学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「ふぅ……」
震える手でお盆をテーブルの上へと放る。
周囲をせわしなく動き回る生徒たちの動きすらもが煩わしい、それは間違いなく昨日の戦いの疲労が残っているからだろう。
ラミュエルの野郎どこ行きやがったんだ……?
昨日、いじめっ子たちをタコ殴りしまくったうちの妹様の行方が不明となっている。
や、あいつの身を案じているわけじゃねえ。極論足に数百キロの重しをつけて深海に叩き込んだって、間違いなく平然と復帰するであろうあいつの身を心配する意味などない。
問題はそう、なにを考えてるのかがさっぱり分かんねえってところだ。
そりゃそうだろう、いきなり絶叫したと思ったらもう姿が見えねえんだもん。一体どういうこと? 野生爆発しちゃったのかな?
「……いただきます」
オレの皿の上にはパンと野菜のたっぷり入ったスープ。
なにせ昨日はあの後気絶してしまったようで、気が付けば朝。傍らには心配そうに椅子に座り眺めるカメリアの姿。
まあ大して動き回っていなかったので身体的な疲労はあまりなかったのだが……とはいえ暴れ狂うラミュエルの対応は中々キツかったのも事実。
朝食も食い逃したからな……メシだメシ!
「お待たせいたしましたわ」
追ってカメリアもオレの隣へと座る。
彼女の食事はまさに山盛りといった様子。パン三つにスープ、それと鬼かってほどの野菜とデカい鳥のソテーが三つにゆで卵まで。
「すごい、ね」
「体を作らなくてはなりませんもの……より強くなるために。セラフィ、貴女も少しはたんぱく質を取るべきですわ!」
「……いらない」
オレは肉が嫌いなんだよ!
あの噛んでも噛んでも千切れない繊維の塊、強い獣臭、いつ飲み込んだらいいのか分からない絶望感!
顎の痛みに苦しみながら塊を無理矢理飲み込んで窒息しかけた時は今だって夢に出るのだ!!
考えるだけでうんざりしてくる。
しいて言えばスープに浮かぶミンチの肉団子、これをナイフでぐりぐりして小さくしてからだとか、あるいは焼かれた鳥のモモをさらにナイフでぐりぐりいじくって細かく刻んだ状態ならギリ許せるか。
ならせめてこれを! なんていいながらカメリアがゆで卵を渡してくるものだから、白身の部分を四分の一だけもらってちまちま口にする。
黄身はいらない、もそもそしててのどに詰まるから。
「もう! もっと食べないと来月の『グロリア極星祭』で倒れてしまいますわ!」
「う……」
カメリアの言葉にたじろぐオレ。
グロリア極星祭。
随分大層なお名前をぶち上げかましているものの、要するにただの運動会に近い。
とは言ってもここは天下の国立魔術学院、ちゃいちい玉入れだのをお貴族様の子息子女にやらせるのはいささか尊厳破壊が過ぎるというもの。
となっては主な内容としてはやはり、魔術を扱っての競技が多い。
広大な学院の敷地を使い数十キロ走り続ける徒競走、無制限の強化魔術による短距離走などなど、まあかつての凄惨な兵士製造学院とは思えないほど平和なものばかり。
その中で唯一危険であり、同時にド派手なのはやはり武闘大会か。
魔術の制限ほぼ無し、広大な敷地の中に作られた巨大なコロシアムで行われる実戦に近い戦闘は、この学院に入る前からうわさを聞いているほどだ。
命の担保は貴族共の金にあかせた大量の治療術師、それと昨日ラミュエルがぶん投げていた魔道具と同じような、防御術式の掛かったアイテム。
長々と語ったがオレは参加しません!
何故なら参加したら死んでしまうからです!
不満を漏らす皆様には常識的に考えていただきたい。
ほかの連中は完璧な健康体。それに身体能力の強化などのバフをモリモリかけて、イノシシもかくやというほどの砂埃を巻き上げ駆け巡るワケ。
はい、そこに世界一可愛い薄幸の美少女オレが飛び込みました! さあどうなる!?!!?!?
はい! 死にまァす!!!!!
文字通りの死である。多分全身の骨という骨をミンチにされて死ぬ、きたねえ花火だ。
わざわざ学園ものの王道イベントを逃すのかって?
あいにく恋愛モノは男向け女向け問わず趣味じゃねえ、歯の浮くようなセリフを連ねる奴を見ると反射的に殺したくなっちまう。
このくそボケ恋愛脳共が! 下らねえセリフ考える脳みその余裕があるならもう少し強い魔術の一つでも覚えやがれ! 守れもしねえのにイキってんじゃねえよ雑魚共!
まあオレは自分の身体すらまともに守れないんですけどね(笑)
さて、どうやって上手いこと全員参加の競技から逃げるか。
外をしばらく走って倒れて――
「――おーいたいたァ!」
計画を練りながらパンをつまんでいるその時だった。
できればあまり聞きたくない、鎧の内部で反K等愛やたらと低く重厚感のある声が遠くから聞こえた。
「!?」
ぃえぇ!?
今!? 今すかぁ!?
いなかったじゃーん! 今日いなかったじゃーんっ!! 学校さぼってたじゃーんっ!!!!
鈍い鎧の音がこちらへ近づいているのを聞きながら、オレは救いを求めて横を見る。
だめだった。カメリアは冷や汗をたらして固まっている、ぼとりとナイフに刺した鶏肉が皿の上へと転がり落ちた。
くそっビビりやがって情けねえ女め! あのマーダーベア犇めく森へ飛び込んだお前はどこに行っちまったんだよ!? 誓った剣もう捨てちまえ!
来てるっ!! 来てますぅひいいぃぃぃ! 後ろにいるぅ!!
ドンッ!!
「ェーゥ……!?」
猛烈な音とともに巨大な皿がオレの前へ叩きつけられた。
「『仲良く』しようやァ……お兄様ァ……?」
座るオレの両肩へと手を当て、ねっちょりとした声が耳元で響いた。
それは熊の手であった。
毛皮を剥かれ丁寧な処理こそされているものの、調理工程自体はただ焼いただけであろう単純なもの。
クエ?
九重?
「クェェ……?」
「あぁ……たっぷり喰え、超高級品なんだぜェ?」
ずむ、とガントレットが皿の上のそれを掴み上げる。
ゆっくり、ゆっくりとオレの口元へとそれが近づく度、こらえがたい強烈な獣臭が酷く鼻を突いた。
いやいやいやいやいやいやいや!
熊の手は確かに巷じゃ高級食材扱いされてるらしいけど、それは丁寧に毛を抜いたうえで臭みを消して、さらにたっぷり煮込んでトロトロに仕上がってるからというか……ほぼ手間賃だろって感じだというかぁ……!
「食え」
「へひぇ……んぇ……」
逃げられない。
片腕で肩を押さえつけられ口元へと近づけられた熊の手。てらてらと輝く脂、そしてただ焼かれただけのため鬼ほど硬い筋肉質な赤身がオレの口先へと押し付けられる。
ねろ、ねろ、ぐり、ぐりとねっとり口元につけられたそれによって、口周りにはどんどんその油や皮のべたついた質感が張り付いていった。
「んゃ……みぇふぇ……」
「食えよ、『美味い』ぜェ?」
ねえこれ何!? 拷問!? 拷問なのォ!?
昨日いじめっ子ボコパン祭りを邪魔したから内心ブチギレ散らかしまくってんの!?!?
救いを求め周囲を見回すも、巨大な鎧が細身なオレへと何か押し付けている姿は異常の一言。
周囲の生徒たちはドン引きした顔でそっと席を立ち、無言で遠くの椅子へと座り込み引きつった表情でこちらへと視線を向けていた。
やっぱりこの学院はカスしかいねえじゃんねぇ!
いじめっ子とかじゃねえ、根本的に人間性が腐った奴しかいねえ!!
オレは絶望した。
この世界の全てを憎しみありとあらゆる憎悪の罵倒を内心で吐いた。
だが熊の手は消えない。
そう、オレが食うまで無くなるはずがない。
そしてオレがこれを食えるはずがないので無くなることはない。
意を決しオレは小さく口を開く。
「!?」
その瞬間押し込まれる巨大な熊の手!
無理矢理ねじ込まれることでオレの顎の端っこあたりが、それはもうすんげえ勢いでパキパキと音を立てていく。
か、覚悟だ!
覚悟が必要だ!
覚悟とはッ! 暗闇の荒野にッ! 進むべき道を切り開くことだッ!!
「ぁぇ」
覚悟を込めてオレは喰らい付いた!
匂いなど敵ではない! 今を生き残ることこそがすべてに優先されるッ!!
「はぇ……?」
絶望的なまでの弾力がオレの顎を破壊しつくした。
覚悟を込めても噛めねえものは噛めない。
オレの顎は閉じることすら出来ず、アホみたいに開かれた状態で止まった。
当然だ。薄っぺらいステーキですら必死にガジガジ噛んでようやく飲み込めるというのに、この丸太のように太い熊の手を噛みちぎれるはずもなかった。
「旨いかァ? 旨ェよなァ? そのために深夜遠くまでマーダーベア狩りに行ったんだぜェ?」
「ふぁ……」
じわじわと涙があふれだしてきた。
泣くほどとってもおいぴーですゥ……。