている。
机の高さ。
床の隙間。
カーテンの位置。
冷蔵庫の音。
部屋の隅の影。
本棚と扉のあいだの距離。
ギターが壁にもたれている角度。
そうした小さなものは、他人の目には意味がない。
けれど黒弦の目には、すべて線だった。
第二波は、直接扉を破った。
扉は爆発しなかった。
極めて精密に鍵芯を外され、無音で開いた。
六名の術師が同時に入ってきた。
二人は低位。
二人は中位。
二人は高位。
手に明確な武器はない。
けれど袖口、靴底、耳の後ろ、腰のあたりに、すべて術具が隠されていた。
私は彼らが完全に展開するのを待たなかった。
黒弦が扉枠から落ちる。
逆さに吊られた黒い網のように。
彼らは即座に散開した。
そのうちの一人が叫んだ。
「彼女に扉線を取らせるな!」
とても専門的だった。
小部屋の防衛において、扉線が重要であることを知っている。
けれど彼らがそう叫んだ瞬間、扉線はすでに重要ではなくなっていた。
私は廊下と部屋のあいだにある三か所の術式補助点を切断した。
彼らは本来、外部部隊を使って室内の六人を支援するつもりだった。
今、その接続は断たれた。
六人は孤立した。
私は突撃しなかった。
ただ机のそばまで後退した。
右手のピックが軽く動く。
黒弦が地面から家具の影に沿って滑った。
一本は足元の平衡を切る。
一本は手元の術式を切る。
一本は袖口の符線を切る。
一本は通信を切る。
一本は彼らの背後を回り、退路を封じる。
彼らの連携は極めて良かった。
ほとんど同時に立ち位置を変えた。
けれど、連携が良いほど線がある。
連携そのものも線だ。
私が切ったのは、彼ら同士の連携だった。
十秒後、一人目が術式を失った。
十二秒後、二人目の膝側が縛られ、倒れた。
十五秒後、三人目が窓を強行突破しようとして、黒弦に地面へ押し戻された。
二十秒後、六人全員が行動能力を失った。
やはり死亡はない。
重傷すらない。
ただ術式を切断され、身体を制圧され、意識ははっきりしているのに、戦闘を続けられない。
彼らは私を見た。
その目に、ようやく恐怖が浮かんだ。
私がより冷たくなったからではない。
冷たくならなくても、私がそこまでできるからだ。
この数年、多くの人はずっと私がニャーサに負けたことを覚えていた。
黒弦が猫目核心に勝てなかったことを覚えていた。
私が扉を開けてはいけないことを覚えていた。
冷化してはいけないことを覚えていた。
私が答えではないことを覚えていた。
それらはすべて事実だ。
けれど、彼らはときどき一つのことを忘れる。
ニャーサに勝てないからといって、この世界の術師に勝てないわけではない。
あの猫に負けたからといって、黒弦の意味がなくなったわけではない。
ニャーサは異常だ。
基準ではない。
猫目の精鋭術師は強い。
多くの旧家門の高手よりも現代的で、専門的で、チーム戦に長けている。
でも、彼らはニャーサではない。
小さなアパートの中で彼らが向き合っていたのは、失敗で何度も磨かれ、自分が乱れてはいけないことを知り、ようやく最小限の力で戦闘を処理することを覚えた私だった。
私はもう、以前のように慌てたらすぐ範囲を広げるわけではない。
冷化状態のように、他人を経路として扱うわけでもない。
私は自分のままでいられる。
そして、勝てる。
そのことに、あの夜、私は初めて本当に気づいた。
第三波はさらに危険だった。
彼らは屋上とベランダから同時に入ってきた。
人数は少なくとも十人。
それに、一名の指揮術師。
彼らはもう、私を生け捕りにしようとしているようには見えなかった。
少なくとも表面上は。
彼らは部屋の外の空間圧縮術式を使い、階全体を巨大な捕捉陣へ変え始めた。
陣眼は私の部屋にはない。
階段室にある。
とても賢い。
もし陣眼が私の部屋にあれば、私は一目で切れる。
階段室に置かれれば、もっと遠くの線を感知しなければならない。
しかも階段室には、一般住民が避難した後の気配がまだ残っている。
乱暴には切れない。
イヤホンから特調室の緊急通報が入る。
外層支援が阻止を受けています。猫目術師の数は予測を超えています。白川さん、撤離準備を。
私は尋ねた。
「一般住民は避難完了しましたか?」
当該階は完了。下二階はまだ避難中です。
乱暴には戦えない。
大範囲の黒弦は使えない。
建物の耐力構造を切ってはいけない。
陣法の反噬を下階へ及ぼしてはいけない。
猫目は、それを計算している。
ソレンセンが冷たく言った。
「奴らは、お前の仁慈を壁にしている」
「知ってる」
「吾を……」
「駄目」
私はすぐに拒否した。
冷化しない。
扉を開けない。
出力を上げない。
今回は、私自身のやり方でやる。
私は目を閉じた。
聞く。
耳で聞く音ではない。
線を聞く。
水道管の流れ。
廊下封鎖符の細かな震え。
窓の外の風が結界に刻まれる縁。
階段室の陣眼の呼吸リズム。
猫目術師たちの足元で同期して動く歩点。
ふいに、音声メディア研究で学んだ一文を思い出した。
空間は沈黙しているのではない。常に鳴っている。
そうだ。
建物全体が鳴っている。
そして黒弦は、音の背後にある関係を切れる。
私は目を開けた。
黒弦は敵へ向かわなかった。
部屋の隅、窓枠、壁面の影、ドアノブ、床の隙間へ伸びていった。
猫目術師たちは、私が防御に回ると思ったのだろう。
すぐに圧力を強めてきた。
私は彼らを防がなかった。
私が切ったのは、陣だった。
一本目の黒弦が、階段室の陣眼と廊下灯線の偽装接続を切断する。
二本目が水道管反射ノードを切断する。
三本目がベランダ外部の懸挂符と屋上指揮術師の回路を切断する。
四本目が扉枠に沿って外へ滑り、廊下の角で軽く弾いた。
捕捉陣全体が突然ずれた。
爆発ではない。
崩壊でもない。
「方向感」が逆になった。
猫目術師たちは本来、私の部屋へ圧縮をかけるつもりだった。
今、陣法は中心を誤認した。
圧縮方向は、空の廊下へ偏った。
第三波術師の連携が、一瞬乱れた。
私が待っていたのは、その一瞬だった。
黒弦が部屋の中から同時に展開する。
殺傷ではない。
分割だ。
十名の術師は五組へ分けられた。
各組二人ずつ。
彼らは全体指揮を失った。
屋上の指揮術師は、強引に陣法を修正しようとした。
私は彼の指揮符を切断した。
彼はすぐに予備符へ切り替えた。
私はすでに予備の線を見ていた。
さらに切る。
彼は三つ目へ替える。
私はまた切る。
連続七回。
毎回、切るのは一点だけ。
彼はついに、一拍遅れた。
その一拍で、特調室の外層支援は第一道の阻止を突破した。
眼鏡の女性の声が入る。
こちらは進入しました。圧制を継続してください。支援は一分十秒以内に到達します。
私は分割された猫目術師たちを見た。
「一分十秒もいりません」
三十秒後、第三波は制圧された。
屋上の指揮術師は負傷していない。
ただ黒弦にすべての術式インターフェースを切断され、見えない糸で階段室の壁に縫い止められたようになっていた。
彼は私を見て、初めて口を開いた。
「報告より強い」
私は息を一つ吐いた。
「報告に書かれているのはニャーサです」
彼は沈黙した。
私は続けた。
「あなたたちは、それではありません」
その言葉を口にしたとき、私自身も少し驚いた。
嘲笑ではない。
事実だった。
私はニャーサには勝てない。
でも彼らはニャーサではない。
私の失敗を、猫目に無限に私を低く見積もる材料にさせてはいけない。
同時に、東京に無限に私を高く祭り上げる材料にさせてもいけない。
私はただ私だ。
できることがある。
できないこともある。
それはとても重要だった。
最後の一波は、猫目の本当の後手だった。
人ではない。
地下配管に封じ込められていた小型術式核心だった。
それは私を捕まえるためのものではない。
私に「出力を拡大せざるを得ない」局面を作るためのものだ。
前の波が失敗した場合、術式核心が起動し、汚染霧に似たものを放出して、建物の残存区域を脅かす。
致命的ではない。
けれど一般住民を短時間で精神混乱と身体麻痺に陥らせる。
もし私が即座に止めたいなら、最も簡単なのは黒弦の範囲を拡大し、建物全体の異常流動を直接切断することだった。
でもそれでは建物本体を傷つけるかもしれないし、安全出力の制御境界を越えるかもしれない。
猫目は、私に選択を迫ろうとしていた。
出力を守れば、普通の人が傷つくかもしれない。
力を拡大すれば、扉に触れるかもしれない。
これこそが、彼らの本当の目的だった。
特調室が核心を発見したときには、すでに半歩遅かった。
眼鏡の女性が通信で言った。
白川さん、出力を拡大しないでください! こちらで処理します!
けれど核心はもう起動していた。
その霧が配管に沿って広がり始めているのが、私には感じられた。
下二階には、まだ完全に避難できていない住民がいる。
ソレンセンが黒海の中で低く言った。
「来たな」
「うん」
「奴らは、お前が何を選ぶか見たいのだ」
「知ってる」
「どう選ぶ?」
私は答えなかった。
もう動き始めていたからだ。
黒弦は建物全体へ拡大しなかった。
むしろ細くなる。
極細に。
音声研究で見た波形線のように。
私は霧を切らない。
建物全体も切らない。
配管も切らない。
切るのは、術式核心と「拡散命令」のあいだの関係だ。
これは、核心を直接破壊するより難しい。
核心は深く隠されているし、命令線は細いからだ。
でもそれもやはり線だった。
線である限り、切れる。
私は床に膝をつき、指を床へ押し当てた。
黒弦が床下の隙間へ潜っていく。
一寸。
二寸。
電線を避ける。
水道管を避ける。
一般人の気配の残留を避ける。
建物構造を避ける。
そして、あの小さな術式核心を見つける。
それは、猫の目のようだった。
闇の中で光っている。
私は躊躇しなかった。
一線、切り下ろす。
拡散命令が断たれた。
汚染霧が止まる。
特調室の支援がその直後に到着し、すぐに核心を封存した。
イヤホンの中で、眼鏡の女性の声が初めてはっきり緩んだ。
核心停止。一般住民に異常反応なし。白川さん、あなたはやりました。
私は床に座り込み、背中は汗でびっしょりだった。
「うん」
私は、やった。
扉を開けずに。
冷化せずに。
出力を拡大せずに。
普通の人を傷つけずに。
これはニャーサへの勝利ではない。
でも、私の勝利だった。
突撃終了後、猫目精鋭術師は合計四十二名が制圧された。
そのうち三十七名は、特調室により現場で拘束された。
五名は、事前設定された逃走機構によって離脱した。
死亡者なし。
軽傷者多数。
重傷者なし。
一般住民に死傷なし。
建物損傷は軽微。
私の夕食は、完全に冷めてしまった。
これはとても重要な損失だった。
少なくとも私にとっては重要だった。
眼鏡の女性が部屋に到着したとき、床に座っている私を見て、最初に聞いたのは戦闘のことではなかった。
「怪我はありませんか?」
私は首を横に振った。
「明らかな怪我はありません」
彼女は部屋の中に散らばった、黒弦に切断された術具の破片を見た。
そして床に倒れている猫目術師たちを見た。
「一人で彼らを制圧したのですか?」
「はい」
「危険状態には入っていませんか?」
「入っていません」
「出力を上げていませんか?」
「上げていません」
彼女は目を閉じた。
ようやく呼吸できたように。
それから言った。
「よかったです」
その二文字は、とても軽かった。
でも私の胸は、少し酸っぱくなった。
よかった。
私が多くの人を倒したからではない。
私が自分を失わなかったからだ。
その夜以降、東京防線の認識は明らかに変わった。
第一に、猫目がついに私の住処を直接攻撃した。
それは、猫目が勧降失敗後、東京核心の私的区域を試探し始めたことを意味している。
公開の攻城ではない。
精密打撃だ。
これにより、東京のすべての防護等級が引き上げられた。
A大学周辺の保護は強化された。
AfterToneと日和たちも、より高い等級の隠性保護へ組み込まれた。
特調室は私に臨時安全住居を用意した。
私はとても嫌だった。
でも、今回は拒否しなかった。
もとの小さなアパートは、すでに露出してしまったからだ。
第二に、猫目精鋭術師の実力が再評価された。
彼らは非常に強い。
組織化、現代化、術式と技術の混合、チーム連携、後手の設計、そのすべてが伝統勢力の普通術師をはるかに超えていた。
もし彼らが一般の大勢力メンバーを襲撃していたなら、結果は非常に悪かっただろう。
第三に、黒弦への評価も変わった。
過去かなり長いあいだ、人々が私について話すとき、どうしても「ニャーサに負けた」という事実を避けられなかった。
それはもちろん事実だ。
けれどこの突撃のあと、全員が改めて思い出した。
白川一音がニャーサに勝てないことは、彼女が東京最強級の防御戦力の一人ではないという意味ではない。
彼女は猫目システムを解決できない。
けれど自分の住処を襲撃されたとき、最小限の被害で四十名以上の猫目精鋭術師を制圧できる。
それは士気にとって重要だった。
特に互助会にとって。
北見遥香はその話を聞くと、最初に泣いた。
私が勝ったことが嬉しかったからではない。
彼女は言った。
「少なくとも、猫目の人間も来たいときに来て、捕まえたいときに捕まえられるわけじゃないんですね」
遠坂綾乃は言った。
「今回、彼らが負けたことは重要です」
「どうして?」
「猫目はずっと、ある感覚を作っていました」
「それはどこにでもいて、止められないのだと」
「今夜、少なくとも東京核心では、その爪は切断されるのだと証明されました」
大勢力残余の反応は、もっと複雑だった。
天城美咲はすぐに、私により安全な非猫目住居システムを提供すると申し出た。
けれど天城怜司が彼女に注意した。
「保護を制御に変えてはいけません」
彼女は沈黙したあと、特調室の統一安排に従い、天城は監督付きの技術支援だけを提供することに同意した。
御影冬子は、伝統結界による守護の増加を求めた。
御影秋人は言った。
「白川さん自身の部屋がああなったのですから、一番大切なのは、彼女にまだ住処らしい場所を持たせることです」
京都の七条は、遠隔で一言を送ってきた。
東京は、猫目精鋭術師をこれ以上低く見積もってはならない。だが、白川一音を低く見積もってもならない。
その言葉は特調室に記録された。
久我山統括官は戦後総括で言った。
「本件は、B-Black Stringが非高リスク状態においても、なお極めて高い戦術的価値を持つことを証明した」
眼鏡の女性が補足した。
「同時に、彼女をニャーサ級対抗へ強制的に押し出すべきではないことも証明しました」
「彼女は現実層の多くのものを守れます」
「それだけで、十分に重要です」
その言葉は、私にとって「最強」「希望」「最終兵器」よりもずっとよかった。
現実層の多くのもの。
それこそが、私に耐えられる評価だった。
猫目内部にも、小さな震動があった。
代理人は突撃失敗報告を見て、顔色を非常に悪くしていた。
「四十二名の精鋭術師、三十七名が捕縛」
「目標を高リスク状態へ誘導できず」
「一般人の死傷を発生させられず」
「術式核心を精密に切断された」
「東京支援システムの反応速度は予想を上回る」
彼は報告をニャーサへ渡した。
ニャーサは読み終えると、なんと笑った。
「いいね」
代理人は固まった。
「失敗しました」
「知っている」
「損失も小さくありません」
「そうだね」
「では、なぜ……」
ニャーサは窓の外を見た。
「彼女が扉を開けなかったからだ」
代理人は口を挟めなかった。
ニャーサは続けた。
「冷化もしなかった」
「出力も上げなかった」
「それでも勝った」
それは軽く尻尾を揺らした。
「つまり彼女は、扉に頼らず、より正しいことをする方法を覚え始めたということだ」
代理人は頭を下げた。
「それは我々に不利ですか?」
「もちろん不利だよ」
ニャーサの笑みはさらに深くなった。
「でも、とても面白い」
「彼女の住処を継続して狙いますか?」
「いや」
「なぜですか?」
「同じ試験を二度やってもつまらない」
それは報告を置いた。
「それに、東京は防護を強化する」
「辺縁圧力を続けろ」
「急ぐな」
代理人は理解した。
今回の突撃は、本当に私を捕まえるためだけではなかった。
少なくとも、それだけではない。
それは一つの試験だった。
東京の反応を試す。
私の状態を試す。
非高リスク状態における黒弦の成長を試す。
結果として猫目は小さくない損失を出した。
しかしニャーサは答えを得た。
私が臨時安全住居へ移った最初の夜、眠れなかった。
怖かったからではない。
部屋があまりにも見知らぬものだったからだ。
特調室は、なるべく普通のアパートに見えるよう整えてくれていた。
机がある。
冷蔵庫がある。
小さなキッチンがある。
ベッドがある。
それどころか、もとの部屋で壊れずに残った数枚の付箋まで持ってきて貼ってくれていた。
記得吃饭。
饭。
その二枚の付箋を見たとき、私は泣きそうになった。
夕食は、眼鏡の女性が人に持ってこさせた温かいお粥だった。
彼女は言った。
「もとのご飯は冷めてしまいました。もう食べないほうがいいです」
私は言った。
「少しもったいないですね」
彼女は私を見た。
私がそんなことを気にするとは思っていなかったようだった。
「次に補います」
私はうなずいた。
「はい」
AfterToneのグループでは、日和が尋ねてきた。
安全?
私は返した。
安全。住む場所を変えた。
陽菜がすぐに送ってきた。
小音が無事でよかった!
澪が送った。
新住処飯。
私はメッセージを見ながら、ゆっくり呼吸した。
今回は、ようやく「安全」だけでは終わらせなかった。
さらに一文を足した。
勝った。
グループは数秒静かになった。
それから陽菜が、泣き顔と拍手の絵文字を大量に送ってきた。
日和は返した。
よくやったね。
澪は返した。
勝利飯。
私は「よくやったね」を見て、涙が落ちた。
そうだ。
今回は、私はよくやった。
あまり多く説明する必要はない。
何人と戦ったのかを言う必要もない。
猫目の術式核心を言う必要もない。
扉を開けなかったことを言う必要もない。
ただ、こう言えばいい。
私は勝った。
夜、ソレンセンが黒海の中で口を開いた。
「今日は、まあ悪くなかった」
私は見知らぬベッドに横になっていた。
「あなた、人を褒めるのがだんだん人間っぽくなってる」
「吾を侮辱するな」
私は小さく笑った。
少しして、尋ねた。
「昔の私だったら、勝てた?」
「かなり面倒なことになっていただろう」
「今は?」
「お前はまだ猫には勝てない」
「知ってる」
「だが、猫の爪についているあの虫どもなら切れる」
私は目を閉じた。
その言い方はひどい。
でも、意味はわかった。
ニャーサは今も遠くでのしかかる影だ。
猫目システムは今も地方を支配している。
東京はいまも危険だ。
フランス、スイス、オーストリア、ノルウェーの撤離方案はいまも存在している。
けれど今夜、猫目が私の部屋へ伸ばしてきた爪は切断された。
私は武器にはならなかった。
怪物にもならなかった。
ただ、自分の住処と、建物の普通の人たちと、ほんの少しの東京核心の尊厳を守った。
これは最終勝利ではない。
でも、本当の勝利だった。
ずっと後になっても、私はあの夜に冷めてしまった夕食を覚えているだろう。
そして、床に座って、眼鏡の女性へ言ったあの言葉も。
「第一波を制圧。三名。死亡なし」
あの瞬間から、私はようやく理解した。
私はニャーサに勝たなくても、自分がまだ戦えることを証明できるのだと。