学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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従順なる僕 カメリア・レッドエリカレス

 謎の空間でタリスマンを確保してから数日後の夜。

 オレはカメリアの膝に座りながらそれをいじくっていた。

 

 うーん……?

 魔力の波長、刻印された無数の魔術などをインビジブルアイの上へ書き連ね情報を整理しているものの、正体がとんと分からない。

 

「セラフィ、その……最近毎日眺めているそれは?」

「おたから」

「まあまあ! ふふ、随分高価そうですけれど……?」

 

 美しい装飾が施されているのは確かだが、おそらくこれの本質は魔道具。それもそこいらで売られているちゃちいものとは質が違う、下手すれば家宝モノの品だ。

 気になりますよねぇ? どんな魔術が刻印されているのか、いったい何のためにあんなガチガチな警備がされていたのかぁ?

 

 ちな真ん中の魔石は爆速で外してある、勝手によく分からん魔術が発動したら困るからな。

 

 どうにも時空間系の魔術関連っぽいんだが……あいにくオレは転移魔術程度しか普段使わないもんでな、というか実家の時空間系の魔導書がそもそも少なかった。

 図書室にも足を運んだけど……めぼしい情報はない。やはり時空間系の魔導書は希少だ、いくら国立とはいえ難しいらしい。

 

 後ろでオレの髪を梳かしていたカメリアが肩越しに覗いてくる、こいつぁご令嬢の彼女からしてもやはり目を惹くもののようだ。

 

「……だいじだから」

「そう、とても大切なものですのね」

 

 これはオレのだから絶対に渡さねえぞ!! せめて前貸したハンカチ返してからにしろ!

 まあ持ち主が来たら返してやっても構わねえが……こいつをとことん解析して全部理解してからだ!

 

 構造さえ理解すれば多少形を変えての『クリエイション』も出来る。

 それまでは死んでも手放さないね! まあオレを殺すのは――油断してなかったら――不可能だろうけどよォ!!!

 

「それほど大切なものなら是非にこちらを!」

「……バッグ?」

 

 彼女が差し出してきたのは小さめのショルダーバッグ、いわゆるサコッシュって奴だった。

 レースなどで細やかな飾り付けがされており中々可愛いデザインをしている……が。

 

 何か魔術がかかってるな。

 危険な奴じゃねえ、いやこれは……まさか……!?

 

「ええ、マジックバッグの一種ですわ。容積は大型のボストンバッグ程度なのであまり入りませんけれども」

「……いいの?」

 

 やっぱり! マジックバッグ!

 

 カメリアは大したもんじゃねえと突き出してきたがとんでもない、聞いた容量と凝ったレースのデザイン、王都で買ったとしても間違いなく金貨十枚は下らないだろう。

 一度値段も知らずに王都へ買いに行ったことがあったが、あまりの高さにもんどりうってそのまま逃げかえったほどだ。

 金貨一枚でも庶民の一カ月当たりの稼ぎと考えれば……このちっぽけなサコッシュの価値は言うまでもない。

 

 さ、さすが辺境伯のご令嬢だぜ……!

 毎月送られてくる生活費じゃすべてを貯金に回したって十年は買えねえ代物だ。こんなに高いなら実家のを一つくらいパチってくればよかったとずっと後悔していたんだが……まさかこんなところで手に入るなんて!

 

 え……好き、かも……❤

 オレに優しくしてくれる人間全員好き……❤ 優しくしてくれない人間全員残酷な死をもってくたばれ……!!

 カメリア……めっちゃだいしゅき……ハンカチもう三枚くらいいる……? BIG LOVE FOREVER……❤❤

 

「ありがとう……!」

 

 最初こそ意味の分からん頭のおかしい女だとばかり思っていたけれど、もしかしたらオレはとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。

 だってオレに優しいから……!

 

「んまァっ!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 オレは感激のあまり後ろを振り返って抱き着いてしまった。

 

「しゅき……」

「ほわっ……!?」

 

 ビクリと震える彼女の肩。

 変な声を小さく上げたかと思うと、それっきりカメリアは動かなくなってしまった。

 

 いきなり抱き着いてびっくりさせちまったか? だがオレの愛を受け取ってくれ……そしてオレにもっと優しくしてくれ……!!

 

 そのまま頭をぐりぐりしていると突如再起動したカメリアが、同じようなサコッシュをもう一つ横から引っ張りだした。

 いったいどうしたのかと思えば、彼女は中へ手を突っ込み――同一のサコッシュをさらに四つ、いや五つも握ってこちらへ差し出してきたではないか!

 

「あ、ありますわっ! この程度のものでよろしければまだまだいくらでもッ!」

 

 え? え!? え!?!?

 

「もっともっと全部貰ってくださいましッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「そんないらない……」

「あぁ……そんな……!!」

 

 これだから金銭感覚バグったお嬢様って奴はよォ!

 

 そりゃね? 貰えるもんなら貰いてえよ?

 でもこんなもん一つでもマジ? って感じなのに四つも五つも貰っちまった日には……一生カメリアに逆らえなくなっちまう。

 

 オレは自ら奴隷の首枷をつける愚行などはしない、勇者の血を継ぐとても気高き人間なので!

 へへっ、お代金は足先舐めるくらいでいいっスかねお嬢!!

 

「すぅぅぅ……ふぅぅぅぅ………………」

「――?」

 

 後ろで髪を梳かしていたかと思いきや突然オレに抱き着き、深い、実に深い深呼吸を始めるカメリア。

 

 え? なに?

 臭うの? ちゃんとお風呂毎日入ってるんだけど?

 

「お゛ぁ……極限()まりますわね」

 

 動き辛ぇ……邪魔だな……まあいいかマジックバッグくれたし。

 

 どうやら何か匂いが気になってやってるだとかそういうのじゃないようなので、うっとおしいがいったん放置。

 オレはオレに優しい人間には寛大である。

 

 カメリアの膝の上で再び解析をはじめ、内部の動きなどでも確認してやるかとほんのちょびっとだけ魔力を送ったその時だった。

 

「――!?」

 

 突如オレの手の中で起動するタリスマン、うっすらとした輝きと振動が手のひらへと伝わる。

 同時にジュゴゴゴゴ……といった感じの勢いで指先から少しずつ(・・・・)魔力が吸い取られていく。

 

 え!? マジ!? 抜いたじゃーん! 魔石ちゃんと抜いたじゃーん! 基本通りのことしたじゃーん!!!!

 やべやべやべやべ!!!! 一応警戒して事前にいくつか結界の準備しといてよかった~~~! オレ賢すぎ~~~~!!!!!

 

 オレがタリスマンを小さく投げると同時、風魔術によってそれは壁際へと大きく弾き飛ばされると同時、耐魔力耐衝撃魔力衝撃拡散などの効果が付与された結界が即座にタリスマンを覆いつくす。

 

「――あの、とっても大事なものだったのではなくて……?」

「……いや、ちょっと……危ないかもしれないから」

「……ああ、魔道具の一種でしたのね! セラフィにケガがなくてよかった!」

 

 髪を吸っていたカメリアが少し疑いを持ったもののどうやら自己解決してくれたらしい。

 

「あぁっセラフィ……」

 

 彼女の膝から降り結界で縛り付けられたタリスマンへ近づく。

 

「大丈夫……かな……?」

 

 何か魔術が発動するのか!? なんて焦ったものの、どうやら何かが続く気配はない。

 ただし、魔石を外したはずのその場所の位置には――同じく、緋色の宝石が輝いている。

 内部から感じるのは魔力、魔石だ。

 

 ……自動で周囲の、今回はオレの魔力を吸って魔石を生成した? このタリスマンはそういう魔道具なのか?

 刻印が時空間魔術ってのはオレの勘違いか……? 時空間系は詳しくねえからなぁ、やっぱり知識不足だったか。

 

「セラフィ、それは?」

 

 タリスマンを握ったオレへ声をかけるカメリア。

 オレはちらりと彼女へ視線を向け、手元のそれから魔石だけを外す。

 

 ふむ……魔石に何か魔術が刻まれている気配はない、か。

 ただのクソデけえ魔石だな。これくらいなら実家の倉庫にごろごろ転がってた、大した価値も多分ねえだろ。

 

「あげる」

「えぇっ!? こ、これを!?」

「バッグのおかえし」

 

 カメリアに手渡してやるとプレゼントがよっぽどうれしかったのか、随分と仰天した声を上げて震える手で受け取りやがる。

 ただの石ころごときに随分な態度だ。そういや実家に一杯転がってる聖銀の剣もこいつやたら大事にしてるし。

 

 ククッ……ああ、そういうことかァ。

 

 随分な態度に少し疑問を持つも、オレは最近少しずつ分かってきた、カメリア・レッドエリカレスという人間の生態系を思い浮かべ納得した。

 この女は基本無駄にストイックだ、いまだに一人訓練場で無駄に剣や魔術の鍛錬を続けている。

 だがこの学院の生徒はどうだ? どいつも基本箔付のために入学しているような奴ばかり、当然そんなストイックな奴はクソほど少ねえ。

 

 つまりどういうことかって?

 この女は友達がいねえのさ! ま、まあ? お、オレくらい? っていうかぁ?

 だから、だ。大事な大事なお友達からのプレゼント、これにいたく感動していらっしゃるというわけだ。

 

 ――くははっ! ちょっっっっっろ! ちょろすぎだろ心配になるぜ辺境伯のお嬢様ァ!!!!

 ストイックなくせに友情に飢えているとは愛い奴よのぅ……ククッ。

 ンなら次にすべきことはただ一つ! とどめの一発ぶち込んでやるか!

 

「ともだち」

 

 オレ、ゴリラス、ベストフレンド。

 

「……セラフィっ!!」

「はふゅっ」

 

 感動のあまりすさまじい勢いで抱き着いてくるゴリラス女。

 

 い、痛い……! くるしぃ……!! も、もうちょっとやさしくして……!

 

 おたからがカスみたいな魔石を作るだけの機能だったのは残念だが、その魔石一つでオレを慕う都合のいい女が出来たと思えばトントンといったところか。

 オレは遠くなる意識の中で薄くほくそ笑んだ。

 

「わたくしも貴女のことが大好きですわっ! もっ、もう! 絶対ぜーったい放しませんわよっ!」

「ひゃへぇ……」

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