学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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どけっ!!!!! オレはお兄さまだぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「……立てる?」

 

 っっっっっっっぶねェ~~~~~~~~~~~~!!!!!

 ギリ間に合った~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 本日十本目の焼け焦げた杖を握りしめながら、オレは内心冷や汗だらだら、体の倦怠感でのろのろとコロシアムの中央へ歩みを進めた。

 

「まさか……まさかこれほどまでとは……ッ!――セラフィリア・スタンレイッ!」

「あ……うそ……生きてて……っ、お兄……さま……!!」

 

 なんかめっちゃラミュエルがオレのことをびっくりした目で見ていた。

 

 ……いやいやいやいやびっくりなのはオレの方だよ!

 なんでお前のんびり座っとんねん! あとなんでオレ死んだことになってんねや!!!! 生きとるわ!!! 元気ピンピンモリモリのスーパーマッチョマンや!!!

 

 結論から言おう。

 オレがしばらく目を離していたらなんか皆死にかけてた。

 なんで? マジでなんで!? そうはなら……なっとるやろがい!!!!!!

 

 目を離してたってもさぼってたわけじゃありませんよ?

 流石に魔物も多いからさぁ、ほら、みんながちまちま倒してるのだと一生終わらんだろうし、こう、苦手だけどそれぞれターゲットロックして一気にぶっ潰そうと、ね?

 結界とか処理用の魔術を並列で準備してたワケよ。

 

 したらいやー……負荷きつ過ぎてマジ死ぬかと思ったわ! ワハハ! しかも杖は負荷に耐え切れずバシバシ燃え散らかすし、その度に新しい杖作るから当然その負荷も直接体にかかるしであーもう無茶苦茶だよ!!

 何ならちょっと気絶してたよね(笑)

 周りに結界張ってたから問題はなかったけど、目を覚ましたらキモヒルが結界周りにいっぱい集っててガチでびっくりしたわ。

 

 んで皆どうしてっかな~って様子見したらおいらも~~びっくり!! なんか剣聖もラミュエルも死にかけとるやんけ!?

 なんで!? マジでなんで!? どうしちゃったんすか皆さん!? そうはならんやろ!!! 絶対そうはならんやろ!!!!

 

 いやーもうマジで死ぬほど焦ったよね。

 状況はヤバヤバのヤバだし、体はダルいし血は今までにないくらいドバドバ口から溢れるし、超大量の魔力を一気に使ったせいで杖握る腕まで傷が出来たのはマジでびっくりした。

 

 こう……ブチブチッ! って感じで指先とか傷まみれでめちゃ痛い。

 イメージあれだね、冬の指先に出来るささくれ。あれが二十か所くらい一気に間違って千切れたみたいな?

 ウオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!! 魔力負荷ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!! って感じ。

 

「ラミュエル……」

 

 なんで戦わないの? お兄さまキミがぼーっと座り込んでるの見てマジでびっくりぽんだったぜ?

 あそこにいるかっこいいセリフ自動生成おじさん、多分君がそこの剣で斬りまくったら即死するよ?

 

 困惑交じりなオレが、泣いてる妹へ声をかけようとしたその時――彼女は突然滂沱の涙を流してオレへと抱き着いた。

 

「お兄さまっ!!!」

「ぉぎゅっ」

 

 ぐっ……おぉぉぉぉ……!

 く、くるちい……意識が……いやっ、流石に状況が状況だから気絶できねえぞ……!!!

 

 強烈な締め付けがオレの骨格を、臓器を襲い、ミシミシとした人の身体からなってはいけない音が聞こえてきた。

 このままではオレは絞め殺される。間違いない、後十秒も持たないだろう。

 

「ごめんなさい……ごめんなさいお兄さま……っ! あたし……っ」

 

 なんだか分からないがラミュエルが滅茶苦茶へこんで泣いている。

 さっぱり意味が分からない、しかしこれはチャンスだ。普段から意味が分からん行動を続けているこの妹様、その行動理由を聞き出す特大のチャンスである。

 

 オレは焼け焦げた杖を捨て、新たに生み出した杖を小さく振るう。

 

 ふっ……『血流強化』ァッ! 『臓器強化』ァッ! 『骨格強化』ァッ! 『筋力強化』ァッ! そしてェ――――『全魔術連携結合(オールソーサリーコンバイン)』! さらに口内にフルーツジュース、本日南国風味を生成して飲み込むッ!

 究極生命体(ルティミット・シイング)セラフィリア・スタンレイの爆誕だッ!!!

 

 膨大な魔力に物を言わせた圧倒的な強化は死にかけの身体をも英雄に変える、みなぎるオレの全身の筋肉がラミュエルの破滅的な抱擁を真正面から受け止めるほどに。

 

「ラミュエル」

「……っ、うん、うん……っ」

 

 ……正直ラミュエルのことが苦手だ。

 今はあんま気にしてないけど勇者候補の座取られたし……まあオレがちょこちょこのへなちょこだったからだけど……久々に会ったらあったで行動が一々意味わからんし、全てにおいて膂力に溢れてるし。

 

 オレとあまり変わらない、いやほんの少しだけ低い視線でラミュエルが目をぐじぐじとこする。

 今まで鎧に隠されていたその姿は、昔を思い出させる。そう、オレとラミュエルがまだ家にいて、オレが勇者候補として鍛えられていた時のことを。

 

 思えばこいつはそりゃもういっつもオレの後ろに引っ付いていたもんだ。

 朝早くに訓練しに行ったら突然木の上から落ちてきたし、寝込んでたら横でずっとぐずってるし……冷静に考えたらなんで? オレの方が苦しいはずなんだけど? ……まずいから肉の脂身あげたら大喜びして食ってたし。

 

 弱虫だったはずなのに、学院に来たと思えば随分と横柄な奴になっていた……はずだったけど。

 今目の前にいる泣き虫な妹の姿は昔とあまり変わらないように見えた。

 

「……どうしてずっと泣いてるの?」

「あたしっ、あたしね……っ、本当は……っ」

 

 エグエグと泣いていたラミュが、戸惑うように止まる。

 まるでその先を口にすることを怯えるように、少しだけ下からオレを見上げた。

 

「……大丈夫、言って」

 

 逡巡、躊躇い。

 何度か口を開いては閉じたラミュが、怯えるようにぽつり、ぽつりと言葉を紡いだ。

 

「本当はっ……本当は、勇者なんて、なりたくない。お兄さまから奪ったから……あたしは……」

 

 とぎれとぎれだった言葉が繋がり、堰を切ったようにあふれ出す。不格好で不器用、普段であれば何を言っているか分からないほどつながりのない言葉たち。

 

 ただあの日、剣を振るってしまったことの後悔。

 オレを勇者候補の座から引きずり降ろしてしまったことへの後悔、オレが恨んでいるかもしれなないという恐怖。

 全てに恐れ長らく話し合えず、それでもただ会いたかっただけ。ただそれだけのためにこの学院に来たと、彼女の言葉を纏めればただそれだけの内容であった。

 

「……そう、なんだ」

 

 全てを聞いたオレの脳内に占めた感情は――動揺。

 今まで感じていた感情や、ラミュエルの行動、発言、それらとイマイチはっきり結びつかないことに対する困惑。

 

 え、えぇ……?

 えっと……どういうこと?

 

「ごめんなさい……ごめんなさいお兄さま……全部奪ってごめんなさいっ、なにも出来なくて……あたしずっとばかなことばっかりして……ごめんなさい……っ」

 

 理解が追い付かない。

 戸惑いが先に来る。

 けれども目の前で弱々しく泣きじゃくる()の姿に、嘘など見つけられるはずもない。

 

「……泣かないで」

 

 オレは伸ばした手を一瞬止め――妹の頭を撫でた。

 昔よくそうやってしてやったように。

 

「――!」

 

 ラミュが息をのむ。

 大きな目をさらに真ん丸に開き、またじわじわと涙を一杯に浮かべた。

 

 だから泣くなって言ってんだろ……ったくしゃーねえなぁ。

 

 ……もしかしたら。

 もしかしたらオレは、いやオレ達は互いに、互いの幻影にビビっちまってたのかもしれねえ。

 オレから勇者の座を奪ったラミュエルに、奪ってしまったことを恨んでいるオレに。

 

「確かに勇者になりたかった……昔はね」

 

 過去に嘘は付けない。

 家にいた頃オレは確かに勇者になろうとしていた。剣を振るって、鍛えて、限界までメシを食ってさ。

 ラミュが初めて握る剣で恐ろしいほど滑らかに人形を切り倒した時、絶望したのも事実だ。

 

 だがそれは終わった話、全部過ぎ去った話なんだ。

 今は自堕落に過ごす方が気楽でいい、というか普通に毎日ボロボロになるまで鍛えるのきつ過ぎるし無理。

 オレはのんびりゲームしてるくらいが丁度いい、いやマジで。

 

 こいつが勇者候補になったのはなりたかったからじゃねえ、それは分かってる。

 そもそもそれを選定したのはあのクソ親父だ、不可抗力なのだってわかってる。

 それでもなお自分が奪ってしまったなんて後悔し続けてるのはさ、きっと……多分、こいつが優しいからじゃね?

 

「ラミュ、貴女の方が勇者に向いてる」

「そんな……あたしはっ!」

「大丈夫……優しい貴女にはその資格がある」

 

 オレみたいなめんどくさがりより、そうやって他人を思いやれるような奴の方がずっと勇者らしいだろ。

 まあ、困ってたら手助けするくらいなら全然やってやるけどな。

 基本オレは自堕落な生活を送らせていただきたい。

 

 ただ、まあ、今日はもう少し頑張るけどね。

 

「――――セラフィリア……スタンレイィッ!! 許さぬッ、決して許さぬぞッ! この憤怒をどうしてくれようかッ!?」

 

 瓦礫の中から響き渡る怒声。

 腕や足に真紅の装甲らしきものを纏ったカズィクルが、顔を怒りに歪め天へと飛び上がった。

 男が錫杖を大きく振り回すと同時に生まれる巨大な魔法陣、生み出されたのは空一面を埋め尽くす無数の血槍。

 

 ……ンなデケエ声上げなくても聞こえてるよヒル野郎ッ!!!!!!

 

「お兄さま……」

「ラミュ、下がって」

「で、でも……っ」

 

 ふん、ボスの発狂モードってか?

 

 ぐずるラミュを押しのけ、オレは彼女や気絶して転がっていた『剣聖』の周りへ追加の結界を張る。

 普段よりはるかに大量かつ広範囲の魔術行使、既に体は限界に近い。意識は朦朧とし、魔術の影響で指先からこぼれた血が制服へと染み込んでいく。

 

 さて、と。

 タイマンなら余裕過ぎる相手だ。これくらい舐めプのハンディキャップがあって丁度いい、ってか。

 面白くなってきた。やっぱゲームはカタルシスが欲しいぜ、無双ゲーは趣味じゃねえ。

 

「……レベルの差を見せてあげる」

「――!! 汝の血をもってこの創を拭わんッ!!!」

 

 どけッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 オレはお兄さまだぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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