学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
結局昨晩、カメリアは部屋に戻ってきてから一言も発さなかった。
やかましくなくて助かるぜ。
ってことでオレはのんびり湯船につかり、一晩中ゲームをしまくって完徹、寝ぼけまなこで教室へとやってきた。
メシ?
食ってたら追い出されたわ、食うのおせえって。
まあいつものことなんだけど仕方ねえじゃん、口がミジンコくらいのサイズしか開かねえんだから。
というか勢いよく食ったらそのまま喉詰まらせるか、誤嚥から肺炎起こしてお陀仏になるんだぞ? お前らその責任取れんのかよあぁん?
こちとら勇者様の血筋の長女様だぞ? まあ実家ではバカ冷遇されてるけどね(笑)
ぼーっと椅子に座りゲームをしていると教室に教師が現れる。
魔術学院とて何も魔術だけを学ぶわけじゃあない、当然数学など基礎的な教育もみっちりだ。
まあオレはテストの内容全部インビジブルアイーーああ、ゲームを網膜に投影する魔術ね――で教科書だのの内容丸写ししてるから問題ない。
とはいえ教科書も出さずってのはさすがにまずい、渋々テーブルの中へと手を突っ込み――
「あ」
指先に触れるのはぬるりとした触感。
あー、やられたわ。
こりゃスライムの粘液だな、教科書もノートも全部べったりとぬめりついちまって、こりゃもうまともに使い物にならねえ。
スライム粘液の何が悪質かって、水よりも粘度が高く乾燥に耐性があり、その上一度紙なんかにへばりついたら二度とは元通りに出来ねえところだ。
オレは周囲をちらりと見まわし、こちらを見て笑ってる男子生徒を一匹捕捉した。
絶対あいつだな、いつかぶっ殺してやる。
名前も知らねえけど覚悟しておけよこのクソモンキー!
とはいえそうやっている間にも、周囲の連中は一斉に教科書を開きページをめくっていやがる。
あーあーまずいまずい、教科書持ってねえのオレだけじゃん。
「どうしましたかセラフィリアさん!」
教師がこちらをじっと見つめる。
ちっ、勘づくのが早えよ。
「……仕方ない、か」
さすがにぬめぬめの教科書開くわけにもいかねえし、取り出したところで大ごとになったら面倒くせえ。
教師に説明してる間はゲームしてる余裕ねえしさすがにそれは困る。
オレは教科書を探すふりをして机の中を覗き込み、スライムの粘液を何度か指先の間でねばねばとこすった。
さすがお貴族様たちの扱ういじめの道具、ただのスライムの粘液も素晴らしく高品質じゃねえか。
魔力がたっぷり含まれていて、これならオレの魔力も使わなくて済みそうだぜ。
指先の粘液を机の裏へ這わせ、オレは手早く方陣を描き上げていく。
発動させるのは――
「ザ・クリエイション」
バチリとした衝撃が一瞬指先に伝わり……そこには、新品さながら、粘液まみれのそれを全く同じ教科書が中空へと浮かんでいた。
ザ・クリエイション。
その魔術の効果は至ってシンプル。自分自身が完全に記憶している物質を、魔力を媒介として任意の場所へ生み出すというもの。
ㅤ覚えるのはちと面倒だったが、なにかと不自由が効かないこのクソッタレな身体には必要不可欠なので覚えた。
ㅤしかし今回は高品質な粘液があったから問題なかったが、なにせこの魔術は魔力をバカほど食う。
ㅤ本来ならあまり気軽に使いたくない。
「すみません、少し重くて」
構えた手先につたわるずっしりとした感覚、その重さに少しよろめきつつ、オレはきれいな教科書をテーブルの上へと広げる。
さてはて、今日の一時限目は国語か。
今日も神妙そうなツラして教科書抱える六時間が始まるぜ。
神妙そうなツラをするために最適なゲームがこの世には存在する、工業シミュレーションゲームである。
生産ラインの増築から始まり工場の置き換えと建設、自動化。言葉に表せば単純であるが、ラインの効率化などを求め始めれば時間はいくらあったって足りない。
なにせ素材の供給速度から弾き出した理想値でラインを構築するも、気づかぬどこかでミスって供給がストップ、溢れたアイテムから芋づる式に全てのラインがご臨終なんてざらだからよォ!
「うーん……」
額には皺、やたらデカい教科書に顔をうずめ、オレは魔術で必死に中空へと他人には見えない数式を書き上げていく。
網膜に映る生産予測値が計算から大きく外れているからだ。
チッ、どこで詰まってんだよめんどくせえなぁ!
ここのマップの生産ラインじゃねえのか? もしかして素材側のラインでなんか溢れてるか?
いやまて……ああ、計算ミスってるわ。分当たりの大本の素材量多く見積もり過ぎてる、生産ライン一本消して……その分あれをふや、いや待て。あれ増やすと今度はこっちの素材が――
.
.
.
気が付くと、教室からは人が消えていた。
窓から差す夕暮れの赤い日差しが眩しい、目がいてえ。
くそ、ただの光すらもオレにとっては光線と何ら変わりはしねえ。なにせ目の色素がカスみたいに薄いからな、もろに紫外線が飛び込んできやがる。
結局最適化には失敗した、もうめんどくせえから一旦一から作り直すしかねえ。
これだから工業シミュは困る、六時間じゃまともに進まねえ!
イライラしながら人気のない廊下をナメクジくらいの速度で歩いていると、ふと窓の外、訓練場で何か人影が動いているのが目についた。
おーおー、この学院のカスどもにしては珍しく訓練でもしてんのか。
どいつもこいつも甘やかされ散らかして、特上の杖や魔道具で底上げされた自分の実力を鼻にかけるゴミムシしかいねえと思ってたわ。
どれ、いっちょ冷やかしに行ってやるかと下まで降り、扉の隙間からその姿をちらりと覗く。
「……カメリア」
頬から汗を流し、刃の引かれた片手剣を握り荒い息を上げる少女。
一人魔導ゴーレム相手に修練を行っていたのは、オレの同室の少女だった。
ちっ、お前かよファック。
オレはオレに優しくないやつが嫌いだ。
それにオレより背が高い奴も嫌いだ。アメリアはオレより二回りはデカい、それにやたらムチムチしているので体格もはるかに上。
よってオレはカメリアが嫌いである、
まあオレのガガンボボディよりひょろい体格とか見たことねえけどな! ガハハ!
全人類アンチの精神でやらせていただいておりますわ! ファーック!!
ちっ、ただでさえシミュが上手くいかねえってのに、ろくでもねえのを見ちまった。
また何かめんどいことを言われるのも鬱すぎて滅になってしまうので、オレはそそくさと扉から離れ帰路へ着かんと歩み始めたのだが――
「――セラフィ!」
あーあーあーあーめんどくせぇ~~!
聞こえねぇ~~!
ボクちゃんはクールに去るぜ!
なにかぎゃんぎゃんと叫んでいるカメリアだったが、オレは意図的に不可視の結界を全身に展開、音だなんだを90%程度遮断する。
結界ってのは本当に素晴らしいね! オレみたいな薄暗い世界で生きる人間にも優しく抱きしめてくれる……まるでママのようだ……結界ママァ~! オギャオギャ!
「お逃げなさい!!」
「……んぉ?」
何か想定外なことを言われたかと振り向いたその時だった。
はるかに巨大な体格を持つ魔導ゴーレムの巨大な拳が、オレの結界へと突き刺さった。