4つ全ての特別教室の探索を終えた一行は、校舎の屋上に向かっていた。
「屋上への鍵もしっかりあって良かったな。鍵が別であったり、そもそも屋上に上がれない構造だったりするからな。」
「確かに、まあ俺のとこは勝手に入ってましたけど。」
「その言い方、しょーくんも入ってた口?悪いんだー」
「まあ昔は...」
そんな雑談をしながら屋上への階段をのぼり、神田が鍵を開ける。
扉を開けた先に広がるのは西、東、中央棟全てが繋がった広い屋上だった。屋上へと上がることのできる扉があるのは中央棟のみだ。
「屋上には特に何も置かれていないな。掃除もされているようだ。見える範囲には貯水タンクのみ、柵に錆は目立つが、破損はしていない。あったとしても立ち入り禁止の表示くらいか...」
神田は一通り屋上を見渡したあと、中庭を見下ろす。
「特に異変はなし。特定の時間が関係している可能性もあるが、それが分からない以上当てずっぽうしか無理だな。関係のありそうな特定の時間は別のところに使いたいから現状では検証不可、別の機会にするとしよう。
...よし、降りるぞ。」
「あ、もう?」
「ん?特にやることも無いしな。坂上くんはなにかあるのか?」
「いやー、結構風強くて涼しいから涼んでいきたいなーって。」
「風...?...青山くん、感じるか?」
「え...ちょっと吹いてると思いますけど、涼しいって程でも...」
青山の返答を聞いた神田は指先を少し舐めて上に向けた。
「ふむ...私も特には感じんな。個人が感じる風...条件、体質、立ち位置...は違うな。ここは感じ方の違いでも無いと思うが...
坂上くん、感覚でいい、どのくらいの強さの風だ?」
「うーん結構強めだね。あっ、また来た。こう...びゅ〜っ!って感じ!?」
本人の説明に反して、青山と神田のふたりは風など感じないし、本人の長い髪も揺らいではいない。
坂上の言う強い風は、事実として吹いてはいない。
「う〜、ちょっと寒くなってきたかも?そろそろ降りよ〜。」
「ちょっと待ってくれ、その場で...よしいいぞ。降りるとしよう。」
神田はすぐにカメラを構え、坂上を撮る。
そしてそのまま屋上の扉へと向かっていくのだった。
道中確認した写真には、一見特に変なところは無かった。
しかし、写真に映る坂上の服や髪は大きく風になびいていた。
神田はその異常を認識しながらも、少し考え込むばかりで何かを言うでもなく階段へと歩いていった。
屋上から降りた神田は1度階段をおりて1階まで行った。
「いずれも13段。1階層26段分で3階層、中央棟のみ屋上も含めると4階分。普通の学校の構造とは変わりないな。
よし、登るぞ。」
「え、またですか?」
「疲れたなら残ってもらって構わないが、私たちはこのまま3階で他の検証に移るぞ。」
「い、行きます!」
青山はこれまでのちょっとした出来事の積み重ねによって完全に怖気付いてしまっていた。
「13...13...13...13...13...13...13...13...段数に変化なし。階層も同様。
3階に戻って検証を続けるぞ。」
神田の言葉で一行は3階に行き、女子トイレへと入っていった。
「え、俺も行った方がいいやつですか?」
「別に来なくても構わないが、私たちは気にしないぞ?」
「気にしないよ?」
「いや、なんというか男が女子トイレに入るのは犯罪臭が...」
「今更何を気にしているんだ。
...気にしなくていい。女子トイレへの悪意を持った侵入も罪状は建造物侵入罪。廃校に侵入するのと罪状は同じだぞ。」
「いや、なんの慰めなんですか...」
青山は女子トイレに入っていく罪悪感と、一人で外に残るという恐怖心を天秤にかけ、仕方なく縮こまりながら女子トイレへと入っていくのだった。
「3番目の扉を3回叩く。
花子さん、いらっしゃいますか?」
中から返事はない。
それを確認した神田が一切の躊躇なしに扉を開けた。
「「ちょっ!?」」
「至って普通の個室トイレ。掃除はされていないようだが、目立った汚れはなし。霊障のようなものは...見られず。」
神田はそのまま、少し引いてトイレ全体をカメラに収める。
「相変わらずオーブはあるが、それだけ。まあ3階にトイレはまだあるからそれぞれ試すとしよう。
...おっと、そろそろだな。」
「そろそろっていうのは?」
「あと4分で0時になる。中央棟3階の踊り場に鏡があった。反対側にもあったからひとりだと同時には難しいが...ふたりとも、反対側の鏡に向かって貰えないか?」
「反対側ね!りょ!」
「分かりました。」
「これが予備のカメラだ、持って行ってくれ。」
神田からカメラを受け取ったふたりは反対側の階段の踊り場に向かって歩き出した。
「神田さん、なんだかすごくイキイキしてますね。」
「そう?いつも通りな感じだと思うけど...」
「なんか今日ずっと喋ってないですか?普段からよく喋る人ではありますけど、考え込まずに、あんなにずっと饒舌なのは初めてなので...」
「あー、しょーくんはこういう大学外での検証初めてか。」
「どういうことです?」
「あーちゃんはね、外で検証している間ずっと映像を撮ってるんだよね。胸ポケットに小型のカメラ仕込んで。」
そう言われて青山は今日の神田の格好を思い出す。
「あー...言われてみれば、なんかあったような、なかったような。
それでずっと喋ってるんですね。」
「その時の情報を記録に残すと共に、あとから見返せるようにしているんだ。って言ってた!」
坂上がキリッとした顔をして神田の声真似をしたため、青山はつい吹き出した。
「ふはっ!似てますね!」
「おっ!やっと笑ったねしょーくん。いやーずっと表情が強ばってたから心配だったんだよ〜、りらーっくす。」
坂上に肩を揉まれながらそう言われ、なまじ自分の緊張を自覚していたが故に坂上の心配に対する罪悪感と感謝を感じずにはいられなかった。
「ふぅ...ありがとうございます、大丈夫です。」
「良かったぁ。ってやば!もうそろ時間!」
青山も自身の腕時計を確認し残り1分も無いことを知ると、ふたりして階段の踊り場へ向けて走り出すのだった。
「3、2、1、0。」
腕時計を見ながらのカウントダウンを終えると同時に鏡を凝視する。特に変化は見られない。
気になることをいえば、テンションの上がったカメラマンよろしく、大袈裟に動き回りながら青山の周りでシャッターをきり続けている坂上くらいか。
「いいよー、かっこいいよー!もうちょっと目を細めてみようか!ポーズでも決めちゃう!?」
気になると言うよりは、気が散ると言うべきか。
その後、神田から届いた1度合流しようというメッセージで、ふたりは元の場所に戻ってきた。
「戻ったか、そちらはどうだった?」
「特に何もありませんでした。」
「はずれー。」
「こちらもだ。条件が違うのか、それとも、そもそもそんな怪談は存在しないのか。まあこれに時間をかけて検証するのは少々もったいないな。いいさ、ダメで元々だ。次に行くとしよう。」
続いて一行は、体育館へとやってきた。
「ふむ、何の変哲もない体育館だな。片付けはされている。にも異変はなし、バスケットボールは残っていないな。やはり需要の問題か?楽器類が残っているのは使用予定の有無か...しかしバスケットボールも需要はあってもおかしくはないが...
まあ、今考えても仕方の無いことだな。」
体育館内でいくつか写真を撮って、一行は体育館を後にした。
「次はプールだが...正直望みは薄いな。」
「なんでですか?」
「長らく使われていないだろう上に、水も張られていない可能性が高い。万一張られていたとしても、不衛生すぎる上にこの格好で入る訳にも行かないだろう?」
「「確かに...」」
神田の説明にふたりが納得する。
なお坂上の方は水着でも持ってくればよかった!?とか考えていたりする。
話を聞いていない。不衛生だと言ったばかりなのに。
体育館の横にある部屋からプールの鍵を持ってきて扉を開ける。
「まあ、案の定と言うか。...いや、これはさすがに劣化が早過ぎないか?6年どころじゃないだろう。」
プールはひび割れ、腐食などの設備破損が目立つ酷い状況だった。もはや掃除などしたところで再使用など出来ないだろうことが素人目にも分かる。
「とりあえず劣化以外の異常はなし。劣化が早く感じるのは廃校以前から使われていなかったのか、あるいは別の要因か。まあ今考えても分からないな。」
その後一行はプールを後にする。そのままやってきたのは玄関口、そこで神田がふたりに話し出した。
「さて、これで今日検証のできる噂は終了だ。なにか気になることは?」
「あーしが保健室のとこで記憶飛んじゃったやつと...」
「その時に神田さんが誰かいないか叫んだ声に反応した声を聞いた気がします。気のせいかもしれないですけど...」
「ふむ...声か。後でカメラを見返すとしよう。
私からは美術室のデッサン人形が5つしか無かったこと、理科室の骨格標本が掃除用具入れに押し込められていたこと。まあこれらはイタズラだという可能性が高いと思うがな。
そして屋上で坂上くんだけが感じた風。あの時撮った写真がこれだ。」
そう言ってカメラの画面をふたりに向ける。
「髪が...!」
「なびいてる...」
「私たちはこの写真が今日、あの時に屋上の風がないタイミングで撮った写真だと証言は出来るが、今はそういう偽装の手段など幾らでもあるからな。証拠として提出できるものかは疑問だ。
ただ、私たちは霊障の存在はハッキリと確認できたと言えるだろう。」
まあ、霊障の存在自体は分かっていたことではあるがな、と続けて神田は話を締めくくった。
こうして分かりやすい成果が得られたとは言えないままだが、この廃校舎における学校の七不思議の検証は終了となった。
青山は、ようやく終わったということで大きく息を吐いた。途中坂上から緊張を解いてもらったものの、やはり恐怖心はそう簡単には拭えないらしい。
校舎を出て車に向かう道中で青山は無事に終えたという達成感を覚えつつ学校の方へ振り向いた。
「え」
その時見えたのは、神田が東棟と呼称した後者の屋上から身を投げ出す少女の影のようなもの。青山自身はそこまで目が良くないため普段であれば落下したものが何かなど分からなかったであろうが、何故かはっきりと見えた身を投げ出す直前の少女の顔が。
憎しみを抱きつつも助けを求めるような、様々な感情がないまぜになったような表情が、頭にこびりついて離れなかった。
そのことを車までの道中で2人に話すと坂上は目に見えて怯え、一方の神田は冷静に「戻ってカメラの映像を確認するとしよう。」とだけ言い、足速に歩を進めるのだった。
「ふ、ふざけるんじゃないぞ!」
帰りの車の中、神田がパソコンを操作しながら唐突に叫ぶ。
「ど、どうしたの?」
「胸ポケットに入れていた小型カメラの映像のデータが一切残っていない!これじゃあとんだ無駄足じゃないか!」
珍しく声を荒らげる神田をふたりで落ち着かせながら、一行は車を走らせて帰宅するのだった。
後日、神田による校舎の管理責任者への聞き取り調査によって、廃校となる1年ほど前に学校でいじめの被害者となった少女が、屋上から身を投げ出したという事件が怒ったという事実が明らかとなった。
当時少女は5年生、辛うじて学校には来れていたものの、保健室登校を利用していたらしい。
この話を聞いた青山は、5年生の教室がある東棟3階で聞こえた居るよ、という返事。坂上が無意識に導かれた保健室という場所。そんな彼女が霊障に巻き込まれた屋上。
そして最後の最後に目撃した少女の姿。
それらの関連性について、考えずにはいられなかった。