学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
かつて世界は闇に覆われた。
魔獣、魔物、魔人族。総称して魔族、その全てを束ねた魔王と呼ばれる存在により、一度は人類が滅びかけたともいわれている。
だがそうはいかなかった。
そう。今じゃ定番、魔王がいれば勇者も現れたって訳だ。
話じゃ最初はそう強いわけじゃなかったらしいが、王道中の王道、仲間との研鑽を重ねて強くなり、ついには魔王を打ち倒した。
そうして世界に平和が訪れた。
残った魔族は掃討され、一部の知性をもつ魔人族などを除き大半はうち滅ぼされ、今人類は繁栄の最盛期を迎えている。
かつては魔族との戦い、人魔大戦のための戦闘員を作るためだった各国の魔術学院は、今じゃ貴族や金持ちの子、その箔付のために使われている始末。
じゃあそんな平和な世の中に生きるオレ、勇者の血を継ぐこのセラフィリア・スタンレイは、というと。
「よっ、エセ勇者!」
「あっ」
突如として背中に走った衝撃。
クラスメイトの男子たちがニヤついているのを横目に、迫る水面。
気が付けば体は池の中に沈んでいて、オレは大慌てで体をばたつかせる。
ひょろひょろの腕で必死に水をかくも体は浮かばない、どうにか胸元から取り出した杖を必死に振るい――
『――アクアジェット!』
杖から生まれた推進力。
猛烈な勢いを保つ杖を両腕で必死に抱き込み、オレはどうにか岸へと這い上がることができた。
「けほっ、こほっ」
や、野郎!
人を後ろから襲撃しやがって! ぶっ殺されてえのか!
くそ! あいつらの名前覚えてねえ!! 誰だっけ!
と、まあ見てのとおりである。
絶賛いじめられてます。
なにせ見てくれこの体、枯れ枝みたいにヒョロヒョロな体、筋肉どころか脂肪すらまともについちゃいない。
それに身長もちんちくりん。挙句の果てには体毛だ、髪からまつ毛に至るまで真っ白、なのに眼だけは真っ赤なもんだから最悪だ。
勇者の血を引くスタンレイ家、オレはその長女として生まれた。
そう、長女だ。女だ。だが男として育てられた。
勇者が女じゃ恰好が付かないだなんだといわれ、無理矢理にいろんな訓練を子供のころから叩き込まれた。
じゃあ強いのかって?
見てのとおり、でけえガガンボくらいのパワーならある。
いくら訓練をしても体力、筋肉がつかねえんだから仕方ねえだろ。
「……あ、負けてる」
ふと、オレは網膜に浮かぶ映像を見て内心舌打ちをした。
ゲーム。
魔王が滅びてから人類の発展はおありがてえほどに目覚ましく、その中でもやはり最も偉大な発明といえばゲームだ。
魔力を媒介し魔道具を動かし、画面上で動くコンテンツを追い続けるのがなぜこれほどにおもろいのか。
ゲームは本当に素晴らしい。体力がなくてどこかに行くのも一苦労、さらに勇者勇者とうるさく家にも居場所がないオレの唯一の救いだ。
だが一つだけ問題があった。ただのゲーム、されどオレのガガンボボディにはいささか重労働だった。
何がきついってまず、ボタンを押すのにも筋力がなさ過ぎて指先がいてえ。
そこでオレは魔道具をさらに改造、網膜に映像を投影し、さらに脳内イメージでコントローラーを操れるようにすることで、いつ何時でもゲームができるようになったのだ!
ちなみに授業中もほぼゲームしてるぞ! ついでに教科書の内容とかも網膜に映せるから、テストもカンニングし放題だぜ!
「ついてない」
くっそ、いいところだったのに!
三日もかけて攻略してたんだぞ! それが全部パーじゃねえか! 一からアイテム集めまでやり直しだ!
つか自動セーブ機能ホンマクソやわ!
オレの身体はあまりに貧弱すぎるが故、ちょいとしゃべるだけでも多大なる疲労を感じてしまう。
しかしここまで準備したものがまるきり不意になってしまったとありゃ、さすがのセラフィリア様といえどついつい愚痴を口にしてしまった。
渋々、のろのろと立ち上がりゆっくりと寮へと足を進める。
杖で全身へあたたかな風を送り乾かしつつ、しかしがっつり濡れてしまったので体の奥は冷えて自然と身震いが起こった。
こりゃさすがに風呂入らねえと風邪引く、下手に拗らせたら肺炎で死にかねんのでオレには一大事だ。
まあ町医者の回復魔術で治してもらえるのだが、なにせ家からはカスみたいな金しか送られてこねえので、それだけで今月自由に使える金がなくなっちまう。
つまりどういうことかって?
新作のゲームが買えなくなっちまうってことだよ! 年々クソほど値上がりしてるからな、フルプライズ高すぎだろ!
つかフルプライズなのにバグまみれだったり、未完成でアプデで一年とかホンマやめろよな! 大体最後のアプデまでに飽きて続けられねえんだから!
そして歩き続ける――なんてできるわけないんだなぁ~これが!
こちとら死にかけのガガンボより体力がないと評判のセラフィリア様だぜ! 五分歩いては地面に座って休憩に十分の繰り返しよ!
常人の五倍は時間をかけ、周囲が薄暗くなったころようやくオレは寮へとたどり着いた。
「遅い! 今何時だと思ってますの!?」
ちっ、めんどくせえ奴に捕まったな。
寮の前で腕を組み待っていたのは、長い金髪を揺らす気の強そうな女だ。
同じ学年、それどころか同じクラス、さらに言うと同室のお貴族ご令嬢様、カメリア・レッドエリカレス様である。
こいつぁ本当に面倒くさい奴なのだ。
まずやたらと絡んでくる。なんなら入学初日からオレのことを出がらしだの、鶏がらだのとあおり散らかした挙句、決闘をしたいだのとほざきおった。
もちろん断ったのだが、近頃はオレの生活にまで口をはさんできやがる。
「どうしてこんな遅くに帰ってきましたの!?」
ゲームしてたからに決まってんだろタコ。
「またいじめられていたのでしょう! 貴女は偉大なる勇者の血を引く人間、なぜそこまで侮辱されて何もしないのかしら! 貧弱、あまりに軟弱! 見ていて恥ずかしいですわ!」
言いすぎだろ!
この貧弱ガガンボボディをとっつかまえておいて! まああってるけどな! ワハハ!
「戦いなさいセラフィ!」
バン! と背後の扉をぶったたきカメリアが叫んだ。
おいおい今日はいつにもましてテンション高えなこいつ、今何時だと思ってんだよ常識とかねえのか?
全く困ったもんだ。この金髪、どうにも好戦的すぎて時々野生動物かと思う時がある。
あまりにカメリアが猿叫を繰り返すものだから、寮の扉があちこち開き、いったい何の騒ぎだとオレたちを見つめる連中が増えてきた。
勘弁してくれよ。オレはさっさと風呂に入ってゲームしてえんだ、連中の愉快な見世物はお前だけでやっててくれ。
あまりの面倒さにオレは、逆に小さく笑いを浮かべてつぶやいた。
「……人を傷つけるのは、苦手だから」
「――っ」
殴ったらオレの腕折れるし。
ガガンボ舐めんなよ?
カメリアは何も返さなかった。
何か言ったら面倒なのでオレは彼女をほっぽり、そそくさと自室へと足を運んだ。
まあどうせしばらくしたらカメリア戻ってくるんだけどな、同室だし。