学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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準備は一任するわ

 時刻は昼時、授業を終えたオレはこそこそと教室を爆速で抜け出した。

 少し走って呼吸がバカほど苦しいが、あの空間に長く居座るよりは何倍もマシだ。

 

 ごきげんようセラフィリア、今回の目的地は食堂よ。

 ミッション内容は食事の確保、生存の要となる小さめのパンと野菜スープを入手し素早く摂取することよ。

 失敗条件は対象に把握されること。彼女の身体能力は人類の到達点に近い、把握された時点で敗北は確定するわ。

 セラフィリア、初手からあんだけカマしてきた彼女に捕まったらいったい何を言われるか分かったものじゃない。

 いうまでもないことだけれど、今回のミッションに失敗は決して許されない。

 

 準備は一任するわ。

 

「……うん」

 

 ちらりと室内を覗き込む。

 大きな食堂はお腹ペコペコな育ち盛りのガキどもでいっぱいだ。多くの生徒たちでごった返すその中に、ターゲットとなる奴の影は見えない。

 あの姿は否が応でも目立つ、この和気あいあいと喋る生徒たちの中には存在しねえ。

 

「ふぅ……」

 

 準備は一任されたわっ! 全員トレーは持ちましたわね!? いくわよっ!

 GO!GO!GO!GO!!!

 

「ぁ、ぁの……パンを、ひとつ……」

「あー!? なんだってー!? もっと大きい声で言ってちょうだいな!!」

 

 デカい声で言ってんだろタコ! パン下さいぶち殺すぞババア!!

 

 オレの血管はもう限界寸前だった。

 ただでさえ食堂はクソほどカス共が集まっていてうんざりするほどゴミゴミしてやがる、そん中で必死こいてようやくたどり着いたカウンターでこうなれば当然だ。

 カチカチとトングを鳴らしてオレを威嚇するババア。オレは必死に一つの一番小さなパンへ視線を向け、必死に何度も指を突き付けた。

 

「そ、それ……」

「パンだね! 何個だい!?」

「いち……」

「あ~~~!? (しち)ィ!? あんたそんなに食うんかい! 小さいのに大喰らいだねアッハッハ!!!!!」

 

 このガガンボボディで山盛りのパン食えるわけねェ~だろうがよォ~~~~~!!!!

 

 オレが発言する間もなくトレイの上へ積まれていく丸パン。

 絶望の瞬間である。ミッション失敗わよ。

 

「ぁ、ぅ……」

「ほら早く行った行った! ほら次待ってるアンタ! あんたは何個だい!?」

 

 ババアによる再びのトング威嚇にオレは負け列を抜けた。

 

 

 とぼとぼと歩き、一番端っこ、さらに観葉植物裏の誰も座らなそうな席にへなへなと腰を下ろしたオレは絶望した。

 目前にそびえたつ大量のパンの表面は乾燥しきっている。こんなものをスープなしで摂取してしまった日には、オレのか弱い唾液腺は爆速で干からびて死んでしまうかもしれない。

 

「……っ」

 

 せめて水を取りに行くか?

 いや、今ちんたらしてたらあいつが来るかもしれねえ……!

 

 えぇ!? パンをスープなしで!?

 できらぁ!! もぐもぐ、うっ(死亡)

 

「……!」

 

 アカン喉に詰まったみ、水! 水!?

 

「ぁに一人で悶えてんだァ? 相変わらず貧弱でバカみてぇにおっちょこちょいなのは変わんねえみたいだなァ?」

 

 気が付くと奴はそこにいた。

 テーブルという概念をご存じではないようで、天板の上へと堂々と腰を掛け、オレの山盛りパンを一つ手に取ってかぶりつくと、彼女は手にしていたコップをこちらへと突き出している。

 

 ちぃっラミュエル!?

 いたのかよ! いったいいつ!? 全然気付かなかったぞ!?

 

「飲めよ間抜け」

 

 ずい、ずい、と押し付けられるコップ。

 オレはほっぺが変形するくらいに押し当てられたそれを、渋々受け取るように手を伸ばし――

 

「何やってんだボケ! 一人じゃ水の一つもてめえはまともに飲めねえのかよアァ!?」

 

 手が滑って全部頭からひっかぶった。

 

 だ、だってラミュエルでけえし! 変に高いところから差し出されてんだもん!

 オレ悪くねえよ! むしろ変な渡し方してくるお前が悪いだろボケ! テーブルの上に座ってるんじゃありません、お兄様はそんな風に育てた覚えはありませんよ!!

 

「……ごめっ」

「テメエが謝って何が変わんだよボケ!」

 

 ぽたぽたと垂れる水、キレてにらみつけるラミュエル。

 

 のどに詰まっていたパンは衝撃で呑み込めたものの、もうメシを食うなんて気分じゃねえ。

 むしろさっさと乾かして体を温めないとまずい。

 オレはこの場から逃げるべくゆっくりと腰を浮かせ――今度はコップ十杯分くらいの大量の水が頭から襲ってきた!

 

「……っ!?」

 

 な、にゃ、にゃに!?!?

 今日は何の日!? お水ジャバジャバフェスティバルでもやってんのか!?

 

「……ぁンだぁ?」

「あーっごっめーん! そっちのお姉さんが水欲しいのかなぁ~って思ってぇ!!」

 

 鎧の底からうなり声をあげ周囲を見回す妹様。

 犯人は彼女の背後にいた。オレのクラスメイト兼いじめの主犯たちがにやにやと笑い、自分たちの杖をこっそりとポケットに隠すのがオレからははっきり見えた。

 

 うおっ、めんどくせえ奴らがさらに来たァ!!

 ラミュエルだけでもうお腹いっぱいなのにぃ!

 

「まーた手がぶれちまった、妹ちゃんと同じでさぁ! エセ勇者ちゃぁん、ケガとかないかなぁ~?」

 

 どうやら今日は三人でつるんでいるらしい。

 一人の言葉に後ろの二人が愉快気に笑い声をあげる、友達同士で楽しそうで大変羨ましいことだ。

 

 全身びちょびちょの特別なスチル状態となったオレをよそに、いじめっ子へとラミュエルが近づいていく。

 

「聞いてた話は間違いないみてェだなァ、ウジムシ共が群れて下らねえことしてやがる」

「はぁ?」

「おっとォ~? 虫けらに人間の言葉は難しかったかァ? 大変だよなァ、頭が悪ィと理解できねえことが多くてよォ!」

「自己紹介かよ鎧野郎、ちぃとは鏡見てみたらどうだ?」

 

 デケエ鎧といじめの主犯格が顔を突き合わせた。

 もはや互いにオレのことなんて見ちゃいねえ、互いが互いにバチ切れ散らかしてメンチを切り始めた。

 

 ……ここお貴族様たちの集まる国立魔術学院だよな?

 いったいいつからオレはヤンキー物の学校に入学してしまったのだろうか?

 

「白モヤシな姉に全身鎧で目立ちたがり屋の妹、さすが勇者の家系ってのはどいつも自己主張を欠かさねえよな!」

「目立ちてェんじゃねえよ、偉大な存在ってのは輝いて見えちまうんだわ!」

 

 連中のヒートアップは止まらない。

 それに目立つラミュエルの見た目や互いの怒鳴り声だ、次第に騒がしい食堂と言えど自然と周囲の視線はこちらへ集まり始めた。

 

「外出ろや鎧女ッ! 決闘だッ!」

「来て早々舐めてんじゃねえ!」

「いいぜボンボン共! 元々こうする予定だったからなァ、死に急ぎてえならお手伝いしてやるよ!!」

 

 あのラミュエルに喧嘩売りに行くなんて……!

 あ、あいつらマジで死ぬんじゃねえのか?

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