【急募】なんか大変なことになったんだが?【解決策求む】 作:Ark’s
※第二話の内容が結構、変わってます。
作者は設定資料集やキャラのステータスとかを作るのが大好きな設定厨なので後書きに書くことがあるかも?
目が覚めた瞬間、オレは理解した。
――本当に転生したんだ。
あの白い空間も。
真っ赤な女も。
トラックに撥ねられて死んだことも。
それから、転生先を決めさせられたことも。
全部、夢じゃない。
ぼんやりした頭のまま、視線だけを動かす。
白い天井。
継ぎ目の見えない壁。
やたらと静かな空調音。
息を吸うたび、肺の奥まで磨かれるみたいな清潔すぎる空気。
知らない部屋、ではなかった。見覚えがある。
あるのに、ついさっきまでここで眠っていたはずの感覚と、夜道を自転車で走っていた感覚が、頭の中でめちゃくちゃにぶつかっていた。
「……は?」
声を発した瞬間、オレは固まった。
声が高く明るい。
まるで、女の子みたいな声だった。
心臓が跳ねる。
「いや、ちょっ、待――」
そう言った、つもりだった。
なのに実際に口から出たのは、
「いや、ちょっと待ちなさいよ……何これ」
だった。
オレは一瞬、本気で思考が止まった。
何だ今の。
頭の中じゃ確かに普通に喋ったつもりだった。なのに、実際に出たのは女の声で、言い回しまで妙に女っぽい。しかも少しだけ、相手を小馬鹿にしたみたいな響きが混じっている。
気持ち悪い。
無意識に喉へ手を当てる。
細い。首も、指も、何もかも細い気がする。
そこで、ベッド脇の小さなテーブルに手鏡が置いてあるのが目に入った。
オレは半ばひったくるみたいにそれを掴み、顔の前へ持ち上げる。
そして、息を呑んだ。
「……うそでしょ」
手鏡の向こうにいたのは、美少女だった。
長い金髪。
白い肌。
赤い瞳。
整いすぎていて、少し現実感の薄い顔立ち。
可愛いとか綺麗とか、そんな単語じゃ追いつかない。見た瞬間に、思わず呼吸が止まるくらいには完成された顔だった。
その顔が、驚きで目を見開いている。
オレはしばらく、鏡の中のそいつを見つめることしかできなかった。
やがて、その顔を見ているうちに、また頭の奥が熱くなった。
ずきり、と鈍い痛みが走る。
「っ……!」
同時に、記憶が流れ込んできた。
東京アーコロジー。
上層居住区。
この部屋。
手鏡の位置。
生活補助用専用AI《メイ》。
どれもまったく知らない知識じゃない。思い出した、という感覚だった。
オレは天城真白。今年で九歳。
この部屋で眠って、起きて、毎日を過ごしてきた。
今世記憶が、前世の記憶と一緒に一気に押し寄せてくる。
「ぁ、あたまがっ……!」
痛い。
あたまが割れそうなほど痛い。
膨大な量の記憶という情報があたまを駆け巡り、オレの脳に多大な負荷を与えていた。
オレは二十三歳の会社員だった。
でも、今は九歳の女の子でもある。
東京アーコロジーで暮らしてきた記憶もある。
でも、トラックに撥ねられた瞬間の衝撃も鮮明に覚えている。
男として生活していた記憶。
女の子として生活している記憶。
どっちも“自分”だと分かってしまうから、余計に混乱する。
「何なのよ、もう……っ」
吐き出した言葉は、やっぱりオレの思っているものと微妙に違った。
“何なんだよ”としゃべったつもりだった。
なのに口を通ると、勝手に口調が女口調になってしまう。
しかも少しだけトゲがあるような気がする。誰に向けたわけでもないのに。
そんなこと考えている間も、オレの頭の中はまだいっぱいいっぱいだった。
前世の記憶と今世の記憶。
今の自分と過去の自分。
何もかも一度に押し寄せてきて、脳みそが悲鳴を上げている気分だった。
このままじゃ駄目だ。
とにかく、少しでも落ち着かないと。
現実逃避でもいい。
何か一つ、別のことに意識を向けたい。
オレは手鏡をテーブルへ戻し、まずはベッドから起き上がろうとした。
起き上がるため、上半身に力を入れる。
驚くほど簡単に身体が起きた。
「……え」
軽い。
腕も肩も、思った以上に動く。むしろ前世の身体よりずっと動かしやすいくらいだった。
じゃあ、このままベッドから降りて――
そう思って、両足を動かそうとした瞬間。
...動かなかった。
「……えっ?」
もう一度、動かそうとしてみる。
足先を動かしてみる。 ...動かない。
膝を曲げてみる。 ...ちっとも曲がらない。
脚を上げてみる。 ...まったく上がりそうにない。
全部、できない。
ぴくりとも動かない。
感触はある。シーツが触れているのも分かる。布の重みも、空気の冷たさも何となく感じる。けれど、“動かす”ということだけが、きれいに切り落とされたみたいに何も返ってこなかった。
「ちょっと……何でよっ!」
心臓がどくどくとうるさく鳴る。
...きっと何かの間違いだ。もう一度。
オレはもう一度、両足に力を込めて動かそうとする。
動かない。
「何で動かないのよ……!」
喉がひりつく。
頭の中の混乱が、また一段ひどくなる。
転生した。
女になってた。
今世の記憶も戻った。
でも両足が動かない。
そこでようやく、白い空間で自分が願ったことが頭をよぎった。
才能あふれる肉体。
――いや、全然叶ってないじゃねーか!。
少なくとも、今分かる範囲ではそうとしか思えなかった。
「ふざけてるでしょ……っ」
その瞬間だった。
《真白様。心拍数が基準値を超えました》
誰もいない部屋に、突然声が響いた。
「っ!?」
オレは本気で飛び上がりそうになった。
いや、脚は動かないから飛び上がれないんだけど、気分としてはそれくらいだった。
慌てて周囲を見回す。
誰もいない。
ドアは閉まっているし、窓際にも人影はない。
《落ち着いてください。生活補助用専用AI《メイ》です。バイタルチェックの結果、心拍数の上昇を確認したため、声をかけました》
平坦な女性の人工音声。
抑揚がなく、感情も感じ取れない。
いかにもAI、という声だった。
「あ……」
知っている。
《メイ》。
この部屋の生活補助用専用AI。
毎朝の起床管理から健康チェックまで担当している、真白専用の生活補助システム。
今世の記憶が、その名前と機能を自然に引き出した。
「……あんた、タイミング最悪なんだけど」
口から出た言葉に、自分でちょっとだけ呆れる。
今のも本当はもっと別の言い方をしたつもりだった。だが、やっぱり少しトゲのあるしゃべり方になる。
《申し訳ありません。ですが、安全確認は優先事項です》
声はあくまで平坦だった。
その無機質さが、逆にありがたかった。
ここまで色々ありすぎたせいか、オレの頭は一周回って妙に冷えてきていた。
転生した。これはたぶん事実。
今のオレは天城真白。それも事実。
前世の記憶と今世の記憶が混ざってる。これも否定しようがない。
それから、両足が動かない。残念だが、これも現実。
そこまで整理したところで、不思議と呼吸が落ち着いてきた。
《医療スタッフを呼びますか》
「いいえ。呼ばなくていいわ。
ただ、少し静かにしてて。今、頭の中を整理したいの」
《承知しました。緊急時以外の通知を一時停止します》
「そう。ありがと」
それだけ言って、オレはベッドの上で大きく息を吐いた。
静かだ。
さっきまではその静けさすら気味悪かったのに、今は少し助かった。
両足が動かないこと。
声がおかしいこと。
鏡の中の自分が美少女だったこと。
今世の記憶がちゃんとあること。
前世の記憶も消えていないこと。
全部一度に片づけようとしたから、余計にぐちゃぐちゃになったんだ。
だったら、一つずつ整理するしかない。
「……よし」
小さく呟く。
相変わらず、出たのは女の子の声だった。
「まずは順番に、記憶を整理するわよ」
また少し偉そうな言い方になった。
でも今は一端気にしないことにしよう。 ...どうしようもなさそうだし。
オレは目を閉じて、前世と今世、二つの人生を一つずつ頭の中に並べ始めた。
第二の人生の朝は、そうして静かに始まった。
裏設定:赤い女について
・服も身体もすべてが真っ赤な女性。
・丁寧で上品な話し方をするが、どこか相手を馬鹿にしているような気がする。
・好きなもの:混沌、足掻く人間
・苦手なもの:生ける炎
作者コメ
・みんな大好きとある神の化身。
・執筆した時に作者が見ていたもの:TRPG