学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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これは気のせいですわね

「ひどい有様でしたわね……」

 

 学院に併設された莫大な敷地、そのうちの一つである池のほとりに少女はいた。

 

「セラフィも無事なら良いのですけれど」

 

 暴れ狂うラミュエルを鎮圧した少女を思いカメリアはため息を漏らした。

 

 突如始まった決闘騒ぎ、それは結果から言うと突然のラミュエルの闘争で幕を閉じた。

 その直後、糸が切れたように倒れるセラフィリアへ慌てて駆け寄り、彼女を部屋まで運び込んだのはいいものの彼女はそれから目を覚まさない。

 

 回復術師曰くただの疲労と体内の傷とのことだったが……彼女の口元にうっすら付いた血を思い出しカメリアは顔をしかめた。

 

 結局のところその大騒ぎもあって午後の授業は延期となっている。

 なにせカメリアのクラスメイト、なんとそのうち五人が大怪我、意識不明、行方不明ともなればさもありなん。

 昼食を食べ損ねた彼女はこれ幸いと食堂に出向き、いくつかに分けられたサンドイッチと共にここまで足を運んだというわけだ。

 

「……きっとまた、無理を致したのでしょうね」

 

 一度はゴーレムの暴走で、もう一度は魔人族の襲撃で、セラフィリアが同じく血をこぼすのを見た。

 今回は明確な吐血、おそらく払った代償は今までの比にならないだろう。

 

 ……情けないことに、カメリアはあの戦いに飛び込む勇気が出なかった。

 否、仮に飛び込んだところで何が出来ようか! ……など内心に思い浮かべるも、結局のところは自身の弱い心を隠すための偽りにすぎないだろうと首を振った。

 

 あの強く、そしてか弱き少女はまるで転がり落ちるように危険な道へと足を踏み入れてしまう。

 そのあまりに険しい道のりは常人では一歩ですら耐え切れまい、それほどまでに『敵』に溢れている。

 どうにか並び立ち、そして共に往きたいと考えるものの、現状のカメリアはあまりに力不足であった。

 

「……トレーニングの強度を高めて、それに触媒の幅も増やすべきかしら」

 

 決して彼女が弱いわけではない。

 むしろ剣術、魔術、そして知識量、そのどれを取っても優秀な領域にいる……あくまで、学生としては。

 それらはあの神話的な『勇者』の暴虐を見てしまえば容易く崩れ落ちてしまう程度だ。

 

 もっと強くならねば。

 彼女の剣となる、その誓いにいまだ揺るぎはない。

 

「……ぇぇぇぇん、ふぇえええぎゅええええええええん!!!」

「あら?」

 

 見つけたベンチに座りサンドイッチの包みを解いたその時、風に乗ってどこかから幼い泣き声が聞こえてくることにカメリアは気付いた。

 しかしそれはしくしくとしたかわいらしいものではない、子供が全力で泣きわめく時のように随分と力強い。

 

「あらあら……」

 

 しばらくあたりを探したカメリアはようやくその発生源を見つけた。

 黒い髪の少女だ。同級生からしても一層小さな背で草むらに座り込んだその少女は、蒼い瞳へ涙を一杯にため込み、さらに背の高い草の中で泣きわめいている。

 その身にまとっているのは随分とボロボロの制服だ。

 

 あらあら、いったいこれは……?

 

「淑女がそう声を上げて泣くべきではありません。ただ代わりにお話を聞いてあげますわ、お立ちにはなられるかしら?」

 

 ただ転んだだけ? それとも彼女もまた虐められているのか?

 

 服装は随分とダメージを負っているものの、しかしその体には傷一つないちぐはぐの状況。深刻な状況として捉えるには少し疑問が残る。

 身近な白い少女のそれを思い浮かべながらカメリアはハンカチを差し出す。それはそう、かつて彼女にしてもらったときのように。

.

.

.

 

 

「そう、お兄様に嫌われてしまったのかもしれませんのね」

「へ゛ぅあ……そ゛ぅ……う゛、う゛あああぁぁぁぁん゛!!! も、もうおわり゛ぃ……! おわ゛りだよぉ゛……!!」

「少しは落ち着きなさいな! 淑女のして良い顔ではありませんわよ!」

 

 天を仰ぎぐずぐずと泣き伏す少女の頭をなでながら、カメリアは彼女がぽつぽつと語るちぐはぐな内容を頭の中で組み立てていった。

 

 彼女が語るには、虐められているお兄様を守るためにこの学院へ入学したのだという。

 魔術や身体能力に優れる彼女は虐めっ子たちと戦闘、しかし決着の間際に自分が護ろうとした兄によって止められてしまった、と。

 それどころか大事な兄に無理をさせてしまったと彼女は絶望した顔で語っていた。

 

 少し思い込みは強そうだけれど……とっても優しい子ですわね。

 

 穏やかな気持ちで少女の頭を撫でカメリアは口元を緩ませた。

 きっとその兄は彼女が巻き込まれることを恐れたに違いない。まあくだんのいじめっ子とやらは目の前の少女に叩きのめされたようなので、今後はきっと彼女の兄も安泰だろうが。

 

「ふふ、きっと貴方のお兄様は嫌ってなどいませんわ」

「ほんと!? 嘘ついたらぶっ殺すよ?」

 

 ぱっ、と少女が花のような笑みを浮かべた。

 

「ええ、当然で……うん?」

 

 やたらと物騒な言葉が付いていたように思え、カメリアは横に座る泣きはらした少女の顔を二度見する。 

 いや、そんなはずはない。この幼く小さな少女を見ればわかるだろう。花畑のように明るい笑顔、濡れ羽色の艶やかな黒髪、そしてどこかカメリアの友人にも似た優しい顔つき。

 

 気のせいですわね。

 

 先ほどの戦いの影響もあって気が立っているのかもしれない。

 カメリアは自分の心を落ち着かせるためにサンドイッチを口に運ぶ。食事は心を穏やかにする、意味のない高ぶりは自身を傷つけるだけだ。

 

「貴女の守りたいという心意気はきっと届いていますわ、ただ……少しやり方が悪かったのかもしれませんわね」

「どうしたら仲直りできるかな……」

「仲直り、ですものねぇ。ふーむ」

 

 おそらく彼女の兄が怒っているわけではないものの、とはいえ妹が暴れまわったこともあって互いに話しづらいというのもまた事実だろう。

 しかし何か話すきっかけを作ればこの明るい少女のことだ、きっとあっという間に関係を修復できそうではある。

 

「お兄様、全然喋らないからなになら喜んでくれるのかわかんないや……片っ端からクラスメイト全員殴ればいいのかなぁ」

 

 悲壮な顔で地面を眺める少女、そのか細い声は風に乗って空気へと溶けていく。

 その優しい心はきっとひどく荒れているのだろう。

 カメリアは再びそっと少女の頭を撫でた。

 

「……ん?」

 

 何か今言っていたような。

 一瞬撫でる手を止め、再び撫で始める。

 艶やかな黒髪はとても触り心地が良かった。

 

 気のせいですわね。

 

 そこからしばらく無言が続いた。

 サンドイッチを二つほど食べ終えたあたりではたと手元へ視線を向け、いい案が思いついたとカメリアは横の少女へ穏やかな笑みを浮かべる。

 

「やはり親睦を深めるといえばお食事、貴女の好きなものを一緒に頂くなどすれば喜んでいただけるかと」

 

 まさにこれだ。

 最も手軽で最も人の心をほどかす交流、お食事会なんてとってもわかりやすいじゃないか。

 

「好きなもの……お肉! ステーキ大好き!」

 

 ステーキ。

 年頃の少女にしては中々ワイルドな選択肢な気がしなくもないが、悪くない選択肢ではないかとカメリアは頷く。

 相手が兄となれば最低でも二年生、まさに育ち盛りの成長期まっしぐら。この年の男子はいくら食べても物足りないと聞く、美味しい食事、ましてやそれが肉となれば目がないはず。

 

 ええ、ええ、きっと喜んでくれますわね!

 

「あらあら、とっても良いと思いますわ! 食堂へ持っていけば調理していただけますし、明日の昼食までに良いお肉を準備するなどいかがかしら?」

「うん、うん! さっそく準備しないと! ありがとうゴミムシのお姉ちゃん!!」

 

 少女は軽やかにベンチから飛び上がりあっという間に駆け出し消えていってしまった。

 カメリアはひらひらと手を振り――

 

「……ん?」

 

 ――また思案顔になる。

 

 脳裏によぎる今立ち去ったばかりの少女。

 とてもかわいらしい彼女の口から発せられた言葉が上手く重ならない、まさかというもの。

 

 先ほどの決闘で精神的に疲れているせいだろう、そう判断したカメリアは残ったサンドイッチを口元へと運び疑問ごと呑み込んだ。

 

「気のせいですわね」

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