学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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聖女教生誕記 一章三節『何故星は輝くのか』あたりから見比べると楽しめると思います


一族一族愚かな一族お前ら器の大きさしらぬセラフィの器の大きさ知らぬ

「すぅ~……ふぅ~……」

 

 きた。

 ようやく来た。

 あのカスの権力を使って入学、全員一歳年上の学院へ無理矢理入り込めた。

 そうすればきっと、またあの時みたいに……っ。

 

『おー全員座れ、鐘が鳴ったってのにいつまで突っ立ってんだ。それと今日は転入生がいるぞー!』

 

 気合を込めた一歩。

 少しの抵抗を感じつつさらに教室へ踏み込み――小さすぎる出入り口が鎧に引っかかって砕け散った。

 

 あっ……まあいいか。

 

 教師に促されるまま教壇へ上がりチョークを手にする。

 初めて触るので何本か指先ですりつぶしてしまったが、ようやくつかみ上げたそれで黒板へ名前を書き軽く叩いた。

 同時に罅の入る黒板。

 

 あっ……まあこれもいいか。

 

「アタシの名はラミュエル・スタンレイだッ!」

 

 お兄様を虐めるゴミムシ共がここにいる。

 直接手を出してるやつは数人、だけどほかのクラスメイトは見過ごしているのだから同罪。全員ゴミムシだ。

 

 じろりと教室内を眺め――見つけた。

 たった一ヵ月。それでもお兄様はあの時見送った姿より細く、少しやつれて見える。

 それでもお兄様は……とっても綺麗だった。それだけは記憶と何も変わらない。

 

 窓際からこぼれた風が細くて柔らかな白髪を撫で、その神秘的な紅い瞳が少しだけ細まった。

 

「こいつらが学友かァ~、雁首揃えてどいつも情けねえツラばっかり、見てるこっちが恥ずかしくなってくるぜ! ほんじゃあゴミムシ共これからよろしくなァっ!!」 

 

 座れと言われた席はお兄様の後ろ。

 ふん……親父の采配か? いい、悪くない。

 

 分かってはいた、それでも一歩近づく度に心臓が跳ねた。

 

 なんて言おう?

 なんて切り出そう?

 どうしたら……歩みを進める度に頭の中が真っ白になる。

 

 お兄様はずっと鉢に植えられた花を眺めていた。

 あたしに興味ない? ちがう、見たくもないの?

 だめ。昔みたいに……昔みたいにあたしは……っ

 

「久しぶりだなァお兄様(・・・)ァ!」

 

 あれ?

 あたしお兄様とどうやって話していたんだっけ、真っ白になった頭じゃ昔のことなんて思い出せない。

 もうこの口は何年も悪態しか吐いていない。

 

 うつむくお兄様は何も言ってくれない。

 以前より、一層細くなった首筋が白い髪の間から覗いている。

 

「聞いてるぜェ? 家からの金もまともに貰えてねえし、メシも食えてねえんじゃねえのかァ?」

 

 返事は……無し。

 女性らしいと言えば聞こえはいいが、それにしたって細すぎる肩がアタシの一言を聞く度震える。

 

 分かってる。

 分かってるんだ。アタシのせいなんだ、全部奪ったアタシのことなんて嫌いなんだって。

 

「なんとか言えよオイ!!」

「……貴女には、関係ない」

「チッ、アぁ!? かわいい妹様が可哀そうなお兄様を心配してやってんだろうがよォなァ!?」

 

 緊張で湯だった脳みそに浴びせかけられる冷たい言葉。

 

 違う! こうじゃない!

 アタシは……そうだ、お金を渡しに来たんだ!

 

 マジックバッグには金貨がたんまりと入っている、蔵にあるものを山ほど奪ってきてやった。

 アタシはパニックになりかけた頭のままで、事前に用意した小金貨を数枚テーブルへ叩きつける。

 

「……っ」

「そうおびえるなよ、可愛いお顔が台無しだぜェ? ククっ、なにちょっと恵んでやってるのさ。貧乏人は黙ってありがたく受け取れよ!」

 

 金貨一枚がおよそ一般人の一か月の稼ぎ。

 小金貨はその十分の一の価値、これだけあればしばらくは何があっても困らない。

 本当はいくらだって上げたい、いやいくらだって上げられる程度には持ってきた。今アタシが腰につけているこのマジックバッグを丸ごと上げたい。

 

 ……でもきっと、優しくておしとやかなお兄様は遠慮してしまうだろう。

 だから今日はこれだけだ。

 そうだ、ラミュエル……焦らなくていい。入学は出来たのだから、仲良くなってから全部上げればいい。

 

「じゃあ積もる話はまた後でたっぷり話そうぜ、可愛い可愛いお兄様?」

 

 三年ある。

 卒業まで三年も、ある。必ず戻れるはずだから……あの日みたいに。

 

 

 授業が終わってお兄様が教室をのろのろと出る。

 でも話しかけるタイミングを失って後ろを追っていたら、お兄様が食堂のババアに負けていた。

 

「そ、それ……」

「パンだね! 何個だい!?」

「いち……」

「あ~~~!? (しち)ィ!? あんたそんなに食うんかい! 小さいのに大喰らいだねアッハッハ!!!!!」

 

 涙目になりながら大量のパンをお盆に乗せ歩くお兄様を遠くで眺め、アタシは可愛いなと思いつつ首をひねった。

 

 ……え、何やってんだろうこの人?

 

 お兄様は小食、それは昔から変わらない。

 ただし家にいるときは少し無理をして食べていたのも知っているし、きっと今はあの時よりもっと食べる量は少ないはず。

 この量は絶対に食べきれない。

 

 困惑して眺めていると、トングをカチカチして威嚇する食堂のババアに怯えてお兄様は列を離れた。

 

「……っ」

 

 とぼとぼと歩いたお兄様は角っこの席に座って涙目でパンを口にしている。

 ちまちまと指先で小さくちぎっては口に運ぶも、目前の大量のパンが再び目に入ったからだろう、呆然とした顔で食事の手が止まる。

 

 ……かわいい。

 

 お兄様をこうやってちゃんと見たのはいつぶりだっただろう。

 話しかけないといけないのに、でもいつまでも見ていられるからなおのこと足が止まってしまう。

 

 お兄様には絶対見えない距離で『遠見の魔術』を使って眺めていると、突如お兄様が胸元を抑えて顔を伏せた。

 

「……!」

 

 パンを詰まらせたんだ!

 

 アタシならあんなパン、ぎゅっと握りつぶして一口だ。

 でもお兄様は小さく小さく何等分にも分けて、ちまちまと口にしないと喉を詰まらせてしまうのだろう。

 そういうところは昔から変わってないみたい。

 

 焦る心。

 でも一方で、これはチャンスなんじゃないかって囁くもう一人の自分。

 アタシはすこしだけはやる心を抑えて、コップに水を注いでお兄様の下へと駆け寄った。

 

「なに一人で悶えてんだァ? 相変わらず貧弱でバカみてぇにおっちょこちょいなのは変わんねえみたいだなァ?」

 

 コップの水を差し出す。

 ついでにパンを一つつかみ上げかぶりつく、どうせ絶対に食べきれないのだから減らしてあげないと。

 

 けれどお兄様は全然受け取ってくれない。

 

 喉を詰まらせて苦しんでるってのに意味が分かんない!

 苦しくないの!? 絶対苦しいでしょ!?

 

 焦る気持ちでずいずいとコップを差し出す。

 お兄様のうすく、でも柔らかいほっぺにまで押し付けてようやくお兄様はコップに手を伸ばし――

 

「何やってんだボケ! 一人じゃ水の一つもてめえはまともに飲めねえのかよアァ!?」

 

 コップをひっくり返した。

 

「……ごめっ」

「テメエが謝って何が変わんだよボケ!」

 

 あーくそっ! ミスった!

 喉詰まってパニクってるんだからこうなるかもしれないのなんて当たり前だろうが! クソクソクソッ!

 

 怯えたような視線を向けるお兄様の顔を見て思考が固まる。

 せっかくいい機会だったってのに! ここからうまく話を広げればどうにかなったかもしれないのに!!!!!

 

 どっ、どうにかしないと!

 とりあえず服を脱がせればいい!? このままだとお兄様が風邪引いちゃうし!!

 

 だがその時、何故か再びお兄様は水浸しになった。

 

「……ぁンだぁ?」

「あーっごっめーん! そっちのお姉さんが水欲しいのかなぁ~って思ってぇ!!」

 

 ……ア゛ァ?

 

 一瞬まだコップに水が残っていたのかと焦るも、後ろからかかってきた声で理解した。

 今そこにいるのはターゲットだ。アタシがここに来た理由の最も大きなうちの一つ、お兄様を虐めるゴミムシの首魁共。

 

 振り返ると連中の目はなぜかアタシを見ている。

 意味が分からない、だが興味もない。

 踏み台だ。こいつらを徹底的に叩き潰す、そしてお兄様を虐めから救い出しまた昔みたいに仲良くする!

 

 鎧の中でアタシは口角を吊り上げた。

 

「聞いてた話は間違いないみてェだなァ、ウジムシ共が群れて下らねえことしてやがる」

 

 カス共が下らない妄言をまくしたてるも聞く気も湧かなかった。

 適当に連中を煽り立てる度彼らのいらだちは瞬く間に最高潮へと昇り詰めていく。分かりやすくて単純、ああお兄様を虐めるような下らない奴らはこの程度の連中なのだろう。

 

「いいぜボンボン共! 元々こうする予定だったからなァ、死に急ぎてえならお手伝いしてやるよ!!」

 

 そうして決闘が始まった。

 

 

「――『破天』」

 

 

 すぐに決着がついた。

 下らない、あきれるほど貧弱で涙が出るほど退屈な戦いを語る意味などない。

 度々無価値な抵抗をしてきた気もしたが、軽く殴ったら全部砕けたのでやはり屑の抵抗など口にする必要もない。

 

 お兄様が見てる。

 それだけはこの決闘の中でずっと意識していた。

 金髪の……名前は何だっけ? クラスメイトの女と一緒に眺めてる。

 

「テメエら、集約魔術と雷が好きなら最後にいいものを見せてやるよ」

 

 剣は嫌いだ。

 でも魔術は好き、昔お兄様が好きだって言っていたから。

 だから剣は握らなくなったけど、魔術だけは少しだけ勉強を続けている。だからこいつらが集約魔術なんて変わり種を放ってきたのにも気づいた。

 

 ――これだ。

 お兄様、アタシも魔術を学んだんだ。

 アタシもお兄様みたいに魔術を扱えるようになったんだって、見せつけるように集約魔術による雷の大剣を生み出す。

 

 殺しはしない。

 それでも二度とお兄様に下らないことなどできぬよう、半殺しは最低限。

 

 アタシはそれを振り下ろし――

 

「……あァ? どうしてだ? どうして止めたンだよ」

 

 だが直前で、その魔術は抑えられた。

 透明の結界がまるで食いつぶすかのように雷を抑え、圧縮し、潰していく。

 

「お兄様ァ」

「……危ないから」

 

 っ、どうしてだよ!

 そいつらはお兄様を虐めてたんだろ!? ずっと、ずっと!

 アタシがなにも知らないとでも思ってんのか!?

 

 優しい、あまりに優しすぎる性根だ。

 自分がどれだけ苦しもうと、ましてや苦しめてきた張本人を庇うなんて!

 

 アタシは固く握った拳を振り上げ駆け出す。

 止めるためだろう、拘束の魔術をいくつか発動してきたがそのすべてを引き千切った。

 そしてお兄様を飛び越え殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る!!

 

 泣くまで殴るのをやめない、泣いたって殴るのをやめない。

 

「け……ふ……」

「テメエが三人のボスだなァ、残り二人の動きを見てりゃ分かるぜェ?」

 

 カスの一匹、指示を飛ばしていた野郎をひっつかみ顔を近づける。

 だがこいつは死にかけのくせにまだ睨んできやがった。

 

 骨はあるのかもしれない、だが道を間違えた。

 イラつく。どこかでこんな奴を……いや、自分を見ているみたいだ。

 

「……ラミュエル」

 

 もう一発殴ろうとしたその時、突然アタシたちの真ん中にお兄様が転移してきた。

 アタシが驚いて半歩下がったその隙をお兄様は逃がさず、即座に周囲に結界を張る。

 

 ……どうしてそんなに必死に守るんだよ。

 どうして……っ!!

 

「相変わらず結界が大好きだなァ、お兄様ァッ!」

 

 つい、感情のままに本気で拳を振るった。

 胸の中に溜まっていた感情のままに、だ。

 背筋に冷たいものが走る。カス親父も後ろのゴミムシ三匹共も似たような防御魔術を使ってきたが、全部簡単に砕けてしまった。

 

 この四匹はぶち殺してもいいムシだが……お兄様は……っ!!

 

 けれどそれは杞憂で、平然と結界の裏に立つお兄様がいた。

 やっぱりお兄様は凄い。

 

「まだ……続けるつもり……?」

 

 お兄様の口元から一筋の血が零れ落ちる。

 

 ……アタシのせい?

 また、アタシはお兄様を苦しめてるの?

 アタシはただお兄様と話したかった、また昔みたいに一緒にいたいだけなのに。

 

 お兄様は強い魔術を使うと体を傷つけてしまうらしい。

 家に何度もきた治療術師に話を聞いてそれは知っていたし、命に別条がないのも知っている。

 

「――貪り喰らう柔鎖(グレイプニル)

 

 ――だとしても! もう魔術は使わないでほしい!

 もう苦しまないでほしい!

 なのに! なのに!! もう苦しんでほしくないだけだったのに、そのためだけにここまで来たのにっ!!!!

 

 アタシを止めるためにお兄様が必死なのはわかってる。

 分かっているけど納得なんてしない、出来るわけがない!

 

「どうして! どうしてアタシの邪魔をッ! お兄様ぁ!!!!」

 

 全身が魔術の鎖によって包まれた。

 魔力とともに力が抜けていく。

 それでも、だからこそ絶え間なくあふれ出す激情のままにあたしは暴れ狂った。もうどうしたらいいのかなんて分からない、正解なんてないかもしれないと心の隅で気付きながらも。

 

「……ラミュエル」

「クソっ、クソォっ!! どうしてそんな奴ら庇うんだよお兄様ッ! アタシはッ!」

「聞いて、ラミュエル……けほっ」

 

 叫んで、暴れて――気が付くと、お兄様が目の前にいた。

 真っ白になった頭の中で、お兄様の声が遠くに聞こえる。

 アタシへ何かを言い聞かせようとするも何度か苦しそうに咳をして……鎧にお兄様の血が点々とへばりついた。

 

「……ごめん、ね」

 

 細く震える腕でお兄様が血をぬぐう。

 まるで自分が悪いことをしているかのように、バツの悪そうな笑みを浮かべて。

 だが必死に拭う姿とは裏腹に血は伸びていくばかり。アタシの、見た目ばかりが大きくなった鎧に。

 

「こんなこと……しないで」

 

 けれども堪え切れなかったのだろうか、お兄様は涙をこぼした。

 ――昔みたいに、アタシのヘルメットをそっと撫でながら。

 

 違う。

 こんな風になるはずじゃない。

 こんなつもりじゃない。アタシはこんなことするつもりじゃなかった、こんなことさせるつもりじゃなかった!

 

「う……」

 

 二度目。

 そう、これが二度目。

 ラミュエル・スタンレイの二度目の過ち。過去と全く同じ、『こんなつもりじゃなかった』。

 

 べったり張り付いた血と同じ紅が視界を埋め尽くす。

 

「あ……」

 

 狂いそうだった。いや、きっともう狂っている。

 アタシは三年前から何も前に進めてなんかいなかった。

 また、同じ罪を上から積み重ねて。

 

「――うああああああああああああああああっ!!!!」




おぉ………………………………………………………………………………………………

お前たちィ~~! 最高だぜェ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!
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