学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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究極生命体―アルティミット・シイング― セラフィリア

 真昼の林道にて少女の荒い息遣いが響く。

 周囲に人影は少ない。多くの者たちはその健康な四肢をもって駆け回り、既に訓練を終えてしまっているからだ。

 彼女は息も絶え絶え、本人に聞けば間違いなく『走っている』と答えるであろうその姿は、ただ地面を這いつくばるナメクジにも似ていた。

 

「はへ……へひゃ……」

 

 ……たい、帰りたい……!

 もうやだぁ! 寝たい! ジュースのんでゲームしたいぃ……!!

 

 絶え間なく流れる汗が体操着へと染み込む。

 乾いた喉が鳴り、心臓は早鐘どころかハチドリの心臓すら上回るほどの速度で絶え間なく鼓動を続ける。

 

 目前に迫るグロリア極星祭、体力強化週間と名付けられ訓練の時間が増えたここ数日、オレの身体にとってあまりに過酷な日々の始まりであった。

 限界だ。

 精も魂も尽き果てて成れの果て、視界が白くチラつき始める。

 

 寝るぞ……オレは寝るぞ!

 今すぐ! この場で! 堂々と寝っ転がって! 十秒……いいや五秒だっていらない! 今すぐにでも意識を手放すぞ!!!

 

 オレは汗だくの手で背中のリュックからのろのろと杖を取り出す。

 一応学院の敷地内とはいえ何があるか分からない、意識を手放すのは結界を張ってからだ……そう、杖を固く握りしめたその時だった。

 

「逃げるなァ!!! 生きることから逃げるなぁあァッ!!!!!!!!!!!!」

「んひぇ!?」

 

 ボコンッ! と地面がはじけ飛び巨大な鎧が現れた!

 そう、ラミュエルである。

 彼女は無駄に熱いセリフを繰り返し、オレが気絶しそうになるたびに現れては――いったいどこから現れてんのこいつ?――決して気絶させてたまるかとオレを地獄にたたき起こしてきやがる。

 森の中に逃げても無駄だった。本来なら速攻で逃げて授業が終わるころに転移魔術を使うであろうオレが、こうも必死こいて走っている理由でもある。

 

 実のところここ数日ラミュエルの様子がおかしい。

 や、元から頭おかしいけどね? そういうことじゃねえんだわ。

 

 端的に言うと……あの熊の手事件からというものの、授業中ですらやたらと絡んでくるようになった。

 転入してきた当日はそれこそ、昼になるまで話しかけてこなかったってのにだ。

 

 かわいい妹が絡んできてうれしいかって? うれしすぎて血の涙が止まらんね、もっと大人しくなって力の扱いを理解してくれたら地面に土下座して泣いて喜んでしまうかもしれないぜ?

 

「行けッ!! 頑張れ負けるなお兄様ァッ!! お兄様の限界はその程度じゃあねえだろうがァ!!!!」

「ひゅ……ひゅへ……」

「限界を超えろッ!!!!」

 

 もう当の昔にこえてんねん!!!

 セラフィリア1000%くらいやねん!!! ええ加減にせぇよ!?!?!

 

 こんなちんたら走ってるオレだが、ほな横でたまに突然現れるラミュエルはどうなのかと言われたら、残念ながら問題ないとしか言いようがない。

 何故かって最初の三分程度でこの数キロに渡るマラソンを終えていたからだ。

 何を言ってるのか分からねえと思うがオレもわからねえ。

 

「くぁぁ……退屈だぜお兄様ァ」

 

 それどころかおそらくだがその後も数周走り回った挙句、今こうやってオレの後ろを付いてきているのがマジで意味が分からん。

 

 何がヤバいってこいつ、相も変わらずプレートアーマーを着込んだ状態だということだ。

 数十キロに達する金属の塊、それを背負ってなお数キロをわずか三分程度で駆け抜ける……それも強化魔術無しで、だ。

 バケモン? バケモンだよね? 三百六十度どこから見ても恥じることのないバケモンに決まってるだろいい加減にしろ!!!!

 

「『身体強化』したほうがいいんじゃァねえのかァ?」

 

 退屈そうにラミュエルが言った。

 

 気軽に言いやがって! 健康が取り柄のテメエらと高貴なる弱者のオレは違ぇんだよボケ!

 

「見てェなァ! お兄様の『身体強化』! 昔見た時はすごかったぜェ、またもう一度あれを見せてもらいてえもんだよなァ!!」

 

 オレが普段使わない(・・・・)魔術がいくつかある。

 まず攻撃魔術の類。これは至ってシンプル、そもそも雑に使うと火力が高すぎて危ねえし、何より身を守りたいだけなら結界などの防御魔術で事が足りるからだ。

 そりゃ魔力をしぼりゃどうとでもなるだろうけど、それはつまり川の水をうまく調整して水鉄砲を打ち出せって言ってるようなもん。

 要するに無駄ってワケ。

 

 次に魔力を大量消費する創造魔術や転移魔術など高度な魔術、これらはまあ必要な場合は使うけど普通に体の負担がデカいのでいざという時の選択肢。

 

 そして最後。

 それこそが『身体強化』だった。

 

「おっ、やるのかァ!! さすがお兄様だぜかっこいい!!」

 

 渋々杖を握ったオレの横でやんややんやと騒ぎ出すラミュエル。

 いったいそれのどこまでが本心か……いや、タダの魔術程度で大騒ぎするあたりその本心など分かり切っているか。

 

 えー……? 本当にやらないといけないのー……?

 

 渋々、めっちゃ渋々である。

 いったいどういう考えなのかは分からないが、妙にラミュエルが期待したまなざしをこちらに向けているのが、たとえ鎧の中からでもわかったために。

 

 身体強化魔術、そうひとえに言っても術の幅は多岐に渡る。

 筋力の強化から視力など五感の強化、珍しいものだと肺活量や心臓の強化なども術のうちに当たるだろう。

 だがその区分けなど大半の人間においては意味をなさない。大雑把に体全体を強化できれば、その場で必要な能力は十分に得られるからだ。

 

 だがオレは違う! ギュッ。

 そんな大雑把な強化をしてみろ! どこかが無理をした瞬間、その強化に耐え切れなかったまた別の部位が即座に限界を迎えるだろう!

 

 わかりやすく例を出すとしようか。全体的に超強化を行い常人、あるいはそれ以上のスピードで動き回った瞬間、体内に存在する糖質などのエネルギーを即座に消費、速攻で低血糖で倒れる。

 次に糖質を無理矢理確保したうえで走り回ったとしよう、酸素の吸入量が足りず数秒で酸欠になり這いつくばる。

 そして臓器を強化しついに走れたとしよう、次に待ち受けるのは全身の筋だ。柔軟など普段一切していないこの体、極端な動きの上さらに超強化された身体能力の負荷は絶大、よって筋はすさまじい勢いではじけ飛ぶ。

 次には……と、問題が無数に存在する。

 

 これは予測ではない、すべてが経験(・・・・・・)だ。

 故に、雑な全体強化は許されない。

 すべてを常に緻密にコントロールしていき、さらに一つ一つの動きに合わせほかの魔術の調整を自動で行っていく必要がある。

 

 というわけでさっそく、

 

「『血流強化』」

 

 心臓が跳ねる。

 全身へ普段の数倍以上の速度で血が巡りはじめ、各臓器が耐え難いとばかりに悲鳴を上げ痛みが走った。

 

「『臓器強化』」

 

 心臓の鼓動が強制的に正常化される。

 腎臓が、肝臓が、肺が、ないエネルギーを絞り出して動き始めた。

 

「『骨格強化』」

 

 軋む骨格が無理矢理に強化されていく。

 柔らかな関節へ魔力が浸透、期待される高強度の運動をすら耐えられるように堅牢になった。

 

「『筋力強化』」

 

 そして筋力が跳ね上がる。

 見た目こそ変わらないが、膨大な魔力を注ぎ込まれることで普段の比ではないほどの力が満ち満ちていく。

 

 これで完璧?

 いいや、足りないね。

 

「『全魔術連携結合(オールソーサリーコンバイン)』」

 

 すべての魔術が数値化されインビジブルアイの上で踊り出す。

 身体を動かすたびに全てが自動調整され、足りない部位への魔力の供給が行われていく超安全仕様である。

 その見た目はさながらロボゲーの画面に浮かびがちなパラメータだろうか。

 

 そしてこれが最後の締めくくりだ。

 杖の一振り、中空へ浮かび上がったそれをオレはつかみ上げる。

 

「――『ザ・クリエイション』、けほっ」

 

 喉奥に感じる鉄錆の臭い。

 身体能力が強化されていようが、大量の魔力消費による自傷は防ぎきれるものではないのだ。

 ましてや身体強化は体内に魔力が直接駆け巡る故に。

 

 オレは生み出したコップ一杯のフルーツジュースを一気に飲み干す。

 ククッ、普段なら一気飲みでお腹がごろごろして悶えることになっただろうが、この超強化された内臓であればその心配はあんまり、比較的少ないッ!

 そして今日強化された内臓による爆速消化! 全身へめぐる糖分たち!

 

 うおおおおおおおおおおお!!! みなぎってきたアアアアアアアア!!!

 

 究極生命体(アルティミット・シイング)セラフィリアの誕生だッーっ!!!!

 ババーンッ!

 

「うおおおおお!! お兄様かっこいい~~!!!!」

「……いくよ」

 

 一歩目。

 大地が割れた。

 

 二歩目。

 鷹のように体が前方へ吹き飛び、あれだけ遠かった遥か彼方のゴールが見る間に迫る。

 

 そして第三歩

 ――天地がひっくり返った。

 

 第四歩目はない。

 オレの身体はけっつまづいてそれはもうものすごい勢いで転がっていったために。

 そう! 普段体を動かしていないのに! そんな運動神経抜群な動きなどできはしないのだ!!!!!!!

 

「ぉあーーーー……」

 

 オレの身体はまるでゴムまりのように何度も大きくはね散らかし、ついにグラウンドのど真ん中へと頭から突き刺さった!

 

「へぶちゅっ」

 

 周囲の生徒たちが騒然として寄ってくるのが近づいてくる。

 それと同時に真っ暗な視界の中、かけた魔術たちが消失したことで全てのゲージが次々に消え失せていく。

 さらに! 無理矢理強化して魔力を全身へと巡らせたつけとばかりに全ての筋肉が! 骨格が! 内臓が悲鳴を上げ始めた!!

 焼けるような痛みが体のありとあらゆる部位へと走り出す!

 

「あ……あ……」

「せ、セラフィ!? どういたしましたの!?」

「回復……術……師……」

 

 しくしく……だから使いたくなかったのに……!

 メディック、呼んで……くだ、さ……

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