【急募】なんか大変なことになったんだが?【解決策求む】   作:Ark’s

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マシロはゲーマーにクラスチェンジした!!

目を閉じて、オレは頭の中を一つずつ整理し始めた。

 

焦っても仕方がない。

混乱したまま喚いても、状況がよくなるわけじゃない。

だったら、今の自分が何者で、どんな場所にいて、何を持っていて、何を失っているのか。

 

そこから順番に確認していくしかなかった。

 

まず、オレは天城真白。九歳。日本人。

東京アーコロジー上層居住区で生まれ育った少女。

 

これは間違いない。

 

前世の記憶が戻ったことでぐちゃぐちゃになってはいるが、今世の記憶が消えたわけじゃない。

むしろ逆だ。思い出そうと意識を向けるほど、今まで当たり前すぎて考えもしなかった情報が、するすると浮かび上がってくる。

 

この部屋の構造。

 毎朝の流れ。

 生活補助AI《メイ》の声。

 ベッド脇の補助アームの操作方法。

 上層居住区特有の、清潔すぎる空気の感触。

 

全部、ちゃんと知っている。

そして次に浮かんだのは、自分の身体のことだった。

 

オレは視線を落とし、ベッドの上に投げ出された両足を見た。

細くて、白くて、見た目だけなら何の異常もなさそうな脚。

けれど、そこに“動け”と命じても、何も返ってこない。

 

今世の記憶を辿れば、理由はすぐに分かった。

天城真白は、生まれつき下半身不随だ。

 

事故でも病気でもなく、最初からそうだった。

歩いたことはない。走ったこともない。移動には補助チェアが必要で、それが真白にとっての普通だった。

 

知識として知った、というより、忘れていたことを思い出した感覚に近い。

 

「……それは、動かないわけだわ」

 

小さく呟いてから、オレはため息をついた。

 

突然脚が動かないことに気づいた時の混乱は、思い出した今でも胃が痛くなる。

今世の記憶があるなら本来驚くことじゃなかった。けれど、前世の“男として普通に立って歩いていた感覚”が一気に戻ってきたせいで、頭が追いつかなかったのだ。

 

脚が動かない。それが、今のオレの現実だった。

 

ついでに、もう一つ思い出す。

 

片頭痛持ち。

 

こめかみの奥を針で突かれるみたいな、あの嫌な痛み。昔から何度もあった。情報量が多い時、考えすぎた時、感情が乱れた時に起きやすい。医療スタッフからは体質だと説明されていたし、今世のオレもそういうものだと受け入れていた。

……受け入れていた、はずだった。

 

「はぁ……」

 

オレはシーツに身体を預けたまま、天井を見上げる。

 

脚は動かないし、しかも頭痛持ち。

これが“才能あふれる肉体”なのかと言われたら、少なくとも現時点では頷けない。

 

いや、頷けるわけがない。

 

白い空間で願った時、オレが思い描いていたのはもっとこう、単純に“すごく健康で運動神経もいい身体”みたいなものだった。

少なくとも、生まれつき脚が動かない身体は願ってないし、片頭痛もあるとは思ってもみなかった。

 

「……思ってたのと全然違うじゃない」

 

口から出た不満は、我ながら少しとげがあった。

でも今はそれくらい許してほしい。

 

オレは少しだけ視線をずらし、テーブルの上の手鏡を見る。

さっき確認したばかりの自分の顔が脳裏に浮かぶ。

 

天城真白の顔立ちは、昔から自分でも自覚があるくらい整っていた。

周囲の人間の反応だって、今世の記憶の中にちゃんとある。こちらを凝視しているのがまるわかりな視線。顔をそちらに向けただけで息をのむ音。そういうことが珍しくなかった。

 

前世の感覚と合わせて考えると、あれもたぶん“圧倒的な美貌”という願いの結果なんだろう。

そして“裕福な家庭”の方も、思い出していけば嫌でも分かってくる。

 

広い家。最上級の医療設備。専属の使用人と管理体制。

不自由のない生活。そして――莫大な資産。

 

そこまで辿り着いて、オレの思考は一度止まった。

心の奥に沈められていた記憶が、ゆっくりと浮かび上がってくる。

 

黒い服。重苦しい空気。大人たちから感じる重苦しい空気。

冷え切ってまるで氷を触っているかのように冷たい顔。

泣きすぎて熱を出した夜。もう二度と返ってこない声。

 

父さまと母さまは、事故で死んでいる。

それが、今世の現実だった。

 

「…………」

 

声が出なかった。

 

...知っていた。

知っていたはずなのに、前世の記憶が戻った混乱のせいで、一番大事なところが後回しになっていた。

 

父さまと母さまはもういない。

そして、その人たちが残した遺産と、天城家の莫大な資産だけが、オレの手元にある。

 

裕福な家庭。それは確かに叶っていた。

けれど、それにはあまりにも大きな代償が付随していた。

 

裕福だけど、両親はいない。

美しいけど、少しも素直に喜べない。

肉体は与えられたけど、脚は動かないし、頭痛までついてくる。

 

「……デメリットが大きすぎるでしょ」

 

ぽつりと漏らした声は、自分でも驚くほど静かだった。

 

笑うに笑えない。泣くにしても、もう少し情報が整理されすぎていて、逆に涙も出ない。

ただ、何とも言えない気持ちだけが残った。

 

願った内容は、確かに叶っている。

でも、オレが想像していたモノでは断じてなかった。

 

まるで、誰かがわざと捻じ曲げたみたいに、全部が少しずつ嫌な方へずれている。

そこまで考えて、オレは大きく息を吐いた。

 

「……まあ、いいでしょう」

 

自分でも驚くほど、投げやりな言葉だった。

でも、案外それが本音だった。

 

脚が動かないのは最悪だ。頭痛も鬱陶しい。

両親がもういないなんて、笑いばなしにもならない。

思ってた転生とはだいぶ違う。

 

それでも。

ちゃんと転生できたこと自体は事実だ。

オレは死んだ。なのに、今こうして生きている。

 

だったら、もうそれでいいじゃないか。

 

「思っていたのと違うけれど……まあ、転生はできましたし、別にいいわ」

 

そう口にすると、少しだけ肩の力が抜けた。

諦めに近いけれど、同時に、開き直りでもあった。

 

どうしようもない現実にぶつかったなら、文句を言い続けるより、さっさと飲み込んだ方が楽な時もある。

オレは補助チェアへ視線を向ける。

 

よし。

だったら次だ。

 

せっかくオーバーロードの世界に転生したんだ。

なら、やることは一つしかない。

 

「メイ」

 

《はい》

 

「移動補助、お願い」

 

《承知しました》

 

ベッド脇から補助アームが伸び、オレの身体を支える。慣れた動きでチェアへ移され、そのまま滑るように床を進んでいく。

向かう先は、自室の隣にある個人用のフルダイブルームだ。

 

今世の記憶の中では、学習や娯楽用に使われてきた専用設備。

前世のオレにとっては、まさに子供が想像するような未来の遊び部屋そのものだった。

 

オレは少しだけ気分を持ち直していた。

転生直後で混乱しているのは確かだ。でも、ゲームなら話は別だ。

 

オーバーロードの世界。フルダイブ環境。

だったらもう、あれしかないだろう。

 

「待ってなさいよ、ユグドラシル……!」

 

我ながら現金だと思う。さっきまで両親のことや身体のことを思い出して沈んでいたくせに、やりたいことが一つ見えただけでちょっと元気になっている。

 

けれど、その浮上はフルダイブルームに入った瞬間、あっさりと叩き落とされた。

 

端末を起動し、認証画面を開く。

個人メニュー。登録済みゲーム一覧。新作予告。関連企業の配信情報。

 

いろんなサイトやページを開くが、ない。

――ユグドラシルが、見つからない。

 

「……え?」

 

オレは画面を凝視した。

 

検索してみる。ヒットしない。

外部情報も漁ってみる。開発告知すら見当たらない。

さらに深く探っても、一向に見つからない。

そこでふと気づいた。

 

「もしかして……まだ作られてすらいないの……?」

 

メイが平坦な声で補足する。

 

《DMMO-RPG《YGGDRASIL》に該当する製品情報は現在確認できません》

 

「そんな馬鹿な話ある?」

 

《質問の意図が不明です》

 

「でしょうね……」

 

オレはその場で項垂れた。

 

思い出せば、原作開始よりずっと前だ。

 そもそもオレが今九歳なら、時間軸的にもまだ早い。

 

そこからさらに情報を漁って、追い打ちのように現実を知る。

今年は2123年。ユグドラシルがサービス開始するのは、三年後。

 

「三年後ぉ……?」

 

間抜けな声が出た。

 

三年。長い。長すぎる。

 

せっかく“オーバーロードの世界に転生した!”と盛り上がった直後に、目当てのゲームが影も形もありません、サービス開始は三年後です、はそりゃないだろ。

 

オレはしばらく無言で画面を見つめた後、深く深くため息をついた。

 

「……もういいわ」

 

やる気が一気にしぼんでいく。

 

転生は思ってたのと違うし、転生特典もデメリットだらけ。

おまけに一番楽しみにしてたものは、まだ存在すらしていない。

 

何なんだ、本当に。

 

ただ、腐っていても時間は過ぎる。

ユグドラシルが三年後なら、その三年をどう潰すか。答えは自然と決まった。

 

――ゲームだ。

 

どうせフルダイブ環境もある。金も使い切れないほど持ってる。

ユグドラシル以外にもゲームはたくさんある。だったら、遊べるだけ遊んで待てばいい。

 

そう開き直ってからのオレの行動は早かった。

 

三年間、ひたすらいろんなゲームをやり込んだ。

 

古い名作。最新の対戦ゲーム。協力型アクション。

経営シミュレーション。RPG。FPS。パズル。スポーツ。

ソロ用のマイナータイトルまで片っ端から手を出した。

 

最初は時間潰しだった。けれど、気づけば本気になっていた。

 

脚が動かない現実も、頭痛も、空っぽになった家の静けさも、ゲームの中にいる間だけは少し遠くなる。

勝って、負けて、やり直して、最適化して、徹夜して、叩き込む。

 

そうしているうちに、オレは立派に仕上がっていった。

 

そう――

 

三年後、ユグドラシルがサービスを開始する頃。

 

 

天城真白は、誰が見ても文句なしの廃人ゲーマーになっていた!!





作者からの補足
・マシロの切り替えの早さがとんでもないことになってますが、単にいろんな情報や現状を正しく認識しすぎたせいで、SAN値直送されただけです。 狂ってなきゃあの世界やっていけないと思うし。(特にリアル世界だと)
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