学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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鮮血の盟主、カズィクル

「どうしよ……」

 

 空の端からどんどんなんか影がこちらへ集まっているのを眺めながら、オレは屋上でぼーっと顎に手を当てていた。

 

 あのクールミステリアス枠泥棒野郎が飛び立ってから今に至るまで、まだ空から迫りくるそれらに気付いていないようで、コロシアムはまだ和気あいあいとした雰囲気を保っている。

 おそらくカズィクルはあの空のよくわからん奴と合流したのだろう、まあ同胞(はらから)とか言うとったしな。

 連中がこちらに到来するまで……残り五分程度か?

 

 むーん……。

 オレがコロシアムからここに来るまで二十分。

 階段を上るのがウルトラスーパーきつかった点を考慮したとして、頑張ってもコロシアムにつくまで十分。

 マジ全然余裕で間に合わない、転移魔術を使えばそりゃどうとでもなるけどクソ疲れるし。

 

 一方でそもそもオレがあそこに行く必要があるんか? って話があるんすわ。

 だってあそこにはラミュをぶっ倒した剣聖がおるんやろ? それになんかさっき飛び出していったとはいえ近くにラミュ本人もいるだろうし、さらに王族の警護に騎士どもだって控えてる。

 

 ……いらんくない?

 オレ絶対いらんくない?

 むしろ皆さんでどうぞ頑張っていただければ幸いですって感じっしょこれ! あいつなんかめっちゃイキってたけどタコ殴りの未来しか見えへん!

 

「ふぅ……」

 

 ベンチに座り、創造魔術で生み出した白湯を啜る。

 普段はわざわざ飲食物などの創造はしないのだが……今日は調子がいいのでこれくらいならええやろ。

 

 はてさて、元々極星祭で疲れてたし、挙句にバトルとなればなおのこと疲労感は重なるばかり。

 さらに言うとどうにも魔族の目的ってのは大規模な争い、つまり人類と魔族による戦争っぽいのは言うまでもないことだが、そうなってくるとオレ個人の手にはあまる。

 

 実にちょうどいい機会だ。

 以前の森から続く魔族の暗躍、それがこの王族たちがいる学院にて詳らかになる。当然国家の威厳、ひいては人類の存続のために国は腰を上げての本格的な対策を取る必要が出てくる。

 オレはすぅ……っとフェードアウトしてあとは皆さんでバトっていただく、完璧な作戦と言えるだろう。

 

 セラフィリアちゃんアイ(本日二度目)でコロシアムの様子を眺めていたオレだったが、次第に生徒たちの感情が高揚から困惑へと変わっていくのを感じた。

 どうやら空の様子がおかしいことに気が付いたらしい。

 オレも彼らに合わせモンスターへと視線を向け――

 

 彼らの視界に映るのは迫りくる大量の魔物たち。

 人間の頭ほどある赤黒い蛭、さらにその背にはカズィクルと同じ真紅の翼が備わっている。

 

「うぉ……」

 

 きっしょ。

 あいつあんなん同胞扱いしてんの? なんかかわいそう……友達いないんかな。

 うーんまあ順当か、オレと違って性格悪そうだしな。

 

『――血だ! 鮮烈なる血の雨をッ!』

 

 あっ、盗人野郎出てきた。

 めっちゃド派手な登場するじゃん。

 

 魔物の群れ、それを切り裂くかのように現れたカズィクルが、両腕を大きく広げコロシアムの中心に降り立つ。

 

『ああ、極上の贄がこれほどまでに会しているとは――我が同胞たちよ、悠久の飢餓を満たす刻が来た!』

 

 魔物たちはコロシアムの周囲を舞い、しかし丁寧に調教された犬のように伏して待つ。

 全ては主に、己らに繁栄を与えてきた付き従う故。

 目を持たず、しかし優れた嗅覚と魔力感知能力を持つそれらは――無数の牙が円形に並ぶその口からどろりと唾液を溢した。

 

『これこそが久方ぶりの夕餉であり――血霧によって描かれる我等が魔族復活の狼煙である! さあ存分に喰らえ! 啜れ! 貪れ!!!』

 

 それこそが開戦の合図。

 獲物を目前にして一斉に飛び掛かる魔物たち。その数、万は下らない。

 同時に生徒たちは悲鳴を上げ一目散に逃げだした。突如現れた魔族たちに現実感を抱けなかったものの、目の前に座る者たちが襲われたとなれば仕方あるまい。

 

「んん……」

 

 まずい、か?

 

 オレは正直魔力感知ってのが苦手だ、正直なところどいつもこいつも同じような魔力量に感じてしまう。

 しかしそんなオレでもなお、あの空を舞うヒルからはより一層弱い魔力しか感じない。実践演習を月一でやっている生徒、それも上級生ともなれば対処は容易いと踏んでいたのだが……パニックになっているのが厳しい。

 

 めんどくせえけど目の前で死なれるのはなぁ……転移するか?

 そう、杖を取り出し――

 

 

 鋭い一閃が生徒にかみつくヒルを切り裂いた!

 

 一人の細身な生徒が剣を片手にコロシアムを駆けまわる。

 一匹、また一匹と切り払っていくその生徒は周囲の襲われた生徒達をあっという間に救い出し、天へ高々とその片手剣を掲げ叫んだ!

 

『訓練してきたはずだ! 皆そうだろう! この魔物たちは君たちの戦ってきた奴らよりはるかに弱いッ!』

 

 その言葉に逃げまどっていた生徒達も一人、また一人と立ち止まる。

 自分達には力がある。戦うための力だ。今は形骸化してきてはいるものの、その魔術や剣技は確かに抗うための力だった。

 

『ふぁ、ファイアーボールっ!』

 

 一人の弱気な生徒が怯えながらも魔術を唱える。

 もっとも単純な魔術。しかし鍛錬によって揺らぎの少ない真紅の炎は、確かに目前の魔物へと着弾しその身を焼いた。

 石畳の上にたたき落とされ見悶えするそれは……やがて生き途絶える。

 

 それは彼らが訓練してきた日々、それが意味を成した瞬間であった。

 生徒たちは幼く、しかしそれが決して力不足ではないという確たる証拠。

 

『お、おおおおおおおっ!』

 

 勝鬨が上がる。

 たった一人の弱気な生徒が放った小さな火、それが生徒たちの戦意へと炎をつけた。

 逃げ惑っていた者たちは次々に己の杖を握りしめ魔術を放った。その射線上は空であり、大地であり、日々肩を並べ学んだ友人たちへ噛みつく魔物たちであった。

 

 炎が、氷が、雷が、石片が次々に空を舞う!

 時に中級以上の強大な魔術すらもが生徒たちの頭上を駆け巡った!

 

 騎士や教師たちも既に参戦し己の武器を掲げている。

 突如現れた脅威、それから己の生徒や主君を守るために長く鍛え続けてきた刃を思うがまま振るった。

 最初こそ攻勢であった魔物たちは次々に潰え、大地へと真紅の染みを残して散っていく。

 

『一気に攻めるぞ!』

 

 『剣聖』が吠えた。

 『勇者』すら打ちのめしたその言葉に人々の身体はより熱を帯びる。

 

 勝利は近い。

 急遽現れた絶望的な急襲すら今の自分達には容易い壁であった、そう思っていた。

 

『――ブラッドジャベリン』

『……くっ!?』

 

 この時までは。

 

 低い男の声と共に真紅の大槍が空を切り裂く。

 『剣聖』は本能のままに魔力を籠め剣を目前へ突き出す、同時に襲う強烈な衝撃。

 飛びかけた意識を必死に抱きかかえ、『剣聖』は弾いた攻撃の向かった先へと視線を向けた。

 

 人ひとりより深く穿ちぬかれた大地、もし直撃していれば容易く『剣聖』は二つに分かれていたであろう。

 

『な……!?』

『フン、貴様(・・)もこの攻撃を受け止めるか――剣聖の名は伊達ではないらしい』

 

 土煙の中、悍ましき真紅の瞳が光り輝いている。

 同時に巨大な翼がすべてを払いのけ――現れたのは昏き闇を体現したかのような一人の男であった。

 

『君は一体っ!?』

 

 『剣聖』が叫んだ。

 黒き男は薄ら笑いを浮かべ――

 

『下らぬ、実に』

 

 ――男は手にした錫杖を背後に振るう。

 

『うぐっ!?』

 

 背後へ忍び寄った騎士が容易く打ち据えられた。反応すら許されぬ速度であった。

 その華美な鎧は大きくひしゃげ、騎士はまるでゴム玉か何かのように激しい勢いで吹き飛んだ。

 さらに次々に投げ槍を生み出し粗雑に放り投げる度、精鋭と呼ばれたはずの騎士たちが、教師たちが容易く崩れ落ちていった。

 

 即死ではない。

 だがしかし立ち上がることなど叶わず、この先魔物たちによって行われる未来を考えれば即死であった方が幸福であっただろう。

 きっと、いや間違いなく、全ては目前の男の計算通りであった。

 

 一歩、また一歩。

 男が『剣聖』へ近づくその度、周囲の空気が鉛のように重く変わっていく。

 

『鮮血の盟主、カズィクル』

 

 雰囲気に似合わぬ錫杖の涼やかな音が鳴り響いた。

 

『これより汝らの血を啜りすべてを鏖殺せん』

 

 『剣聖』の身体は動かない、いや、動けない。

 少しでもこの主の前で過ちを犯せば数秒、いや一呼吸のうちにその命が奪い去られると本能的に理解してしまったために。

 

 喉を鳴らすことすら命が惜しい。

 まばたきすらもが恐ろしい。

 浅く速い呼吸を繰り返す『剣聖』のついに首元まで近寄ったカズィクルは――すん、と小さく鼻を鳴らした。

 

『ふむ……この匂い、まさか……』

 

 紅い瞳が三日月に歪む。

 『盟主』がちろりと舌なめずりをしたその時――二人の間を巨大な剣が遮った!

 

『敗北に尻尾を捲ったかと思っていたのだがな』

 

 その紅い瞳から余裕の色が消えることはない。

 既に目前の小娘に負けた存在だ、恐れる意味すらないだろう。

 

 現に……この小さな黒髪の少女はこれほどまで顔を歪め、膝を震わせてるではないか。

 

『蛮勇と勇気を履き違えたな――勇者』

『き、消え……ろ……ひっ、ヒル野郎……!!』

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