学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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デュエル! スタンバイ!!!

「一年が決闘するらしいぜ! 一人はスタンレイ家の転校生だってよ!」

「おーあの勇者の、新入生はやっぱ威勢がいいなぁ」

 

 のろのろと歩くオレを生徒たちが追い抜いていく。

 彼らが向かう先は第一校庭――学院がそもそもバカでかいので同じ施設も複数あるのだ――、目的は勿論ラミュエルとオレのいじめっ子たちの決闘だ。

 

 結果は分かってる、多少鍛えてようがラミュエルに勝てるわけねえ。

 今は幸いにも大剣を持ってきてねえからまだましだが、シンプルにあいつは膂力もスピードもイカレてる。

 この前オレを襲ってきた訓練用のゴーレム、仮にあれが目の前に百匹並べられてよーいドンでバトったとして、おそらくあいつは鼻歌交じりに全部ぶっ壊すだろう。

 

 はぁ……思いっきりぶっかけられたせいで下着まで濡れてやがる。

 まあちょうどいい、こうやって外で日光浴びながら乾かせば授業までに間に合うか。

 お日様ぽかぽかですよ……なんか目と肌痛くなってきたな。

 

「わ、とと、こ、これはいったい何の騒ぎですの!?」

「……カメリア」

「セラフィ! よかった……ラミュエルに後ろから追われてたからどうなることかと!」

 

 え!?

 そうなん!? オレのスニーキングは始まった時点で終わってた……ってコト!?

 わ、ワァ……!

 

 どうやらカメリア、先日の報告のやり取りのために職員室などを巡っていたらしい。お忙しいこって実にご苦労様である。

 スニーキングされてるオレを心配したものの、即座にラミュエルが攻撃などを仕掛けるつもりはないと判断し、やむなくなすべきことへと向かったとのこと。

 

「ラミュエルが、決闘」

「……ええ!? しょ、初日に!?」

 

 オレの言葉に愕然とするカメリア。

 んまーそりゃそうなるよな。

 

「っ、行きましょうセラフィ!」

「っ、まっ……」

 

 痛い痛い! 腕引っ張んないで千切れちゃう!!

 おいやめろバカゴリラス! ガガンボの腕は触るだけでも切れちまうんだぞ!?

.

.

.

 

 

 オレ達がたどり着いたとき、既に校庭には見物客がごまんと押し寄せていた。

 どうやら貴族のボンボンどもばかりと言えどガキ、軽いお祭り騒ぎがあったとなれば大人しくはしてられねえらしい。

 それぞれやいのやいのと騒ぎ立て、ひでえ奴になると賭けまで始めてやがる。

 

 そんな衆人の監視の中、実に広々とした校庭のど真ん中に四人がいた。

 

「カス、ゴミ、ウジ」

 

 ラミュエルが男三人をそれぞれ指差しゆっくりと告げた。

 

「……はぁ?」

「名前がねえと不便だろォ? 安心しろ、実にお似合いだからなァ!」

 

 突っかかろうと一歩前へ踏み出す男だったが、ラミュエルによって投げられたペンダントを前にして立ち止まった。

 鈍く輝く金属、眉をひそめる男たちに彼女は狂暴な笑みを浮かべる。

 

 ありゃシールドの魔術がかかってるな、一応ラミュエルと言えど最低限の安全対策は用意してたか。

 

「拾いな、死にたくねえならなァ」

「……舐めんなァ! 『アイシクルニードル』!」

 

 ま、拾わねえよな。

 ラミュエルのこと知らねえなら舐めプにしか見えねえし。

 

 男の詠唱と同時に放たれた氷の針、次いで友人たちも同じ術を放っていく。

 魔術としては下級の類だが中々どうして練度は悪くない、綺麗に成形された針先は素早く空を駆けていった。

 

 だが相手が悪い。

 

「……下らねえ氷遊びだなァ、話にすらならねェ」

 

 ラミュエルは避けすらしなかった。

 その一つ一つを片手でつかみ上げ握りつぶした。

 つまらなそうに腕を振り払い、粉々に砕け散った氷が彼女の足下へ散らばる。

 

「っ、中々やるか勇者候補!」

「勇者勇者うるせェなカス、そんなに憧れてんならもう少しらしく振舞ってみろやァ!」

 

 彼女の言葉を無視して男たちは陣形を大きく広げた。

 取り囲むようにしつつ移動、絶え間ない攻撃魔術を浴びせかけていく。

 

 炎、氷、石片。

 やはり下級の魔術ばかりとはいえ連射速度は上々、不慣れな相手ならば一方的に押しつぶされてしまう術量だ。

 

 もうもうと上がる土煙と湯気に覆い隠されラミュエルの姿が消える。

 

「……で? 次は?」

「マジか」

「バケモンがよ……!」

 

 静かに現れた彼女の鎧には傷一つすらない。

 それは果たして鎧の性能か、それとも彼女の実力か。

 一切効果がないと気付いた三人は再び散開、再び同じような攻撃を展開した。

 

 しかし繰り返しの魔術をただ受けるはずもなく、ラミュエルはゆっくりと前進しながら叫んだ。

 

「下らねェ! 少しは経験に学べよ雑魚共ォ!」

「っ、雑魚には雑魚の矜持があんだよバケモンさんよッ!」

 

 繰り返しかと思ったその時、一人の男が陣形から飛び出した!

 選んだのはまさかの最接近。巨大な鎧へ一直線に駆け寄った男は杖を握りしめ――

 

「『ブライト』!」

 

 甲冑の隙間へと杖先を突っ込んだ!

 途端にあふれ出す強烈な輝き。

 本来なら返しの一撃で吹き飛んでいたところだろうが、あまりに想定外の魔術のチョイスと影響にラミュエルがよろめく。

 

 上手い戦い方だ。

 危険が伴う作戦ではある一方で、甲冑の弱みを上手く突いている。確実に隙を作り出せるだろう。

 ラミュエルはみじんたりとて本気を出していない、とことん三人を舐めていたからこそそれをモロに受けちまってる。

 

「!? チッ、下らねえ!」

「エイムズ! ジョナス!」

 

 男の言葉に仲間たちが即座の連携。

 二人の杖先から風と土の二元素が即座に集約、撹拌、瞬く間に膨大な電力が生み出されていった。

 

『ギガントブリッツ!』

 

 雷鳴が爆音と共に空を切り裂く。

 先ほど扱っていた下級の魔術とは比にならないほどの威力、のんきに観戦していた上級生たちも慌てて防御魔術を発動した。

 

「……集約魔術」

「ええ。まさかやさぐれ荒んでいたあの三人が発動できるとは」

 

 カメリアがオレの言葉に頷いた。

 

 集約魔術。

 まあ要するに異なる属性魔術の融合だ、同じ魔力量でも相乗効果で威力は跳ね上がるが難易度がはるかに上。

 高レベルの魔術師は一人で発動することもあるが、他人同士、それも戦闘中での連携となるとなかなかどうして。

 

 ぉーん……案外やるなぁあいつら。

 なんで虐めとかしてんの?

 

「……その場しのぎの連携じゃねえなァ、前々から訓練してたのかァ?」

「はぁ!? 握ったぁ!?」

 

 ラミュエルの手中で雷が弾けた。

 起死回生の集約魔術を易々と握りつぶし、様子見に留まっていた彼女がついに駆け出した!

 

「っ、守れネグロ!」

「『リフレクション』!」

「遅ェ!!」

 

 いともたやすく砕け散る防御魔術。

 本来であれば反射もあって攻防一体の安定した術も、魔力の込められた彼女の圧倒的膂力を受けきることなどできない。

 一方的なスピードによるアッパーを抑えきれなかった男は、まるで枯れ葉のように大きく吹き飛ばされた。

 

 呻くこともできず地面へ叩き伏せられる彼を囲い、仲間たちは冷や汗をかきながら杖を握る。

 

「ジョナス! ネグロを守るぞ!」

「ああ! 『リフレクション』! 『リフレクション』!」

 

 一枚で足りないなら二枚、それでもダメなら四枚。

 真正面に展開された防御魔術。本来なら大きく回り込むことが定石のそれを、ラミュエルは――

 

「実戦が足りてねえなァ! 簡単に破られるなら魔力消費の少ねェシンプルなバリアを使えよ間抜けッ!」

 

 拳の一振りで全て叩き割った。

 どよめきが広がり、余波の風が生徒たちの髪を揺らす。

 

 あー……ちょっとまずいか。

 

「……いってくる」

「え、あちょっとセラフィ!?」

 

 オレは周囲に結界を展開、人だかりの山へと突撃した。

 ついでに強めの風を吹かせてどうにか隙間を無理矢理に作りだす。

 

 くそっ、こいつら邪魔くせえなァ!

 おらどけどけ雑魚共! ぶち殺しますわよ!!

 

「お仕置きの時間だぜ、二度と下らねえこと出来ねえようにしてやるからなァ!」

 

 理不尽なまでの実力差。

 それは訓練不足などでは決してない。圧倒的なまでの才能差、ただそれだけ。

 龍に立ち向かう蟻と変わりはしない。

 

 三人の元へたどり着いたラミュエルが彼らを見下す。

 たった二撃だった。たった一撃で三人は吹き飛ばされ、呻き、苦痛に動くことすら出来ない。

 

「下らねえことしてねえで集約魔術をもっと磨いておくんだったなァ」

「……くそっ、お前に何が分かるってんだよ!」

 

 一人が吐き出すように叫ぶ。

 

「イラつくぜ……持ち合わせた奴を見てるとよ……」

「知るか負け犬、地獄でやってろ」

 

 ラミュエルがおもむろに片腕を天へと掲げた。

 

「テメエら、集約魔術と雷が好きなら最後にいいものを見せてやるよ」

 

 膨大な魔力の奔流。

 基本は彼らが行ったものと同等、だが規模が圧倒的だった。

 猛烈な風が吹き荒れ周囲の砂を巻き上げていく。危険を察した生徒たちが悲鳴と共に避難を始めるも、彼女の魔術練度がすべてを上回った。

 

「――『破天』」

 

 紫電が彼女の大剣となる。

 わずかな腕の揺らぎを受け、空気を引き裂いた雷鳴が絶え間なく鳴り続けた。

 それは、冠する名のままに天を穿ち抜く魔術の輝き。

 

 学生の喧嘩のレベルは疾うに越している。

 死。この場にいた全員の脳裏に過る絶望。

 戦術級の一撃、それをたった三人に向かって――ラミュエルは振り下ろした。

 

 

「……あァ? どうしてだ?」

 

 

 心の底から不思議そうにラミュエルは傾げた。

 

「どうして止めたンだよ」

 

 彼女の一撃を覆いつくす巨大な結界。

 行き場を失った轟雷の奔流が内部で暴れまわるも、次第に小さくなる結界によって喰らい潰され――ついぞ一切の被害を出さず消え去った。

 

「お兄様ァ」

「……危ないから」

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