学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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ローゼン・シュタイン・シュルシャコール・シャーメス・シュルシュテンリッヒは華麗な戦士であるということを皆様には是非にともご理解していただきたく本日はようこそこのボクの華麗なる決闘の

 弓使いがいた。

 撃ってきた矢を掴み上げて投げ返してやったら、情けない悲鳴を上げてそのまま崩れ落ちた。

 

 ハンマー使いがいた。

 大きなハンマーを殴りつぶして、もう一発お腹を殴ってやったら動かなくなった。

 

 「僕は『花騎士』、ローゼン・シュタイン・シュルシャコール・シャーメス・シュルシュテンリッヒさ」

 

 シュがいっぱいあって動きがくねくねキモいロン毛がいた。

 

「随分と強情な子みたいだけれど……大丈夫さレディ、ボクの薔薇魔術で君の心をきっと解いてみせ」

「っせェ!!! 喧しいだよボケロン毛ェ!!!」

「ると約束んぎゃああああああッ!?」

 

 顔をぶん殴ってやった。

 

「見事……だ、ね……美しい薔薇には……トゲが……あった、か……!」

 

 こいつだけは微妙に元気があって余計うざかった。

 

 ただ不思議なのは全員堂々と武器を構えてきたこと。

 あのカメリアからシュが一杯のキモロン毛までそれは全員変わらない。

 力の差なんて圧倒的なのに、負けるのが分かり切ってるのに、いったいなにがしたいのかアタシには分からなかった。

 

「改めて名前を聞かせてもらおうかな、『勇者』ちゃん。ボクはクリスだよ」

「……ラミュエル」

 

 『剣聖』クリスは平凡な見た目だった。

 その年の男子生徒からすれば随分細身な見た目、薄い水色の髪と目、ある程度整った見た目は少しだけ目を惹く。

 それでも王都に放り込めば一瞬でも見分けがつかなくなる、それくらいにありふれた姿。

 

「『剣聖』だなんて呼ばれてるけどね、実際ボクは大した人間じゃないんだ。魔力だって少ないし……身体強化ともう一つくらいしか魔術も使えないんだよね」

 

 あはは~、まあもう一つのはダサいからあんま使いたくないんだけど。なんて朗らかな笑みを浮かべて頭をかくクリス。

 けど何を語ろうとアタシにとってはどうでもよかった。

 アタシはまだ続けている剣聖へ駆け出し、固めていた拳を放った。

 

「――っ!?」

「君の戦い方は学ばせてもらったよ! 圧倒的なパワーとスピードでの瞬殺、シンプルだけど驚異的だね!」

 

 ぬるり。

 クリスは軟体動物かのような奇妙な回避で拳を避ける。

 

 『剣聖』クリスの戦い方は他の生徒とはかけ離れていた。

 多くの者が身体強化を常に発動し続けるのに対し、クリスは全身をバラバラに使い分ける。普通に振られていた剣が突如加速し、素早く駆け回っていた体が急激に遅くなる。

 能動的にスイッチングされた強化魔術一本の戦闘方法は、しかし今までにないほど奇妙であり何より対応し辛い。

 

 でも、それだけだ。

 こんな戦いさっさと終わらせないと。そうして全員を黙らせて……お兄様に褒めてもらうんだ!

 今だってアタシの試合を見てくれてる! お兄様は、お兄様は――

 

「――お兄、さま?」

 

 周囲を見回した。

 次第に薄暗くなってきた夜空、それでも魔術であちこち照らされたコロシアム内なら人の顔を見分けるのにそう苦労はない。ましてやお兄様を見逃すなんてありえない、のに。

 

 いない?

 お兄様は? お兄様はどこ? カメリアはあそこに……お兄様もその横にいたはずなのにっ!!!!

 

 焦りから生まれた汗がほほを伝う。

 

 ……お兄様は体が弱いから休みに行った?

 そうだ、そうに違いない。考えてみれば長い極星祭、朝からの運動につかれてるに違いない。

 ――ほんとう?

 

 この学院に来て何回も間違った。

 お兄様を何回も困らせた。

 見捨てられたんじゃないのか? それに足る理由は無数にある、それを否定する理由は――そんなもの、ないじゃないか。

 

『わざわざ学院に来て何がしたいの?』

 

 ……違う。

 

『ただ暴れまわって目立ってるだけ、実家に帰れば?』

 

 違う、お兄様はそんなこと言わないっ!

 お兄様はっ! お兄様は……! お兄様、は。

 

 理想を奪って、学院で暴れて迷惑をかけるアタシなんか、嫌いじゃないの?

 そんな奴の試合なんて見る意味ない、興味もない、むしろ苛立たしいくらい。だから抜け出したんじゃないの?

 

「隙ありだよ!」

「っ!?」

 

 突然視界が大きく開いた。

 

「あっはっは! ずーっと強情なことばっかり言ってたからどんな子かと思ったら!」

 

 クリスの手に握られたヘルメット。

 冷たい風が一気に吹き込んで、それが奪い取られたんだと気付くのに時間はいらなかった。

 

 色めき立った声が応援席から上がる。

 それが余計にあたしの頭を白くさせた。

 

『クリスーッ!!! 可愛い女の子いじめんなーっ!!!』

「お前らうるさいぞーっ! 文句があるなら降りてこーい!!」

 

 クリスの声色は怒っているようで、少し楽しそう。

 

「気になってたんだよね、噂じゃずっと鎧を脱いでいないみたいだし、ローゼンを殴ったときにヘルメットが飛ばないよう庇ったでしょ?」

「かっ……返してっ!」

「ごめんねラミュエルちゃん!」

 

 おもちゃのように蹴り飛ばされるヘルメット、それは盤外へと転がっていく。

 取りに行った時点で敗北判定、ゆえにあきらめざるを得ない。

 

 っ、くそっ!

 

『うおおおお! 『剣聖』が恥を知れーっ!!!!』

『セコいぞクリスーっ!!! 略してセッ』

「品性なさ過ぎでしょお前らマジでぶん殴られたいの!?!?!?!?」

 

 周りに文句を言いながら、それでもクリスは笑っていた。

 

「ごめんね、でも使えるものは全部使う主義なんだ!」

 

 クリスの剣が襲い掛かる。

 対処は出来た。確かに面倒な動き、でも別に全部見切れるし反応もできる。

 なのに体が重い。

 

 一撃を避ける度、体がどんどん重くなっていく。

 心が沈んでいく。

 楽しそうに武器を振るうクリスとはまるで真逆だ、もはや何もしたくすらない。

 

 あたしはどうしたらよかったの?

 この先何をしたらいいの?

 何かをするのが怖い、だから何もしたくない。

 

 迷子。

 自分が選んだ道は全部失敗。

 何をしてもきっと間違い、あたしは何もできない、変われない。

 

 あたしはお兄様に見捨てられたんだ……もう大会なんてどうでもいい。

 

「決着、かな?」

 

 少し困ったような笑みを浮かべクリスがアタシの首元に剣を突き付けた。

 

「…………っ!」

 

 脳が沸騰する。

 こんな細い剣! 叩き折って! ……叩き折って、だからなに?

 

 周りを見回した。

 お兄様はいない、ほかの人はクリスの勝利を口々に褒める。

 あたしの味方なんていない……いるわけない、ずっと暴れてきただけだから。あたしの居場所なんて、ない。

 

 こわい。

 こわい。

 どうしたらいいの? どこにいけばいいのお兄さま? たすけて……お兄さま。

 

 震える膝でどうにか立ち上がった。

 『剣聖』に背を向け、逃げ出した。何か言っていたような気もしたけど何も聞こえない、聞きたくなかった。

 

「……ぅぐ……っ」

 

 またあたしは逃げた。

 前は蔵へ、池のほとりへ、そして今度は待機室へ。

 貸し出し用の武器がいくつも転がるその中、決勝戦が終わった今はもう誰もいない。

 

 唇を噛みしめた。

 鎧のパーツを外すたび、噛みしめる力が強くなる。

 最後に全部をマジックバッグに叩き込んで――口が、開いた。

 

「う……うぁ……ああああぁぁぁあぁっ」

 

 こわい。

 かなしい。

 つらくて……さみしい。

 

 失敗するのが怖くてもう何もしたくないのに、何かをしないと、現状を変えないとって心が焦る。

 誰も信じれない、信じたくない。お兄さまを虐めるような奴らばっかりだと思ってたのに……この学院の人たちは優しかった。

 話を聞いてくれて、仲良く言い合って……思ってたのと何もかもが違う。

 

 なんで? なんでどうして?

 思い通りにいかないことばっかり、分からないことばっかり。

 嗚咽が疑問と共に喉から溢れる。

 

「お兄さま……お兄さまどこにいるの……?」

 

 お兄さまに会いたい。

 前みたいに話したい、仲良くしたい、頭をなでてほしい。

 ただそれだけなのに……どうしてこんなに遠いの?

 

 待ってったって来るはずもない。

 だって三年間も待ってたんだ、あたしはずっと待って……何も変わらなかったんだから。

 

 そうやってまたいつもみたいに座り込んで、膝に顔をうずめて泣いて――

 

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