ホロライブ事務所は今日も平常運転です   作:ダニエルズプラン

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歌姫が輝く日

 2022年の初夏。

 

 AZKiの生誕祭ライブが、少しずつ近づいてきていた。

 

 ホロライブ所属のタレント全員が、毎年行う恒例の生誕祭。

 

 誕生日を祝うための配信であり、ライブであり、祝われる本人にとっても、いつも応援しているリスナーにとっても、そして裏で支えるスタッフにとっても特別な一日。

 

 そんな中で行われる、AZKiの生誕祭。

 

 しかし、今年のAZKiの生誕祭は、いつもの生誕祭とは少し違っていた。

 

 AZKiがホロライブへ本格的に移籍してから行われる、初めての生誕祭ライブ。

 

 その事実はAZKi本人だけではなく、スタッフ側にも独特の緊張感を与えていた。

 

 もちろん、生誕祭が誰のものであったとしても、一切手を抜くことはない。

 

 ときのそらであろうと、白上フブキであろうと、IDやENなどの海外組であろうと、期生や国籍は関係ない。

 

 誕生日というものは、その人が年に一度、世界で一番祝われるべき日だ。

 

 ユウトはそう考えている。

 

 だからこそ、どのタレントの生誕祭であろうと、ユウトは本気で取り組む。

 

 本人がやりたいこと。

 

 リスナーが見たいもの。

 

 スタッフとして守らなければならない安全面。

 

 限られた時間の中で、タレント本人にのびのびと楽しんでもらうための構成。

 

 ゲストの立ち位置、音響、照明、カメラ、演出、MC、最後のコメントに入るまでの間。

 

 それらすべてを、その日誕生日を迎えるたった一人のために整えていく。

 

 それが、生誕祭というイベントに臨むユウトの心構えだった。

 

 だが、それでも。

 

 今年のAZKiの生誕祭ライブに対して、ユウトはいつも以上の熱量を持って取り組んでいた。

 

「桜井さん、この三曲目の照明パターンなんですけれど、A案とB案のどちらでいきますか?」

 

「A案でお願いします。ただ、サビ前だけ少し明度を落としてください。AZKiさんの表情が抜かれるタイミングなので、明るすぎると少し飛ぶ可能性があります」

 

「了解です」

 

「それと、すいちゃんとのデュエット部分はカメラ二番をメインに。そらさんとのパートは引きから入って、二人の距離感が見えるようにしてください」

 

「はい」

 

「ゲスト登場タイミングの確認はできてますか?」

 

「星街さん、ときのそらさん、どちらも確認済みです」

 

「本番前にもう一度確認をお願いします。今回は少しズレるだけでも印象が変わります」

 

 ユウトは机の上に複数の資料を広げながら、次々と確認事項を処理していた。

 

 手元にはセットリスト、カメラ割り、照明演出、ゲストの入り時間、ステージ上の動線、音源管理表。

 

 机の上には、赤ペンで修正を入れられた紙が何枚も重なっている。

 

 普段から仕事量の多いユウトではあるが、今回は特に目つきが鋭かった。

 

 淡々としている。

 

 しかし、淡々としているからこそ、付き合いの長い者には余計にユウトが本気なのが分かる。

 

 ユウトを見ていたAちゃんが、両手にコーヒーを持ちながら苦笑した。

 

「ユウトくん、今回はかなり気合入ってるね」

 

「全員の生誕祭に本気で取り組んでいるつもりです」

 

「うん、それは知ってるよ。ユウトくん、生誕祭が近づくといつもそうだもん」

 

「なら、今回も同じですよ」

 

「ほんとぉ?」

 

 Aちゃんは少しにやけた顔をしながら、首をかしげる。

 

 ユウトはそんなAちゃんに苦笑し、資料から目を離さないまま少しだけ間を置いた。

 

「……同じですよ。ただ、その上で今回はAZKiさんにとって大きな節目でもありますから」

 

 その言葉に、Aちゃんのにやけ顔が柔らかな笑顔に変わる。

 

「そっか……移籍して初めての生誕祭だもんね」

 

「はい」

 

 ユウトは持っていた資料を置き、パソコンに映るカレンダーを見つめて頷いた。

 

「AZKiさんは、これまでずっと歌で道を切り拓いてきた人です。今回のライブは、ただ誕生日を祝うだけではなく、AZKiさんが《ホロライブのAZKi》として、初めて開拓者の皆さんの前に立ち、歌う日でもあります」

 

「……うん」

 

「そんな日を、心に残る日にしたい。だから、僕にできる限りのことはします」

 

「ユウトくんらしいね」

 

「Aちゃんは分かってるでしょう? それが僕で、スタッフですから」

 

 ユウトはそれだけ言って、また資料に視線を戻す。

 

 ユウトはよく「スタッフだから」という言葉を使う。

 

 言葉はそれだけだが、その中にはいつも、ただの職務以上の熱がこもっている。

 

 タレントのため。

 

 リスナーのため。

 

 そして、その日、その瞬間にステージに立つ誰かのため。

 

 だからこそ、彼は今日も細かすぎるほどに準備を詰めていた。

 

「……でも、そんなスタッフさんに来客」

 

「来客……? 僕にですか?」

 

「うん。ほら、我らの歌姫がユウトくんを心配そうに見てる」

 

 Aちゃんに言われてユウトが視線を上げると、スタッフルームの入り口からAZKiがのぞき込んでいた。

 

 彼女はユウトと目が合うと、小さく手を振ってからスタッフルームに入ってくる。

 

 白を基調にしたステージ衣装ではなく、今日はリハーサル用の動きやすい服装。

 

 普段のステージ上で見せる凛とした雰囲気とは少し違い、どこか遠慮がちにユウトのことを見ている。

 

「ユウトくん……今、大丈夫?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

「やった……。じゃあ、少しだけ借りてもいいかな?」

 

「……大丈夫です」

 

 ユウトはAちゃんに視線をやり、Aちゃんが頷いたのを確認すると、資料を机に置いて立ち上がる。

 

 Aちゃんは両手に持っていたコーヒーを一つ手渡した。

 

「じゃあ、ユウトくんは今から休憩ね」

 

「了解です。しばらく任せますね」

 

「りょーかい、いってらっしゃーい」

 

 Aちゃんに見送られ、ユウトはAZKiとともにスタッフルームを出る。

 

 廊下にはリハーサル後の少しだけ緩んだ空気が漂っており、スタッフが機材を運ぶ音や音響チェックの声、どこかで誰かが笑う声が聞こえてくる。

 

 そんな中を、AZKiがユウトの少し前を歩いていくが、数歩進んだところで歩みを止めた。

 

「AZKiさん?」

 

「……こっち」

 

 AZKiはそう言うと、ユウトの袖を引っ張って、廊下の奥にある小さな控室へとユウトを導いた。

 

 普段は打ち合わせや休憩用に使われる部屋だが、今は誰もいない。

 

 中に入るとAZKiは扉を閉め、少しだけ息を吐いた。

 

 そして、ユウトの方に振り返る。

 

「ユウトくん」

 

「はい」

 

「五分だけ……五分だけでいいから、ここにいてくれないかな?」

 

「五分でいいんですか?」

 

「うん。本当はもっといてほしいけど、ユウトくん忙しいから」

 

 AZKiはそう言って、困ったように笑う。

 

 その笑みはステージで歌う凛としたものではなくて、少し弱くて、少し甘えていて、けれどそれを隠そうとしている笑顔だった。

 

 ユウトはそれに気づくと、腕時計を一瞬見てから少し悩んで言った。

 

「……AZKiさんが満足するまででも構いません」

 

「え、いいの……?」

 

「はい。何か、不安なことがあるんでしょう?」

 

「……分かる?」

 

「いつものAZKiさんとは違いますから」

 

「……ユウトくん、そういうところあるよね」

 

 AZKiはふっと笑うと、もう一度ユウトの袖を掴んだ。

 

「私ね、ちょっとだけ不安なの……」

 

「……」

 

「移籍して、初めての生誕祭だから」

 

 ユウトは話さない。

 

 話すことなく、AZKiの言葉を黙って聞いている。

 

「開拓者のみんなは、ちゃんと喜んでくれるかなって」

 

 AZKiの指先に、少しだけ力が入る。

 

「ちゃんとホロライブのAZKiとして、みんなの前に立てるかなって……。そう思ったら、少しだけ……怖くなっちゃったんだ」

 

 そう言うと、AZKiはユウトを長椅子に座らせ、隣に座ってからユウトの肩に頭をそっと預けた。

 

 ごく自然にだったが、決して誰にでも見せるわけではない仕草。

 

 ステージの上では歌姫として、ファンにも仲間たちにも凛とした姿を見せる彼女が、ユウトと二人きりの時だけ見せる、少しだけ幼い甘え。

 

 ユウトは一瞬だけ動きを止める。

 

 だがすぐに持っていたコーヒーを置き、空いた手でAZKiの頭を軽く撫でた。

 

「AZKiさんは、もう十分立っているじゃないですか」

 

「……そう、かな」

 

「はい」

 

 ユウトは静かに続ける。

 

「これまでAZKiさんが歌で道を作ってきたことも、今ここにいることも、全部AZKiさん自身が積み重ねてきたものです。それは、移籍したからといって突然変わるものじゃありません」

 

「うん……」

 

「でも、それでも不安になるなら、それはAZKiさんが本気で向き合っている証拠です」

 

「本気で?」

 

「はい。どうでもいいことなら、不安にはなりません」

 

 AZKiが少しだけ顔を上げ、ユウトを見る。

 

 ユウトはAZKiとまっすぐ視線を合わせ、いつもの調子で言った。

 

「本番のステージは、AZKiさんが歌うことで完成します」

 

「……私?」

 

「はい。照明も、音響も、カメラも、演出も、当日のゲストだって、全部AZKiさんのためにあります。僕たちはその準備をしますけど、最後にライブを完成させるのはAZKiさん、貴女です」

 

 AZKiは何度か瞬きをしてから、少しだけ頬を緩めた。

 

「ユウトくん、そういう言い方ずるい」

 

「ずるい、ですか?」

 

「うん。安心しちゃうもん」

 

「なら、よかったです」

 

「そういうところもずるい」

 

 AZKiはそう言いながら、またユウトの肩に頭を預けた。

 

 控室の外では、スタッフの足音が行き交っている。

 

 けれど、この小さな部屋の中だけは、少しだけ時間の流れが違っていた。

 

「ねえ……ユウトくん」

 

「はい」

 

「本番、見ててね?」

 

「もちろんです」

 

「最初から最後まで?」

 

「はい」

 

「それは……お仕事だから?」

 

 AZKiの指先が、ユウトの袖をもう少しだけ強く握る。

 

「……違います」

 

「じゃあ、どうして……?」

 

「僕が……僕が見たいからです」

 

「……そっか」

 

 AZKiは小さく笑った。

 

「じゃあ、頑張れる」

 

「AZKiさんなら、大丈夫です」

 

「うん。……でも、もうちょっとだけ、このままでいい?」

 

「リハーサルは大丈夫ですか?」

 

「うん、ちゃんと戻るから」

 

「なら大丈夫です」

 

 その言葉に、AZKiは満足したように目を細めた。

 

 AZKiはそこからほんの数分だけ、歌姫ではなく、一人の女の子のようにユウトの肩に寄りかかっていた。

 

 やがて、控室の外からAZKiを探すスタッフの声が聞こえてくる。

 

「AZKiさーん! 次のリハ、確認お願いしまーす!」

 

 AZKiはゆっくりと顔を上げた。

 

 さっきまで不安げだった表情は、もうない。

 

 代わりにそこには、ステージへ向かう、いつものAZKiの凛とした表情があった。

 

「行かなきゃ」

 

「はい」

 

「ユウトくん」

 

「なんでしょう」

 

「ありがとう……」

 

「いえ、僕は何も……」

 

「ううん。ちゃんと、助けてもらった」

 

 AZKiはそう言って、ほんの少しだけ照れたように笑う。

 

 それから立ち上がって扉へ向かうが、扉を開ける直前、AZKiはもう一度振り返った。

 

「……ちゃんと、見ててね」

 

「はい。最初から、最後まで」

 

「約束だよ?」

 

「約束します」

 

 AZKiは安心したように頷き、控室を出ていった。

 

 ユウトはその背中を見送ると、置いていたコーヒーを手に取る。

 

 コーヒーはすでに冷めていた。

 

「……冷めましたか」

 

 ユウトは小さく呟いてからコーヒーを一口含み、控室を出る。

 

 廊下の先では、AZKiがスタッフと話しながらリハーサルへ向かっている。

 

 その背中は、もう不安げではない。

 

 歌って道を拓いていく、いつものAZKiの背中だった。

 

 リハーサルはそこからも続いていき、ユウトも資料をまとめてリハーサルを見に来ていた。

 

 本番の舞台を模したステージ上では、AZKiがマイクを持ち、立ち位置を確認している。

 

 ゲストであるすいせいはすでに到着しており、軽く喉を鳴らしながらAZKiの隣に並んでいたが、いつの間にかユウトの隣へやってきて、ユウトの腕に自分の腕を絡めていた。

 

「ねえ、ユウト」

 

「はい、すいちゃん」

 

「AZKiとのデュエット部分、さっきのカメラ割見たんだけど、私たちの顔って結構抜かれる感じ?」

 

「はい。二人の歌の掛け合いは、ライブの見せ場の一つなので」

 

「ふーん。つまり、ちゃんと格好よく映してくれるってこと?」

 

「それはもちろんです」

 

「即答じゃん」

 

「今回の主役はもちろんAZKiさんです。ですが、ゲストのそらさんとすいちゃんが格好良く映らなければ、AZKiさんのステージも完成しませんから」

 

「……そういうところ、ほんとーにスタッフだよね」

 

「スタッフですから」

 

 すいせいは楽しそうに笑い、それからステージ上のAZKiを見る。

 

 AZKiはスタッフと話しながらマイクの高さを確認しており、その姿を見つめているすいせいの目は、普段の軽さとは違っていた。

 

「AZKi……ちょっとだけ緊張してるね」

 

「分かりますか?」

 

「分かるよ。歌う時はいつものAZKiだけど、歌う前、少しだけ息が浅いもん」

 

「よく見てますね」

 

「そりゃね。一緒に歌ってきた仲だし、よく見るよ」

 

 すいせいはそう言って、少しだけ口元を緩める。

 

「それに……AZKiにとって大事な日でしょ?」

 

「はい」

 

「じゃあ、私もちゃんと支えないとね」

 

「お願いします、すいちゃん」

 

「任せて、ユウト」

 

 すいせいは短くそう答えると、AZKiの方へ歩いていった。

 

 ステージ上で、すいせいがAZKiに何か声をかける。

 

 AZKiは少し驚いた後、すいせいの言葉に笑みを浮かべた。

 

 その笑顔を見ると、ユウトは微笑みながら手元の資料に小さくチェックを入れる。

 

 数分後、今度はときのそらがリハーサル室に入ってくる。

 

 そらは行き交うスタッフに軽く頭を下げ、ユウトを見つけると小さく手を振ってから小走りで寄ってきた。

 

「ユウトくん、お疲れ様」

 

「お疲れ様です、そらさん。入り時間、予定通りですね」

 

「うん。AZKiちゃんは?」

 

「今、すいちゃんと確認中です」

 

 ユウトがステージの方へ視線を向けると、そらも同じようにステージへ視線を向ける。

 

 AZKiとすいせいは、デュエット部分の立ち位置を確認しているところだった。

 

 その様子を見たそらは、少しだけ目を細める。

 

「AZKiちゃん、頑張ってるね」

 

「はい」

 

「ユウトくんも、すごく頑張ってる」

 

「僕はスタッフですから、スタッフとして当然のことをしているだけです」

 

「またそれ」

 

 そらはくすりと笑う。

 

「でも、今日のユウトくんはいつもより少しだけ力が入ってるね」

 

「Aちゃんにも同じことを言われました……」

 

「じゃあ、やっぱりそうなんだ」

 

「……まあ、確かにそうかもしれません」

 

 ユウトは少しだけ視線をそらして言うが、そらはそんなユウトを見て穏やかに笑う。

 

「大丈夫。AZKiちゃんのライブは、きっと素敵なものになるよ」

 

「はい。そうなるように準備を……」

 

「違うよ、ユウトくん」

 

「え?」

 

「もう、そうなることは決まってる」

 

 そらはステージを見ながら続ける。

 

 その瞳は、AZKiのライブが成功することに、一片の疑いも持っていなかった。

 

「だって、AZKiちゃんがいて、ユウトくんたちスタッフのみんながいて、すいちゃんや私もいる。みんながみんな、AZKiちゃんのライブを成功させるために動いてる。だったらきっと、大丈夫」

 

「……そららしいな」

 

「! え、えへへ……。そうかな?」

 

「ああ」

 

 周りに誰もいないことを確認したユウトが、少しだけ昔の口調に戻って笑う。

 

 そんなユウトにつられて、そらも嬉しそうに笑った。

 

 リハーサルは、慎重に進められていく。

 

 AZKiのソロ曲、すいせいとのデュエット、そらとの歌唱パート、途中のMC、そして最後のコメント。

 

 一つ一つを確認しながら、本番へと磨き上げられていく。

 

 AZKiは、歌い始めれば迷いがなかった。

 

 マイクを持ち、曲が鳴り始め、照明が彼女を照らした瞬間、彼女はステージの上に立ち、皆を魅了する歌姫となる。

 

 それを見て、ユウトは何度も頷く。

 

 ――大丈夫。

 

 あとは本番まで、この輝きを守ればいい。

 

 そうして、生誕祭ライブ当日。

 

 現場は朝から慌ただしく、ユウトも資料を片手にあちこちを走り回っている。

 

 ステージの設営確認、カメラ位置の最終調整、音響チェック、照明のテスト、配信映像の確認、ゲストの導線、スタッフの配置。

 

 そのすべてを確認しながら、ユウトは淡々と指示を出していく。

 

「桜井さん、照明の三番、少し暗く出てます!」

 

「交換は可能ですか?」

 

「……少し難しいです!」

 

「カメラ側で調整は?」

 

「できますが、少しノイズが出ます!」

 

「……なら照明側でどうにかします。AZKiさんの表情が飛ぶよりは、照明が少し暗い方が良いです。サビ前の切り替えだけ、手動で補正を入れてください」

 

「了解!」

 

「ゲストのチェックは?」

 

「星街さんの方は問題ありません! ときのそらさんが使用予定のマイクに、少しノイズが入っている可能性があります!」

 

「本番までに確認して、ノイズが入っていれば交換してください。予備は二本用意しているはずです」

 

「了解です!」

 

 スタッフたちが慌ただしく走る。

 

 だが、その中でユウトは声を荒げず、冷静に指示を出していく。

 

 静かな声で出されるユウトの指示には迷いがなく、現場のスタッフたちも走り回りつつ、的確に従っていた。

 

 ユウトの隣で各部のチェックをしていたAちゃんが、横からその様子を見て少しだけ笑った。

 

「ユウトくん、顔が本気」

 

「いつも本気です」

 

「そうだけど、今日は特別に本気だね」

 

「……はい」

 

 ユウトは否定しきれず、短く答えた。

 

 Aちゃんの言う通り、ユウト自身も気合が入っていたのは分かっていたからだ。

 

 Aちゃんはそれ以上からかわず、代わりにチェックを終えた資料を差し出した。

 

「こっちは確認終わり。すいちゃんとそらちゃんも待機済み。AZKiちゃんは控室」

 

「ありがとうございます。……では、僕はAZKiさんのところへ行ってきます」

 

「うん。最後、ちゃんと声をかけてあげて」

 

「分かってます」

 

 ユウトは資料を閉じ、ステージ裏の控室へ向かう。

 

 ドアの前に立つと、中から小さく息を整える声が聞こえてきた。

 

「AZKiさん、入っても大丈夫ですか?」

 

「うん……大丈夫」

 

 控室にいたAZKiは、すでにステージ衣装に着替えていた。

 

 白を基調とした衣装は照明を受け、控室の中でも、どこか淡く輝いているように見える。

 

 髪も整えられて、メイクも終わっている。

 

 そこにいたのは、ステージへ向かう歌姫だった。

 

 けれど、ユウトを見た瞬間、その表情は少しだけ柔らかくなった。

 

「ユウトくん」

 

「お疲れ様です。……本番まで、あと十分ほどです」

 

「うん」

 

「音響、照明、カメラ、ゲスト、すべて確認済みです」

 

「うん」

 

「何があっても、こちらで対応します」

 

「……うん」

 

「だから……だからAZKiさんは、歌ってください。貴女が歌いたいように」

 

 AZKiはユウトの言葉に、少しだけ目を見開く。

 

 しかし、すぐにふっと笑った。

 

「ユウトくんって、本当にずるいよね」

 

「なんでですか……」

 

「もう……分かってるんでしょ?」

 

「……はい」

 

「ふふっ……」

 

 AZKiは微笑むと、小さく手を伸ばしてユウトの袖をそっと掴んだ。

 

「行ってくるね」

 

「はい」

 

「見ててね」

 

「もちろんです」

 

「ちゃんと……私のことを」

 

 ユウトは少しだけ間を置いてから、静かに答える。

 

「最初から最後まで……全部見てます」

 

 AZKiは安心したように笑い、袖から手を離した。

 

 そのまま控室を出ると、ユウトが先導してステージ袖へと向かう。

 

 ステージ袖では、すでにすいせいとそらが待っていた。

 

「AZKi」

 

 すいせいが声をかける。

 

「今日は思いっきり歌ってきなよ。後ろは私たちに任せてさ」

 

「うん。ありがとう、すいちゃん」

 

 続いて、そらがAZKiの手をそっと握る。

 

「AZKiちゃん、お誕生日おめでとう。今日は、AZKiちゃんの日だよ」

 

「そらちゃん……ありがとう」

 

「だから……AZKiちゃんがいっちばん、楽しんでね」

 

「うん……!」

 

 AZKiは二人の言葉に頷き、それからもう一度ユウトを見る。

 

 ユウトは何も言わず、ただ小さく頷いた。

 

 それだけで、AZKiには十分だった。

 

 開演を告げる合図が入る。

 

 照明が落ち、ステージは暗闇に包まれる。

 

 配信画面には待機画面が映り、コメント欄には現地に来られなかった開拓者たちの祝福のコメントが流れ始めていた。

 

 カウントが進んでいく。

 

 5、4、3、2、1。

 

 AZKiの生誕祭ライブが始まった。

 

 最初の曲。

 

 暗闇のステージを歩き出したAZKiを淡い光が照らし出し、イントロが流れ始める。

 

 マイクを持ち、深く息を吸い込んで、AZKiは歌い出した。

 

 その瞬間、ユウトは静かに息を止めた。

 

 リハーサルでは何度も聞いた。

 

 何度も立ち位置や照明、カメラ割を確認して、画面越しにも、直接にも、何度もAZKiを見てきた。

 

 それなのに、やっぱり本番のAZKiはまったく違って見えた。

 

 ホロライブに移籍してから、初めての生誕祭。

 

 開拓者や、仲間たちに向けた歌。

 

 自分がこれまで歩んできた道と、これから歩んでいく道を示すようなステージ。

 

 どれを取っても、今の彼女は歌姫だった。

 

 そんなAZKiを、ユウトはスタッフとしてモニター越しに、時に直接見ている。

 

 ミスはないか。

 

 演出は予定通りか。

 

 カメラは抜くべき表情を逃していないか。

 

 頭ではずっと確認している。

 

 けれど、胸の奥では別の感情が、静かに膨らんでいく。

 

 ――ああ。

 

 徹夜で資料を整えた。

 

 演出会議では何度も意見を出した。

 

 細かな確認を積み重ねた。

 

 そして、AZKiが不安そうにしていれば、時間を取って、彼女の不安が消えるまで傍にいた。

 

 全部は、この瞬間のためだった。

 

 AZKiがステージの上で、満面の笑みを浮かべる。

 

 その笑顔を見た瞬間、ユウトはようやく実感した。

 

「これが見たかったんだ……僕は……」

 

 小さく息を吐く。

 

 隣にいたAちゃんが、それを聞いて少しだけ笑う。

 

 近くにいるスタッフも、ちらりとユウトを見て笑みを浮かべた。

 

「ユウトくん、今すごくいい顔してるよ」

 

 ユウトは画面から視線を動かさず、AZKiを見て笑う。

 

「嬉しいですから」

 

「……こういう時は、素直なんだよね」

 

 ライブは進んでいく。

 

 AZKiのソロパートが終わり、MCへ入る。

 

 誕生日への感謝。

 

 会場に来てくれた開拓者や、画面越しに見てくれている開拓者たちへの感謝。

 

 そして、ホロライブへ来てからの日々。

 

 その言葉は少しだけ震えていたが、決して弱いものではなかった。

 

 そして、最初のゲストとしてすいせいがステージへ現れる。

 

 ステージに出たすいせいは、いつものように自信に満ちた笑みを浮かべていた。

 

「AZKi、お誕生日おめでとう!」

 

「ありがとう、すいちゃん!」

 

 二人の声が重なるだけで、ステージの空気が変わる。

 

 すいせいがAZKiの隣に立ち、軽く肩を並べた。

 

 リハーサル通りの動きだったが、本番にはリハーサルにはなかった熱があった。

 

 AZKiとすいせいのデュエット。

 

 声がぶつかり、重なり、響き合う。

 

 すいせいの強くまっすぐな声が、AZKiの透明感のある歌声を引き上げる。

 

 AZKiもそれに応えるように、力強く歌っていた。

 

 カメラが、ユウトの指定した通り、二人を映していく。

 

 二人の顔だけではなく、並んで立つ距離感まで映す。

 

 その映像を見て、ユウトは小さく頷いた。

 

「……やっぱり、いいですね」

 

 曲が終わると、コメント欄は一気に流れていく。

 

 AZKiとすいせいが顔を見合わせて笑った。

 

 カメラはそれを逃さずに映す。

 

 ユウトはそれを見て資料にチェックを入れ、ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

 続くパートでは、そらが登場した。

 

 そらはAZKiの前に立つと、柔らかな声で祝福を告げる。

 

「AZKiちゃん、お誕生日おめでとう」

 

「ありがとう、そらちゃん」

 

 二人が並ぶと、ステージの空気は先ほどとはまた違うものになった。

 

 すいせいとのデュエットが星と星のぶつかり合いだとすれば、そらとの歌唱パートは、道の先に灯る光のようだった。

 

 そらの歌声は、AZKiの背中をそっと支える。

 

 前に出すぎず、けれど静かに隣にいる。

 

 AZKiはその声と一緒に、少しだけ安心したように歌っている。

 

 ユウトはその表情を見逃さなかった。

 

「一番カメラ、少し引いて二人の全身が入るようにしてください」

 

『了解』

 

「いいです。二番カメラはAZKiさんの顔を少しだけアップで」

 

 画面にAZKiの横顔が映る。

 

 少しだけ潤んでいる瞳と、それでも笑っている口元。

 

 そらの歌声に背中を押されながら、今この場に立っているAZKiの姿。

 

 その一瞬を、カメラは綺麗に撮っていた。

 

 曲が終わり、万雷の拍手が会場全体から響き、コメント欄は再び祝福の声で埋め尽くされていく。

 

 ステージ上のAZKiは、すいせいとそらに挟まれながら涙目で何度も頭を下げていた。

 

 その姿を見て、ユウトは思う。

 

 表に立つのはAZKi。

 

 光を浴びるのもAZKi。

 

 祝福を浴びるのもAZKi。

 

 それがAZKiではない他のタレントに変わったとしても、変わらない。

 

 それでいい。

 

 むしろ、それがいい。

 

 自分はその光の外側で、彼女たちが一番綺麗に輝くように動く。

 

 それが自分の役目で、自分がやりたいことだから。

 

 ライブ終盤。

 

 すいせいとそらが退場し、ステージには再びAZKiが一人残る。

 

 最後の曲を歌い終えた後、AZKiはマイクを両手で握り、話し始めた。

 

「今日は、本当にありがとうございました」

 

 その声は、リハーサルの時よりも震えていた。

 

「移籍してから初めての生誕祭で、正直、少し不安もありました……。でも、こうして歌って、みんなの歓声や、画面で見てるみんなのコメントを見て、そらちゃんやすいちゃん、スタッフのみんなにも支えてもらって……私は、今ここにいていいんだって、改めて思えました……!」

 

 ステージ袖で、そらがそっと目元を押さえる。

 

 すいせいは腕を組みながら、どこか誇らしそうにAZKiのことを見ていた。

 

 AZKiは笑っていた。

 

 目元に涙を浮かべながら、それでも確かに、嬉しそうに笑っていた。

 

「これからも、歌っていきます。開拓者のみんなと、ホロライブのみんな、支えてくれるスタッフさんたちと一緒に……! だから、これからも見ていてください!」

 

 その言葉の後、最後の挨拶が入り、照明がゆっくりと落ちていく。

 

 会場には再度万雷の拍手が響き渡り、配信画面のコメント欄には祝福と感動の言葉が流れ続けていた。

 

 AZKiの生誕祭ライブは、大きなトラブルもなく、無事に終了した。

 

 配信が完全に切れ、AZKiがステージ裏の観客席から完全に見えないところまで来た瞬間、ステージ裏には大きな拍手が起こった。

 

 スタッフたちが「お疲れさまでした!」と声を上げる。

 

 すいせいやそらがAZKiを抱きしめ、手を握る。

 

「AZKi、最高だった……!」

 

「AZKiちゃん、すごく綺麗だったよ……!!」

 

「ありがとう……ありがとう、二人とも……!」

 

 AZKiは泣きながら、それでも笑いながら二人に感謝の言葉を伝える。

 

 そんな三人の様子を少し離れたところで見ていたユウトは、手元の進行表に最後のチェックを入れた。

 

 終了。

 

 大きな事故なし。

 

 演出問題なし。

 

 ゲストの導線異常なし。

 

 最後のコメントは、予定より少し長めだった。

 

 だが、それでよかった。

 

 むしろ、あの言葉を削ることは、今この場にいる誰にもできなかった。

 

 ユウトが資料を閉じ、一息ついたところで、AZKiがユウトに気づく。

 

 AZKiはユウトの方に手を伸ばしかけたが、周りに人がいるからか、その手を引っ込めてしまった。

 

 しかし、すいせいやそら、それ以外のスタッフたちは、全員それに気づいていた。

 

 そそくさとスタッフたちは荷物の整理や片付けをするためにこの場を離れていき、すいせいとそらの二人は、AZKiの背中を押してユウトの前に連れていく。

 

 AZKiは顔を真っ赤にしながら二人に小さく抗議していたが、二人はにやにやと笑みを浮かべて聞く耳を持たない。

 

「ほら、AZKi。ちゃんと言ってきなよ」

 

「AZKiちゃん、今ならユウトくん空いてるよ?」

 

「す、すいちゃん、そらちゃん……!」

 

「ライブの主役なんだから、最後くらいわがまま言っていいんじゃない?」

 

「そうそう。今日くらいは、AZKiちゃんのしたいようにしていい日だよ」

 

 二人にそう言われ、AZKiはますます顔を赤くした。

 

 ユウトは何となく察して、少し困ったように笑う。

 

「AZKiさん」

 

「……はい」

 

「お疲れ様でした。大きなトラブルもなく、無事に終わりました」

 

「最初に言うの、それなんだ」

 

 AZKiは思わず苦笑した。

 

 ユウトは少しだけ首を傾げる。

 

「スタッフなので」

 

「うん。知ってる。ユウトくんは、そういう人だもん」

 

 AZKiはそう言ってから、一歩だけユウトに近づいた。

 

 まだ近くにはそらとすいせいがいる。

 

 だが、二人は少し離れた場所で、見守るように笑っていた。

 

「ねえ、ユウトくん」

 

「はい」

 

「今日、ちゃんと見ててくれた?」

 

「はい」

 

「最初から最後まで?」

 

「もちろんです」

 

「どうだった?」

 

 AZKiの声は少し震えていた。

 

 期待と不安と、ほんの少しの甘えが混じった声。

 

 ユウトは一瞬だけ言葉を選ぶ。

 

 そして、静かに答えた。

 

「すごく綺麗でした」

 

 AZKiは目を丸くする。

 

 それから、ゆっくりと頬を赤くした。

 

「……そういうの、急に言うのずるい」

 

「感想を聞かれたので」

 

「そうだけど……」

 

 AZKiは少しだけ俯く。

 

 それから小さく息を吸って、ユウトの袖をそっと掴んだ。

 

「じゃあ……今日は少しだけ、甘えてもいい?」

 

 ユウトはAZKiを見る。

 

 ステージの上では歌姫だった彼女が、今だけは少しだけ幼く見えた。

 

 不安を乗り越えて、歌い切って、祝福されて、それでもまだ少しだけ余韻の中にいる。

 

 そんな彼女が、自分にだけ見せる弱さと甘え。

 

 ユウトは静かに息を吐き、穏やかに答えた。

 

「……本番、頑張りましたからね」

 

「うん」

 

「少しだけなら」

 

「少しだけ」

 

 AZKiはそう言いながら、ユウトの袖を掴む手に少しだけ力を込める。

 

 ユウトは何も言わず、空いている手でAZKiの頭を軽く撫でた。

 

 AZKiは目を細め、少しだけユウトの腕に額を寄せる。

 

 その姿を見たすいせいが、そらに小声で囁いた。

 

「AZKi、かなり甘えてるね」

 

「うん。かわいいね」

 

「ユウト、ああいうところ本当にずるいんだよなぁ」

 

「すいちゃんも甘えたい?」

 

「……それは、今は言わない」

 

「今は?」

 

「今は」

 

 二人がそんな会話をしていることに、ユウトは気づいていなかった。

 

 AZKiはしばらくユウトの袖を掴んだまま、静かに言った。

 

「ユウトくん」

 

「はい」

 

「今日ね、ステージに立った時、少しだけ怖かった」

 

「……はい」

 

「でも、歌い始めたら、開拓者のみんながいて、すいちゃんとそらちゃんがいて、スタッフさんたちがいて……それで、ユウトくんも見ててくれるって思ったら、大丈夫だった」

 

「そうですか」

 

「うん。だから、ありがとう」

 

「僕は、僕の仕事をしただけです」

 

「それだけじゃないよ」

 

 AZKiは袖を掴む手に、もう一度だけ力を込めた。

 

「ユウトくんが見ててくれるって分かってたから、歌えたところもあるんだよ」

 

「……それは、光栄ですね」

 

「そこは照れるところじゃない?」

 

「照れてません」

 

「ふふっ、そういうところもずるい」

 

 AZKiは小さく笑う。

 

 ユウトも少しだけ口元を緩める。

 

 その後ろで、すいせいとそらも静かに微笑んでいた。

 

 誕生日を祝うためのライブ。

 

 その中心に立つのは、歌姫AZKi。

 

 光を浴びるのはAZKiで、拍手を受けるのもAZKi。

 

 けれど、その光の外側には、その瞬間を支えたいと願う者たちがいる。

 

 そらがいて、すいせいがいて、Aちゃんがいて、スタッフがいて、開拓者たちがいる。

 

 そして、ユウトがいる。

 

 ユウトはAZKiの頭を軽く撫でながら、今日一日を思い返す。

 

 全てのタレントの生誕祭に、本気で向き合う。

 

 それは仕事だからではない。

 

 彼女たちが、その日だけは世界で一番祝われるべき存在だからだ。

 

 そして今日、AZKiは確かに、誰よりも輝いていた。

 

「AZKiさん」

 

「ん?」

 

「改めて、お誕生日おめでとうございます」

 

 その言葉に、AZKiの表情が柔らかくほどける。

 

「ありがとう、ユウトくん」

 

 ステージの熱はまだ消えていない。

 

 会場の外では、きっと開拓者たちが今日のライブについて語り合っている。

 

 コメント欄にも、SNSにも、祝福の言葉が溢れているだろう。

 

 そのすべてが、AZKiのためにある。

 

 そのことが、ユウトには少しだけ誇らしかった。

 

 AZKiはしばらくユウトの袖を掴んだままだったが、やがて少しだけ顔を上げる。

 

「ねえ、ユウトくん」

 

「はい」

 

「来年も、見ててくれる?」

 

「もちろんです」

 

「その次も?」

 

「はい」

 

「ずっと?」

 

 その問いに、ユウトは少しだけ目を瞬かせる。

 

 AZKiは冗談めかして笑っていたが、その目は少しだけ真剣だった。

 

 ユウトは迷わず答える。

 

「AZKiさんが歌い続ける限り、ずっと」

 

 AZKiは一瞬だけ言葉を失った。

 

 それから、少しだけ泣きそうな顔で笑う。

 

「……やっぱり、ずるい」

 

「またですか」

 

「うん。すごく、ずるい」

 

 AZKiはそう言って、もう一度だけユウトの腕に額を預けた。

 

 ユウトは困ったように笑いながらも、それを拒まない。

 

 そらとすいせいは、少し離れたところでその光景を見守っている。

 

 ライブは終わった。

 

 けれど、この日の余韻は、まだしばらく消えそうになかった。

 

 AZKiの生誕祭。

 

 ホロライブへ来て初めての、特別な誕生日。

 

 その裏側で、ユウトは今日もいつも通り、スタッフとして走り回った。

 

 そして最後に、ステージの上で笑うAZKiを見て思った。

 

 自分が積み重ねてきたすべてが、あの笑顔に届いたのだと。

 

 そのために動いてきたのだと。

 

 そう思えたことが、何よりも嬉しかった。

 

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