学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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ウワアアアア!セラフィモリチャバダンギジマセヨ!

「セラフィリア……スタンレイ……なんで、お前は……平然と立っていられる……?」

 

 コラ~~~~ッ!!! 殺すぞ~~~~~!!!!!!

 オレの防御次第でテメエら殺すことだって出来るんだぞ!!!

 

 守ってやっていた奴にいきなり体の貧弱さを煽られたオレは内心ブチ切れていた。

 

「……誰だって、立ち上がる力はある」

 

 テメエらオレのことを死にかけの羽虫か何かと勘違いしてんじゃねえだろうなァ?

 立つことくらい誰だって出来るわボケ人間舐めんな! ただちょっと走った後とか疲れた時は足がプルプルするだけじゃ!!!

 

 全身慈愛と慈悲まみれの人間としての自負があるこのオレと言えどさすがにブチギレですよ。

 そもそもラミュエルにヤバいくらいぼこぼこにされてたから助けてやったってのに、なぜここまで言われなくてはならないのか。

 

 三人のいじめっ子……もう長いし三馬鹿とかでええか。

 三馬鹿の姿は中々見るに堪えない。好戦的なゴリライの一種であるラミュエルを焚き付けたのが運の尽きというべきか、彼女の破壊的な衝動によって一瞬でタコ殴りにあって瀕死に追い込まれている。

 

 第一教師たちも止める気くらい見せろよな!

 いくらあいつと言えどさすがに大人に怒られりゃ少しは止まるだろ、なにぼーっと突っ立ってんねん!

 あっ、あいつらほかの生徒と一緒に逃げやがった!! おいコラ!! かわいいオレちゃんがまだ残っているでしょうが!!

 

「まだ……続けるつもり……?」

 

 いまだ結界をバカみたいに殴り続けるラミュエルに語りかける。

 

 相変わらずバカみてぇな膂力だ、これで身体強化魔術をまだ使ってねえってんだから笑えねえ。

 その何気なし放たれている拳の一振り、これだけでおそらくロイドのファイアーボール級の威力があるだろうか。

 オレより身長が低かったあの妹がこんな立派になって、お兄様は感動と恐怖と絶望で涙が止まらないよ助けてラミュエル様!

 けほっけほっ。み、見て下せえこの血を……オレの身体が悲鳴をあげておりまする……どうか、どうかご慈悲を……!!

 

「…………でもっ」

 

 ワンチャンいけるかなーっとちょっと垂れてきた血をチラ見せ。

 さすがのラミュエルと言えど少しはたじろいてくれるか、なんて淡い期待を抱いていたのだが、遠目からは甲冑に隠されたその表情を窺い知ることは出来ない。

 しばしの沈黙ののち、小さく拳を握ったその瞬間にオレは杖を構えた。

 

 普段はゲームを投影するため使っている『インビジブルアイ』へ浮かび上がる四重の魔法陣。

 というか並行的に複数の魔術を発動する際の補助、それこそがこれの本来の扱い方である。

 

 対象捕捉ヨシ! 自動追尾ヨシ! 魔法陣全展開ヨシ!

 うおおおおお!! 持ってくれよオイラの身体ァ! 使用魔力三倍だァ!! 今日もご安全に!!!

 

「――貪り喰らう柔鎖(グレイプニル)

 

 気配を察したラミュエルが飛び退く。

 だが一度発動した魔術が不発となることはない、彼女を拘束するまで永遠に追い続ける。

 

「くっ」

 

 最初に右足が捕まった。

 光り輝く魔術の鎖は聖銀よりはるかに堅牢であり、同時に絹よりしなやかである。

 ラミュエルは抵抗のために大きく体を震わせたがそれすらもが隙、瞬く間に全身へ無数の貪り喰らう柔鎖(グレイプニル)が喰らい付き彼女の身体を覆いつくした。

 

 だがこの魔術の真骨頂はこれより始まる。

 強制的な魔力の排出。

 生物は普段表面からごくわずかに魔力を放っている。これを無理矢理数百、数千倍の量引きずり出し、さらに鎖はその魔力を喰らってより堅牢となる。

 

 一度組み伏せられれば巨竜ですら地に伏せる、神話の名を冠する魔術の一種だ。

 

 やー、さすがにこれは効くっしょ! 勝ったなガハハ!

 オレは何か叫びながら拘束されるラミュエルを眺め頷いた。

 

「が、あぁァァァア!」

 

 鎖の内側から彼女の叫びが木霊する。

 堅牢なる柔軟性を持って対象へと食い込む神話の鎖だが、内部からの衝撃に耐え切れず一本、また一本とはじけ飛んでいく。

 

 バケモンの咆哮かな?

 コワぁ~。やっぱあいつヤバいっすよ、イカレてんぜ。

 

「どうして! どうしてアタシの邪魔をッ! お兄様ぁ!!!!」

 

 それは……おめえが人をぶっ殺そうとしているから、カナ❤

 

 結局のところラミュエルはガキなのだ。

 ムカついたからぶん殴る。力至上主義のスタンレイ家ではそれこそが正義なのかもしれねえが、一般ピーポー共犇めくこの現代社会においてゴリライの法律などはカスである。

 ンなもんで全てがまかり通っていたら世界は魔王の物になっちまう。

 

 ったくしょうがねえなぁ。

 そろそろ『お兄様』の威厳って奴、見せちゃおうカナ!

 クックック、オイどうかこれ以上暴れないでください勇者様貪り喰らう柔鎖(グレイプニル)発動したせいでもう結構あちこち痛いんです。

 

 次々に弾けていく神話の鎖を目前として、オレは冷や汗をかきながら彼女の元へと歩み寄った。

 

「……ラミュエル」

「クソっ、クソォっ!! どうしてそんな奴ら庇うんだよお兄様ッ! アタシはッ!」

 

 よほど中で暴れ散らかしているらしい。

 抑えきれなかった衝撃波が周囲へ拡散し風となり、近寄ったオレの髪を力強くたなびかせていく。

 

 え~……ホンマにこの近くに行かなあかんの?

 もし間違えてにゅっと拳出てきたらオレ死ぬよ? マジ一発だよいいの?

 

 ビビり散らかしていたがその時、貪り喰らう柔鎖(グレイプニル)の一部がはじけ飛び拳が垣間見え、次に彼女の頭――と言ってもヘルメットだが――が現れたので、オレは大急ぎで駆け寄った。

 対話チャンス到来! この機会を逃すな!!

 

「聞いて、ラミュエル……けほっ」

「お兄……様……?」

 

 慌てて喋り掛けたせいだろうか。魔術の影響で喉にたまってた血がごぼりと溢れ、彼女の輝かしいヘルメットへとへばりついてしまった。

 

 あっやべっごめん血ついちゃった。

 へへ、姉御の輝かしい鎧が汚れちまいやした! どうかていねていね丁寧に拭かせていただきますのご容赦してくだせぇ! へへっ!

 

「……ごめん、ね」

 

 十枚銀貨一枚で買ったハンカチ(一枚はカメリアにパチられた)で彼女の鎧を拭いていく。

 だがオレの身体くらい薄っぺらい安物ではその血を吸いきれず、それどころか広げ伸ばしていくばかり。

 

 あっ、やべやべ。

 くそっこれだから安物は! おいどうすんだよこれ以上汚すなってラミュエルがブチ切れたら!

 あーもうせめてタオルとか……今から創造しちまうか? いやでもダルいしめんどくせえしなぁ……もう少しいいハンカチ用意しとけば良かったわクソがっ!

 

 や、もうこうなりゃ勢いで乗り切れ!

 

「もう、やめて」

「っ!」

 

 そろそろやめねえと死ぬぜオレが! うおおおおおおおラミュエル!! お前怖すぎだろ!!! 反省しろ!!!!

 

 オレは逆切れ気味に勢いに任せてそのヘルメットをひっつかんだ。

 隙間から見える蒼い瞳がすぅ、と細くなる。果たしてその感情は怒りか、それともまるきり別物なのか。

 

 くっ、どう出る!?

 いやラミュの動きを待つんじゃねえ! 今ここでやるんだなセラフィリア! ああ! 勝負は今! ここで決めるッ!!

 

「こんなこと……しないで」

 

 泣き落としだああああ!

 

 オレは彼女のヘルメットの上からほほあたりをなでなでしつつ、呼吸のしづらさでほんのり出てきた涙をまばたきしまくって溢す。

 これはバケモノの心に残っているはずの良心を蘇らせる禁断の一手だ、多用すると効果が薄れるからな。

 

 くぅーん……くぅーん……もうやめましょうよォ……命がもっだいない゛!!!!!!

 

「う……あ……」

 

 鎧の隙間から小さなうめき声がこぼれた。

 どうやら人間性を蘇らせることに成功したらしい、実験は成功だ!

 

 安堵したのもつかの間、鎧がカタカタと震え出した。

 

 ん?

 いったい何が始まるんです?

 

「――うああああああああああああああああっ!!!!」

 

 ギョエエエエエエエエ!? マジ!?!?

 

 一瞬ではじけ飛ぶ貪り喰らう柔鎖(グレイプニル)

 どうやら優しい心をもち激しい怒りに目覚めることでラミュエルは覚醒してしまったらしい。

 

 なんてことだ、もう助からないゾ。

 オレは諦めその場にしゃがみ込み、頭を抱いて丸まった。

 アーゥ! 殺すなら優しくしてください。

 

「……っ?」

 

 だが恐れていた衝撃は来なかった。

 

「ラミュ……エル……?」

 

 かのデカブツの姿はどこにもない。

 その場には無様に丸まるオレと、彼女によって引き起こされたいくつかのクレーターだけが残されていた。

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