現代ダンジョンが変えた地球の人生   作:匿名の筆者

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魔石飲料

 

 

 

魔石飲料のペットボトルを机に置いたまま、俺は明るい部屋の布団に腰を下ろしていた。

 

 十二月の札幌は容赦がない。冷気がアルミサッシの隙間から入り込み、暖房をつけても寒くなるような気分がする。

 

築三十年、そして風呂無しトイレ無し。

それだけの悪条件を背負った三ヶ月五千円のアパート。マットレスは床に敷きっぱなしで、仕舞っていない。

 

というか畳む気力すら湧かない。

 

 枕の上に置いたスマホの画面が、ぼんやりとマットレスの上で青白く俺の顔を照らしていた。

 

 一ヶ月前に通販で買った魔石飲料――アメリカ産の、粉状の特濃タイプが二本。

開封してしまったせいで、乾燥剤の効果もそろそろ限界らしい。シリカゲルと生石灰の寿命を検索してみれば、そろそろ寿命どころか、消費期限がとっくに来てる可能性も高いのだ。

 

乾燥剤が機能しなくなると、湿気に触れて魔力は空気中に逃げていくという。

 

 魔法職になれたら飲もうと思っていたのに、現実は泡職人。

魔力など使えない職業だった。

 

魔力が本当にペットボトルから逃げてるのか見ようにも、魔法職じゃないせいで視認できん。

 

 指でスクロールしながら、Wikiのページを何度も往復する。

 

 バブルマスター(和名・泡職人)は中間職業に分類される職業の一種。戦闘職よりレベルは上がりやすいが、生活職よりは遅い。

 

まさにベン図のど真ん中で、表でわかりやすく解説されてある。

 レベル3でようやくバフ解除効果が使えるようになる。必要な討伐数は、およそ9匹。

 

 ……9匹か。

 低級ダンジョンなら、命の危機に瀕することは無いと思うのだが、9回怪我する可能性もある。

 

 俺はスマホを握る手に力を込めた。

 正直、泡職人なんて見捨てたい。シャボン玉を飛ばして終わりみたいな職業に、本気で付き合いたくない。

 

 でも、残り一枠の職業を引くにしても、まずはこの職業をある程度育てておかないと話にならない。経験値が半分吸い取られる以上、最初から二足のわらじは自殺行為だ。

 

人生最初の職業が泡職人なんてめちゃくちゃなもんだが、一旦のところ、泡職人だけでレベル3まで上げてみることにする。

 

 そこから先は……また考えよう。魔法職でも引ければ、魔石飲料を無駄にせずに済むかもしれない。

 

 Wikiには魔法職との相性は比較的良いと書いてあった。完全に運任せではあるが、他に選択肢がないのも事実だ。

 

 俺は立ち上がり、コンビニの袋から取り出したものを並べた。

 水泳用のゴーグル(五百円)に、園芸用とか安物のゴム手袋たち。一枚あたりの値段は知らないけど沢山入ってるから、一枚あたりはたぶん低いと思う。

 

界面活性作用で自分の目が染みるっていう自爆リスクを、少しでも減らすための最低限の装備だ。

 

 馬鹿みたいだ。本物のダンジョン用品じゃなく、近所のスポーツショップとホームセンターで買った代物。皮脂が落ちて手荒れしそうだから、ついでにクリームまで一緒に買ってしまった。

 

 これで合計千円。ワープゲートを使用するのとだいたい同じお金だ。

 

それで、この装備が特濃タイプの魔石飲料二本分と同じ価格だ。

 

うむ、やっぱり買わない方が良かったかもしれん。

でもこれも事後諸葛亮だしなあ……

 

 

 しかし、ダンジョンに行かなきゃ何も始まらない。幸いなことに、【茸使い】とかがモンスターを弱体化してくれているし、ガスマスクさえ付けてれば問題もないだろう。

 

モンスター同様、肺に茸が入ると……まあ、考えたくはないが。

とりあえず茸使いたちがせっかくお膳立てしてくれてるんだから、ここは勇気を出してやるしかない。

 

 

剣のレンタル代はもうこの際、バイトで後から巻き返そう。

 

 肉に当たりさえすれば切れるんだ、たぶんできるだろう。

剣士の配信動画を見てみると、腹付近を一閃しただけでモンスターは倒れて行った。

 

五秒でモンスターを一匹倒してたから、このくらい誰でもできるんじゃないか?

うん、とても簡単そうだ。

 

スマホで攻略動画を見てると、やっぱり剣士の強さも目につくなあ……モンスターを切って進んで行ってるし、そんな切れ味いいのだろうか。

 

付与魔術師のおかげで、素材がステンレスの日本刀でも切れ味が上がってるんだっけな?

いや、たしか切った相手のステータス下げるんだっけ?

 

レンタルする時に聞いてみるか。いや、調べれば出るか?

 

ええと、付与魔術師は魔石を粉砕した粉を振りかけることで武器に特殊な効果を付与できる……これだけ?

 

なんだよ、あんなにWikiは細かく泡職人を愚弄してきたってのに付与魔術師に対してはこんな情報のショボさなのか?

 

どうしたらいいんだろうか…モンスターをとりあえず狩るしかないが、遠距離攻撃手段もなく?

 

そんなの、ただ死んでしまうだけじゃないか。

攻撃は全て防御するか回避すれば問題ないとか、配信者が言ってるけど、俺の反射神経はそこまでいい自信が無い。

 

盾もレンタルしておくか……はあ、これで剣と盾のレンタル代が加わるが、いくつくらいの価格なんだ?





Tips 魔石飲料

色はピンク色に、味は酸味が非常に強くなるようにしている。
自然界ではありえない色合いの飲み物にすることによって、販売店での混在や詐欺を防ぐ目論見がある。

味に酸味が多いのは、飲用しすぎることによる(低ナトリウム血症などによって引き起こされる諸問題など)運動能力の低下を抑止する目論見がある。

が、一気飲みを行う人が多いため、内容量そのものを減らす方向性に容器を変更したミニサイズを販売したところ、余計に元のサイズが買われるようになった。

経口補水液と同様の成分添加を行っているため、ダンジョンの長期探索における水分補給を魔石飲料で補うなどの行為が横行している。
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