学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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可愛い妹(全身鎧、約190cm)の勇姿をとくと見よ!

 剣聖。

 古今東西様々な創作にておなじみの概念なわけだが、姿かたちは違えどその中身というのはさして変わりはしないだろう。

 要するにこうやって呼ばれる奴はめっちゃ剣術がつえ~って話。

 

 そらね? オレだってゲーマーだし、そもそも最初は剣術の道を志したり志さなかったわけで、その称号を嫌いなわけじゃねえ。

 だが――明日、いや今日、このグロリア極星祭からはアンチにならざるを得ないだろう。

 

 

『――本日は、この晴れ渡る心地よい天気の中全力を尽くせること、大変嬉しく存じます。今日に至るまで生徒の皆さん、きっと多くの苦労や研鑽の積み重ねがあったはず。私は――』

 

「ひゅ……ふゅ……」

 

 暑い……。

 

 背中を丸め立つ灼熱の大地。

 夏も近いこの六月末、自身の仕事はこれだとばかりに世界の全てを焼き尽くす太陽は、もしそれが許されるのなら今にでも破壊していただろう。

 ンなバカ暑い日差しの中、『剣聖』だのと呼ばれていたボケカスが延々と演説を続けていやがる。

 

 いつまで続けんだよこいつ……!!

 中身もねえクソしょーもない内容垂れ流しやがって……つまんねえんだよ! もう十分以上喋ってやがるぞクソクソクソクソ早く終われよォーッ!!!!!

 

 オレの熱で焼かれた脳みそと貧弱な体は限界を迎えつつある。

 焦燥を超え――苛立ちを超え――虚無。

 悟り。

 

 ――ああ、巻き舌宇宙で有名な紫ミミズの剝製とはつまるモペペペペペペペ……

 

『第382回グロリア極星祭、その開会の儀にて――多くの――敗北、勝利、そのどちらもがかけがえのない――』

 

 分かる、分かるよ。

 生徒たちの親、つまり王都に住む法服貴族だの豪商だのが暇つぶしに観戦しに来てやがる。

 確かに王族が、あの急ごしらえで魔術による空調も効いているであろう素晴らしい空間からオレ達を睥睨してやがる。そんな誇らしい状況での宣誓、張り切る気持ちはよーくわかる。

 

 分かる、わかるよ。

 九割がたの生徒はきらきらした目で立っていやがる。

 戦と運動に狂ったイカレポンチ共だ。今日この日を長く楽しみにしていたのだろうし、その中で選ばれたお前の言葉をみんなはとても素晴らしいものとして聞いているんだよな。だから素晴らしい日にしてやろうという、その無駄に膨らんだ誇りの気持ちはよーくわかる。

 

 だがお前の言葉は! だがしかしまるで全然! このオレを感動させるには程遠いんだよねェ!!!!!!

 

「はへ……」

 

 ――あっ、みてみて!

 ()からみるとやっぱりラミュエルは目立つなぁ、あいつ鎧着てて暑くねえのかなぁ。

 

「先生! セラフィリアさんが倒れましたわっ!?」

.

.

.

 

 

『実況はこの報道部! フレイヤとっ! 助手のヘイヴン君の二人でやらせていただきます!』

『えー副部長のヘイヴンです、どうぞよろしくお願いします』

 

 やかましいほどの放送が第一校庭中に鳴り響き、深く沈んでいた意識が浮上を始める。

 気が付くとチーム別のタープの下にてオレは座っていた。

 

「……!」

「よかった、目を覚ましましたのね!」

「カメリア……ありがとう」

 

 首や脇に感じるひんやりとした感覚は、魔術で生み出した氷を布で巻いたもの。

 それにうっすらとした風は横で座っていたカメリアが、杖先から常に生み出しているようだ。

 

『おーっと! 真っ先に飛び出したのはチームレッドルビ―所属の一年生ラミュエル・スタンレイ!」

 

 レッドルビーってあれね、ただの赤組。

 ここはクソデカ国立魔術学院なのでチームも多く、レッドルビ―、ホワイトダイア、ブルーサファイア、グリーンベリルって感じでチーム分けがされてる。

 紅組白組青組緑組でよくね? って思うけどまあ、見栄えがいいからいいんじゃないっすか? しらんけど。

 

「全身鎧にもかかわらず狂った速度で疾走中だ! ……あれ? まだ身体強化魔術使ってないよねあれ?』

『先日の決闘騒動での中心人物ですね、常に鎧姿の上から千切れた制服を着ているのでよく目立っています』

『しかし妨害組の生徒たちも負けじと抵抗! 無数の『アースウォール』が彼女の前に立ちはだかっているぞ!』

 

 どうやらオレが意識を失って……ほんのちょいとばかり目を瞑っている間に競技が始まっていたらしい、

 内容は障害物競走。しかしただちょっとした箱を飛び越えるなどではない、障害物側の生徒たちは多種多様な魔術を扱い、とことん走者を妨害する魔術対戦だ。

 

 やかましい実況共の言う通り、ラミュエルの目前にそびえたつのは高さ五メートル、厚みも一メートルはあろうかという巨大な壁。

 回り込むことは禁止されているため魔術で破壊するか、強化した身体能力で飛び越えるのが定石だが――

 

「こんなペラい壁が効くかよォ!!」

『選んだのは突撃だーッ! 厚さ一メートルはある岩の壁がクッキーのように次々砕けていくぞーッ!?』

『えぇ……人ですかねあれ?』

『これが勇者候補の実力かーッ!? 壁を砕き、蔦を引き千切り、すべての脅威を力だけでねじ伏せていくぞーッ!! あまりに圧倒的だァーッ!!』

 

 どうやら身体強化すら使わずすべてを破壊しつくしているらしい、さすが破壊の化身だ。

 ただ直進、それだけで制覇を終えたラミュエルが一位の旗を高々と掲げる。その瞬間レッドルビ―のタープから大きな歓声が上がった。

 

 ラミュエルはそのまま一位の旗を地面へぶっさし、実にぶっきらぼうにその場へと座り込んだ。

 まるで周囲の人間など興味がない、というように、もはやその目線はレース場を向いていないのだが……

 

「……ラミュ、楽しんでる」

「え!? あれで!?」

「たぶん」

 

 横のカメリアが驚愕したように声を上げた。

 

 分かんねえか?

 

「……さすが姉妹ですわね、鎧でも分かり合えるとは」

 

 なにやら頷いているカメリア。

 いや姉妹でも鎧の感情なんて読めねえけど、お前オレのことなんだと思ってんの?

 

 まずそもそもの話として、あいつは来た当初からやたらと周囲に敵対的だった。

 そんなやつが、だ。わざわざ自由参加(・・・・)の障害物競走に参加している、それだけで驚くべきことである。

 

 ……元々やってたからわかるが、スタンレイ家で勇者候補になった人間ってのはひたすら訓練訓練アンド実戦、街に出て友人関係だのを作ったりだなんてまともにできやしねえ。

 たとえ圧倒的な才能があったラミュエルでもきっとそこは変わらない。

 

 ……はん。はしゃいでんな、あいつ。

 

「飲み物はいかが?」

「……ん」

 

 カメリアが横から出してきたストローを咥え、クラスメイトからなんか信仰みたいなことを受けているラミュをちらりと見る。

 

 あいつのことはよくわかんねえ。

 いきなり暴れるし、あんま関わりたくねえけど……せっかくここまで来たんだから、もっと楽しみゃいいのにな。

 もっと周りと仲良くやれ。

 

『ラミュエル・スタンレイさん! 圧倒的一位の感想をどうぞ!』

『この勝利をお兄様に捧げるぜッ!!!!』

『ほうほう、お兄様に! お兄様! お兄様見てますかーッ!! かわいい……かわ、いい? かわいい妹さんのご勇姿をッ!!』

 

 おい馬鹿やめろオレに投げるな!

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