学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
傀儡師ロイド・ロイド・ロイド。
年齢、性別は不明、おそらくオレの前に現れたあの姿も魔術によって変わったもの。
だが推定数百歳……というのも噂話に近いものとしてだが、かの存在が関わったとされるものがいくつかある。
まだ魔王が健在だった時代の話だ。
当時列強として名の知られたガルガンディア帝国、その崩壊の要因となったのがロイドだったといわれているらしい。
一方で大国として名の知られたかの国は内ゲバが激しかったともいわれており、果たしてロイド一人が原因だったか? と言われれば必ずしもそうとは言い切れないとも。
「まさかロイド・ロイド・ロイドが実在の人物だったなんて……」
大方の報告を終えたカメリアがぐったりと椅子にもたれかかる。
学院に到着してから二日、全身が筋肉痛やらでまともに動けないオレの代わりとして彼女がパイプラインとなり、様々なお偉いさんとお話をしていたのだ。
精悍なお嬢様と言えどさすがに疲労困憊、顔色も少しすぐれない。
ほーん。
あいつそんな有名やったんか、壮大な裏話のわりにうさん臭くてなんか抜けた奴だったけど。
まあでも実力は間違いねえからな、扱う魔術的にも納得だぜ。
オレはベッドの中でカメリアの話を聞きながらゲームをしていた。
ちなみに学院には割とすぐに帰れた。ってのも教師が必死こいて救難に来たからだ、なにせ一人は大貴族のご令嬢だからな。
危ない中お疲れさんと言ってやりたいが、そもそもオレをほっぽって勝手に帰ったので許しません(憤怒)
生徒を守るのが最優先だぁ? オレも生徒なんですけど! かわいい生徒ちゃんなんですけどォ!!
「今回の一件は表向きは何もなかった、ただ遠征中に生徒が迷っただけということになっていますわ。ああ、テラーベアの出現は少し騒ぎになっていましたわね」
これもまあ予想通りの流れだ。
推定ではあるが魔王の復活。平穏な日常になれた現代人がそんなことを知ればパニックは必至、下手をすれば魔人族の被害よりもそれに伴う対策での費用のほうが大きくなりかねない。
「それと、一部の生徒に魔術の痕跡が見受けられたそうですわ。これもまたおそらくロイドか、協力者の魔人族の手によるものとみて間違いありませんわね」
「……そうなの?」
「ええ、貴女を虐めていた人物たちが主に」
衝撃の事実が突然発表された。
……マジ!?
じゃあオレが虐められてたのってこの学院の生徒がカスなんじゃなくて、ロイドが後ろで手をまわしてたってこと!?
冷静に考えればなるほど、それならつじつまが合う。
オレが森で孤立したタイミングでの強襲、これはあまりにタイミングも準備も完璧が過ぎた。
事前にゴーレムをいじくりオレへの試金石としていたのも、奴が長い間準備を重ねていたと考えれば納得だ。
そ、そっかぁ。
あのクソみてえな嫌がらせも全部ロイドのせいやったんやな……!! 許せねえよロイド・ロイド・ロイド!!
まじめで純情な学院の生徒をたぶらかしてこんな嫌がらせ! みみっちいにもほどがあるぜ!!
……や、オレは学院のクラスメイトを信じていたよ? だって、同じ机並べた学ぶ学友じゃんねぇ!
友達を信じないやつは勝てねえって初代勇者様も言ってたからよ! よかったよかった! これでこの先みみっちい嫌がらせはねえんだな!
おっし、まだ体はクソだるいけど明日はちゃんと授業出るかぁ~!!!!
◇
「……」
登校したら机の上に花瓶とヤミスイレンの花が飾られていました。
ヤミスイレンの花言葉は喜びと滅亡だそうです、お前が死んでうれしいよってか? ワハハ!
「エセ勇者死んでなかったんだぁ~」
一人の男子生徒が笑いながら紙屑を放り投げる。
ぽいーんと跳ねたそれがオレの頭にぶつかり、足元へ音を立てて転がった。
同時にくすくすとした笑い声が教室内へ広がっていく。
嘲りの表情を向けるもの、無関心そうにどこかを見るもの、巻き込まれたくないと顔をしかめるもの。
どうやらカスどもはカス共のままらしい、ロイドさんは何も悪くなかったよ。
「……んしょ」
オレは花瓶をそっと窓際に置いた。。
抵抗はしない。抵抗をすればいじめは苛烈になり、こういった物での嫌がらせではなく物理的な手段に移り変わるからだ。
こうなれば最悪だ、結界を張っていない時のオレの身体はひ弱の極地。相手からしたらちょっとした体当たりだったとしても、スッ転んで全身の骨がポテチみたいに砕け散りかねない。
ま、それよりも――
オレは指先でテーブルを叩き、今窓際に置いた花瓶へそっと結界を張った。
この花瓶中々いい奴だな。見ろよこの繊細な螺鈿細工、色も全部貝が本来持つ色彩の違いで表現されてやがる! 街で売り払えば最低でもゲーム五本分くらいにはなりそうだぜ!
クク、しょせんは貴族のボンボンだな! 身の回りに金があり過ぎて物の価値ってものを分かってねえ!
この前のスライム粘液もそうだがこいつらが虐めにつかってくる道具、どれも一般人からしたらバカ高級品ばっかなんだよな!
おーよちよち! かわいい壺ちゃんでちゅねぇ~!
今月は結構ピンチなんで助かったぜ! くふふ、今度の休日に街で高額で売り払ってやるからなぁ?
「――セラフィ!」
だがその時だ。
バンッ! と力強い音を立て扉が叩き開けられ、同時にカメリアが足音荒くこちらまで近づいてきた。
彼女の目に映っているのはそう、今オレが脇へと退けたばかりの花瓶。
えっぐい勢いで彼女が手を突っ込むものだからあわてて結界を解除すると、それに気づかぬカメリアが花瓶を勢いよく持ち上げ天へと掲げた!
「……今まで、あまり大々的に触れてこなかったわたくしにも問題がありますわ。ですが、こんなっ!」
どわーっ!?
お前何しようとしてんだよ!? それはオレの大事な大事な可愛い螺鈿細工花瓶ちゃんなの!
お前からしたら二束三文の価値しかないような土くれでも、日々貧困生活を行っているこのガガンボにとっちゃ珠玉の逸品なんですゥ~~!!
大慌てで飛びつき、天高く掲げられた彼女の腕にすがるオレ。
くそっ、カメリア身長高いからつかむのも一苦労なんですけどォ!
どいつもこいつもデケエ身長でオレのことを上から見下しやがって! てめえらその身長半分よこせよ! 八十センチでいいから!
「……だめ」
「なんでっ!」
「これに、罪はないから」
オレはようやく奪い返した花瓶(とついでに刺さってた花)を慈愛の目で眺め、再びそっと窓際へと戻した。
ボクのォ! これボクのォ!!
おめえらには絶対に渡さねえから! 結界! 認識阻害! ついでに衝撃吸収と魔術反射!!
「どうしてそこまでっ! ……いえ、それが貴女ですものね」
オレが花瓶ちゃんをていね丁寧に保護している後ろで、彼女が一人ぽつりとつぶやく。
「長く、目をそらしていたわたくしもまた同罪。セラフィ、貴女を見誤り、そして優しさを見誤っていた」
……何の話?
ほかのカス共と比べればまあマシなんだけど、カメリアはカメリアで結構電波入ってんだよな。
気のせいかもしれんけど、ロイド戦あたりからなんかやたらとそれが酷くなった気がする。
花瓶へ当たり散らかすことに失敗した腹いせか、彼女はずんずんと教室を突っ切って歩いていく。
その地位、そして元来クラスメイトとの関わりが少ない彼女が唐突に取り続ける行動に、クラスメイト達の視線は彼女へと向かう。
カメリアが向かったのは――そう、オレのテーブルへと花瓶を置いてくれた男子生徒だ。
彼は周囲の友人と雑談をしていたのだが、突如テーブルの前に現れたカメリアを不審げににらんだ。
「……あんだよ」
「この際だから言わせていただきますわ。わたくし虐めの類などという軟弱な行為に嫌気が差していますの、ましてやそれが大事な友人ともなれば、ね」
カメリアの言葉に不快そうな舌打ちを返す彼。
「今までエセ勇者のことを放置してたのはカメリア嬢、あんたも変わんねえだろ?」
「ええ。それがわたくしの罪だとしたら、その罪を禊ぐのはわたくしの義務。それとエセ勇者と呼ぶのもやめてくださる? 勇気をもって立ち向かう者を勇者と呼ぶのなら、偽りの冠は彼女に似つかわしくありませんわ」
うぉ、すっげえバチバチ。
どうやらオレと人猿友好条約を結んだ結果、今までオレに向かっていたカメリアの狂暴で好戦的な精神は、オレを虐めるクラスメイトへと向かうことになったらしい。
まあ毎日戦え戦えとやかましかったのでそれよかマシだが、にしても周りでドンパチ喧嘩されちゃやかましくてかなわん。
それにカメリアが騒ぎ立てると虐めがより陰湿になる可能性もある、こうなるとなかなかめんどい。
「文句あんなら止めてみろよ……『決闘』でな」
「弱き者に剣を振るう趣味はありませんけれど、
なんかめんどそうな騒ぎにまで発展してきた。
さすがに止めるか、なんてケツを浮かせて立ち上がったその時だった。
「おー全員座れ、鐘が鳴ったってのにいつまで突っ立ってんだ。それと今日は転入生がいるぞー!」
おそらく外で割り込むタイミングを見計らっていたのだろう、担任の教師が扉を開け入ってきた。
しかし彼の言葉を切り裂き、巨大な破砕音が教室へ鳴り響く。
『――!?!?』
唖然とするクラスメイト達。
もうもうと上がる砂埃の中、ぬぅ、と現れたのは成人男性以上の巨大な全身鎧だった。
その異様な鎧は、なんとふざけたことだろう、女子生徒用のブレザーやスカートを鎧の上から纏っていやがる。
鎧が動く度、ブレザーがミチミチとした音を立てて裂けていく。
常人離れしたその服装を眺め、オレの胸中に嫌な予感がとたんに膨らんでいった。
いや、姿が違う。あいつはもう少し小さい鎧を纏っていたはず。ああそうだ、それにあいつはオレより一歳年下だし学院にはまだ入れねえ。
だがこんな姿で行動する奴が……この世に二人もいていいのか?
「ちっ、小さいなここは」
「あー……今後入りやすいように改修を依頼しておくから、自己紹介から始めてくれ」
あまりに異様な雰囲気。
呆然とするクラスメイト達をよそに、その巨大な鎧はのし、のし、と黒板の中心まで行き、チョークで自分の名を堂々と書き連ね、鎧によってくぐもった低い声で吠えた。
「アタシの名はラミュエル・スタンレイだッ!」
うげぇ~~~~~!!
マジかよォ~~~~~!?