学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「まさかまだ抵抗する魔力を抱えているとは……貴女、どうやら魔力量は上級の騎士や魔族すらも超えていそうですねェ……」
冷や汗をぬぐい結界から距離を取るロイド。
だがまだ逃げる気配がない。
ふーむ、まだ杖を隠し持ってるのか?
それともこっちも杖をぶっ壊したからまだワンチャンあると踏んでる? まあどっちでもいい、逃がすつもりはねえからな。
オレは全身を覆いつくすように結界を展開、ゆっくりと歩みを進めた。
地面が融けていてクソほど歩きづらい。無駄にドカドカファイヤーボールぶつけてきやがって、転んで肋骨折れたらどうしてくれやがる!
「――!? どうして、どうしてその貧弱な体でまだ動けるのですかァ!?」
後ずさりしながらロイドが叫んだ。
テラーベアの隷属、コピー魔術、そしてファイアーボールの連打によって彼自身にも相当の疲労がたまっているのだろう。
まあ一番疲れる原因はあのしゃべり方と無駄に大げさな身振り手振りだろうけど。
もう少し大人しいしゃべり方とか出来ねえの? 見てるこっちもお腹いっぱいなんだけど。
ほなオレも疲れていますか? と言われたら疲れてはいるけど動けないほどではない。
そもそも最初のブリザードブレス以降オレは低燃費な魔術しか使ってねえ。第一そんな好き勝手魔術使えば速攻で喉だの腕だのがボロボロになるもんでな、ほぼ防御と観察に専念していた。
今の感じならあと二分は動き回れるぜ!
や、本気で頑張れば追加で一分は行けるね!
「あ、あり得ない……ふざけるなっ! その体で数分活動したらわかる! 生きているのが奇跡みたいなカスボディに絶望するはずゥ!」
「ロイド」
オレのかわいらしいお身体を勝手にコピーしやがったくせ、相も変わらず繰り返し侮辱しやがるエセ仮面野郎。
仕方ない、偽物のオレにそろそろ本物としての『格』の違いを見せつけてやるか。
オレは少し胸を張り上げ――あっ、今ぱきっていった。やべやべ――じわっと痛みが来たので少し前かがみになり、杖を差し向けて声を張り上げた。
「――貴方の前にいるのは、十五年生きたセラフィリアだ」
この体に絶望するのは十五年間で済ませてんだよ!
……嘘をつきました。少しだけ、ほんのちょっとだけ今も嫌だなぁって思ってまぁす!
オレのあまりに凛々しく壮大な宣言に、恐れ戦いたロイドは目を見開く。
クックック、随分恐怖しているようですねェ! これが本物のセラフィリア・スタンレイ様の実力ですよォ!
無駄にしゃべり散らかしたり動き回ったり、そんなことしてたらあっちゅうまに体力は尽きる! 常識ですねェ!
この体をどう扱うかこそが肝要! 突如降って湧いたうさんくせえ仮面野郎では決して! 決して到達しえない貧弱の王としての手練! 力量に怯えるといいですよォ!!
「くっ、ならば」
「『ザ・クリエイション』、『
安物の杖程度の創造ならば負荷も少ない。
やはりというべきか、隠し持っていた短杖を、こちらも対抗で生み出した杖によって速攻で撃ち落とす。
「ぐぁっ!?」
「ロイド、降伏しろ」
「……ありえない……このワタクシが……」
ついにロイドの動きが止まった。
抵抗が無駄だとあきらめたのだろうか、両手をゆっくりと上げ完全に降伏の姿勢だ。
素直で助かるぜ。
こいつには聞きたいことがいくつかあるからな。まあ別に聞き出さなくてもいいっちゃいいけど、他人をいたぶる趣味はあいにく持ち合わせてねえ。
オレよりザコいやつをゲームでボコすのは大好物なんだけどよォ!
ロイドは腕を上げたまま膝をついた。
「クックック、お気づきですか?」
しかしオレがその傍らにまでたどり着いたその瞬間、奇妙なことに彼は再び笑い始めた。
「実に良いご友人をお持ちですねェ。カメリア・レッドエリカレス、さすが辺境伯のご令嬢だ。この若さで勇敢さと義理堅さを持ち合わせているとはァ」
……あん?
まさかカメリアに何か仕込んだのか? いや、そんな余裕はなかったはず。
ロイドが操っていたのはあくまで訓練用のゴーレムのはずだ。
さすがにこのレベルの術師と言えど、カメリアに一切接触せず何か魔術を仕込んでおくことなど不可能なはず。
記憶を操作した? それとも透明化などの姿隠し? それならさっきの戦闘で使ってこない理由がねえ、命がかかってるんだからな。
「感知能力は弱いようですねェ? 膨大な魔力を身に抱える分、弱い魔力はかき消されてしまうのでしょうかァ?」
「……なにが」
「クックック。勇者の血筋には、勇を持つ者が集まるということですよォ。世の中ではそれを――」
地面を蹴り、オレの名を呼ぶ声が遠くから聞こえる。
おいおい、マジか。
嘘だろ? 全員退避したって話じゃなったのかよ!
「……ラフィリア、セラフィ! こちらにいるのでしょう!? どうか声を上げてくださいませ!」
薄暗い森の中、目立つ金の髪を持つ少女が剣を片手に現れた。
「蛮勇、というのですがねェ」
「っ、カメリア」
カメリア・レッドエリカレス。
オレのクラスメイトにして同室の少女だ。
すべての生徒、教師が複数体現れたテラーベアの危険性から退避した中、どうやらあの少女は一人この森を散策して回っていたらしい。
いや、まさかロイドが何か仕込んでいたせいか?
「ご安心を、もうワタクシは魔術を扱えませんから」
振り返ったオレにロイドは首を振る。
しかしその顔にはどこか再びの余裕が浮かんでいた。
野郎、まだ何か企んでやがるのか。
魔術は使えねえって宣言も信用は出来ねえ、でも杖は流石にもうないのは間違いねえ。
いったい何を……!?
「だがしかし、この容姿は十分に使えますねェ」
「セラフィが……二人!? ど、どういうことですの!?」
ついにカメリアがオレ達の元へとたどり着いた。
その瞬間ロイドが立ち上がり、素早くカメリアの元へと駆け出す。
人質? いや、奴の顔にはいったいいつの間にか、ぼろぼろと大粒の涙を浮かべていやがる。
なんて演技上手な野郎だ。おおかた散々いろんな人間を真似てきやがったのだろう、その演技力はさながら劇場の大女優ばりだった。
ついにカメリアの元まで寄ったロイドは彼女へ飛びかかるように抱き着く。
はたから見ればなるほど、か弱い少女がようやく表れた仲間に喜び駆け寄った姿なのだろう。
目を真ん丸にしたカメリアは、おずおずとロイドを抱きかかえその姿を上から下まで眺める。
「助けてカメリア! 偽物に姿を真似られてる、相手は魔族なの!」
「――そういうことですのね」
すらり、と彼女が白銀の剣を抜いた。
暗い森の中でもその剣は神秘的な輝きを湛えている。
彼女の黄金の瞳が、す、と怜悧に細まる。燃えるような怒り、そしてそれを覆い隠すような冷たい感情が視線から溢れていた。
そしてカメリアは握った剣の柄を――
「死になさいこの偽物ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ロイドの頭蓋骨へと叩き込んだ!!
「グアアアアアアッ!?!? な、なぜ気付いた!? ワタクシの魔術は完璧なはずなのにィ!?」