学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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聖女教生誕記 一章三節『何故星は輝くのか』

 飛び出したネグロは防御を捨てていた。

 そもそも今の今までラミュエルは一切の攻撃をしていない、ゆえにその無防備な突撃にも意味があると踏んだ。

 そしてそれは正解だった。こちらの動きを見てなお、ラミュエルは動かない。

 

「『ブライト』!」

 

 ネグロの杖先が甲冑の合間を抜け突き刺さり、強烈な輝きが発される。

 術としてはただの輝きを生み出すだけの至ってシンプルなもの、しかしこの戦いで最もラミュエルにダメージを与えたかもしれない。

 

「!? チッ、下らねえ!」

「エイムズ! ジョナス!」

 

 阿吽の呼吸。

 二人の友人たちが息の合った動きで杖を振るった。

 

『ギガントブリッツ!』

 

 轟雷が駆け抜ける。

 当たればテラーベアとてただではいられないだろう圧倒的な火力。中級魔術を超え、上級にすら手が届くほどの威力がラミュエルへ直撃した!

 

「……その場しのぎの連携じゃねえなァ、前々から訓練してたのかァ?」

「はぁ!? 握ったぁ!?」

 

 はずだった。

 だが『勇者』は雷を易々と握りつぶし、その拳を構えついに駆け出した。

 

 蹂躙が始まる。

 

 『勇者』が一度拳を振るった。

 ネグロの防御魔術がクッキーのように砕け散る。

 ネグロを守るため仲間が必死に防御魔術を、何重にも重ねた。

 次の一振りで、すべてが叩き割られた。

 

 『勇者』が、嘲笑(わら)う。

 

「テメエら、集約魔術と雷が好きなら最後にいいものを見せてやるよ」

 

 掲げられた腕からあふれだす絶望的なまでの魔力の奔流。

 空気すらもが悲鳴を上げ、異常なまでに生み出された紫電が周囲へ散らばり爆ぜる。

 

 それは間違いなく集約魔術の一種だ。

 だが格が違う。彼らの雷が針だとしたら、彼女の掲げる雷鳴剣は天を衝く摩天楼だろう。

 

「――『破天』」

 

 むざむざと見せつけられる圧倒的な差。

 それは実力の差であり、才能の差であり、何より圧倒的なまでの覚悟(・・)の差である。

 

 負け犬であれば仕方がない。

 

 それは現実から目をそらすための正当化に過ぎない。三人より力がなく、魔術や勉学、剣の才もない、それでも明日を夢見て真面目に生きている人間はごまんと存在する。

 そして強者故の余裕とは弱者の虚構だ。腕力、権力、あるいは魔力。名は異なれどその『力』を持つ人間は振るい方を必死に学ばなくてはならない。

 もし誤ればそれは容易く自分自身を、そして己の守りたいものを傷つけてしまうのだから。

 

 結局のところ自身を縛るのは自分の意思だ。

 前へ進むことを諦め、膝をつき、現状に留まることを認めたのは自分自身だ。

 長く目をそらし続けてきた現実が三人に牙を剥く。

 

 故に判決は――死。

 矮小なる尊厳の完全なる破壊、絶望的なまでの一太刀が天より降り注いだ。

 

 

「……あァ? どうしてだ? どうして止めたンだよ」

 

 

 折れた三人の元へ、彼女は現れた。

 はるかにか弱い体を引きずり、構えた杖から放たれた魔力が強大な結界を生み出す。

 今にも三人を、いやこの周囲すらをも消し飛ばさんと振り下ろされた一太刀が、結界の中で暴れ狂いながらも食いつぶされ、潰える。

 

「お兄様ァ」

「……危ないから」

 

 少女は白く柔らかな長髪をたなびかせ呟いた。

 教師たちですら飛び込むことを躊躇した暴虐と破壊の化身の前へ、いとも平然と歩み寄る。

 

「……殺すつもり?」

「寸前で止めるつもりだったぜ? それと殺しやしねェ、死ぬほど甚振るがなァ!」

 

 興奮のままにラミュエルは駆け出した!

 

 危険を感じたセラフィリアが杖を振るう。

 放たれたのは上級の魔術、大地が隆起し生えた無数の巨大な根がラミュエルへと襲い掛かる。目的は彼女の拘束だ。

 

 多くの人間にとっては過剰が過ぎるほどの魔術、だがそのすべてをラミュエルはタックルで打ち砕いていく。

 一本一本に大量の魔力が込められ練り上げられた根が、まるで豆腐か何かのようにボロボロと砕け飛び散り、そしてラミュエルは姉の上を飛び越えた。

 

「あっ」

 

 魔術による空中での姿勢制御と落下の加速。

 そして素早い着地と疾走、そして握り固めた拳を――

 

「ブォゲェ!?」

 

 寝っ転がっていたネグロへ放った!

 ついでに二撃、三撃目もおまけとばかりに放たれエイムズジョナス達も吹き飛んでいく!

 

「……ぁ? え? ちょ……ラミュ……」

「このタコ! アタシがお兄様を殴るわけねえだろうがァ!!!」

 

 ラミュエルのスピードはさながら地上を駆ける隼、貧弱すぎるセラフィリアの運動神経ではまともに付いていけなかった。

 そもそも実の親ですら本気の彼女に付いていけないのだ、ちょっと走れば体力の尽きるセラフィに付いていけるはずもなく。

 さながらリフティングでもするかの如く、ラミュエルは三人を殴り飛ばしながらどんどんと進んでいく。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――無駄ァッ!!!」

『ぐああああああッ!?』

 

 けちょんけちょんを超えぐちょんぐちょん、丁寧に踏みつぶされたパン屑のごとき様相の三人の前へ、鎧のデカブツが立ちはだかる。

 彼女はそのガントレットをぬぅ、と伸ばしネグロの襟をひっつかんだ。

 

「け……ふ……」

「テメエが三人のボスだなァ、残り二人の動きを見てりゃ分かるぜェ?」

 

 ネグロは荒い息を繰り返すばかり。

 何か返事を返すべきなのかもしれないが、全身がシンプルにズタボロなので声がまともに出せない。

 のちに分かることだが、この時点で彼らはそれぞれ数本の骨折、十数か所に渡る骨への罅、さらに衝突による脳震盪を起こしていた。

 

 端的に言うと死にかけである。

 

「チッ、なんか言ったら――」

 

 そうしてラミュエルが拳を再び掲げたその時だ。

 

「……ラミュエル」

「っ!? 転移か!」

 

 二人の間へと小さな少女が突如現れた。

 驚愕にラミュエルの腕が緩むと同時、彼女は素早く三人、そして自分を覆うように結界を展開する。

 

「相変わらず結界が大好きだなァ、お兄様ァッ!」

 

 全てを破壊してきた拳の一振り。

 だがセラフィリアの結界は揺るがない。

 ラミュエルは一瞬驚いたように目を見開き、今度はより一層力を籠め二発殴りつけた。

 

「っ、やめて」

「無理すんじゃねえよお兄様、体に悪いぜェ!!」

 

 だが結界に傷は付かなかった。

 

 ネグロは驚愕した。

 

 あの何気なく拳の威力は尋常じゃない、たとえ上級生たちが必死に防御魔術を使おうと、その大半はネグロ達と同じ結末を辿るのは間違いないほどに。

 なぜそれをいとも容易く防ぎきれる!? どうして平然と――

 

「セラフィリア……スタンレイ……」

 

 ネグロは震える声で少女の名を口にした。

 自分たちを必死に守る少女の口から、細い一筋の深紅がこぼれていることに気付いたからだ。

 

 代償。

 魔術においてその多くは己の持つ魔力である。

 だが魔力の全てが尽きてもなお、魔術を操る方法がいくつかあった。代表的なものは触媒、魔力を多く含む物質を使っての発動。

 しかしそれらすべてが足りずとも行う方法がたった一つだけある。

 

 そう、自分自身を触媒として犠牲にする方法だ。

 

 容易くなどない、平然となどしていない。

 彼女は自分自身を犠牲として今必死に圧倒的な強者の力を耐え凌いでいるのだ。

 そうだ。彼女を虐げていた人間の前へ堂々と、平然と、これが当然だと言わんばかりに自分の命を捧げてまで!

 

 何故?

 

 何故立ち向かえる? 何故諦めずにいられる? 何故自分自身の敵の前へ――

 

「セラフィリア……スタンレイ……なんで、お前は……平然と立っていられる……?」

 

 自分の敵の前に背を向け、己を犠牲にしてまで守ろうなどと立っていられる?

 なぜ才能に絶望せず、心折れずにここまで立っていられる?

 

 そうだ。少女の姿は今まで男たちにとってあまりに眩しかった。

 その輝きを目に入れたくない、その一心で彼らは己の悪行を肯定し続けてきたのだ。

 だが、もはやその輝きから目を逸らすことは出来ない。いや、したくない。

 

 そして結界を操る少女はゆっくりと振り返り、その整った顔にわずかばかりの怒りの表情を浮かべて言葉を放った。

 

「……誰だって、立つ力くらいある」

 

 『ああ、彼女は救世の太陽であった』

 『堕ちた人間、醜い人間にすら躊躇うことなく手を差し伸べる。悪ですら彼女の前では無垢なる乳飲み子と等しかった』

 

 聖女教生誕記 一章三節『何故星は輝くのか』より抜粋。

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