学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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無数の絶望

 皆さぁ、いい杖使ってていいよなぁって前々から思ってたんだよな。

 クラスメイトはなんか装飾とか宝石ピカピカでいい感じの杖ばっかりだし、ロイド・ロイド・ロイド・ロイドさんが握ってたスタッフもなかなか豪華だった。

 この安モンの杖を延々創造魔術で量産してるから詳しくは知らねえけど、いい杖ってのはやっぱり使い心地がちげえと聞く。

 

 うーん、かっこよくてめっちゃいい杖どっかにないかな。

 目の前のこいつの錫杖もめっちゃかっけえんだよな、赤い宝石いっぱいついてて。

 

「よそ見している余裕はあるのか? 『ブラッドレイン』」

「……くっ」

 

 蝙蝠野郎がどこかから生み出したのか分かんねえ大量の血を操り無数の雨を降らせる。

 それはレンガで出来た地面や壁を次々に刺し貫き砕いていくものの、中心にいるオレには届かない。

 展開した結界に弾かれ赤くなった視界の中でオレはぼろっちぃ杖を握っていた。

 

 つか結局こいつ誰なんだよ!

 いきなり意味ありげに笑って攻撃してきたから相手してるけど、この学院においてコロシアム、決闘以外での戦闘行為は禁止ですよ!?

 

「果たして結界の中ならば安全か? その驕りごと刺し貫いて見せよう。――『ブラッドジャベリン』」

「くっ」

 

 名前が良くわからんオレの座を奪おうとするカスが月明りを背にして飛び上がる。

 唸る魔力の鼓動。奴の手中で魔力の奔流が生まれ、真紅の巨大な投げ槍が轟音を上げ空気を引き裂きオレへと襲い掛かる。

 結界によって弾かれたそれは時計塔へ直撃し、人ひとりよりもはるかに巨大な大穴を穿ち抜いた。

 

 くっ……技がかっこいい……!

 血ってずるいよな。服とかについたら汚ねえって思うのに、なんかゲームで吸血鬼とかが血の武器とか使ってるのめっちゃかっこよく見えるもん。

 お前なんかずるいぞ!!

 

「……貴方は誰?」

「時間を稼いで救助を待つつもりか? それであれば無駄であろう、皆の目線は『剣聖』と『勇者』の一騎打ちに注がれている故に」

 

 まずは名を名乗れ名を!

 格式ある儀式は守れよこの泥棒野郎! お辞儀をするのだ!!

 

「――鮮血の盟主、同胞(はらから)からはカズィクルと呼ばれている」

「くっ……」

 

 あっすみませんちゃんと教えてくれるんですね……! ありがとう……!!

 あとかっこいいぞ……その称号かっこいい……!!

 

 ばさりと、男が真紅の翼を月光の下にて広げた。

 オレの脳裏をよぎる焦りと不安。

 一人称も被ってるしこのままだと完全にクールミステリアス枠を奪われる、オレの強みがガガンボボディという弱みしかなくなってしまう。

 

「目的は?」

「――殺戮」

 

 凄惨な笑みと共に男が錫杖を掲げた。

 天を埋める百を超える魔法陣、中心に据えるは深紅のジャベリン。

 鮮血の盟主たるカズィクルの本領、密なる血と魔力の嵐が天に吹き荒れ今にも獲物を切り裂かんと唸り続ける。

 

「三大国家が一つ、グロリアの王族、勇者の血族を含む生徒達の凄惨なる殺戮をもって幕開けとせん」

 

 夜天に広がる静謐なる錫杖の響音。

 

「長年不遇の座に甘んじていた我ら魔人族、その復活の狼煙となれスタンレイの娘! 『ブラッディ・ディザスター』ッ!」

 

 さながら悲劇の調べとでもいうべきか。一つ一つが容易く人間を喰らい殺す暴力の化身が、一斉にオレへと飛び掛かってきた!

 

 ところで狼煙ってもともとオオカミのうんこを燃やしてたらしい。

 ゆ、ゆるせねえ……オレからクールミステリアス枠を奪う上にうんこと同じと言いてえのか!?

 オレは怒りに打ち震えながら杖を固く握りしめた。

 

「やらせない――『リフレクション』」

「愛する学び舎が傷付くのは嫌か?」

 

 別にぶち壊れても気にはしねえけど足場が無くなるのはシンプルに困る。

 あいつはなんかかっけえ翼で飛んでるからいいものの、こちとら貧弱生身翼無し体調不良マシマシでやらせてもらっているのだ。

 

 オレの周囲を破壊しつくされるその直前、広範囲に展開された反射魔術によって血のジャベリン達は飼い主へと襲い掛かった!

 しかしカズィクルによる錫杖の一振り、ただそれだけによって全ての血槍は力を失い、タダの血の雨として周囲へと降り注いだ。

 

「鮮血、その一切は我によって隷属せん――人の子よ……鮮血の盟主の名、侮ってくれるなよ?」

「――!!」

 

 か、かっこいい~~~!!

 やりたい! 人の子よ……とか言いたい! あとその無効化するやつオレもやりたい~~っ!!!

 ――鮮血の下に隷属せよ、とか言いたい~~~!!!

 

「防御魔術に優れ膨大な魔力を持つと――ロイドの語る通りであったか」

「っ、ロイド・ロイド・ロイドっ!」

「『リント』に連れられ逃げ帰ってきた姿を嘲笑われていたがな、話を聞いておいて正解だった」

 

 むっ、まさかここでロイド・ロイド・ロイド・ロイド・ロイドさんの名前を聞くとはな。

 

 杖を構えあってのにらみ合い、そのさなかでオレは集まった情報を脳内で組み立てていく。

 どうにも魔族共からは派手に暴れてやろうという雰囲気を感じる、最終的な目標は大方数百年前の屈辱を晴らしてやるといったところか。

 

 ……んー。

 少し話がデカくなってきやがったな。

 ロイドさんみたいにオレだけを狙ってくるならボコしてはいオッケーで済んだが、こうやって学院生王族もろともぶっ殺しモードで来られるとちょっと困る。

 

「――ようやく本気を出す気になったか、勇者の血族よ」

 

 少しはちゃんとやるか。

 

 不敵に笑う盗人野郎へオレは杖を向け、現状にて最適な魔術をいくつか思案する。

 三次元的な動きをする相手へ単発攻撃は無意味、容易く避けられてしまうだろう。それにオレが攻撃魔術を使うとそのあとが厄介だ、素早く拡散して周囲に影響を及ぼさないようなものがいい。

 

 魔族……ああ、いいのがあった。

 線撃(レイ)。ロイドさんとのバトルの際につかった奴だ、そいつを無数に放ってやれば都合がいい。

 新魔術と呼ぶのすら下らないがそうだな、あえて名付けるのなら――

 

「――多重線撃(オーバーレイ)

「ふん、それもまた聞いている」

「ばぁん」

 

 確か北の帝国で生まれた武器、銃ってのははこんな感じだったか。

 杖を持ったまま親指を立て、人差し指を盗人野郎に向けたオレは――無数の魔法陣を解き放った。

 

「な――!?」

 

 片翼の先端が穿ちぬかれた。

 回避などない。発動した時点で終わっている、反射神経などでは避けられない。

 追い縋って無数の光線がその両翼すべてを喰らい潰していく。

 堕ちるさなか、さらに細かな光線が腕を、脚を、削り取るように奪い去っていく。

 

 即死か?

 いや、ロイドさんもそうだが連中は耐久力があるからな。

 何よりこいつは血を操れるらしい、それなら――

 

「――自分の血も止められるでしょ?」

「舐め……るなァッ!」

 

 地面へ叩きつけられるその寸前、彼の魔術によって周囲に散らばった血たちが彼の身体を覆うように収束を始める、

 一瞬覆われ直後、爆発するように血を払いのけた彼の身体は……完璧に治癒されていた。

 

「おぉ」

 

 すご。

 回復魔術? いや違うな、魔族特有の物か? いや……あいつの種族限定の魔術ってところかな。

 明らかにロイドさんとは種族が違ぇしな。

 

 もしこの周囲に散らばった血液、そのすべてがこいつの回復に使えるとすれば――少し戦いが長引きそうか。

 確実に潰しに行くか? だがそうすれば情報は引き出せずに終わる。しかしむしろ下手に逃がせば被害が大規模になりかねない。

 

 あまり気は乗らないが……狙うか、急所。

 

「次は、外さない」

「やってみろ小娘が!」

 

 再び互いの魔術が交錯する。

 奴の鮮血魔術――とでも言えばいいのか?――はすべて結界によって阻まれるも、カズィクルとて既に一度は喰らった魔術、ならば動き回ればいいと言わんばかりに縦横無尽の飛翔で多重線撃(オーバーレイ)を搔い潜っていく。

 

 どうにも奴さんもなかなか余裕がありそうだ。

 冷静に攻撃を放ってきているあたり、こちらの余力を測りたいといったところだろうか。

 

「……フン、どうやら勇者と剣聖との決闘も決着したようだ。多少の退屈しのぎのつもりだったが……!」

 

 え、マジ?

 もう決着ついたんかはえーな。

 ふーむ、どれどれ……?

 

「よほど妹の様子が気になるか、命を賭けた戦いの最中だというのに!」

 

 カズィクルの鮮血魔術が絶え間なくオレへ襲い来る中、結界内にて試合結果を観測することにした俺は指先で輪っかを作ってスタジアムの方角へと向けた。

 

 久しぶりに発動! セラフィリアちゃんアイ(ただの遠見の魔術)

 

 …………え? ラミュエル負けてんじゃん。

 うせやろ?

 つか兜も外されて……お、お前そんな顔してたんか……思ったより中身昔とあんま変わんねえな、オレより背小さいんじゃね?

 

 網膜に映り込む遠くの風景、そこに映し出されたのは地面に座り込むラミュエルの姿だった。

 首元に剣を突き付けられた彼女は、まるで道に迷った子供のように周囲を何度も見まわし――怯えたように顔を顔をゆがめコロシアムから逃げ出す姿はあまりに想定外。

 

 ……ま、マジすか?

 ホンマ? ホンマに? ラミュエルさんっすよ? あの、ワンパンで全てをなぎ倒していくバケモンゴリラスですよ!?

 

 え……剣聖ってそんなヤバい奴なの?

 ラミュがビビるくらいなの? 嘘やん!! こんな学院にそんな怪物いるなんてお兄様聞いていませんよ!?!?

 

「そろそろ引き上げさせてもらおう。今すぐにでも殺せぬことは心残りだが――全てが終わり絶望したお前の血を搾り取るのもまた一興」

 

 カズィクルが翼を広げ再び天高く舞い上がる。

 その背、コロシアムを超え、学園の敷地の更に先――漆黒が蠢く。

 大量の影たちが無数の羽音を立て、夜の闇すら覆いつくしこちらへと迫りくるのが視界に映り込んだ。

 

「我らが同胞(はらから)が集った故に、な」

 

 そう言い残し、カズィクルは羽ばたきと共に暗闇へと消えていく。

 彼が向かう先は――大半の生徒、そして王族や貴族などが集う、武闘大会を終えなお今も活気を残すコロシアムだ。

 

 くそっ……マジかよ!!

 こいつ……ずっと……!!! ずっと――

 

 敗北感に崩れ落ちるオレの膝。

 憤り、悲しみ、そして絶望。胸の中にあふれる感情のまま、あちこち砕けた床をぺちっと叩く。

 

 ――ずっと一々物言いがかっこいい……! 悔しいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!

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