機動戦士ガンダム異聞 蘇りし幻影   作:素面ライダー

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 この作品は、かつて一年戦争において、“欠陥機”と呼ばれたとあるMSにスポットを当てた作品となっております。 
 
 …………まあ、目次ページのタグでバレバレなんですけどね。 
 
 それでは、本編スタート! 
 
 


“幻影”の残滓

 

 

 これは軍の公式記録ではなく、 

 僕自身の、個人的な手記にすぎない。 

 

 だが……僕は、この記録をあえて残そうと思う。 

 僕が、この時に見た“真実”を、 

 一人でも多くの記憶に残ることを、切に願う。 

 

 (中略) 

 

 デュバル少佐が、自らの信念と誇りに殉じ、 

 軌道上に“幻影”となって消えた直後、 

 本国から入電があった。 

 

 内容は── 

 

 《EMS-10 ヅダ》の 

 評価試験を終了すべし 

 

 また、残余の《ヅダ》については 

 《ヨーツンヘイム》の搭載機となし 

 艦の防御に運用されたし 

 

 ──事実上の不採用評価だ。 

 

 そして護衛機転用の通達は、 

 要は体の良い廃棄処分というわけだ。 

 

 ゴーストファイター…… 

 それはいつの世にも存在し、 

 人知れず消えてゆくもの。

 

 U.C.0079 11月12日 

 

 僕はこの度、技術中尉として、 

 報告する術を知らない。 

 

 はからずも遭遇してしまった、 

 この“幻”をどう評価すべきなのかを……。 

 

 (オリヴァー・マイの覚え書きより抜粋) 

 

 


 

 

 ──それから時は流れ、十五年後 

 

 U.C.0094 グラナダ貨物ターミナル 

 

 

 ゴンゴンゴンゴン…… 

 

 

「馬鹿野郎! 

 それは、アナハイムの第二開発部行きだって言ったろ!」 

 

「で…でも同じアナハイム行きなら、こっちのラインに乗せても問題無いんじゃ……」 

 

「伝票をよく見ろ! 

 『搬送先指定』って書いてあるじゃねえか! 

 間違った所持ってって、どやされる事になんのは俺なんだからな! 

 それと『取扱注意』って書いてある通り、扱いは慎重にな! 

 間違っても、乱暴に扱ってブッ壊す事の無いようにしろよ!」 

 

「は…はい!」 

 

 グラナダ宇宙港の貨物ターミナルでは、宇宙貨物船が吐き出す排熱の熱気と船体のペンキや油の匂いが漂い、作業員の怒号が飛び交っている。 

 そこではグラナダへ運ばれた貨物の荷卸、配送先別の分別、分別された貨物の車両等への積込までが慌ただしく行われていた。 

 

 そして宇宙港に停泊し、今まさにカーゴブロックから荷卸している、一隻の連絡貨客船がある。 

 塗装がところどころ剥げ落ち、酷く年季の入ったその船体側面には、ターミナルの照明の角度のせいで、かすかに『607』の数字が浮かび上がっていた。 

 

 


 

 

 グラナダ宇宙港の全域が見渡せる展望室。 

 

 そこでは、港湾作業員と思しきツナギ姿の男が二人ベンチに座り、コーヒーの紙カップ片手に休憩をしている。 

 

 

 プシュッ

 

 カッ…カッ…カッ…カッ……

 

 

 そこへがっしりとした体格の老人が、杖を突きながら展望室へと入って来ていた。 

 

 その老人は窓際までやって来ると、現在荷卸中の連絡貨客船へ昔を懐かしむような、それでいてどこか寂し気な視線を向けていた。 

 

「そういやさ……知ってるか? 

 この船、昔はジオン軍に徴用されていた事もあるらしいぜ?」 

 

「おい! 冗談でもやめろよ、そんな話……」 

 

「本当かどうかなんて知るかよ。 

 ただ、船体にそん時の所属部隊のペイントが、まだ残ってるって話だ」 

 

「うへぇ……じゃあ何か? 

 あの船、ジオンの連中の後ろ暗いヤバいブツを、何度か運んだ事あんのかよ……」 

 

「だから、本当の事なんて知らねぇよ。 

 あくまで噂だ」 

 

 老人の後ろにあるベンチで休憩している作業員たちが、ちょうどそんな話をしていた。 

 

 その話を聞いている老人は、その事に否定も肯定もせず、窓から見える連絡貨客船へ視線を向け、一人呟き始める。 

 

「……《ニヴルヘイム》よ、まだ星の海を渡っているのだな。 

 老骨に鞭打ち、本当によく頑張っている…… 

 俺の方は、もう無理のきく身体ではなくなってしまったよ。 

 一年戦争で、ルデルも《ムスペルヘイム》と共に逝ってしまったしな……」 

 

 そう言った老人の視線の先。 

 そこでは、老朽連絡貨客船から降ろされたコンテナが、ベルトコンベアで港の外まで運び出されていた。 

 

 


 

 

「うへぇ……また、アナハイム行きの『重機用部品』かよ……。 

 一体、何に使われてんのやら……」 

 

「言うなよ…… 

 他ン所じゃ、『マトモな』仕事すらねぇコロニーなんざゴロゴロしてる」 

 

「そーそー。 

 『ちゃんとした仕事がある』だけ、ウチはまだマシさ。 

 安くても、毎月給料は出て来るしな」 

 

 毎度のごとく、アナハイム第二開発部へ運ばれていく『民生品』に、作業員の一人が胡散臭い目を向ける。 

 その男がぼやくと、すぐさま同僚が言葉を返した。 

 

 彼らは船から降ろした荷物にどこかキナ臭さを感じつつも、いつものように手を動かしながら、コンベアを流れていくコンテナを見送っていた。

 

 


 

 

 ブロロロロロ……キッ! 

 

 

「どーも!『いつもの』お届け物でーす!」 

 

「いつも御苦労さまです! 

 『例のもの』は、いつもの場所へお願いします!」 

 

 アナハイムのグラナダ工廠前のゲート。 

 そこでは、隠語を思わせる言葉を交わす守衛とトレーラー運転手の姿があった。 

 

 二人は慣れた様子で言葉を交わし、守衛がゲートを開放する。 

 そして、トレーラーは奥の工場へと姿を消して行くのであった。 

 

 


 

 

「これが『例の機体』を参考に、製作されたっていうパーツか?」 

 

「ああ。 

 今年の6月に連邦側から『譲渡』された高性能機を解析して、作られたのがこれだ、ワシヤ大尉」 

 

「『譲渡』じゃなくて『強奪』な? 

 表向きはそういう事になってるだろ、マイ技術少佐?」 

 

「そうだったな。 

 まあ機体やパーツが手に入るなら、どちらでも構わないだろ?」 

 

「…………本っ当、お前ここ十数年で図太くなったんじゃないか? 

 一年戦争の頃は、折り目正しいヤツだったのになぁ……」 

 

 アナハイム第二開発部の資材置き場。 

 

 ここに運ばれてきたばかりの『重機用部品』を前に、ジオンの軍服姿の二人の男が話し合っていた。 

 

 一人は東洋系の黒髪の男、ヒデト・ワシヤ大尉。 

 もう一人は金髪を後ろへ撫でつけたドイツ系の男、オリヴァー・マイ技術少佐だ。 

 

 年齢は二人とも四十路前といったところだろう。 

 

「なんにせよ、これで開発中の機体の空中分解事故の危険性が大幅に下がる。 

 有難いことじゃないか?」 

 

「そりゃあ、その通りだが……」 

 

「それとも、リスクが残ると承知でテストするか? 

 パイロットをやるのは、お前なんだぞ?」 

 

「うっ……わ…わかったよ。 

 リスクが減ることは、確かに有難いからな。 

 デュバル少佐の二の舞はごめんだし……」  

 

 マイの言葉に、ワシヤは渋々ながら肯定する。 

 

「とはいえだ…… 

 これを試作機に組み込んで、終わりって訳じゃない。 

 ただでさえ繊細なバランスで成り立っている機体に組み込む訳だから、マッチングとバランス調整に相当な時間がかかる。 

 そのため、実機に搭乗してのテストは当分先だ。

 その間、みっちりシミュレーション訓練に費やしてもらうぞ?」 

 

「いや、俺は欠陥機と呼ばれてた頃から、あの《ヅダ》に乗ってたからな。 

 その分、試作機の操縦にも、ずいぶん慣れ親しんで……」 

 

「いや……シミュレーション訓練するのは、連邦から『譲渡』された『例の機体』だ」 

 

「…………マジで?」 

 

「ああ、マジだ。 

 『例の機体』は、そもそも人間が搭乗して操縦することを想定していない機体だからな。 

 その分、スラスター推力を含め機体のピーキーさは折り紙付きだぞ? 

 試作機の操縦を想定しての訓練には、うってつけじゃないか?」 

 

「鬼かよッ!?」 

 

 マイの容赦無い一言に、思わずワシヤは叫び返したのだった。 

 

 


 

 

 それからマイは新規パーツの試作機への組み込みを終えると、機体のバランス調整と、高機動戦闘における機体制御プログラムのすり合わせに追われることになった。 

 

 さらには試作機のエンジンへの、開発中の量産型可変機のリミッターの組み込み作業なども加わり、彼は一年近くに渡って忙殺されることとなった。 

 

 その間、ワシヤはマイの言いつけ通り、『例の機体』のシミュレーション訓練を繰り返していた。 

 

 


 

 

 プシュー………ガコンッ! 

 

 

「くっ…………」 

 

 

 フラフラ……ドサッ! 

 

 

「っはぁ!……ぜぇ……ぜぇ……クソッ!」 

 

 ここはアナハイム第二開発部内にある、MSシミュレータールーム。 

 

 そこでは、シミュレーターから出てきたワシヤが汗まみれで大の字に通路へ倒れ込み、荒く息を吐いていた。 

 

「何なんだよ、あのバケモノじみた挙動は!?

 あんなMS(暴れ馬)、マトモに乗りこなせる人間なんているのかよ!」 

 

 シミュレーターから出てきたワシヤは、倒れた姿勢で天井を見上げながら、息も絶え絶えに毒づいていた。 

 

 もっとも本人は気付いていないが、訓練開始から三ヶ月経った現在では相当進歩している。 

 

 最初の一ヶ月は、5分と経たない内に意識がブラックアウトしていたが、現在は訓練終了まで意識を保っていられるのだから、十分進歩したと言っていい。 

 

 本人にとっては、何の慰めにもならないが……。 

 

 そこへ、シミュレータールームの奥まった場所にある休憩スペースに居る、スタッフ二人の噂話がワシヤの耳に入る。 

 

「おい、聞いたか? 

 例の『袖付き』の実質的な首魁……」 

 

「ああ……『赤い彗星の再来』だろ? 

 例の強奪したMSを、慣熟無しで涼しい顔して乗りこなしてるって言う……」 

 

 

 ピクッ

 

 

「そうそれ! 

 例のクラップ級二隻を沈めた時だけどよ、あの時奪ったばかりのその機体で、護衛MS隊をあっという間に全滅させたらしいんだよ。 

 そのまま、艦もあっさり沈めちまったそうだ……」 

 

「おいおい…… 

 さすがに眉唾だろ? そんな話……」 

 

 それ以降の会話は、ワシヤの耳に入っていなかった。 

 その彼の脳裏には、ルウム戦役での屈辱の記憶が蘇ってくる。 

 

 当時、603技術試験隊へ送られた試作艦隊決戦砲《ヨルムンガンド》 

 

 その射程と破壊力を最大限に活かすため、前線の艦隊と連携の上、そこから観測データが送られるはずが、一向にその気配が無い。 

 

 業を煮やしたマイが、ワシヤをパイロットとして駆り出し、自らも観測手として観測機に同乗して強行出撃。 

 自らデータを送信するため、戦場へ急行していた矢先に、後方からの接近警報が鳴る。 

 

 直後に複数のMS-06(ザクII)が、後方からフライパス。そして、それらが連邦艦隊へ順次攻撃を始めていった。 

 

 呆気にとられる二人の前に、さらに一機の赤いザクIIが現れ発光信号を送る。 

 

 それは『質問や返信を受け付けない』という意思表示が込められた、一方的かつ屈辱に塗れた通達。 

 

 

 コノ場ヲ譲ラレタシ 

 

 MSノ投入ハ 

 

 正規ノ作戦計画ニ則ッタ行動デアル  

 

 シャア・アズナブル中尉 

 

 

 その機体は一方的にそれだけを告げると、自らも戦場へと飛んで行く。 

 

 遠くでMSが次々と連邦艦隊を沈めていく中、ワシヤたちは何をすることもできず、戦況を見守ることしかできなかった。 

 

 海戦前には『艦隊決戦ノ如何ハ、偏ニ貴艦ト新兵器ノ健闘ニアリ』などと持ち上げておきながら、実際にはMS(本命)の存在を隠すためのブラフで、初めから戦力として勘定していなかったのだ。 

 

 あの時は《ヨルムンガンド》の砲手を務めていたアレキサンドロ・ヘンメ大尉が、その命と引き換えにベテラン砲術士として最後の意地を見せた。 

 

 だが艦隊決戦そのものに何ら寄与できた訳では無く、ワシヤたちは自分たちが相手にすらされなかった事実に対し、屈辱に震えるしかなかった。 

 

「…………ふざけんなよ」 

 

 当時の屈辱を思い出し、震える身体を手すりで支えながら、ワシヤはそう言って立ち上がった。 

 

「……あの時、蚊帳の外に置かれた屈辱を、また繰り返してたまるか!」 

 

 そう吐き捨てたワシヤは、再びシミュレーターへと入って行く。 

 

『おいおい……あんた、まだやる気かよ?』 

 

 オペレーターの呆れた声を尻目に、ワシヤは再びシミュレーター訓練を再開した。 

 

 


 

 

 そして時は流れ…… 

 

 UC.0095 11月9日 

 

 アナハイム グラナダ支社 第二MS開発部 

 

 そこの会議室の一つに、今回のプロジェクトの主要スタッフが集合していた。 

 その中には、マイとワシヤの姿もある。 

 

「それでは…… 

 今回テストする機体について、もう一度説明させていただきます」 

 

 

 フッ…………ヴンッ!

 

 

 マイはそう言って室内の照明を落とし、同時にプロジェクターを作動させる。 

 そしてスクリーンに一機のMSの外観と、その内部構造が映し出された。 

 

 

 《EMS-10 ヅダ》 

 

 

 これがスクリーンに出てきた機体名だ。 

 

「この場に居る方には、ご存知の方も多いでしょうが、この機体は一年戦争の最中、かつてジオン公国政府から『欠陥機』の烙印を押され、制式採用には至らなかった機体です」 

 

 若干の苦味を噛み締めながら、マイは説明を続ける。 

 

「ですが、その高機動を評価していた者も少数ながら存在しており、僅かながら一年戦争中に生産された機体もありました。 

 その機体は《EMS-10F ヅダF》と呼ばれ、エンジンそのものは手を加えてないものの、リミッターを下方修正され、一部《YMS-15 ギャン》のパーツを使用して機体強度が確保されたものです。 

 それらは、一年戦争末期から戦後しばらくの間、実戦運用されたという記録が若干ながら残されています」 

 

 そのままスクリーンの映像を切り替え、マイはさらに説明を続けた。 

 

「ですが、今回テストを行うのは、一年戦争中に少数生産されたそれらの機体ではなく、現在の最新技術を用いて昨年から新規に製造を開始した機体です」 

 

 スクリーンに新たに映し出されたのは、外観こそ変わりないものの、内部構造が大幅に変更された機体であった。 

 

「型式番号こそ《EMS-10》のままでありますが、見ての通りこの機体は中身が全くの別物と言ってもいい機体です。 

 まずは現在のMSの標準となっているムーバブルフレームを採用、さらに関節部は連邦から譲……もとい、強奪した機体を解析し、製作したパーツで構成されています」 

 

 その言葉と同時に、関節部とその周囲の内部構造がスクリーンに映し出された。 

 

「特に、この関節周囲の構造は、連邦のガンダムタイプに採用されているもので、関節部にかかる負荷を吸収・軽減するシリンダー型ダンパーを使用しております。 

 これは、一年戦争中期から現在に至るまで、様々なガンダムタイプが実戦での実績を積み重ねてきた代物で、信頼性はかなり高いと言えます」 

 

 そして画面は、機体のジェネレーター部分をズームアップする。 

 

「機体出力は最大2870kW。 

 原型機の出力である1150kWの倍以上の出力となります。 

 これは最近《袖付き》へ納入された新型量産機のものをベースに、さらに高出力化したものです。 

 この高出力化は、同組織の腕利きがチューンナップにより、機体出力を向上させたものを参考にしています」 

 

 今度は背面スラスターをズームアップ、マイがポインターを使い解説する。 

 

「そして、この機体最大の特長であるスラスター推力ですが、原型機の58700kgの倍近い108600kgに及びます。 

 これは先ほど述べた、新型量産機のカタログスペックである74520kgを遥かに凌駕します」 

 

 

 どよっ!

 

 ざわ……ざわ…… 

 

 

 会議室の一部からどよめきが起こるが、マイは構わず説明を続ける。

 

「しかも機体重量が原型機の61tに比べ、装甲材に最新のチタン合金セラミック複合材を、その他の部分も強固かつ軽量な素材を多数採用することで32tまで軽量化。 

 新型量産機の重量である22.3tよりやや重いものの、パワーウェイトレシオも向上しております。 

 つまり、本機は同クラスの新型量産機と比べても、一段階上の加速性能を持つ計算になります」  

 

「説明の途中だが、質問しても良いかね?」 

 

「…………説明後に受け付けるつもりでしたが……いいでしょう」 

 

 室内に居た、アナハイムの高級幹部と思しきスーツの中年男が、説明の途中で手を上げる。 

 

 マイも、その男が何処に懸念を抱いているのかを察して、質問を許可した。 

 

「連邦から強奪した『例の機体』には若干劣るとはいえ、機体の推力をそこまで高出力化しても大丈夫なのかね? 

 一年戦争当時の推力でも、強度面で機体が耐えきれず、空中分解事故を起こしていたではないか。 

 いくら関節部周りを強化しているといっても、昔の轍を踏む事にはならないのかね?」 

 

「ご懸念はもっともです。 

 私もその事は考慮しており、関節部周辺の強化に加え、機体の装甲を外骨格として機能させ、機体にかかる負荷を分散させる構造を採用しております」 

 

 予想された懸案事項に対し、マイは用意していた対策を答える。 

 

「あわせて、開発に先立ち現存するヅダのエンジンを取り外し、徹底的な解析を行いました。 

 その結果、当時の技術水準では発見が難しかった制御プログラム上のバグにより、エンジンが本来の設定どおりには作動していなかったことが判明しています。 

 原型機で問題となった暴走は、この不具合が主な原因でした。 

 これらの問題点については、すでに修正済みです」 

 

 さらにマイは、かつての《ヅダ》のエンジン暴走を招いた原因を突き止め、それを是正済みである事も付け加えた。 

 

「なお、本機のスラスター出力は、通常は最新鋭の量産型可変機から流用したリミッターを組み込むことによって、83000kgまで抑えています。 

 それでも、現行の一般量産機を遥かに凌駕する推力です。 

 さらにパイロットの操作によって短時間だけリミッターを解除し、最大推力を引き出すことも可能ですが、最大出力を連続して約五秒以上維持した場合には、自動的にエンジンをカットする仕様です。 

 原型機で問題となったエンジン暴走に対する、安全側の最終防衛線とお考えください」 

 

 その上で、現状のエンジンに対しても、何重もの安全対策を施していることを、マイは付け加える。 

 

「制御系には、これまで我々が蓄積してきた高機動戦闘データを反映した新規プログラムを採用しています。 

 極端な出力と推力を持つ本機でも、パイロットの負担を可能な範囲で軽減するよう調整済みです。 

 結果として、本機はどうしても“乗り手を選ぶ機体”にならざるを得ませんでした。 

 もっとも、万人に扱える量産機が必要であれば、既に《袖付き》には新型量産機が納入されていますからね」 

 

 その言葉で、マイは《ヅダ》の説明を締めくくったのだった。 

 

 会議室内の面々の反応は様々だ。 

 

 納得の表情を浮かべる者。 

 

 小さく息を吐き椅子の背にもたれ直す者。 

 

 納得しつつも不安を拭いきれない者。 

 

 中にはテーブルの下で腕を組み眉間に皺を寄せる者も居た。 

 

 理屈は理解できる。 

 

 だが──今回テストを行うのは、あの《ヅダ》だ。 

 

 かつて『欠陥機』の烙印を押され、一年戦争開戦前のコンペティションで一機、戦争末期でも一番機と三番機の二機が同様に暴走事故を起こしている。 

 

 その事実が、会議室の者たちに拭いきれない不安を与えていた。 

 

「それでは、今回のテストの手順をフェイズごとに説明していきます」 

 

 その不安は理解しつつも、マイはそれをあえて無視して、テストの手順を説明し始めるのであった。 

 

 

 




 
 
 ブリーフィングパートでの関節部のくだりですが、これはPG版ガンダムの構造を参考にして書いてあります。 
 
 次回は2026.6.28 00:00に投稿予定です。 
 
 ご意見、ご感想をお待ちしております。 
 
 
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