3期生の一泊二日観光旅行に同行した日から数日後。
ユウトは自宅にて、動画の配信を待っていた。
今回、3期生に同行はしたものの、編集には関わっていない。そのため、どのような動画が出来上がったかは、ユウトも初めて知ることになる。
普段なら、自身が関わった企画については、編集時点で事前に確認することが多い。
しかし今回のような場合、編集担当から「ユウトさんにも初見で見てもらった方が絶対面白いので」と言われ、毎回最終確認から外されている。
そのため、ユウトは毎度のことながら落ち着かない気持ちでリビングのソファに座り、テレビで配信サービスを開いていた。
テーブルの上には温かいお茶と簡単な茶菓子。部屋の照明は少し落としてあり、動画を見る準備は整っている。
問題点としては――。
「ねぇ、ユウト」
「……なんですか、すいちゃん」
「なんで3期生と旅行に行ったの?」
「企画です」
「ふーん……?」
左隣に座る星街すいせいが、少し頬を膨らませながら、ユウトの頬を指先でつついていること。
それと――。
「ユウトぉ」
「なんです、みこち」
「みこ、聞いてないにぇ。ユウトが3期生と温泉旅行なんて、ユウトから聞いてないにぇ!」
「僕も当日初めて同行することになったので……」
「でも結局、温泉旅行に行ったんだにぇ?」
「それは……まあ、はい……」
「ふーん?」
右隣に座るさくらみこも、すいせいと同じく頬を膨らませ、ユウトの右腕に抱き着いていることだった。
二人がユウトの自宅にいることに関しては、ユウトはすでに何も思っていない。
タレントたちが自分たちの自宅の鍵を渡してきた時に、「等価交換」と言われて強制的に合鍵を複製され、持っていかれたからだ。
そこから、ことあるごとにタレントたちはユウトが家にいるいないに関わらずユウトの家に入り込み、定期的に食事会や宴会、パーティーなどが行われている。すでにユウトの自宅の一室には、タレントたちの服や化粧道具などの小物が置いてある、着替え部屋のようなスペースまで用意されていた。
タレント単独でのお泊まりは何とか阻止しているものの、複数名でのお泊まり会は複数回行われている。
つまり、今さらみことすいせいが隣にいること自体は、ユウトにとっては日常の範疇だった。
ただし。
「あの、二人とも……?」
「なに?」
「なんにぇ?」
「僕の頬をつつくの、そろそろやめません?」
「やだ」
「やだにぇ」
「即答……」
誰かが自宅にいることは日常の範疇でも、両隣から頬をつつかれ続けるのは普通に落ち着かなかった。
みこは右腕に抱き着いたまま、右頬をつついたり、撫でたり、つまんだりしている。
すいせいはすいせいで、みこに対抗するように左腕に抱き着き、同じように左頬を触っている。
どうにか逃げようにも、左にはすいせい、右にはみこ。背中はソファで、正面はテーブル。
完全に退路がふさがれていた。
「あの……配信始まるんですけど……」
「そうだね」
「もちろん見るにぇ」
「じゃあ手を……」
「それと」
「これとは」
「別」
「別だにぇ」
「……そうですか」
ユウトが諦めたようにリモコンを操作すると、テレビに待機画面が表示される。
タイトルは『ホロライブ3期生一泊二日観光旅行! 全員で行く癒しの温泉旅』。
サムネイルには楽しそうに笑う3期生が写っており、なぜか端の方に、ミニバンの運転席で前を見ているユウトの横顔が小さく写っていた。
「……どうして僕がサムネに」
「旅行のメンバーだからじゃない?」
「ユウトはAちゃんやのどかちゃんと同じく、準ホロメン扱いにぇ」
「ホロメンじゃ……!」
「ユウトがいくら言っても、リスナーのみんなはそう思ってないんだよね。もちろん私たちも」
「えぇ……」
ユウトが困ったように声を漏らしたところで、配信の待機時間がゼロになった。
明るいBGMとともに動画が始まり、画面には旅行中の3期生の写真がテンポよく流れる。
次に、ミニバンの前で笑う五人の姿が映り、タイトルが表示された。
その時点で、ユウトの両隣から圧が少しだけ強くなる。
「すいちゃん?」
「なに?」
「近くないですか?」
「近いね」
「自覚があるなら……」
「それで?」
「……なんでもないです」
左腕に抱き着いたすいせいは、ユウトの肩に頭を預けながらテレビ画面を見ている。
右隣のみこも同じようにユウトの右腕を抱え込んでおり、こちらはいささか力加減を間違えているような気もした。
「みこち、ちょっと力が……」
「苦しいにぇ?」
「いえ、決してそんなことはないんですけど……」
「なら、このままでいいにぇ?」
「はい……」
ユウトはもはや諦める。
みこは満足したように笑みを浮かべると、すいせいと同じようにユウトの肩に頭を預けた。
画面の中では、事務所の駐車場に集まった3期生たちが映っている。
ぺこらがカメラに向けて元気よく手を振り、マリンがわざとらしくポーズを取り、ノエルが大きな荷物を抱えてそわそわし、フレアが苦笑しながら周囲を見ている。
そして、るしあは画面の端から歩いてくるユウトを見つけた瞬間、ぱっと表情を明るくした。
その瞬間、ぷにっとすいせいの指がユウトの左頬をつついた。
「……すいちゃん?」
「るしあ、嬉しそうだね」
「そうですね」
「ユウトが来た瞬間、すごく嬉しそうだね?」
「……まあ、旅行企画ですし」
「へぇ……?」
ぷにぷに。
今度は二回。
優しいけれど、確実に問い詰めているかのようにつつかれた。
すると反対側からも、みこの指が右頬に伸びてくる。
「るしあ、めっちゃにこにこしてるにぇ」
「楽しみにしてたんだと思いますよ」
「ユウトと旅行するのを?」
「3期生との、です……」
「多分それだけじゃないにぇ」
むにむに。
みこの指がユウトの右頬を軽くつまむ。
痛くはない。
痛くはないけれど、逃げられない。
動画の中では、ユウトが荷物を確認し、3期生たちと軽くやり取りをしている。
ノエルの大きな荷物に困惑し、マリンの荷物にツッコミを入れ、フレアの荷物の少なさに少し安心し、誰かから荷物を受け取るたびに表情を変えていく。
そのたびに、両隣の二人の指が微妙に動いた。
「ユウト、るしあの荷物、優しく受け取ってるね」
「皆さん同じように受け取ってます」
「でも、るしあ嬉しそうだよ?」
「それを僕に言われても……」
「ずるいにぇ! みこも荷物持ってもらいたいにぇ!」
「みこちは僕の家に来る時、ほとんど手ぶらじゃないですか」
「じゃあ、今度いっぱい持ってくるにぇ?」
「目的が変わってません?」
「変わってないにぇ!」
みこが満面の笑みで言う。
ユウトは、それ以上何か言えば墓穴を掘るような気がしたため、黙って画面に視線を戻すことにした。
動画はそのまま、助手席をめぐるジャンケンへ移る。
マリンが「助手席って誰が座るんですか?」と切り出した瞬間、動画内の3期生の空気が明確に変わった。
同時に、現実のリビングの空気も変わる。
「……助手席」
すいせいの声が少し低くなる。
「助手席……特等席だにぇ」
みこの声にも、どこか含みがあった。
「……一応、一応ですよ? 安全面とかいろいろ考えると、スタッフを乗せるか荷物を置く予定だったんですよ」
「でも、ジャンケンになったんだ?」
「……はい」
「ユウトの隣をかけて?」
「助手席をかけて、です」
「同じ意味じゃない?」
「違います!」
「違わないにぇ!」
両側から頬をつつかれる。
画面の中では五人が真剣な表情でジャンケンをしており、二回目でマリンが勝利した。
動画の中のマリンが、両手を上げて叫ぶ。
『よっしゃぁぁぁ!!! 助手席、船長が頂きましたあああ!!』
その瞬間、すいせいの指がユウトの左頬をむにっとつまんだ。
「マリン、すごく嬉しそうだね?」
「ジャンケンに勝ったので……」
「ユウトの隣、そんなにうれしいんだ?」
「助手席は景色もいいですから……」
「へぇ?」
むに。
反対側で、みこが右頬を軽く引っ張る。
「みこ、助手席座ったことないにぇ」
「あるじゃないですか。前に買い出しに行った時」
「あれは近所のスーパーであって、温泉旅行じゃないにぇ」
「それは……まあ、はい」
「すいちゃんは?」
「私もない。ユウトの運転で遠出したことはあるけど、旅行はない」
「そういえば、そうですね」
「……そういえば、スバちゃんがこの間ユウトに回収されてたけど、それは密着してたにぇ?」
みこの言葉に、ユウトの肩がわずかに跳ねた。
すいせいの視線がすっと横から刺さる。
「密着?」
「……タンデムだったので、安全上ある程度は」
「ある程度?」
「バイクなので」
「ユウト」
「はい」
「それ、今の説明で私たちが納得すると思った?」
「思ってません……」
「正直でいいにぇ」
みこがそう言いながら、ユウトの右頬をむにむにとつまむ。
すいせいも負けじと、左頬を指先で押している。
「3期生とは温泉旅行で」
「スバルとはバイクで密着」
「みこたちとは近所のスーパー」
「……二人も、かなりの頻度で泊まりに来てるじゃないですか」
「それとこれとは別にぇ」
「それに、すいちゃんたちと近所のスーパーとかしか行ってないのは事実だよね?」
「……はい」
「じゃあ有罪」
「有罪にぇ」
「判決が早すぎる……!」
ユウトは抗議するが、二人の頬をいじる手は止まらない。
画面の中では、助手席に座ったマリンがやけに姿勢を正し、ユウトがシートベルトを確認する場面に移っていた。
『助手席……座り心地いいですねぇ……!』
『まだ走ってませんよ』
『ユウトくんの隣というだけで、かなりのプラス補正がかかってますから!』
そのやり取りを見て、すいせいとみこがほぼ同時にユウトの頬をつまんだ。
「あの……」
「プラス補正」
「かかるんだにぇ?」
「ぼ、僕が言ったわけでは……」
「でも、否定してない」
「否定する前に話が進んだんです」
「なら、今否定するにぇ」
「……助手席はただの座席です」
「ほんと?」
「ほんとうにぇ?」
「……運転手からすれば、サポートしてくれる人がいると、とても助かる席ではあります」
「つまり特別」
「特別だにぇ!」
「どうしてそうなるんですか……」
ユウトは小さく息を吐く。
そんなユウトを置いて、動画はさらに進み、車内での自己紹介に移っていく。
マリンは助手席からテンション高く進行し、ぺこらが後部座席でけらけら笑い、ノエルが素直にお菓子を気にしている。
そんな中、るしあは話しながらも時折バックミラー越しにユウトの方を見ていた。
それが映るたび、みことすいせいの指が反応する。
『じゃあ、るしあはその通常運転、好きです』
動画の中のるしあがそう言った瞬間、リビングの空気が一瞬止まった。
ユウトはそっと目をそらそうとしたが、みことすいせいの指が両頬に添えられており、目をそらすことが許されない。
「ユウト」
「
「今の、聞こえてた?」
「
「好きって言ってたにぇ」
「
「で?」
「
「ユウトは?」
「
「そこじゃないにぇ」
「そういうことを聞いてるんじゃないの、分かってるよね?」
すいせいの指が左頬をつつき、みこの指が右頬をつまんでいる。
両側から同時に責められ、ユウトは完全に逃げ場を失っていた。
「るしあさんは、ああいう言葉を素直に言える方なので……」
「ふぅ〜ん?」
「それを聞いて、ユウトはどう思ったにぇ?」
「……正直に言えば、うれしいと思いました」
「ふぅぅ〜ん?」
「へえぇ〜?」
「……二人とも?」
ユウトが恐る恐る声をかけると、すいせいとみこは同時にユウトの頬から手を離した。
代わりに、左右からユウトの腕をさらにぎゅっと抱え込む。
「じゃあさ」
すいせいが静かに口を開く。
「すいちゃんが同じこと言ったら?」
「……え?」
「すいちゃんが、ユウトのそういうところ好きって言ったら、うれしい?」
すいせいの声は、いつものような軽さを残しながらも、少しだけ真剣だった。
すいせいは少しだけ頬を赤くしながらも、ユウトから目をそらさない。
「もちろん……うれしいです」
「ほんとうに?」
「はい」
「そっか……そっかぁ……」
うれしそうにつぶやくすいせいの指が、今度は頬ではなく、ユウトの手の甲をそっと撫でる。
そんな様子を反対側から見せられていたみこが、ムッと頬を膨らませた。
「みこは!?」
「え?」
「みこが言ったら!? みこがユウトのこと好きって言ったら、うれしいにぇ!?」
「そ、それは、まあ……うれしい、ですけど……」
「ほんとうにぇ?」
「本当、です」
「じゃあ、みこも言うにぇ」
みこはユウトの右腕に抱き着いたまま、少しだけ顔を近づける。
頬は赤いが、その目はまっすぐとユウトを見つめていた。
「ユウトのそういう、ちゃんとみこたちのことを見ててくれるところ、大好きだにぇ」
「……ありがとう、ございます」
「照れてる?」
「照れてません」
「照れてるにぇ」
「照れてません!」
「照れてる〜」
「二人とも、すぐそうやって……!」
ユウトが恥ずかしそうに言葉を濁すと、すいせいとみこは顔を見合わせて笑った。
だが、動画はまだ終わっていない。
画面の中ではサービスエリアに到着した3期生たちが、軽食コーナーやお土産を前に目を輝かせている。
ぺこらは串焼き、ノエルは肉、マリンはご当地ソフト、フレアは工芸品、そしてるしあはユウトにおすすめを選んでもらう約束をしていた。
『るしあは……ユウトさんが選ぶおすすめを食べてみたいです』
『僕が選ぶんですか?』
『はい!』
画面の中のるしあが嬉しそうに笑い、みことすいせいの視線は再びユウトに向いた。
「……おすすめ」
「選んだんだにぇ?」
「甘すぎないものを、です」
「すいちゃんはユウトに選んでもらったことないなー」
「みこもないにぇ」
「二人とも、食べたいものは大体自分で選ぶじゃないですか」
「ユウトが選ぶからいいんじゃん」
「そうにぇ! ユウトがみこたちのこと考えて選んでくれるのがいいんだにぇ!」
「……なるほど」
ユウトが頷くと、すいせいは左腕に抱き着いたまま、じっとユウトを見上げた。
「ねえ、ユウト」
「はい」
「すいちゃんたちとは、いつ旅行行ってくれるの?」
「……はい?」
「3期生とは行ったんだよね?」
「企画としてです」
「スバルとはバイクで密着したんだよね?」
「回収ですし、不可抗力です」
「るしあにはおすすめ選んだんだよね?」
「はい」
「じゃあ、すいちゃんたちは?」
「……日常的に家に来てるので」
「それはみんなもそうじゃん」
「……」
ユウトは黙った。
そんなユウトの右腕を、みこがさらにぎゅっと抱きしめる。
「ユウト」
「はい」
「みこも旅行に行きたいにぇ」
「……」
「近所のスーパーとかじゃなくて、旅行がいいにぇ」
「すいちゃんも、企画とかじゃなくて、ユウトとちゃんと旅行したい」
みこの声は拗ねたようでありながら真剣で、すいせいもユウトの手の甲を撫でながら静かに言う。
「別に、遠くじゃなくてもいいよ」
「日帰りでもいいにぇ」
「温泉じゃなくてもいい」
「でも、ユウトが運転してくれるのがいいにぇ」
「あと、行き先を一緒に選びたい」
「ご飯もユウトにおすすめを選んでほしいにぇ」
「助手席も座りたい」
「みこも座りたいにぇ」
「……要求が増えてません?」
ユウトが困ったように言うと、二人は同時に首を横に振った。
「増えてない」
「最初から全部にぇ」
「最初とは……」
ユウトは頭を抱えたくなったが、左右から腕を抱き込まれているため、それもできない。
画面の中では、3期生たちが楽しそうにサービスエリアを歩き回っている。映像の端には、彼女たちを少し後ろから見守っている自分の姿が映っていた。
自分で見ると、妙に落ち着かない。
だが、みことすいせいが少し寂しそうな目でユウトを見ていることの方が、今のユウトにはずっと落ち着かなかった。
「……分かりました」
ユウトが静かに言うと、みことすいせいの目が同時に輝く。
「ほんと?」
「ほんとうにぇ!?」
「はい。ただし、僕にも仕事がありますし、当然二人にもスケジュールがあります。なので、すぐに旅行というわけにもいきません」
「むぅ……」
「そこは現実的だにぇ……」
「まずは日帰りで、二人の予定が合う日を探して、どこか景色のいい場所に行きましょう。僕が運転しますので」
そこまで言った瞬間、すいせいの手に力が入った。
「ユウトが運転?」
「はい」
「助手席は?」
「行きと帰りで交代です」
「すいちゃんが行きで」
「みこが帰りにぇ!」
「そこは相談してもらって……」
「今決まった」
「決まったにぇ!」
「僕の意見は?」
「安全運転よろしく!」
「よろしくにぇ!」
「はいはい……」
ユウトが小さくため息を吐くと、みことすいせいは満足そうに顔を見合わせる。
しかし、そこで終わらないのがこの二人だった。
「ユウト」
「はい?」
「約束」
「約束にぇ!」
すいせいが小指を差し出し、みこも右側から同じように小指を差し出してくる。
ユウトはそれを見比べた。
「あの、二人同時にですか?」
「もちろん」
「もちろんにぇ」
「しょうがないですね……」
そう言いながら、ユウトは左右の手をそれぞれ動かし、二人の小指に自分の小指を絡めた。
「約束だよ、ユウト」
「破ったら、みこ怒るにぇ」
「怒るだけで済みます?」
「すいちゃんも怒るから」
「みこもすいちゃんも、約束を破ったらしばらくユウトの家に居座るにぇ」
「それはいつもと変わらないのでは……?」
「頬をずっとつつくし、まとわりつく」
「みこもずっとムニムニするにぇ」
「それは困りますね」
「じゃあ、守って?」
「守るにぇ?」
ユウトは、左右の小指に絡んだ二人の指を見て、それから小さく笑った。
「はい、約束します」
その言葉を聞いた瞬間、すいせいとみこの表情が柔らかくほどける。
すいせいは嬉しそうに笑い、みこはにへっと笑ってから、ユウトの右腕にもう一度ぎゅっと抱き着いた。
「やった」
「旅行だにぇ!」
「まだ日程も決まってませんよ」
「決めるところから楽しいんじゃん」
「そうにぇ! みこ、行きたいところリストから作るにぇ!」
「すいちゃんも作る〜!」
「二人とも、くれぐれも現実的な範囲でお願いします」
「大丈夫。すいちゃん真面目に考えるし、最後はユウトがまとめてくれるでしょ?」
「みこも真面目に考えるにぇ! だから、ユウトも一緒に考えるにぇ!」
「……はいはい」
左右から、くすくすと笑い声が聞こえる。
ユウトは小さくため息を吐いたが、その表情は困っているだけではなかった。
テーブルの上のお茶は少しぬるくなり、テレビでは3期生の旅行が続いている。
リビングには、動画のBGMと3期生の笑い声と、みことすいせいの小さな笑い声が混ざっていた。
ユウトは両腕を抱え込まれ、身動きが取れない状態で画面を見つめながら思う。
数日前、自分が同行した旅行。
その映像を見ながら、今度は別の旅行の約束をさせられている。
相変わらず、ホロライブにいると予定は自分の知らないところで増えていく。
けれど――。
「……日帰りなら、少し遠めの水族館とか、景色のいい場所もありですね」
ユウトがぽつりと呟くと、すいせいとみこが同時に顔を上げた。
「水族館?」
「景色のいい場所?」
「まだ決定じゃないですよ」
「今、候補出した」
「出したにぇ」
「……候補です」
「じゃあ、ちゃんと考えてくれるんだ」
「考えてくれるにぇ」
「約束ですから」
ユウトがそう言うと、すいせいは嬉しそうに目を細め、みこも満足そうに頷いて、もう一度ユウトの右腕を抱きしめる。
「楽しみにしてる」
「楽しみにしてるにぇ」
「……はい」
その返事は、少しだけ諦めたようで。
けれど、確かに穏やかだった。
画面の中では、3期生が笑っている。
画面の外では、みことすいせいがユウトの両隣で笑っている。
そしてユウトは、頬に残るつつかれた感触と、両腕にかかる温もりを感じながら、静かに動画の続きを見守るのだった。