機動戦士ガンダム異聞 蘇りし幻影   作:素面ライダー

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 短期集中連載二話目です。
 
 今回のエピソードは、ブリーフィング後の実機テストがメインとなっております。 
 
 それでは、本編スタート! 
 
 


ふたたびの宇宙(そら)

 

 

 U.C.0079 12月 ア・バオア・クー Eフィールド宙域 

 

 《ビグ・ラング》 コックピット内 

 

 そこには、停戦命令を無視して攻撃を仕掛けてきた連邦MSを撃退し、《ヨーツンヘイム》へ通信を試みているマイの姿があった。 

 

「……やはり、駄目か」 

 

 残留しているミノフスキー粒子の影響でつながりにくい上、どうやら通信機自体も調子が良くないらしい。

 テストもなしにいきなり実戦投入された上、その巨大な機影と派手なカラーリングのせいか、ずいぶん攻撃の的になっていたのだから無理もなかった。 

 

(バカだなあ、オリヴァー・マイ。

 「評価」なんかに進むからだ。

 開発に行けば、そんな危険な目に遭わずに済んだのに) 

 

 開戦前に交流のあった学友の幻影が、マイに語りかける。

 

「……技術開発が、未来に通じるドアなら。

 ……評価は、それを開く鍵だ、ヘルムート」 

 

 マイはそれに対し、静かにそう返答するのであった。

 

 


 

 

 ──それから十六年後。 

 

 UC.0095 11月9日 

 

 アナハイム グラナダ支社 第二MS開発部会議室 

 

「今回のテストについては、以上となります。 

 何か、質問のある方はいらっしゃいますか?」 

 

「………………」 

 

「無ければ、ブリーフィングは以上です。 

 テストは本日14:00から開始いたします。 

 では、解散してください」 

 

 その言葉で今回のテストのブリーフィングが終わり、スタッフは会議室から各々の持ち場やデスクへと戻っていく。 

 

 マイは会議室の奥から、その様子を見るともなしに見送っていた。 

 

「相変わらず、お偉方への受けは悪いな」 

 

 同じく会議室に残っていたワシヤが、軽い口調で言ってのける。 

 

「まあ、こちらはやれるだけのことはやったんだ。 

 お偉方を安心させることは、僕の仕事じゃない」 

 

「言うねぇ」 

 

 マイの返しに、ワシヤは苦笑する。 

 

「んじゃ、俺はMSハンガーへ向かうぜ。 

 テストが上手く行ったら、一杯奢れよ?」 

 

「そうなることを、願いたいものだな」 

 

 ワシヤの軽口に微笑して返すと、マイの目にふと室内のカレンダーが入った。 

 

「そういえば、今日は…… 

 デュバル少佐の命日だったな」 

 

 

 ピタッ 

 

 

 部屋の扉まで差し掛かったワシヤが、マイの呟きが聞こえたのか足を止める。 

 

「この日に《ヅダ》のテストを迎える事になるとはな…… 

 『皮肉』なのか、『運命』なのか……」 

 

「…………なら、俺たちの手で『運命』に変えてやるまでだ」 

 

「ん? ワシヤ大尉、今 ── 」 

 

 ワシヤはマイに答えず、軽く手を振って部屋を出ていった。 

 

 マイは軽く息を吐き、資料をまとめて自身も会議室を出るのだった。 

 

 


 

 

「テスト開始まで、三十分切ってるぞ! 

 推進剤補充と漏洩チェック、まだ終わらねぇのか!」 

 

「あと少しです!十分もあれば終わります!」 

 

「関節部の最終チェックはどうだ!」 

 

「そっちはもう完了してます!」 

 

「油圧系も忘れんなよ! 

 それサボって分解なんかしたら、シメるだけじゃ済まさねぇからな!」 

 

「おい、そのコンテナはそこに置くなと言ったろ! 

 カタパルト周りは空けとけ!」 

 

「………………」 

 

 実機テスト直前のMSハンガー。 

 

 各種最終チェックが慌ただしく行われ、チーフの怒号とスタッフたちの返答が飛び交う喧騒に包まれるハンガーの一角に、作業に加わるでもなく機体を見上げている人影が一つあった。 

 

 ノーマルスーツを着込み、ヘルメットを小脇に抱えたワシヤだ。 

 彼はハンガーの中央でチェックを受ける《ヅダ》を、一人静かに見上げていた。 

 

 細身のシルエットだけは十六年前と変わらない。だが、その中身は全くの別物と言ってもいい程に生まれ変わっていた。 

 ワシヤはどこか感慨を滲ませた表情で、その姿を見つめていた。 

 

(……一年戦争の時に『欠陥機』の烙印を押された《ヅダ》が、十六年後に最新技術で作り直されるなんてな。 

 デュバル少佐がこの事を知ったら、どんな気持ちになっただろうか……) 

 

「あっ、ワシヤ大尉! 

 あと十五分ほどで、機体チェックはオールクリアです!」

 

「ん?……ああ」 

 

 整備チーフの声で現実に引き戻され、ワシヤは視線を機体のコクピットハッチへ向ける。 

 そしてヘルメットを持ち直し、ゆっくりとキャットウォークへ足を運んで行った。 

 

 


 

 

「演習エリアの各種観測機器、異常ありません。 

 記録装置の動作チェック、もう間もなく終わります」 

 

「演習場及び周辺空域に機影・船影ともに無し。 

 ……静かなものです」 

 

「引き続き、警戒は厳にお願いします。 

 民間船舶には事前に立入禁止を通達済みですが、誤って侵入してくるようなら、ただちに進路変更を呼びかけてください」 

 

 一方、アナハイムの実機演習場を見下ろす管制室では、マイを中心に観測機器と記録装置の最終チェックが続けられていた。 

 

 今回はジオン系MSのテストであることから、『事故防止』の名目で周辺宙域にも目を光らせている。 

 民間船舶や関係のない船が誤って演習空域へ入り込まないよう、監視オペレーターたちの視線はモニターに釘付けだ。 

 

 そんな中、MSハンガーの様子を映すモニターのひとつに、《ヅダ》のコクピットハッチへ滑り込むワシヤの姿が映し出された。 

 

「テストパイロットの搭乗を確認。 

 バイタル、異常ありません」 

 

「機体との通信接続開始……接続確認。 

 感度良好です」 

 

「こちら、アナハイム管制室。 

 ワシヤ大尉、聞こえるか?」 

 

『聞こえている、感度良好』 

 

「コクピットのレイアウトと操作感はどうだ? 

 なるべく、使っていたシミュレーターの癖に合わせておいたが……」 

 

『問題無い。 

 むしろ、シミュレーターの時より扱いやすいぐらいだ』 

 

 計器チェックを続けながら、ワシヤはモニター越しの問いに淡々と答えた。 

 

 


 

 

『テスト開始まで、あと十分を切った。 

 計器類に何か問題があったら、今の内に言っておいてくれ』 

 

「大丈夫だ。今のところ問題は見当たらない」 

 

 続くマイの問いかけにも、ワシヤは先ほどと同じく淡々と答えた。 

 

『テスト開始、五分前だ。 

 機体をカタパルトまで移動させてくれ』 

 

「了解」 

 

「ではワシヤ大尉、お気をつけて」 

 

「おう。ハッチを閉めるぞ」 

 

 

 プシュー……ヴンッ!

 

 

 ワシヤの一言に、そばにいた整備チーフが即座に機体から離れる。 

 それからほどなく、コクピットハッチが閉じた。 

 直後、コクピット内の全天周囲モニターが作動し、ハンガー内の様子が一斉に映し出される。 

 

 整備スタッフたちは既に機体の進路上から退避し、気密エリアへと移動済みだ。 

 先ほどまで機体のそばにいたチーフも、同じく気密エリアに滑り込むのを、ワシヤはモニター越しに確認した。 

 

 

 ギュウゥゥゥン……グポォン

 

 ズンッ、ズンッ、ズンッ…… 

 

 ガチンッ! 

 

 

 起動シーケンスを終えた《ヅダ》は、ゆっくりと歩みを進める。 

 ワシヤはスロットルとペダルを丁寧に操りながら、機体をカタパルトの先端まで歩かせ、その両足を発進レールに接続させた。 

 

『ワシヤ大尉、テストの手順はミーティングで話したとおりだ。 

 まずはフェイズ1。 

 カタパルトから機体を発進させ、機体の慣らしも兼ねて通常飛行で予定の演習場エリアまで移動する。 

 その間に、機体の挙動におかしな所は無いかを確認しておいてくれ』 

 

 カタパルトへの接続を終えた直後、モニターにマイの顔がカットインし、改めてテストの手順が告げられた。 

 

『続けてフェイズ2。 

 実戦を想定して、リミッターを解除した全開飛行と通常飛行を織り交ぜながら、急加速・急制動・急旋回を繰り返しての高速マニューバテストだ。 

 少しでも機体に異常が見られたら、悪いがこちらからの遠隔操作でエンジンをカットして、テストを中断させてもらう。 

 そちらでも「マズい」と判断したら、即座にテストを中止してくれ』 

 

「了解」 

 

 マイの説明に対し、ワシヤはやはり淡々と短く返答した。 

 

『そしてフェイズ3。 

 フェイズ2でのマニューバを維持したまま、敵艦・敵機を想定したターゲットへの実弾発砲テストだ。 

 これは高速機動中に実弾を撃った際、機体にどの程度の負荷がかかるかを確認する意味もある。 

 ここでもフェイズ2と同様、危険と判断した時点でこちらの判断でテストを中断させてもらう』 

 

 マイの安全を最優先した判断に、ワシヤは軽く首肯した。

 

『そしてフェイズ4。 

 母艦への帰還・着艦を想定してのテストを実施する予定だ』 

 

「手順については了解した。

 それより……奢りの約束、忘れるなよ?」 

 

『ああ。無事に戻ってきたら、いくらでも付き合おう』 

 

 わずかに口元をほころばせたマイの表情が、モニター越しに映る。 

 

「ま、嫁さんの雷が落ちないように、ほどほどにな? 

 ここんとこ残業続きだったから、もう不機嫌になってるだろ? 

 かつての上官だ、尻に敷かれんのはしょうがねぇケドよ」 

 

『わ…ワシヤ大尉……』 

 

 図星だったのか、マイは顔をしかめた。 

 

『っと……そろそろテスト開始時刻だ。

 発進シーケンスを開始するぞ』 

 

「了解。《ヅダ》試作一番機、カタパルト上で待機中だ」 

 

 モニターの向こうでマイが表情を引き締めて告げると、コクピット内のワシヤもヘルメットのバイザーを下ろし、同じように顔を引き締めた。 

 

『テストパイロットのバイタル、問題無し』 

 

『機体との通信、依然として感度良好』 

 

 無線越しに、オペレーターたちの報告が次々と耳に飛び込んでくる。 

 

『準備はいいか?

 カタパルト射出のカウントダウンを始めるぞ』

 

「いつでもいける」 

 

 

 ビーーーッ! 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

 ワシヤが短く答えるのと同時に、減圧の終えたMSハンガー内にブザーが鳴り響く。 

 続いて射出口のシャッターが作動し、その振動が地響きのように床から伝わってきた。 

 

『カタパルトNo.1、射出口オープン。 

 これより《ヅダ》実機テストを開始する』  

 

 

 ゴンゴンゴンゴンゴン…… 

 

 キュウゥゥゥゥウン……

 

 

 真空状態となったMSハンガーの射出口シャッターがゆっくりと開いていく。 

 それに合わせるように、《ヅダ》の背面スラスターの駆動音が静かに響き始めた。

 

『──カウント、スタート! 

 テン……ナイン……エイト……』 

 

 

 キイィィィィィィイン……

 

 

 カウントダウンが進むにつれ、《ヅダ》の背面スラスターに、徐々に光が集まっていく。

 

『……フォー……スリー……ツー……ワン……ゼロ!』

 

「ヒデト・ワシヤ、《ヅダ》一番機、行くぞ!」

 

 

 ポーン! 

 

 バシュッ! ゴオッ!

 

 

 射出信号音と同時に、カタパルトが《ヅダ》を弾き出した。 

 同時に機体のスラスターが点火し、カタパルトによる慣性とスラスター推力が重なって、一気に加速していく。 

 

「くうっ!」 

 

 直後、ワシヤは立ち上がった急激なGに押し付けられるように、シートへと身体を沈められた。 

 予想以上に強烈ではあったが、耐えられないほどではない。 

 

 身体が慣性に馴染んできた頃合いで、ワシヤは機体の動作を一通り確認していく。 

 

『こちらアナハイム管制室。 

 ワシヤ大尉、機体の動作はどうだ?』 

 

「こちら《ヅダ》一番機。 

 現状、機体の動作に問題は無い。 

 変な癖の付いていない、素直ないい子だよ──今のところはな」 

 

《ハイザック》の操縦経験もあるワシヤは、計器と外の星々を見比べながら、淡々とそう答えた。 

 

『シミュレーターの機体に比べてどうだ?』 

 

「リミッターが効いてるせいか、あっちに比べりゃ大人しいもんさ。 

 あの“暴れ馬”は、ちょっと踏み込んだだけで一気に最高速まで走り出すし、言うこと聞かせようにも、なかなか聞き入れてくれなかったからな」 

 

 ワシヤは苦笑しながら、訓練のたびに“暴れ馬”に振り回されていた頃のことを思い出した。 

 

『《ヅダ》もリミッターをカットすれば、そうなるかもしれん。 

 曲がりなりにも“あの機体”を乗りこなせた者は少ないし、そんな貴重なパイロットをここで失うわけにはいかない。 

 フェイズ2以降は、くれぐれも注意してくれ』 

 

「分かってる。 

 前にも言ったが、デュバル少佐の二の舞は御免だからな」 

 

 マイらしい理屈の度重なる釘刺しに、付き合いの長いワシヤは軽く笑いながら応えた。 

 

『予定エリアまで、あと六十秒だ。 

 そろそろフェイズ2の準備に入ってくれ』

 

「了解…… 

 デュバル少佐の時代には間に合わなかった贅沢だ。 

 せめて、無駄にしない飛び方をしてみせないとな」 

 

 ワシヤはスロットルをわずかに絞りながら、計器類と外の星の流れを一通り確認する。 

 

『…………アナハイム管制室から、《ヅダ》一番機へ。 

 予定エリアに到着を確認。 

 続けてフェイズ2に移行せよ』 

 

「《ヅダ》一番機、了解。 

 フェイズ2に移行する」 

 

 

 ピッピピッ!

 

 ゴオッ!

 

 

「ぐっ! 

 ──────ッ!」 

 

 復唱と同時に、ワシヤはリミッターを解除し、機体を全開飛行に移行させた。 

 発進時を上回る強烈なGが一気にのしかかり、ワシヤの身体がシートごと軋みを上げる。 

 

(……3、2、1──今っ!) 

 

 

 ボッ! グオッ! 

 

 

「ッ!カハッ!」 

 

 エンジンカットになるギリギリのタイミングで、ワシヤはリミッターを再稼働させる。 

 同時に機体を一気に切り返し、宙域に配置されたデブリ群を、かすめ飛ぶようにギリギリで回避した。

 

『初っ端から飛ばすな、大尉』 

 

 関心半分、呆れ半分といった声音で、マイがぼやく。 

 

「なあに、デュバル少佐は機体性能ぎりぎりまで酷使してたからな。 

 この程度は、まだ序の口さ」 

 

 まだまだこれからだと言わんばかりに、ワシヤは軽く笑ってみせた。 

 

 それからワシヤは加減を見ながら、全開飛行と通常飛行を織り交ぜて急加速・急減速を繰り返す。 

 

 S字機動、スラローム、鋭角ターン。 

 

 ワシヤの要求するアクロバティックな挙動に対し、機体側はその全てに淀みなく応え続けた。

 機体はスロットルのわずかな動きにも素直に反応し、指定ベクトルへの転針も、シミュレーターより滑らかに決まっていった。 

 

「こいつはいい! 

 機体のレスポンスは、シミュレーターで乗ってた“暴れ馬”よりよっぽど素直だ! 

 十六年前の《ヅダ》だって、こいつに比べりゃまだ動きが硬かったな!」 

 

『シミュレーターの機体に“あの機体”を選んでおいて正解だっただろ?』

 

「ああ! 

 あの時は、何度も死ぬかと思ったがな」 

 

『他に似た挙動の機体が見つからなかったとはいえ、《ヅダ》を手足のように動かすために、ずいぶん無茶をさせて悪かったな』 

 

「気にすんな。

 そのおかげで、今は楽できてる」 

 

 マイの謝意に対し、ワシヤは軽い調子でそう返した。 

 

『パイロットのバイタル、機体への負荷も想定の範囲内だ。 

 テストは順調だな』 

 

「ああ、後はこの最後のマニューバを決めれば──ぐっ!」 

 

 

 ゴオォッ! 

 

 ボッ! ギュイィン! 

 

 ピタッ! 

 

 

「くっ………よし! 成功だ! 

 これなら、デュバル少佐にも胸を張れる!」  

 

 ワシヤは最後に、敵艦を想定したデブリに向けて《ヅダ》を全開で直進させた。 

 衝突ギリギリの間合いで機体を鋭角ターンさせ、絶好の射撃ポジションで機体を急停止させる。 

 

『上出来だ! 

 よくやってくれた、大尉。 

 おかげで、いいデータが取れた』 

 

「ああ! 

 この一年で、あの“暴れ馬”に揉まれた甲斐があったってもんだ!」 

 

 マイもワシヤも、テストが上々の結果で終わったことに上機嫌で言葉を交わす。 

 

『では、これをもってフェイズ2を終了する。 

 続けて、フェイズ3に──』 

 

 

 ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!…… 

 

 

『どうした!?』 

 

『演習場エリアへ接近中の未確認機を確認! 

 数は四! いずれも識別信号を確認できず! 

 こちらの警告にも、応答がありません!』  

 

 オペレーターの報告に、管制室の空気が一変した。 

 

 

 ビーッ! 

 

 ピッ、ピッ、ピッ……

 

 

「先ほど、こちらでも確認した。 

 生肉見つけた野良犬みたいに、すげぇ勢いでこちらに向かってるぜ」 

 

 


 

 

 マイは予期せぬ報告にも冷静さを失わず、状況把握に努めていた。 

 

「機体の照合は?」 

 

「待ってください……あと少し……出ました! 

 ガザタイプ、ガルスタイプ、マラサイタイプ、いずれも一機ずつ! 

 もう一機は、該当機不明です!」 

 

「所属は分かるか?」 

 

「所属データはネオ・ジオンのものですが……七年前の型式です。 

 現在《袖付き》で使われているものとは一致しません。 

 恐らく、元ネオ・ジオン崩れの宙族かと……」 

 

 若手の女性オペレーターは、この予想外の出来事に戸惑いを覚えつつも、マイの冷静な声に引かれるようにして、どうにか未確認機の解析結果を報告していった。 

 

「護衛MSは?」 

 

「ハンガーに《ギラ・ドーガ》が三機ありますが…… 

 出撃準備に、最低でも十分はかかります! 

 不明機到達まで百八十秒! とても間に合いません!」 

 

「付近の連邦部隊は?」 

 

「サラミス改級二隻のパトロール部隊が月軌道付近にいますが、到着まで十五分ほどかかります!」

 

 当てにしていた護衛戦力が役に立たない現実に、管制室は一挙に重い空気に包まれていく。 

 

「……周辺への立ち入り禁止指定が、ここへきて仇になったか」 

 

 テストへ横槍が入るのを防ぐための事前対策だったが、ここへ来て完全に裏目に出た形だ。 

 その事実に、マイは内心で舌打ちする。 

 

『なら、俺が迎撃するしかないな』 

 

「ワシヤ大尉? 

 危険だ! 許可できない!」 

 

『だが実弾を積んでて、今すぐ動けるのは俺の《ヅダ》だけだ。 

 迷ってる時間は無いぜ?』 

 

 ワシヤの提案にマイは難色を示すが、ワシヤは現状に即した最善手を淡々と説いていく。

 

「不明機到達まで、あと九十秒!」 

 

「……仕方ない、許可する。 

 だが、できるだけ時間稼ぎに徹してくれ。 

 こちらからも、なるべく早く救援を出す」 

 

『あのお客さんが、それを許してくれたらな』 

 

「……出撃準備を継続! 七分で終わらせろ!」 

 

 怒号と報告が飛び交う管制室を背に、マイはひときわ大きく《ヅダ》のモニターを見上げた。 

 

 


 

 

『ワシヤ大尉……無茶はするなよ』 

 

「了解。 

 でも、多少は無茶しないと稼げない客もいるからな」 

 

 コクピットの中でヘルメットをかぶり直しながら、ワシヤはスロットルを握り直した。 

 

「さて…… 

 無粋なお客さんを、お出迎えに出向くとしますか」 

 

 ワシヤは一人そう呟き、スロットルに添えた右手に力を込め、敵影の待つ宙域へと機首を向けた。 

 

 


 

 

 一方── 

 

 現在、月軌道付近では、編隊を組んでアナハイムの演習場エリアへ接近している機影があった。 

 

『おいおい……あっちのサラミス級、こっちがこんだけ派手にスラスターを吹かしてても、まるで動こうとしないぜ?』 

 

 MA形態で飛行する《ガザD》の改造機──両腕と両脚、そしてナックル・バスターを《ガザC》のものに換装した機体──のパイロットが、強引にバックパックへ取り付けた増設プロペラントタンクを軋ませながら、呆れた声を漏らした。 

 

『同じアナハイムでも、グラナダの方は今なおジオンの息のかかった所が腐るほどあるからな。 

 名目上はともかく、身体張ってまでジオンの連中なんざ守りたくねぇってのが本音なんだろうよ。 

 まあ……そのおかげで、こっちは仕事が楽になるってもんだ』 

 

 それに応じるように、《マラサイ》の改造機のパイロットが口を開いた。 

 その機体は両腕を《ハイザック》のものに換装し、左手に同機の手持ち式シールドを構え、右腕に有線式ハンド機能を残した《ドーベンウルフ》の右腕フレームと放電機構、小型サブ・ジェネレーターを外付けしている。 

 その右手には、《ガブスレイ》のフェダーイン・ライフルを握り、右肩には《ハイザック》の固定式シールドが残されていた。 

 

『それより、情報は確かなのか?』

 

『ああ。

 あちらさんの幹部が、ご丁寧にも新型機とそのパーツが山ほど保管されてるって教えてくれたからな』

 

 僚機の《マラサイ改》同様、《ゲター》に乗っている《ガルスJ》の改造機──両腕を通常タイプのものに換装し、強奪品と思しき《ジェガン》のビームライフルとシールドを手にしている──のパイロットが、先頭を飛んでいる機体へ問いかける。 

 問いかけられたそのパイロットは、「大丈夫だ」と太鼓判を押した。 

 

『信用できるのか?』

 

『その点は問題ないさ。社内政治ってやつだ。

 今テストしている機体が、たとえ少数でも生産されると都合の悪い奴がネタ元だからな。

 その証拠に、そいつが連邦部隊に圧力かけて、迎撃に出ないようにしてるだろ?』 

 

 なおも疑問を投げかける《ガルスJ改》に対し、先頭を飛ぶ機体──他の三機よりも一回り小柄な機体本体に《ズサ・ブースター》を背負った機体──は、その理由を論理立てて説明してみせた。 

 

『で、こっちはそのおこぼれに預かろうってわけか』

 

『ま、平たく言えばな。

 それに、そいつは念入りにも自衛用MSの発進まで遅らせるよう手を回してる。

 動けるのは、せいぜいテスト中の機体が一機だけだ。チョロいもんだろ?』 

 

 周囲に残留しているミノフスキー粒子の影響で、今ひとつ調子の悪い右腕のサブ・ジェネレーターに意識の一部を割きつつ、《マラサイ改》のパイロットが薄ら笑いを浮かべてそう言う。 

 

 それに対し、先頭の機体のパイロットも「チョロい仕事だ」と応じる。

 

『んじゃ、そろそろ、あっちでうるさくがなり立ててる連中を黙らせると……』 

 

『あー、所属不明機に告ぐ。 

 悪いが、そこから先は一見さんお断りだ。 

 荒っぽく摘み出される前に、大人しく帰るんだな』 

 

 先頭の機体が、いざ『仕事』を始めようとしたまさにその時だった。 

 オープンチャンネルに、聞き慣れない男の声が割り込んできて、その出鼻を挫く。 

 

 先ほどまでがなり立てていた、アナハイム管制のオペレーターのものではない。 

 だが、その声の主が向こう側の人間であることは間違いないだろう。 

 

 先ほどの『警告』を虚勢と決めつけたのか、《ガザD改》のパイロットが軽口で応じた。

 

『ご忠告どーも! 

 こちら取り立て屋でーす! 

 お宅の資産、差し押さえに参りましたぁ!』 

 

 

 ダタタタタタタ…… 

 

 ガン! チュン! チュイン! バキャンッ! 

 チュン! ガンガン! チュイン! チュン!…… 

 

 

『なッ? アアアアアアぁ……!』 

 

 

 ドウゥゥゥン! 

 

 ギュンッ! ゴオッ!

 

 

 実体弾マシンガンのものと思しき掃射をまともに浴びて、《ガザD改》は爆散した。 

 同時に、そのすぐ脇を、何かがフライパスしていく。 

 

 

 ゴオォッ! ボッ! 

 

 

 やがて、さきほどフライパスしていった「何か」が、残る三機の進路の先に立ちふさがる。 

 

 その細身のシルエットを目にした途端、先頭の機体が心底馬鹿にした声色で言い放った。

 

『あぁん? 《ヅダ》だぁ? 

 お前、そんなポンコツで俺たちを止めるつもりなのかよ?』 

 

『おいおい……』 

 

 その言葉に、奇襲で《ガザD改》を撃墜したと思しき機体 ──《ヅダ》のパイロットであるワシヤが、呆れた声を漏らした。

  

 




 
 
 冒頭のシーンは、コミカライズ版『MS IGLOO 603』から着想を得た演出です。 
「単にブリーフィングパートの続きから始めるだけでは味気ないなー」と考えて追加しました。 
 
 読者の皆様方、お楽しみいただけましたでしょうか? 
 
 次回は2026.7.5 00:00の投稿予定です。 
 
 ご意見、ご感想をお待ちしております。 
 
 
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