学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「む……」
意識が浮上する。
「むむ……」
オレは布団の隙間からはいずり出し立ち上がった。
確かめるように肩を二回ほど回し、そこから一度スクワット。
「むむむ……!」
腰をまわし、指で作ったわっかから周囲を見回す。
視界は非常に良好、普段の少し目の裏に感じるけだるさや痛みもない。
「むむむむむむむむっ!!!!」
こ、これは!?!?!?
なんかめっちゃ元気!!!!
かるぅ~~~い! 体がバカ軽だよォ~~ン! こんな体調がいいのは久しぶりだぜェ~~!!!
スゲーっ爽やか気分だぜェ! 新しいパンツを履いたばかりの新年の朝のようによォ~~~~!!!
「いったい誰が……?」
うっすらと記憶に残ってるのは長いピンクの髪と金色の片眼。
中々特徴的で見れば一目でわかりそうなものだが、あいにくオレのイマイチまだ覚えきれていないクラスメイトの記憶に合致する奴はいない。
カメリアが呼んでくれた回復術師?
でも前呼んでくれた町医者に治療された後、こんな体調良くならなかったしなぁ。
「……はっ」
突如雷鳴のごとく飛来した天啓的な閃き。
そうか、そういうことだったのか……!
『神』である。
『女神』である。
オレはついに超神秘的な存在と邂逅してしまったに違いない。ありゃァ~女神さまに違いないぜ、だっておっぱいデカかったし超優しそうな笑み浮かべてたしよォ~!
うきうきである。
いつもならここまでテンションが高くなかったかもしれないが、圧倒的な体調の改善にオレのテンションは爆上げだった。
きゃっほーと声にでも出してしまえるほどの勢いのまま、靴を履き直して廊下へと飛び出す。
するとなんとちょうどいいことだろう、目前の廊下からおそらく先輩であろう男子生徒が二名歩いてくるではないか。
「ごきげんよう」
「え!? あ、ああ」
「ごきげん、よう?」
今日はすれ違う人にだって笑顔でお返事しちゃうもんねェ~!
「……俺、貴族令嬢みたいな大輪よりもああいう小さな花に惹かれるんだよね……」
「ばっ、やめとけって! あれに告白しようとした奴が鎧に潰されたって話知らねえのかよ?」
うっひょぉ~~~~~!! テンション上がってきたァ!!!
ㅤなんだろう……世界が輝いて見える……人間って美しい……ああお花さん、今日も綺麗だね!
エッホ!ㅤエッホ!ㅤオレが元気だって伝えなきゃ!!!!!
オレはうきうきと廊下を歩き、少ししてからスキップをした。
そしてすぐに疲れたので
.
.
.
「あら、セラフィ! なんだかとっても顔色がよろしいですわね! 先ほどいったい何が起こったのか心配していたのですけれど……」
「ん、げんき」
「んまぁ! 取っても軽快なお喋りまで!」
カメリアが目を真ん丸にしたのち、両手を合わせて笑顔を浮かべた。
パンパカパーン! オレはレベルアップした!!
ククッ、オレのあまりに流暢で多弁な語りに酔いしれるがいいぜ!
「神様がなおしてくれた」
「えっと……神……? まあなんでも、貴女が元気になったのならそれは良いことですわね!」
セラフィの言葉の大半を理解できなかったカメリアだが、まあ元気であればそれでいいとにこにこ笑う。
だがそこに迫る影が一つ。
「お兄様ァ!! 体調はどうなんだァ!?」
「へぶちゅっ」
「前々から思ってたけど明らかにウチにいた頃より体調悪いだろォ! なァ!! さっさと家に帰った方が身のためだぜェ!!」
あ、な、体が持ち上げられていくよォ~!?
突如現れた大鎧によってオレの身体は持ち上げられ、まるで抱き枕かのように抱きしめられていく。
だが相手は鎧を全身にまとった筋力ゴリラスの怪物。
ギュ、ギュ、と一呼吸ごとに締め付けられるたび、オレの身体からは変な声が漏れ続けた。
「お゛ぁ……」
「ちょ……ラミュエルさん! セラフィが苦しんで……」
「ア゛ァ!? うるせえぞゴミムシッ!!」
「なっ!? あ、貴女ね……前々から思ってましたけれど少し言葉遣いがよろしくありませんわよ!?」
「ぁ……ぉ……」
ほにょおおおお!?
ろ、肋骨が……! 腕がぁ……!?
「貴女は家の名を背負っていますのよ!」
「ンなもん知らねえ!家の名だのに興味ねえんだよアタシはッ!」
普通の人間は圧倒的膂力を見せつけたラミュエルにレスバをしようとは考えない。だがカメリアは違った!
逆に!
「興味のあるなしに関わらず周囲の視線は変えられません、知らなかったでは済ませられませんわ!! それに非行不評は同時に、貴女の姉であるセラフィにも影響しますのよ!?」
カメリアはなんと! 言葉の暴力で襲い掛かった!
「それは! ……チッ」
す、すげえ……! あのラミュエルが黙りこくりやがった……!
力が緩んだ一瞬を狙い奪取されるオレの身体。
ギリギリ破壊を免れたオレの身体のあちこちを触り、冷や汗をかきながらカメリアは最後にオレの頬へと手をあてがった。
「へひ……へひぃ……」
「怪我はなくて!?」
「だい……じょぶ……」
ほぼ逝きかけました。
危なかった。
もし普段通りの体調なら間違いなく気絶していたに違いない。
だが今日のオレは†女神の恩寵†状態、普段の百倍は元気なのでちょっと痛かったなぁ~! くらいで済んだぜ!
「……周囲に認めさせりゃ満足かァ? アタシからすりゃテメエらカス共の評価なんて興味も湧かねェ、お兄様を甚振って無視してたようなゴミムシ共に認められてェなんて思わねえからなァ」
カスだのゴミだの言いすぎだろデカブツ! 一々人を罵倒しないと呼吸できねえのかこいつ!
くつくつとした笑い声がヘルメットの中から漏れる。
おそらく――あんま見えないけど――鎧の下で凶悪な笑みを浮かべたラミュエルがカメリアへと顔を近づけた。
「潰してやるよ、武闘大会。参加者全員、羽虫みたいに叩き潰してやりゃ満足だろ? お前が大好きな家の名声とやらもそれで充分周囲に伝わるよなァ?」
デカブツが背を向け教室を去っていく。
「見てろよお兄様ァ、アタシの英雄譚をよォ」
……え? オレが見てなくちゃいけないの!?
いやだよ妹が暴れまくって生徒なぎ倒してるの! オレはのんびりゲーム出来たらそれでいいの! むしろお前が暴れたら無駄に目立っちまうじゃねえか!
どういうことなのぉ!? こわい! 怖いよォ!?
あまりにも凶悪すぎる全部ぶち壊す発言に戦慄するオレ。
武闘大会とかでないで鎧脱いで大人しくしとけばすべて解決だというのに、いったいどういう思考回路でその結論に至ったのか理解ができない。
「……ふぅ。姉思いなのは美徳ですけれど、もう少し視野を広くした方が良いのではないかと思いますわね。あとなんで姉のことをいっつもお兄様呼びしてるのかも不思議ですわ」
あ、あ、あ、あ、姉思い!?
あの、目ん玉腐ってますよ(笑)
あと兄呼びはオレがそもそも元々男として育てられたからです。
「ふぅ……」
「あら、セラフィどうしましたの?」
意味の分からん方向にすっ飛んでいったラミュエルを見送り十数秒、オレは普段とは逆の扉へと歩き出した。
寮とは真逆、普段オレが出るはずのない扉に近づいたことへ、こてんと小首を傾げるカメリア。
「さんぽして帰る」
「あら、それはとてもよいですわね! 無理せず行ってらっしゃいませ!」
今日はなんだかわからんが元気満々だからよォ~!
こんな日には身体を動かさなきゃァ神様の顔面に唾を塗りたくるってもんだよなァ~~~!!!