学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「~♪」
気分よく廊下を歩くオレ、ついつい鼻歌すら小さく漏らしながら。
普段じゃあ授業なんて終わったら一刻も早くゲームがしたいので池のほとりだとか、疲れてるならさっさと寮にまで戻ってしまう。
実際入学したこの一か月とすこし、ほぼオレは寮と教室、それと食堂あたりを結んだ直線以外での行動はしていない。
だが今日は違う!
慈愛の女神の力によって健康に覚醒した今日のオレなら! 散策すら可能であるッ!!
おそらく浮かれポンチ共が好き勝手やっているのだろう、校内は既にあちこちがグロリア極星祭に関する飾りつけだの、校内新聞だの、はたまたポスターだのが好き勝手に貼り付けられている。
むろん全部ちんけなものじゃない、下手したら低級な貴族のパーティーなんかより豪華な出来の物ばかりだ。
……あん? なんだこりゃ?
あなたは白の聖女を信じますか?
いつの間にこの学校は宗教人の好き勝手な立ち入りが許可されたんだか……まったく。
様々な展示物だのを眺めつつ廊下を歩いていると、ふとオレは今までの物と比べても一層目を引くものを見つけた。
「封印……」
一見すればなにもない廊下の壁をじっと見つめつぶやく。
魔力の噴出点は四か所、おそらく細かく砕いた魔石をうっすらと塗布してあるのだろう。
しかしその本懐は四点の中心部、今この目の前にある『壁』だ。
丁寧に偽造された魔術による封印。
単純に堅牢な封印、そして周囲に魔力を拡散することで存在を希薄化、さらにいくつかの魔力点を少し外れた場所へ設置することで注目から外す高度な隠蔽。
故にそれは長らく見つからずにいた、生徒に限らず教師ですら違和感すら抱かぬままに。
決して発見などされない、そのはずだった。
セラフィリアはそれをしばらくじっと見つめ、少し愉快気に口角を上げた。
にこにこと、傍から見れば穏やかな笑みであるその表情のまま壁へと近づき――
う~~ん、ぶち壊したろ!!
「ある」のがいけない!!! 「ある」のがいけない!!!!
ノリだった。
テンションが上がっていたのもあるし、目の前でさあ! これこそが秘密ですよ! と言わんばかりに堂々と見せつけられてしまえば好奇心も掻き立てられるというもの。
杖を取り出し事前にいくつかの魔術を全身へ纏う。
そしてオレが封印の中心へちょんっと指を触れ、瞬間、注ぎ込まれた莫大な魔力により封印が強制的に砕け散った。
一般的な魔術師であればそれだけで気絶ものであろうが、膨大な魔力を常に湛えるオレの前には赤子の手をひねるより容易い。
……さすがにオレでもガキの手くらい捻りつぶせるわ!
ま、構築は覚えたし出るときに直しゃバレへんバレへん!
むしろさぁ、こんな見え見えの状態で放置してるほかの魔術師さんサイドにも問題があるよね? むしろ設置した魔術師さんサイドこそ謝罪をするべきだろ!
「……む」
封印系の魔術に必ずと言っていいほど添付されるもの、それが呪いの魔術だ。
条件付けされた内容が達成された場合、即座に近くの者へと発動するよう設計されたそれは、簡単なものであれば警告の声を響かせる程度であり、悪質なものであると命に関わるようになってくる。
今回の呪いは――穏当とはいいがたい絞首。
首元へ浮かぶ漆黒の入れ墨らしき影はしかし、物理的にじわりとこちらの首を締めあげ始めた。
こりゃあぶねえな、学び舎にあっちゃならねえだろこれ。
匂いたつなぁ……!
放っておけば食い込み絞め殺すか、あるいはこの強度であれば頸が落ちるか。
明確な敵意によって編み上げられた魔術も――バキリ、と崩れ落ちる。
なにせ大層な封印が成されていた場所だ、警戒するなというほうが無理だというもの。
直に喰らえば致命的であろう呪いも、既に発動していた対呪の術式によって強制的に焼き潰されたのだ。
そして砕けた封印と同時に現れたのはぼっかりと空いた大穴だ。
壁の奥、なにやら空間魔術と共に仕立てられた黒々とした空間が、まるでオレを誘うかのようにその大口を開いていた。
「おじゃまします」
ホホホ、誘われとるならしゃーない!
オレは悪くねえよ? 誘ってる方が悪いよね? 失礼いたしますわよ^~~~!
あっ、入り口には封印魔術おんなじ奴置いときますね!
ずかずかと入り込んだ、その瞬間だった!
「ん……?」
漆黒の中で無数の輝きが全方位から放たれた!
「おぉ」
迫りくる魔術は風。
音すらなく空を駆ける真空の刃が一斉にオレへと襲い掛かる。
それはオレの周囲の壁を切り裂き、地面を打ち砕き、しかしこの身には傷一つすらつかずに消え去った。
ま、あるよな……トラップ。
結界の内側で予想通りの結果に眉をひそめる。
いくつかトラップとしてよく使われる魔術はあるとはいえ、よりによって風属性。
不可視であり高速、ましてや威力にかけるはずのそれで地面を抉り抜くほどとは、この国の威信をかけた素晴らしき学び舎にしては殺意が満ち満ちている。
警告って訳じゃねえな……ま、さっきの呪いの時点で今更か。
学生のいたずらにしては悪意塗れ、ここまで侵入者ぶち殺しモードなら教師が何か大事なものをしまっておくためって訳でもあるまい。
「――『リフレクション』」
同時に襲い掛かる魔術の第二波。
だが結界の上から貼られたカウンターの魔術が輝く。
無色の殺意はしかし、さらにオレの魔力を上乗せされ発動元へと襲い掛かった。
連続した爆音が周囲へ鳴り響く。
カウンターの風刃が大本の魔法陣、そして魔力の供給元として設置されていた魔石を打ち砕き、破壊時にあふれ出した魔力によって小さいながらも確かな爆破が発動したのだ。
む、ちょっとまずいか?
ちらりと入り口を振り返るも、周囲の人間が騒ぎ出したり寄ってくる気配はない。
どうやらこの空間内には消音の魔術まで発動されているようだ。
おそらく内部で作業をする際に気付かれぬようだろう。これだけ大規模なトラップだの空間拡張だの、そうやすやすと行えるとは思えないが。
「――『ブライト』」
杖の一振りと同時に連続した光球が一直線にオレの行く先を照らし出す。
真っ暗で進みづらいし行く先も分からんから明るくしてみたが、どうやら周囲はレンガ張りの先が見えない回廊のようになっているようだ。
……ほぼダンジョンやんけ!
これお宝あるかな? あるよね? ゲーマーの前にダンジョンっぽい道作っといてないとか言わせねえぞ?
お前さぁひどいよ? なんで俺に嘘ついちゃうの? 悲しいじゃん? もう殺すしかなくなっちゃったよ!!!!
「よし」
オレはふんすとテンションを一層上げ歩き出す。
それから幾度かトラップに引っかかった。
踏むだけで発動するスーパー呪いまくりスポットだったり、物理的な矢の雨だったり、部屋の中に閉じ込められて大量の水が注がれて溺死仕掛けたり。
だがそもそも来ると分かってるのならンなもんに意味はねえ。
結界で攻撃を防ぎ、呪いを魔力で全てねじ伏せ、部屋の壁ごと魔術で消し飛ばすいたって単純な解決法によってオレはどんどん進んでいく。
クックック、今日は調子が良くて良かったですねェ……いつもなら疲れてめんどくさくなって帰ってるところでしたよォ……!
だが今日の元気さならまだまだ舞えますよォ!
「はへ……はへぇ……ふぅ……」
ごめんちょっとむりかも。
長い! 距離が長いねん!
もう戻ろうかな……え? この距離また歩かないといけないんですか!? ここ作った奴出てこいやもうさァッ無理だよゴールわかんないんだからさァッ!!!!!
「……あ」
荒い息を漏らしながら体育座りで死んだ目をして休んでいたその時だった。
遠くで光る何か。
トラップか? いや、トラップじゃない。というかもうだいぶさっきからトラップが無くなっている。
製作者が面倒くさくなったのかと思っていたが……?
発見!
「むむ……おぉ」
指先で作った輪っか、その名もセラフィリア・アイが映し出したのは何やらゴールドな輝きを放っている大層なタリスマンだった。
精巧な掘り込み、周囲に無数に飾り付けられている綺麗な宝石、さらに中心へ飾られた真紅の宝石はおそらく極上の魔石の一種だろう。
見るからに素晴らしい逸品。
「おたから」
おたからはっけん!
オレは即座に杖を取り出し一振り、転移の魔術で一気にその元まで跳ぶ。
決して疲れてて歩くのが面倒くさかったわけじゃない! 喜びのためにね!
「こほっ、こほっ」
少し喉奥が鉄錆臭いが構いやしない。
ここまで結構面倒だったのだ。だが苦労もあって感動もひとしお、むしろ苦労なけりゃこの感動は味わえないってね!
オレはニコニコである。そりゃあもう超ニッコニコでそれを掴み上げた! うぉ……結構重……!
何やら魔術がかかっていたようでオレの全身へ黒い鎖が襲い掛かるが関係ない。すべて魔力でたたき伏せ、さらにそれへ掛けられていた呪いやトラップの術式をすべて強制解呪した。
大成功ォ~~~!
最高級のお宝をゲットだァ! ご立派ァ!!!!