学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「グアアアアアアッ!?!? な、なぜ気付いた!? ワタクシの魔術は完璧なはずなのにィ!?」
無言の柄ラッシュが叫ぶロイドの顔面を襲う!
なんて容赦のなさだろう。すさまじい淑女力だ、辺境伯のご令嬢はなんと瀟洒な女性なのだろうか。
「完璧……ワタクシの……魔術……は……」
「――セラフィはね」
無限のラッシュでタコなぐりにされたロイドを見下し、少し息を荒げたカメリアが剣を鞘へ戻す。
彼女はゆるりと顔にかかった髪を払いのけ、男を見下して冷たく言い放った。
「セラフィリアはね、走れませんし、助けなんて求めませんし」
「あ、ぇ……?」
「自己犠牲に満ちていますし、長々と大声でしゃべる体力はありませんし、やる事全部が滅茶苦茶慈愛に満ちていなくてはなりませんの」
走れるよ!
ちょっとくらいなら! 二十メートルくらい! ……や、十メートル、ううん、五メートル……三メートルくらいなら余裕だね!
あと少しくらいなら大きい声も出せるよ! 耳元で聞こえる蚊の羽音くらいの音量!
「な、なんだこの女!? 意味わからないことを言って、く、狂ってる……頭がオシャカなのですかねェ!? に、逃げなくては……!」
「ダメダメダメダメ! 貴方はここで捕まらなくてはなりませんわ……下らない企みを抱える偽物は生かしてはおけませんもの」
「ひぃぃ……やはり人間はクソですねェ……!?」
まあ人間がクソなのだけは同意するわ。
あと捕まえるんじゃねえのかよ、生かしておけないなら殺す気じゃねえか。
鞘でロイドをばっこんばっこんシバキ上げるカメリア。
やはりというべきか、ゲームさながらモンスターテイマーというのは近接戦にクソほど弱いらしく、情けない声を上げながら丸まり、自分よりはるか年下であろう少女にやられるがままだ。
な、なんて情けない姿……。
で、でもオレだけはお前の強さを知ってるから! お前は本当にすごい奴だぞロイド・ロイド・ロイド!
魔力の制御も高度な術の運用も効率もぴか一だ! 誇れロイド、オマエは強い!
「それでセラフィ、この方は何者ですの?」
カメリアが男の首元へと切っ先を押し当てこちらを振り向いた。
ロイドは絶え間ない冷や汗をたらし、オレへ媚びるような視線を向けていた。
こいつの正体を推測する情報はいくつかある。
まず第一に扱う杖と魔術。杖は古臭く戦闘特化、そして大々的に使うことはまずありえない禁術。
最初こそ暗殺者の類かと考えていたのだが、いじめられどあれ暗殺までされるような大罪を犯した記憶は一応ない。
次にやたらと勇者の血にこだわる点。
禁術師故に何やら怪しい術にでも血を使いてえのかとも考えたが、カメリアに駆け寄ったときに漏らした単語で一つの推測が確信に近づいた。
『助けてカメリア! 偽物に姿を真似られてる、相手は魔族なの!』
ま、そういうこった。
「――魔人族」
「っ!? まさか!」
ここで魔族について説明しよう。
魔族ってのは一種族じゃねえ、複数の種族の総称だ。
先ほどのテラーベアを主とする動物の変異した魔獣、純粋に魔力によって生まれた魔物――スライムとかドラゴンもこれ――、そして人型であるがオレ達人類とは姿かたちの異なる魔人族。
魔人族は特に細かい、この中でもさらに細分化されいろいろ意味の分からん種族も多いが、やはり多くはかつて魔王と協力して人類と対立、その大半は人類各国の協力によってうち滅ぼされたといわれている。
さらに魔人族の中でも人類に協力したやつとか、知らんぷり決め込んだ奴らもいてまあなんとも面倒なのだが……オレ達が暮らすこの国、グロリア王国にはまあいない、はずだった。
「貴方、魔人族ですの?」
「クックック……さて、ね」
意味深に笑うロイド。
戦闘は終われど男の不敵な態度は崩れない。
それはしょせん小娘程度に命は奪えまいとの余裕か、それともすでにその程度の覚悟は済んでいるからなのか。
ここからは交渉が必要だ。
交渉術。
外交において重要視されるそれは、時に相手の弱点であり、時にあえてさらけ出した弱点であり、時に互いの妥協点を探りあうための技術である。
だがこの場において交渉術とは、拳であった。
カメリアのパンチが炸裂した!
「貴方、魔人族ですの?」
「………………く、クックック」
カメリアのパンチが炸裂した!
「貴方、魔人族ですの?」
「ふ、ふぁい!」
こうか は ばつぐんだ!
ろいど は くちをわった!
圧倒的パワーを持つデス・カメリアのFATALITY交渉術によって話はつつがなく終わったようだ。
あー……面倒くせえことになったな。
オレは結界の中から二人の
ただの暗殺者ならよかったが、勇者の血筋を狙って魔人族が動き出したとなれば話が大きく変わってくる。
や、別にオレが殺されるとかじゃなくてね? 家族が危険とかでもなくてね?
だってオレ
……単純に企てだの裏での動きだのがホンマに面倒だから嫌いなんだよ! 思えばなんか最初にこいつ出てきた時あの方……みたいな意味深匂わせしてたよな? 魔王じゃね? これ魔王じゃね!? 魔人族が従ってるとか絶対魔王だと思うんですけど(名推理)
オレはただゲームしてのんびりしてたいの! いいからそういうの! 企みとか影の存在とかそういうのホンマいいから!
かぁ~めんどくせぇ~~!
「この話は、彼もいっしょでいったん学院に持ち帰るべきですわね」
「……たいへん」
「大丈夫! 貴女はワタクシが『守護』りますわッ! 何が何でも!」
さて、これからどうしたもんか。
まず学園に持ち帰るもくそも、こっから歩くなんてなったら何日もかかっちまう。
そこまでロイドを運ぶってのは面倒だし、何よりここまでレベルの高い術師だ、たとえぐるぐる巻きに縛ったところで何されるか分かったもんじゃねえ。
思案しつつ、二人の元へぽてぽてと歩み寄ったオレだったが――
「――伏せて」
「きゃっ、なっ、なんですの!?」
間髪入れずに張られた天への結界、同時に影がオレ達を覆い巨大な脚が空から強襲してきた!!
「――ドラゴン」
猛烈なはばたきに生み出された風がオレ達を薙ぐ。
軋む鱗が太陽の光を受け歪に輝く。
その瞳だけでオレの顔ほどはある巨大な神話生物が、灼熱の息を吐きオレ達を睥睨した。
うお、本物初めて見たわ。
初代勇者がむしり取ってきた鱗と頭蓋骨ならうちの倉庫に転がってるんだけどなぁ。
カッケェ……やっぱ雷と龍属性弱点だったり頭とか弱点特効効くんかな?
というか今更なんすけど龍属性ってなんなんスか?
「そんな! 強大な魔物の大半は打ち滅ぼされたはずじゃ!?」
結界の横で少女が叫びをあげた。
カメリアの言葉も当然、龍どもなんて強大な存在の大半は各国の連携によって討伐されたはず。
たとえ馬車で移動してきたとはいえ、これだけ首都に近い場所に現れていい存在じゃない。
まさか物語の中だけだと思っていたのにこの目で実物を見れる日が来るとは……このごみみてぇな遠征も来る価値があったぜ!!!
オレはロマンの塊を感動しながら見ているとドラゴンさんは雄々しい雄たけびを上げ、見せびらかすように天へと極大の火炎を吹き上げた!
きゃー! ファンサしてーっ❤ ブレス! もっとブレスしてーっ!
あっあっ、目に砂入ってめっちゃ痛い!
結界結界! 全体に結界! あっあっあんまり咆哮連打しないで音圧きっちぃ……心臓に悪い……耳も痛い……くるちぃ……。
「クックック助かりましたよリント嬢、やはり来ていたのですねェ」
オレが心臓の痛みにうずくまっていると、ドラゴンに鷲掴みされたロイドがあっという間に空に舞っていく。
チッ、あいつ仲間とかいるタイプかよ。
『劣等種が調子に乗ってもうまァ! このまま地面にたたき落としてもよろしくってよ! オーッホッホ!』
「ぐあああっ! 爪! 爪食い込んでいますねェ!?」
……仲間か? 本当にアレ仲間か?
というかドラゴンがしゃべってる!? ドラゴンって喋るの!? うおおお! ドラゴンオレとお話ししてくれーっ!!
「待ちなさいっ!」
「だめ」
勇ましくも剣を掲げた少女が駆けだすも、ぎりぎりでその制服の端をつまみ上げたオレの静止に彼女は足を止めた。
やー、無理っしょ。
そもそももうあんな遠く言っちゃってるし、というかゴーレムに負ける程度じゃ征伐隊組まれるレベルのバケモンには太刀打ちできねえよ。
……ま、たった一人でここまで来てくれたのはぁ? 別にいてもいなくても変わんねえとはおもうけど……まあ、ちょっとだけ? うれし、嫌じゃなかったっていうかぁ? 悪くないって思うけどね!!!!!