学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「ク、クックック……少し焦りましたが、身体能力だけ元に戻せばいいだけの話!」
オレが内心さめざめと泣いていると、いつの間にか復活したロイドが震える腕で杖を振るった。
「これで問題はありませんねェ!」
ロイドは魔術をいじくったのだろう、今度は元気ピンピンの姿でこちらへ歩み寄る。
それは現実に存在しえない、健康体となり大地を駆けまわることができるオレの姿でもあった。
羨ましい。
もしオレがあの体を奪う魔術を覚えていたら躊躇なく乗っ取っていただろう。
禁術? 禁忌? うるせえ! 一度オレの身体になってから言ってみやがれ! 今ならあのロイドさんがオレの身体に変えてくれるぞ!
「逃げたいのならお逃げなさい。ただし、貴女を助けてくれる同級生の皆さんは既に転移魔術で避難済みですがねェ」
再びの高笑いが森の中に響く。
再び盛り上がり始める男のテンションと余裕な態度、オレはあまりの絶望感に打ちひしがれた。
そんな……嘘だろ……?
みんな、もうこの森にはいないってのかよ……?
「テラーベアが複数体現れたとなれば、未熟な学生の太刀打ちは厳しい! 教師たちからすれば当然の判断ですよォ!」
「そんな……」
オレはあまりの悲しみに泣き崩れた。
うわぁん! あいつらやっぱりオレのことほっぽかしてんじゃねえか!
ちょっとは心配してくれるかな? とか助けに来てくれるかな? なんて考えてたオレがバカだった!
クソクソクソクソ! やっぱりこの学院はクソや! カスどもがクソほど集ってるゴミ山じゃんねぇ!
「おやおや、貴女は涙すら美しいですねェ。ですがその泣き顔も、今日からはこのワタクシのものとなるのですよぉ……クックック」
怒り心頭のオレの前で、オレそっくりの顔をなでなでしながらなんか呟いてやがるロイド。
ハァ~、ホンマムカつくわァ。
ここから学院までどんだけ距離あると思ってんねん。見える範囲での転移魔術挟むとしても、疲労や体の負荷考えたら間違いなく二日はかかるぞ?
マジで涙が止まらない。
それに学院についた後も絶対めんどいことになる。教師どもの相手も面倒だし、何より絶対脚だの背中だの首だの、普段の百億倍はある運動によって酷使された体は、筋肉痛とこむら返りで破壊されつくされることが現時点で確定的に明らかだからだ。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
これなら大人しく今日は部屋でゲーム、もとい休息をしていたほうがマシだったじゃねえか。
いったいオレが何をしたというのだ!
オレは杖を握りしめ涙目でロイドを睨みつけた。
「クック、ここまで来てなおその諦めない闘志。勇者の血だからこそ成せるものでしょうか、実に素晴らしい!!」
すべてはこの目の前でイキってる胡散臭ぇ変態コピー野郎のせいで!
「それと、若い貴女に一つ教育をして差し上げましょう。戦場において肝要なのは効率、それは魔術とてそう変わりはしないのですよォ」
トン、と
サイズはこぶし大ほど。攻撃系の魔術としては最も基礎的なファイヤーボールだが、炎の輝きは透き通るような青の上に揺らぎが恐ろしいほど少ない。
一目見ただけでその技量がよくわかる、ここまでのレベルに至った魔術師は相当少ないだろう。
結界を襲う膨大な熱量が周囲の氷を溶かしていく。
木々が焼け焦げ地面が融解する中、オレは結界の中でロイドの魔術を観察していた。
イラつく物言いの上どうにも抜けた野郎だがやっぱりこいつ結構凄いんだよな。
うちの学院の教師陣でもこいつに勝てる奴は少ねえと思うわ、技量が圧倒的に高い。
「さて、あれだけの魔術を放ってさすがに魔力の限界も近いはず。その結界でどれだけ保てるでしょうかねェ」
ロイドはオレを嘲りさらに弾幕の密度を上げた。
もはや周囲に森の原型はない。すべてが吹き飛び更地と化す真ん中で、結界の内部だけはただ静謐を保っている。
ああいや、別に全然余裕だけど?
オレ人生で魔力切れとかしたことねえし、体力切れはいっぱいあるけどね(笑)
創造魔術と比べれば結界なんてカス未満の魔力消費しかしない。オレの身体が負荷に耐えられないのは瞬時の高出力、結界維持などは何百時間だって続けることが可能だ。
健常者のみなさんにはオレがその気になれば結界と創造魔術によって、誰一人オレを傷つけられない究極の引きこもりニートができるってことを理解していただきたい。
まあシンプルにずっと起きてるなんて疲れるからできないけどね!
だって少し動いたら疲れて眠くなるし、何なら今だって正直なところもうだいぶねむねむなんだぜ!
「んん、結構耐えますねェ……?」
「くっ」
「……クックック、さすがに堪えてきたようですねェ!」
……そろそろ十分かな。
何か奥の手でも持っているかと勘ぐっていたが特に出てくる気配がない。
それに一つ。基礎と技術を磨き続けることは言うまでもなく大事だが、同時に大技を扱わないということは魔力量に大きな制限がかかっている証左でもある。
要するにロイドの戦闘はモンスターを操りつつの軽い魔術による連撃がメイン、おそらくこれ以上に彼が脅威になることはないだろう。
さて、どうやってふんじばってやろうかな。
火力が高すぎる魔術だと殺しちまう。どうにもこいつはいろいろ情報を握ってそうだからな、捕まえて情報を吐き出させてやりたい。
……効率的な魔術、ね。
ま、たまには使ってみるか。
「ほう、まだ魔術を扱うつもりですかァ! いいでしょう、掛かってきなさい!」
杖を向けたオレをロイドが鼻で笑う。
オレは彼の言葉に耳を貸さず、ただその手に握られた杖の先端、誇示するようにはめ込まれた巨大な魔石へと狙いを定めた。
もっとも基礎的な魔術と言われれば、十人中九人が『ファイヤーボール』と答えるだろう。
魔力の属性変換、指向制御、そしてさらに技術を磨けばロイドの扱うようにメイン武器としても扱える。
だが最も単純な魔術と言われたら?
それはただ、魔力を放出するだけだ。
ただ一方向への放出、もはや魔術と呼んでいいのかすら分からない。
しかし単純、ゆえに――
「『
――最も速い。
予備動作は皆無。
魔法陣など不要、呪文も不要、極論無詠唱でも発動可能。
多くの場合はちょっと風が吹いた? 程度の威力しかなく、今日杖を握った子供でも扱える程度の魔術だ。
チュン、と小さな音がした。
その瞬間、すべてが瓦解した。
「……なに、を!?」
同時にロイドの背後、無数の火球たちが勝手にはじけ始めた。
追って砕け散った魔石が男の足下へと散らばる、コアが破壊されたことで魔術の制御が完全に失われてしまったのだ。
男はすぐにそれを悟り大慌てで自身の周囲へと結界を張った。
逃げる余裕はないと判断したのだろう、しかし杖を失ってなお即座に結界を張れるあたりさすがである。
同時にオレの杖から何かが地面へと転がった。
一点集中した膨大な魔力に耐え切れなかったのだろう、その先端はぐずぐずに焦げ煙を上げている。
あーあ。
やっぱ雑に創造した杖はだめだな、一回で壊れちまった。